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NPBの観客動員数概観(2022:セ・リーグ編)

はじめに

NPBの観客動員数は2005年より実数に基づく集計がなされるようになって以後、順調に増加を続け、2019年はセ・パ両リーグともに過去最高を記録した。
しかし折り悪しく2020年より巻き起こった新型コロナウイルス禍の影響をNPBも免れることはできず、2020年〜2021年にかけて入場制限を適用し、動員数は大幅に低下した。
2022年に入り、NPBは3年ぶりに入場者数に制限を設けない、いわゆる「フル動員」での開催に踏み切ったが、過去最高を記録した2019年と比べて、また同年の中でどのような変動があったのか、各球団の状況にも触れながら考察してみたい。

2019年、および2022年前半については以下の記事にまとめてみたので、よろしければご参照いただきたい。

セ・リーグ全体

フル動員が再開された2022年であったが、セ・リーグもパ・リーグ同様に集客では苦戦し、年間の動員総数は12,107,163人、1試合平均動員数(以降「平均動員数」と表記)は28,222人と2019年に比べ18.6%減少した。パ・リーグが23.2%の減少であったことと比ベれば、善戦したとも取れる。

かつて「人気のセ・実力のパ」と言われ、人気面で優位にあるとされたセ・リーグ。一時はパ・リーグの躍進が話題となったが、実際のところは巨人・阪神という東西の両巨頭を擁するセ・リーグの動員数が一貫してパ・リーグのそれを上回り続けており、令和の世に入ってもその構図は変わっていない。

リーグ全体の動員数は2012年まで1,100〜1,200万人の間を推移していたが、2013年以後はリーグ内でも動員数の少なかった広島・DeNA・ヤクルトの3球団が躍進。この結果、2019年の動員総数は14,867,071人を記録し、1,500万人台もかくやという水準に達していた。
コロナによって2012年並の規模に後退こそしたものの、リーグ最下位のヤクルトとてパ・リーグ2位であった千葉ロッテよりも動員規模は大きい。

パ・リーグは前半戦(オールスターまで)から後半戦(オールスター以後)の平均動員数で11.4%の増加を見せたが、この傾向はセ・リーグも同様で、前半戦27,357人、後半戦29,798人と8.9%の増加となっている。コロナの拡大や社会情勢の悪化がない限り、2023年は2022年の動員規模を上回る可能性が高い。

動員数は全球団で減少したものの、減少幅および前半戦〜後半戦の変動幅は球団によって異なる。以降は各球団における変動を概観し、その要因を考えていく。

阪神タイガース

阪神タイガース 2022年観客動員実績

動員数セ・リーグ最多、また12球団最多を記録したのは阪神タイガースである。実数集計開始後、2020〜2021年の入場制限適用期間を除いた16年間において12球団最多を記録したのは、同球団と読売ジャイアンツの2球団しかない。根強いファンが多数存在し、かつ収容人数の大きい本拠地球場を擁していることが動員規模拡大の必須条件と言えるが、この両球団はまさにその象徴ともいうべき存在と言える。

阪神と巨人の動員差に関する詳細は巨人の項で詳述するが、特に前半戦の期間において東日本に本拠を置く球団がコロナ禍の動員影響を顕著に受けた可能性がある。かたや西日本に本拠を置く球団は相対的に動員の減少幅が少なく、これが差のつく要因となったものと考えられる。

阪神の前半戦・後半戦の動員数を見てみると、前半戦に比べて後半戦で4.3%減少しているが、この減少は例年と同様の傾向である。本拠地である阪神甲子園球場(収容人数:43,508人)は例年春・夏に高等学校野球選手権が開催される都合上、当該期間中は京セラドーム大阪(収容人数:36,220人)を使用せざるを得ない。
2022年は春3試合・夏6試合の計9試合が対象となったが、後半戦は前半戦に比べ試合総数が少ないため、相対的に京セラの占める割合が高くなったことが、前半戦→後半戦の動員低下要因と考えられる。甲子園球場の平均動員数に限定すると、前半戦37,329人→後半戦37,414人とほぼ横ばいとなっている。

前述の事情もあり、同球団のメインイベント「ウル虎の夏」は例年7月を中心に開催されている。2022年も同様であり、本イベント開催期間(7/12〜7/17)の6試合における動員総数は238,528人(1試合平均:39,755人)に達した。

チームの成績面に目を向けると、開幕当初から敗戦を重ねたことは記憶に新しく、4月に早くも借金16を記録している。しかしその後は驚くべき立ち直りを見せ、最終的にはリーグ3位(借金3)でシーズンを終えている。が、本当に驚異的なのはこの低迷期間における動員で、3〜4月の平均動員数(甲子園のみ、平日6試合・休日4試合)は36,534人と、前半戦平均と比べても大きな減少を見せていない。戦績に依らず観戦に訪れる多数の熱狂的なファンが多数存在し、安定的な動員を見込めることは、他球団からすれば垂涎の的であろう。

なお、甲子園球場は2020年に内野席の改修工事を実施しており、収容人数を4,000人減少させている。観戦体験の向上を図るために収容人数を減らし、座席等の改修を行う事例は当該球場以外にも多くの球場でなされており、近年の潮流であるとも言える。単なる人数の増加ではなく、単価の向上を図ることで売上の維持を図ろうという各球団の姿勢が見て取れる。

読売ジャイアンツ

読売ジャイアンツ 2022年観客動員実績

長年にわたり動員数の首位争いを繰り広げている阪神・巨人の両球団であるが、阪神は2019年からの減少率を15.3%とリーグ平均未満に抑えたのに対し、巨人の減少率は24.5%に達し、明暗の分かれる結果となった。阪神と巨人の観客動員差は300,324人で、両球団の年間動員数の差が30万人を超えたのは2014年以来(この年は巨人が阪神を328,691人上回った)である。

コロナ禍が動員に及ぼした影響は特に関東圏以東の東日本において顕著であり、当該地域に本拠を置く7球団の平均動員数は2019年に比べて24.3%減少した一方、西日本に本拠を置く5球団のそれは16.1%にとどまっている。特に前半戦期間での減少幅が大きく、東日本7球団の同期間における平均動員数は、2019年比で27.5%減少していた。このような地域的影響を巨人も受けたことは十分に考えられる。
なお余談ではあるが、こうした状況を反映してか、巨人とソフトバンクの年間動員数の差がわずか70,404人まで縮小している。後半戦の動員回復がなければ、史上初めてソフトバンクが年間動員数2位となっていた可能性もあった。

この他に巨人の前半戦における動員押し下げ要因となったのは、地方主催試合を5試合(那覇2試合、宇都宮・山形・郡山各1試合)開催している点が挙げられる。同球団は伝統的に地方開催を頻繁に行っており、本拠地である東京ドームに比べて動員が見込めないことは織り込み済みであったろうが、この5試合の平均動員数は10,979人であった。この点は主催試合の開催地を甲子園・京セラドーム大阪に絞った阪神とは対照的と言える。

イベント面では例年開催の「橙魂シリーズ」を5月・6月に開催したことに加え、9/6〜8の3日間にはデザイナーズブランド「ヨウジヤマモト」とコラボした漆黒ユニフォームの配布(3連戦の各日先着15,000名限定)を実施している。特に後者は3日間平均で34,563人の動員を記録し、ブランドイメージの強化だけでなく短期的な動員強化の役割も果たした。

東京ドームも甲子園等の他球場と同様、座席・ビジョンの改修を行っており、収容人数を従来の46,000人から43,500人に減少させている。この規模では主催72試合を全試合東京ドームで開催し、その全試合が満席でも年間動員数は3,132,000人となる。かつて例年300万人規模の動員を誇ったのも過去のものとなり、「量」より「質」の時代に入っているのかもしれない。

広島東洋カープ

広島東洋カープ 2022年観客動員実績

2022年の動員数リーグ3位は、広島東洋カープである。年間動員数は1,968,991人、平均動員数は27,732人であった。生え抜きスターの鈴木誠也選手がMLBに挑戦し、成績も5位と興行面ではマイナス要因の多い年であったが、2019年からの減少幅は11.5%とリーグで最も小さい。

同球団の動員傾向は「堅調」の一語に尽きる。本拠地であるマツダスタジアムの収容人数は33,000人とリーグ5番目の規模だが、シーズン序盤から平均25,000人を超える動員を維持。年間の収容率(動員数を収容人数で割った値)は84.0%と、阪神に次ぐリーグ2位であった。
早い段階から多数の観客を動員できた理由として、関東・関西の大都市圏を中心に2022年3月まで適用されていた「新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置」が広島県では1月で終了しており、コロナの影響が他の地域に比べると小さかったことが考えられるが、大都市圏にもかかわらず広島以上の収容率を実現している阪神の例もあるため、ファンのロイヤリティの高さに起因している可能性もある。
前半戦から後半戦の伸びは5.9%と小さく、このうち休日の伸びは1%にも満たないが、これも早い段階から多数の動員を実現していたことの裏返しであろう。

また、広島の動員において特筆すべきもう一つの点として、他球団では当たり前となっているユニフォーム配布イベントを12球団で唯一実施していないことが挙げられる。その他のイベントも、周辺地域とのコラボイベントが主であり、多額の準備費用がかかるイベントはほとんど行っていない。何よりも選手のプレイが最大のコンテンツであり、グッズや野球以外の要素で動員を訴求しないスタンスは、ユニフォーム配布イベントが多い中日や、ライト層の集客に強みを持つDeNAと好対照を成していると言えよう。

広島の都市圏人口は200万人超であり、これは首都圏(約4,000万人)・関西三大都市圏(約2,000万人)に比べると圧倒的に少なく、福岡・札幌とほぼ同規模である。市場は小さく、コロナの影響があったにもかかわらず、広島の年間動員数は周辺都市圏と同程度の数値を維持している。同様の傾向を示している球団は他にソフトバンクが挙げられるが、同球団も2019年からの減少幅は15.4%と全球団平均より小さい。両球団のように「地域密着」を実現している球団は、逆風に対する耐性が強いのかもしれない。

中日ドラゴンズ

中日ドラゴンズ 2022年観客動員実績

2022年の動員数リーグ4位は、中日ドラゴンズである。年間動員数は1,807,619人、平均動員数は25,459人であった。

成績面ではリーグ最下位と振るわず、動員も前半戦は苦戦したものの、8月に入ってから動員が急増。後半戦は前半戦に比べ22.1%増、特に平日は27.2%増とヤクルトに次ぐリーグ2位の伸びを見せた。ヤクルトの場合は好調な戦績や村上選手のホームラン記録といった、チームのパフォーマンスによる要因が動員増の理由として考えられるが、中日の場合は必ずしも好調とは言えないチーム状況でありながら、ヤクルトに迫る伸びを実現している。

後半戦の動員増として考えられる要因としては「日程の利」と「多数のイベント」の2つが挙げられる。
前者の「日程の利」についてであるが、同球団の後半戦主催試合(23試合)のうち、11試合が土休日、4試合が金曜日(祝日除く)に開催されている。動員の少ない月曜から木曜の試合が少なく、これが増加要因のひとつになったと考えられる。
後者の「多数のイベント」であるが、特にユニフォーム・グッズの配布イベントが多数開催されている。全て列挙するのは差し控えるが、後半戦主催試合の23試合中11試合(平日4試合、土休日7試合)において何かしらの配布を行っている。特筆すべきは9/23〜25にかけて開催された「名古屋最終章」における「昇竜レプリカユニホーム」の再配布が挙げられる。限定とはいえ、既に配布したユニフォームを別のイベントで再配布する取り組みは珍しく、営業サイドの苦闘が透けて見えなくもない。
上記の要素に加え、全国的な動員の増加も相まってこのような伸びを見せたものと思われる。

2005年以降、長らくリーグ3位の年間動員数を維持していた中日だが、2008年の最多動員以降は頭打ちの状況にある。2015年には広島に3位の座を奪われた上、DeNAも肉薄しつつある。球場の収容人数(36,370人)は広島・DeNAより多く、地域密着度の高さもあるだけに、今後の動向に注目していきたい。

横浜DeNAベイスターズ

横浜DeNAベイスターズ 2022年観客動員実績

2022年の動員数リーグ5位は、横浜DeNAベイスターズである。年間動員数は1,778,980人、平均動員数は24,708人であった。過去最高を記録した2019年からは22.1%減少し、2015年の年間動員数(1,813,800人)をやや下回る結果となった。

成績面では序盤に出遅れ、前半戦終了時は借金3の4位であったが、後半戦に入り怒涛の勢いを見せる。一時は貯金11に達するなど2位に食い込み(最終的には貯金5)、後半戦に3年ぶりのCS進出を果たした。しかし、前半戦から後半戦の平均動員数は8.7%増とリーグ平均を下回り、チームの成績ほどの躍進は果たせずに終わった。

本拠がコロナ禍による動員面の影響を大きく受けた関東圏にあることもさることながら、2022年のDeNAにおける特筆すべき点として、中止が多く、横浜スタジアムの主催試合は12球団最多の10試合が中止となった点が挙げられる。雨天中止で4試合、選手のコロナ感染で6試合の計10試合が中止となっており、このうち土休日開催が4試合、土休日の次に集客の見込める金曜日開催が3試合含まれている。後半戦も週末の3連戦(7/29〜31)がコロナ感染で中止を余儀なくされており、動員の押し下げ要因の1つになったものと推測される。

イベント面は主に平日をターゲットに展開しており、後半にもはや例年の目玉となった「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」を8/2〜8/4の平日に開催し、独創的な襟付きユニフォームを配布。ファンの話題を呼ぶが、1試合が雨天中止となってしまう。配布日2日間の平均動員数が31,765人と盛況であったゆえに惜しまれる。
この他にもフードイベント「ハマ金」や「YOKOHAMA GIRLS☆FESTIVAL」、「BLUE☆LIGHT SERIES」といった各種イベントを平日に開催してテコ入れを図るも、いずれも「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」ほどの動員には至らなかった。「ハマ金」は前半戦から計5試合を予定していたが一部日程が中止、「BLUE☆LIGHT SERIES」は当初7月の開催を予定していたがこれも雨天中止で9月に順延となるなど、当初の目論見通りにいかなかった点もあると思われる。

元々同球団の本拠地である横浜スタジアムは収容人数が少なく、2018年までは28,966人とリーグ最小であった。DeNAによる球団買収直前(2011年)の年間動員数は1,102,192人であり、この規模でも十分充足していたと思われるが、DeNAによるマーケティングの結果、ライト層を中心として動員数が飛躍的に増大する。その結果横浜スタジアムは連日満員が続く盛況を見せ、横浜スタジアムのチケットがプラチナチケット化するほどの人気となった。
これを受けて球団も座席の増設に着手し、2019年はライトスタンド、2020年はレフトスタンドにそれぞれ「ウィング席」を新設するなど、同年以降の収容人数を34,046人まで拡大させていた。しかしその矢先にコロナ禍が訪れ、2年間は入場制限を課された上に、フル動員が再開した2022年はイベント予定日がことごとく中止。とにかく「持っていなかった」シーズンだったと言えるかもしれない。

東京ヤクルトスワローズ

東京ヤクルトスワローズ 2022年観客動員実績

リーグ最少の動員数となったのは優勝チームである東京ヤクルトスワローズである。年間動員数は1,614,645人、平均動員数は22,741人であった。ただし前述の通り、これはパ・リーグ2位の千葉ロッテを上回る値であり、セ・リーグ全体の動員規模がパ・リーグに比べて相対的に大きいがゆえの結果とも言える。

東京ヤクルトの動員規模が小さいのは球場の問題もある。本拠地である明治神宮野球場(以下「神宮球場」)の収容人数は30,969人とリーグ最小のため、必然的に動員限界も小さくならざるを得ない。収容率で換算すると、同球団の収容率73.5%は中日(70.0%)・DeNA(72.7%)を上回っており、決して不人気ゆえの結果ではない。

戦績は文句のつけようがなく、7/3の時点で貯金は28にも達し、(その後はやや失速したものの)前半戦だけで貯金22を作り、最終的に貯金21、2位DeNAに8ゲーム差をつけて優勝。好調な戦績は既に前半戦の段階で動員に表れており、開幕〜5月末までの平均動員数が17,321人(平日16,470人/土休日21,575人)であった一方、独走体制に入っていた6月〜7月のそれは24,511人(平日22,924人/土休日25,954人)まで増加しており、6月の段階で既に動員がある程度回復していたものと思われる。

動員の増加は8月以降も続く。前半戦から後半戦の伸びはめざましく、リーグ最高の27.3%を記録した。特に平日の伸びは34.3%に達し、休日動員数を平日動員数で割った値は、前半戦の1.33から後半戦になると1.15まで縮小している。

後半戦は借金1と成績的には芳しいものではなかったが、それを補って余りある注目を集めたのは、村上宗隆選手の活躍であろう。同選手のタイトル・記録に関する報道は連日ニュースとなり、後半戦の動員も増加の一途を辿る。
他球団の例として、佐々木朗希投手(千葉ロッテ)の登板日における動員数が普段より多い傾向があったが、登板日が週1回に限られる佐々木選手に対し、村上選手の場合は野手であるゆえにほぼ全試合出場する。このため安定して多数の動員を実現することができたのではないだろうか。

この他に特筆すべき事項として、東京ヤクルトは土休日の主催試合数が24試合と12球団で最少であった。4試合が中止となった影響によるものだが、こうした逆境にも関わらずリーグ優勝・スター選手の活躍によって、コロナ前からの減少率をリーグ平均以下に食い止めることができていたものと考えられる。今後動員が回復し、不運な中止を回避できれば、他球団以上に大きな伸びを見込むことができるものと思われる。

おわりに

本記事では2022年のセ・リーグ各球団における観客動員を概観しつつ、コロナ禍の影響および各球団それぞれの事情を考察した。

パ・リーグに比べると動員規模が大きく、かつコロナ前からの動員減少も総じて少なかったと言えるが、球団によってその減少幅には差があり、特に首都圏の球団においてその影響が顕著であった。

阪神・巨人の項でも記載したが、このような情勢を受け、今後起こりうる変化として考えられるのが「量」から「質」への転換である。一定の基盤を有している球団は観戦体験の向上を図るべく、本拠地球場における座席数の減少を進めている。また、これまで収容人数の拡大を進めていた球団も、拡大路線の歩みを止め、サービスの向上に転換する可能性もある。
動員数の回復は今後十分に見込まれるが、その上限値、すなわち動員の最大規模は縮小し、単に「多ければ良い」という時代とは一線を画した動きを見せることになるものと考えられる。

参考サイト

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