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オリ復興記 - 6. 2020年後半

はじめに

本シリーズは、「なぜオリックスが強くなったのか」に関する自分なりの考察である。
前回(第5回)までの記事で、2018年オフ〜2020年8月の西村監督辞任までの期間における一軍・二軍の動向を俯瞰してきた。
今回以降、中嶋監督(2020年は監督代行)就任後の動きを追うこととなるが、まずは2020年後半、監督代行として指揮を取った期間の動きを見ていきたい。

過去記事については以下をご覧ください。

中嶋監督代行の就任

2020年8月20日、シーズン53試合目となる試合が終わった後、西村監督の辞任および中嶋二軍監督の代行就任が発表され、翌8月21日に中嶋二軍監督改め監督代行が就任会見を行った。
内容の詳細は一問一答記事(参考サイトに記載)をご覧いただきたいが、本記事の主たる関心対象である今後の指揮方針については以下のように発言している。

・今まで二軍でやってきたこと、戦力全てを把握して組み合わせたい
・本当に良い選手を使っていきたい
・キーマンは全員
・若い選手にもチャンスは与えるが、使うのは今いる選手の壁を越えたと判断してから
・育成と勝利のどちらも取りにいきたい
・野球というのは楽しいもの

2020年8月21日、スポーツ報知記事

一問一答では「不安しかない」「僕に期待しない方がいい」と言っているが、これらの発言を見るに、代行就任の時点で既に以下の方向性を持っていたものと思われる。

  • 「育成と勝利」のミッションを継続的に追求していく

  • 現有戦力を最大限活用することに注力する

  • 起用は調子と結果に基づいて行う(若いから使うというわけではない)

「育成と勝利」という大方針は堅持しつつ、西村体制下で偏りのあった選手起用を是正し、調子・結果に基づいた公平な起用を通じて現有戦力の能力を最大限引き出す旨を明言している。
二軍では育成を優先する都合上、若手に多くの機会を割いていたが、勝利が求められる一軍では同様の方法は採っていない。若手には機会こそ与えるものの、既存選手の壁を越えることを継続起用の条件としている。

上記から「育成と勝利」のうち「勝利」に傾いているふしも見受けられるが、就任時点で既にぶっちぎりの最下位(詳細は後述)である。まずはチームの建て直しが先決と考えていたのかもしれない。
また、もはや若手とは呼べない年齢にも関わらず、さしたる実績を残していない選手も複数おり、彼らも含めた「育成」を通じて「勝利」を追求せんとしていた可能性も考えられる。

代行就任時点の成績・問題点

では、そのような方針を掲げた中嶋オリックスは残りの67試合をどのように戦ったのか。
その前に、出発地となる就任時点の成績をおさらいした上で、ここから見える問題点を踏まえておきたい。その後、これら問題点へどのように対処していったのかを見ていく。

成績

まず、代行就任直後となる8月20日時点の勝敗・得失点を以下に示す。

2020年8月20日時点 前半 パ・リーグ勝敗・得失点状況

オリックスは16勝33敗4分の最下位。監督辞任などと言っているのだから当たり前である。首位ソフトバンク・ロッテとは12ゲーム、5位の西武とも7ゲーム差がついている。

得失点に目を向けると、平均得点は最下位、平均失点は5位。得失点差はマイナス59で、これまた断トツの最下位であった。
特に深刻なのが得点力で、5位の日本ハムとは41点の差。貧打もここに極まれりである。

残り試合は67試合あったが、就任時点でここまでの差がついていた。
福良GMは監督辞任会見で「巻き返し」を強調していたが、この頽勢を覆すことは無理難題というものである。最下位は不可避の状況にありながら、あくまでできることをやるという意味の「巻き返し」だったと受け止めたい。

ではこの成績を引き起こした要因(問題点)は何だったのか。投手運用・野手運用に分けて考えてみたい。

問題点

細かい点は第4回・第5回記事に書いたが、要約すると以下と考えられる。

  • 投手運用

    • 山本・田嶋投手の両先発を除く先発投手が早期に降板している。

    • これら早期に降板する投手が週4日連続で先発している。

    • このため救援の負荷が集中的にかかる期間が発生している。

  • 野手運用

    • ジョーンズ・ロドリゲス・T-岡田選手といった物足りない主軸の起用に拘った。

    • その他の選手の入替を積極的に行ったが、効果が出ていない。

    • 主軸に代わりうる選手はいたが、彼らの昇格が行われなかった。

投手については、先発の軸たる山岡投手の故障離脱があり、これが影響を及ぼした点は否めない。しかし、離脱後の運用が適切であったかと言えば疑問符がつく。
鈴木優・山﨑福・榊原投手といった若手・中堅を先発ローテに抜擢したが、5回も持たずに降板するケースが多発。それにも関わらず、彼らを1ヶ月以上、しかも連続した日程で起用し続けた。
その後見直しを図ったと思いきや、次に行ったのはブルペンデーである。これでは救援が疲弊し続けるのは無理もない。投手陣はこのような悪循環の中にあった。

野手については、長打力のある吉田正・ジョーンズ・T-岡田・ロドリゲス選手の4名が、1B・LF・RF・DHといった打撃力優位のポジションをスタメンでほぼ占有した。彼らが監督交代時点までに残した成績は以下の通りである。

・吉田正:229打席 打率.369 7HR 出塁率.472 長打率.556 OPS1.028
・ジョーンズ:200打席 打率.235 5HR 出塁率.310 長打率.363 OPS.673
・T-岡田:187打席 打率.244 7HR 出塁率.326 長打率.409 OPS.735
・ロドリゲス:172打席 打率.224 5HR 出塁率.291 長打率.372 OPS.662

OPS1.028と圧倒的な成績を残していた吉田正選手を除く3名の成績を合計したOPSは.690。
一見悪くないように見えるが、当時のリーグ平均は.723である。これでは中軸として物足りない。テコ入れも考えられてしかるべきだが、前体制ではなぜか彼らの入替に消極的であった。

その代わりに上記以外のポジションで頻繁な選手の入替が行われたものの、これらポジションに就けるのは守備・走塁に強みを持つ選手が多くを占める。このため入替の効果は薄いものに留まり、「吉田個人軍」と形容される事態に至った。
一方、舞洲軍(二軍)には主軸の代替となりうる成績を残す選手もいたが、何故か彼らが一軍に登録されることはなかった。選手起用の偏りがあった点は概ね間違いないであろう。

代行就任後の戦績

大幅なマイナスからのスタートとなった中嶋オリックスだが、監督代行就任後の成績はどうだったのか。まずは8月21日以降(67試合)における勝敗・得失点の動向を以下に示す。

2020年後半 勝敗・得失点推移(8月21日以降)

勝敗は29勝35敗3分の借金6。得失点差は-1。8月21日以降に限定すれば4位相当の成績である。

就任直後の3連戦で見事3連勝を果たし、幸先の良い船出となったものの、その後3連敗以上が3度あり、9月14日には借金6(中嶋体制下の成績に限定。以降も同様)を数えるに至る。
だがここから盛り返し、細かく連勝を積み重ねて9月30日には再び貯金1を記録。しかし、これが2020年の中嶋体制における最後の貯金であった。その後は再び連敗を繰り返した上、先発の大黒柱である山本投手の離脱といったアクシデントも発生。最終的には借金6で終了した。

得失点も概ね勝敗と軌を一にしており、最終的には-1となったものの、最大で+27を記録している。平均得点は3.81(前体制比+0.28)、平均失点は3.82(同-0.82)。特に失点の減少が目覚ましい。

とはいえ借金は借金であり、必ずしも素晴らしい成績とはいえない。しかし、前体制では勝敗・得失点が一度もプラスを記録していなかったのである。この点を鑑みれば「大健闘」と言っても差し支えないであろう。

では、中嶋オリックスはこれらの改善をどのように果たしたのか。以前の記事と同様、投手運用・野手運用に分け、その要因を考えてみたい。

投手運用

最初に、西村体制・中嶋体制それぞれにおける主要な投手成績の推移を以下に示す。

2020年 投手成績推移(前半:西村体制→後半:中嶋体制)

一目見ればわかるように、先発・救援のいずれも成績が大幅に改善されている。
「監督の手腕」と言ってしまえばそれまでかもしれないが、このような改善をどのようにして成し遂げたのか。先発・救援それぞれについて見ていきたい。

まず先発であるが、第4回記事にも記載した通り、前体制の投手運用における問題点の主因は先発にあると考えている。そのため、中嶋体制による改善の端緒を探るにあたり、その先発起用を見ていくことから始める。
以下に2020年後半の先発ローテ表を示す。濃い赤はHQS(7回以上自責2以下)、薄い赤はQS(6回以上自責3以下)である。

2020年後半 先発ローテーション表

監督交代直後に山岡投手が復帰したこと、山本投手が夏場に入り調子を一段と上げたことが良化の主因と思われるが、山本・山岡・田嶋の所謂「三本柱」以外の投手も11試合でQS以上を記録しており、防御率も5.47から4.17まで改善している。

三本柱の起用法に目を向けると、長いイニングを消化可能な山本投手を火曜、山岡投手を金曜のカード頭に固定している。田嶋投手は当初水曜、その後木曜にシフトしている。
残る試合は都合8名の投手でやりくりしたが、本田投手(高卒3年目)・宮城投手(高卒1年目)といった若手にも先発の機会を与えていること、先発転向に難色を示していた増井投手を説得し、転向にこぎつけたことが特筆すべき点として挙げられる。

山本・山岡の両主戦投手をカード頭に固定した上、田嶋投手を含めた3投手が平均6.48回を消化している。これにより、救援の負荷が高くなる可能性の高い日が週3日(水/木のいずれかと土・日)に分散され、長くとも2日に抑えられている。その他の先発投手の消化イニングも増えた上、漆原・富山投手といった新顔が救援陣に加入し、より柔軟な運用ができるようになった。
これが何につながるか。そう、3連投(3日連続登板)の防止である。

2023年現在、3連投の防止はもはや一般的といっても良いほどに普及したが、2020年当時は決してそのようなことはなく、2018年には24回、2019年にも20回を記録している。
救援投手が度重なる連投によって故障したりパフォーマンスを落とすことは以前から指摘されていたものの、それでも試合展開によって3連投を行うことが(当たり前とは言わないまでも)やむを得ないこととされていたのである。
しかし、中嶋体制における投手運用はこの点に一石を投じ、3連投の回数は前体制の8回から3回まで減少している。

もう1つ着目すべき点は、ワンポイント的な運用および回跨ぎの減少である。救援投手の登板イニングが1イニングを下回る/上回る登板がいずれも減少しており、1登板=1イニングとする頻度が増えている。必ずしも完全なものではないが、救援投手の責任範囲を原則1イニングに定めていこうとする意図が伺える。

これらの施策もあり、救援指標はいずれも改善。特にK%(三振率)の伸びは素晴らしく、現在につながる高いK%のはしりとなっている。新戦力の台頭もあるが、起用方針の見直しが安定したパフォーマンスの発揮を促した要因の一つとなったと見ることもできるのではないだろうか。

余談ながら、ここで少し疑問なのが、「3連投防止は誰が提唱したのか」という点である。
西村体制の刷新により、昨年まで一軍投手コーチであった高山郁夫氏がその任に復帰した。が、同氏の在任時に3連投が頻発したのは上記の通りである。
となると、3連投防止の提唱者は体制刷新後に加入した人物であろうと思われる。他ならぬ中嶋監督代行がそれに該当する可能性が高いと思われるが、この点は推測の域を出ない。
少なくとも2020年の監督交代から2022年までの2年半、中嶋体制下において3連投が行われた回数は4回(2020年:3回、2022年:1回)しかなく、忌避されるようになったことだけは確かである。

野手運用

投手運用の項と同じく、まずは主要な成績の推移を以下に示す。

2020年 打撃成績推移(前半:西村体制→後半:中嶋体制)

投手成績ほどのインパクトはないものの、打撃成績についても大半の指標が改善されていることが伺える。唯一低下したのはBB%(四球率)であるが、出塁率は低下しておらず、その一方で長打率が上昇していることから、マイナスに捉えずとも良いものと思われる。

西村体制下の首脳陣が不振の主軸、つまりジョーンズ・T-岡田・ロドリゲスの3選手の起用に拘泥した点は何度も述べた。では中嶋体制以後、彼らの打席数はどのように変動したか。

・ジョーンズ:200打席(49試合) → 138打席(38試合)
・T-岡田:187打席(45試合) → 190打席(55試合)
・ロドリゲス:172打席(44試合) → 39打席(15試合)

まずロドリゲス選手の出場機会が減少し、8月26日に抹消。以後再登録されたものの結果を残せず、同年オフをもって退団となる。
ジョーンズ選手は監督交代後の3試合で4本のホームランを放つ大活躍を見せ、以降もスタメンで起用されたが失速。9月には腰痛、10月には下半身コンディション不良で抹消された。なお起用継続の理由だが、西村監督辞任の記事にて「契約の都合」との記載があり、スタメン起用が契約で定められていた可能性がある。
T-岡田選手は西村体制におけるスタメン出場45試合のうち、37試合でクリーンナップを務めていたが、中嶋体制では12試合に減少。2番や下位打線に入ることも増え、9番で出場する試合もあったが、3年ぶりに規定打席到達を達成している。

ロドリゲス選手は結果を残すことができずに終わったが、ジョーンズ・T-岡田の両選手については継続的に出場機会があり、OPSはそれぞれ.858・.859と復調を遂げてさえいる。
ジョーンズ選手の抹消は惜しまれたものの、T-岡田選手については適切なコンディションと起用法を見定めた上で起用することが望ましいと判断されたものと思われる。

これら主軸3選手のスタメン起用・打席数は減った。これにより、チームは新たな補となりうる選手を模索する段階に入ったといえる。では、どのような選手がその機会に挑戦したのであろうか。
一つの目安として、中嶋体制下で50打席以上の機会を得た選手(上記の3選手+吉田正尚選手は除く)の成績を以下に示す。なお、ピンクの網掛けは監督交代後に打席数が倍以上増えた選手、青の網掛けは減少した選手である。

2020年後半 選手打撃成績(50打席以上、主軸4選手を除く)

上記を見る限り、後半に入って打席数を増やした選手に年齢の偏りは見られない。
25歳までの選手は5名いるが、若月・宗の両選手のように打席を減らした選手もいる。また、監督交代前には一度も一軍の打席に立っていなかった選手が3名(9月に支配下登録された大下を除く)おり、彼らはいずれも中堅・ベテランの域に入っている。若手・中堅・ベテランの如何に関わらず公平に機会を与え、今後の可能性を探ろうとしているふしが見て取れる。

後半に入って打席数を大きく増やした選手の中で、最も活躍したのはモヤ選手である。後半だけで12HRを放った上、OPSは.950を記録し得点力向上に大いに貢献した。
また、これまで若月健矢選手がほぼ独占していた捕手の出場機会にも見直しが入り、二番手捕手の扱いであった伏見寅威選手の出場機会が増加。後の捕手併用制の先駆けとなる起用を行っている。

その一方、舞洲で圧倒的な成績を残した杉本裕太郎選手は一軍では2HR・OPS.695に留まり、ふくらはぎの筋損傷で離脱。一軍初出場の試合で挨拶がわりの一発を放った大下誠一郎選手も調子が続かず抹消。全員が十分な結果を残したとは言えず、「吉田個人軍」状態を脱却できたわけではない。

しかしながら、前述の通り得点力・打撃成績については一定の向上を見ていることもまた確かであり、得点力の向上は翌年以降の課題として持ち越されることとなる。

まとめ

2020年のシーズンは45勝68敗7分、借金23の6位で終了した。2年連続の最下位であった。
しかし、借金17からのスタートとなった中嶋オリックスの67試合に限って見れば「借金6・得失点差-1」であり、8月21日以降の成績に限れば4位に相当することは前述の通りである。

監督交代前の得点・失点はいずれもリーグ最低の水準にあり、特に得点力については極めて深刻なレベルにあった。これに対して中嶋オリックスはいずれも改善を果たしているが、特に投手陣、なかんずく運用の整備に努めることで、大幅な失点の抑制に成功。これが得失点差の改善に大きく寄与している。

より困難な課題であった得点力の向上にあたっては、中軸・その他の区別なくテコ入れを図り、これまで出場機会のなかった選手も含め、各選手に幅広く機会を与えた。成功例も失敗例も存在するが、少なくとも平均得点は向上しており、全体として見れば成功であったと言って良い。しかし投手陣に比べればその効果は小さく、翌年以降の継続課題として残ることとなる。

投手陣・野手陣双方の起用について特筆すべきなのは、監督代行就任当初に語っていた「キーマンは全員」の言葉通り、年齢・国籍関係なく全選手に対して概ね公平に機会を与えている点であると思われる。
若手・中堅・ベテランの区別なく、二軍で結果を残した選手には昇格の機会を与えているし、従来からその役割を変えた選手もいる。いずれも勝利に向けた最適な起用法を模索し、試行錯誤を繰り返していた段階にあったと言えよう。

「全員で勝つ」という言葉は2021年以後に半ばスローガン化したが、実はすでに2020年から実行されていたのではないか。そのように思えてならない。

参考サイト・記事

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