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オリ復興記 - 2. 2019年の舞洲軍

はじめに

本シリーズ(?)は、「なぜオリックスが強くなったのか」に関する自分なりの考察である。前回はその発端となった2018年オフのできごとについて述べたが、2回目となる本稿では「2019年の舞洲軍(オリックス二軍)」について考えてみたい。
なお、前回記事については以下をご参照いただきたい。

なぜ「2019年の舞洲軍」なのか

オリ復興の発端となった2018年オフ、改めて育成へのシフトを強化する方針が示された。
そのため、育成統括GMとして福良前監督を据えるとともに、二軍監督として中嶋聡氏を、トレーニング面の指導者として中垣征一郎氏を招聘。後にチーム全体の核となるこの三氏が、このタイミングで集結した。

彼らが就任直後に活動拠点としたのは、その役職名からもわかるように二軍であった。
今でこそ名将の呼び声高い(と個人的に思っている)中嶋聡監督だが、2020年に監督代行に就く前まで二軍監督の任にあったことこそ知られているものの、一軍監督就任までにどのような活動をしていたのかはあまり知られておらず、また自分も理解できているかと問われれば極めて怪しい。
そこでまず、2019年の「舞洲軍」ことオリックス二軍の戦績・成績を俯瞰し、現在のオリックス一軍に繋がる要素はあったのか、あったとすればどこなのかを見ていきたい。

いつも記事を書くと長くなってしまうため、あまり細かな点には踏み込まず、俯瞰レベルに留めることとする。その点ご容赦いただきたい。

舞洲の特色

まずオリックスを知らない方のために、二軍が本拠を置く「舞洲」について触れておきたい。

舞洲は大阪市此花区にある人工島(埋立地)であり、「舞洲スポーツアイランド」として複数のスポーツ施設が存在する。オリックス二軍は2017年からここを本拠地とし、同地にある舞洲バファローズスタジアム(現:杉本商事BS)で二軍主催戦の大半が行われる。
「舞洲軍」の通称はここに由来する。

本球場の特徴として挙げられるのが、「とにかく本塁打が出ない」ことである。理由は諸説あるが、最もよく聞くのが湾岸沿いにある立地の都合上海風の影響が強く、これが逆風となって打球が押し戻される、というものである。
本塁打の出やすさを示す「本塁打パークファクター」という指標があるが、2018年の同球場における本塁打パークファクターはなんと0.32である。
二軍のパークファクターは一軍に比べ年度別変動が激しく絶対ではないが、それでも本球場がいかに本塁打が出にくいかはお分かりいただけよう。このことからも舞洲は極度に投手有利の球場であり、打者が好成績を残しにくいという特徴がある。

育成方針

オリックスの選手育成方針を整備したのは福良淳一GM(監督辞任直後は育成統括GM)であることは前に述べた。その内容についてはインタビュー記事が複数あり、それらから思想の一端を垣間見ることができる。具体的には以下のようなものである。

・見込んだ若手には1年目・2年目に成績関係なく多くの打席(目安は300打席)を与える
・3年目にどのような役割で起用するかの方向性を決める
・一軍の守備固めで使うような選手に多くの打席は与えない
・投手についても同様で、見込んだ若手はローテーションに組み込む
・若手育成を主眼とすることから、(原則的に)高卒・大卒のみを獲得する

福良氏の就任は2018年オフであり、本方針が適用されたのは翌2019年からのはずである。若手に多くの機会を割くことが将来への投資であることは言うまでもないが、その一方で目先の勝敗の悪化を招く可能性もある。では、「福良体制元年」と言っても良い2019年の舞洲軍はどのような成績を残したのだろうか。

戦績

舞洲への移転が行われた2017年を境に環境が一変するため、2017年から2019年までの3年間の勝敗・平均得失点・得失点差を以下に示す。
※得失点を平均としているのは、試合数がチームによって異なるためである。

2017年:50勝53敗9分(4位) 平均得点3.49(5位)/平均失点3.56(1位) 得失点差-8
2018年:45勝57敗13分(3位) 平均得点3.10(4位)/平均失点3.58(3位) 得失点差-56
2019年:55勝53敗9分(2位) 平均得点3.37(5位)/平均失点3.32(1位) 得失点差+5

2019年は貯金2で勝ち越しを達成。シーズン勝ち越しは2012年以来の快挙であった。
中嶋二軍監督(当時)は就任後のインタビューで早くも「育てながら勝つ」と明言しており、その後にも通じる「育成と勝利」が2019年の段階で既に実行されている。

「二軍は育成の場であり、勝敗を争う場ではない」との声もあるかもしれないが、2019年の舞洲軍は「育成か勝利か」の二者択一ではなく、わずか貯金2とはいえ「育成も勝利も」の両取りを達成しているのだ。

勝敗の足枷になりうる育成方針が存在する中、どのようにシーズン勝ち越しを達成したのであろうか。勝敗の推移と、野手・投手運用のそれぞれについて見ていきたい。

勝敗の推移

まず、2019年の舞洲軍における勝敗・得失点の動向を見ていただきたい。どこか見覚えがある気はしないだろうか。

2019年 舞洲軍勝敗・得失点推移

勝敗差(ピンクの太い線)を見ると、シーズン前半は借金生活が続いており、後半に巻き返しを図っていることが伺える。また、5連勝/連敗以上の大型連敗/連勝は中盤のそれぞれ1度きりであり、それを除けば大きな浮き沈みを経ずに戦い抜いている。

得失点差は結局+5に終わっているが、その推移に目を向ければ中盤の大型連勝→連敗と合わせるように大きな浮沈を経てはいるものの、概ねプラスを維持している。前述の通り平均得点はリーグ最低でありながら、失点を抑え続けたことで、得失点差のプラスを維持し続けたといって良いであろう。

このことから、以下の点がすでに2019年の舞洲軍で行われていたことが伺える。

・序盤は我慢を重ねながら、大型連敗だけは起こさないようにする
・中盤以降で巻き返す
・得点が失点を上回るように運用されている
・得失点差のプラスを維持するために失点の抑制を図っている

次に、野手/投手の運用について見ていきたい。二軍という場所の都合上、一軍への戦力拠出も発生するため、各選手の推移等についても見たいところではあるのだが、文字数が膨大になりそうなので、特に運用の肝となる「機会の配分」に論点を絞り、粗々ながら見ていくこととする。
※詳細は後日改めてまとめるかもしれません。

野手運用

野手運用についてよく言われる説として、「西村一軍監督(当時)の走塁・小技に秀でた選手を優遇したため、二軍の戦力が充実した」というものがある。
その真偽はさておき、2018年と2019年の主要な二軍打撃成績を比較してみる。

主要打撃成績(2018-2019)

一軍がどうだろうが二軍監督が変わろうが、とにかく打てていない。
2018年に比べれば多少改善され、やや平均との差を縮めているものの、全項目において平均を下回っていることには変わりはない。盗塁数・成功率や犠打数が著しく増加したわけでもなく、チームとして攻撃面を見ると、目立った特色は見られない。ただ「打ててません」という数字だけが並ぶ。

機会の配分について考えるにあたり、何かの基準に沿って分類するとどうだろうか。前述の福良GMによる方針も踏まえ、かなり雑な分類であるが以下の3層に分けて考えてみる。

  • 生え抜きで1〜2年目の選手

  • 生え抜きで3〜5年目の選手

  • 生え抜きで6年目以降の選手、および外国人・他球団から移籍してきた選手

在籍年数別打撃成績(2018-2019)

2018年も1〜2年目の選手に約47%弱の打席を与えていたが、2019年はこれが約16%増加。700打席弱が1〜2年目の選手に回された。他方、ベテラン・外国人は500打席以上が削減され、若手・中堅を主体とした運用へシフトする流れが鮮明となっている。高卒ルーキーには特に多くの打席が用意され、前年のドラフトで獲得した太田椋選手(怪我のため6月から合流)には263打席、宜保翔選手に至ってはチームトップの417打席が与えられている。この点は前述の育成方針の通りであると言える。

ただし1〜2年目の選手がすぐさま結果を残しているわけではなく、両年ともOPS.600程度に留まる。彼らに多くの機会を割くことは、目先の成績よりも将来に向けた投資としての意味合いが強い。むしろ、全体平均より劣る成績の選手が多く打席に立つことはチーム成績の押し下げ要因となっている。

この低下を補ったのが、3〜5年目選手の成長である。2018年はこの層の選手がOPS.620に留まっていたが、2019年に入り.100近く上昇。これは同年に14HRを放った杉本裕太郎選手(278打席、OPS.851)に負うところが大きいが、西野真弘選手(159打席、OPS.768)・宗佑磨選手(177打席、OPS.679)といった後の主力となる選手もこの層に含まれ、彼らの成長が全体成績の維持に貢献したと言えよう。

とはいえ前述の通り、チーム全体の観点から見れば「少し改善した」程度の変化であり、総じて打てないチームであったことに変わりはない。ただその中身に目を向けると、若手・中堅へ重点をシフトした結果、(特に3〜5年目の選手を中心として)成果を残す選手が徐々に登場してきたことも確認できる。彼らが後の一軍を支えるようになったことを鑑みると、将来に向けた芽が徐々に出始めた段階であった、と見ることもできなくはない。

ちなみに守備にも軽く触れると、失策数は83→95と12増、DER(Defensive Efficiency Ratio、守備効率とも)は.668→.675とやや向上している。高卒ルーキーに出場機会を与える方針であることは前述の通りだが、太田椋・宜保翔の当該2選手で実に34失策を数えている一方、被安打数が減少したことで、このような減少が発生したものと思われる。

投手運用

繰り返すようで恐縮だが、舞洲軍は打撃のチームではない。投手のチームである。この傾向は舞洲移転後から既に一貫しており、2023年も変わっていない。
では実際どれほどの成績だったのか、打撃成績と同様簡単な指標で比較してみたい。

主要投手成績(2018-2019)

2018年も失点数はリーグ平均以下を保っていたが、K%(奪三振率)とHR%(被本塁打率)がリーグ平均を下回っていた。これが2019年には改善され、全ての指標でリーグ平均を上回っている。特にK%は2.1%の上昇を見せ、20%を突破。同年の二軍において20%を超えたのは12球団でオリックスが唯一であった。

後の一軍では150km/h超の速球やフォークを武器とする投手が複数登場し、日本シリーズなどで話題となったが、同年のK%も前年から2.0%増の22.3%となっていた。当時の舞洲軍投手陣における球速・球種の情報を得ることは難しいが、後年に一軍で起きた変化のはしりとなる現象がすでに起きていたと考えることもできよう。

チーム全体として指標の改善を図ることができていることはわかったが、機会の配分についてはどうであろうか。打撃成績の場合と同様、入団年数別に分けて考えてみる。

在籍年数別打撃成績(2018-2019)

どの層でも各種指標で改善が見られ、この結果防御率の改善を実現している。一方、イニング配分に目を向けると、野手同様1〜2年目の選手への配分が増えたものの、野手の場合ほど顕著な変化は見られない。
これは2013年以降ドラフト戦略の転換が行われ、特に2014年のドラフトから高卒投手の指名が増えたため、入団3年目以降でもまだ若い選手が多数在籍していることが影響していると考えられる。

では切り口を変え、年齢層別に以下の3つに分けた上、試合数に関する数字も含めて考えてみてはどうだろうか。

  • 24歳以下(〜大卒2年目相当)

  • 25歳〜27歳(〜大卒5年目相当)

  • 28歳以上

年齢層別投手成績(2018-2019)

年齢層別に分類すると、2018年は28歳以上の投手によるイニング数が約40%を占めていたが、これがほぼ半減。イニング数の約80%が27歳までの投手に振り向けられている。

最も若い24歳までの層に目を向けると、2018年はチーム全体のK%(18.1%)こそ上回っていたもののBB%が高く、球威はあっても制球に難のあった投手が多く投げたものと考えられる。実際、同年の24歳までの層で最多のイニングをこなした山﨑颯一郎投手(100.1イニング)のBB%は12.9%とK%(12.1%)を上回る有様であった。
これが2019年には大きく改善。K%は前年比2.5%増、BB%は約2.8%の削減に成功し、この結果防御率も0.30程度低下することに成功している。

同年のイニング数トップ3は東晃平投手(96.0イニング)・鈴木優投手(86.1イニング)・本田仁海投手(57.0イニング)であるが、彼らはいずれもこの層に属する。また同年に23セーブを挙げた漆原大晟投手(38.1イニング)も該当する。彼らのイニング数を合算すると277.2イニングに達し、4名だけで本層の60%以上を構成するが、合算したK%は19.8%、BB%は7.0%となっている。ここに富山凌雅投手・吉田凌投手等といった面々が加わり、K%は各層で最も高い21.2%を記録した。

28歳以上の層では、2018年は防御率が低い一方、K%・BB%がともに低く、制球力で勝負するタイプの投手が多くのイニングに登板していたものと考えられる。この層に対しては自由契約・トレード等の人員整理を行って軟投派の投手を減らす一方、先発から救援へ役割を変えることでイニングの絶対数を減らし、三振の取れる投手が短いイニングを投げたことで成績の良化を果たしたものと思われる。
人員整理の主な対象例としては、2018年に3番目に多くのイニングを投げた松葉貴大投手(81.2回、K%:14.2%)が挙げられる。

28歳以上の投手・イニング数が減少したことで、最も多くの機会を得たのが25〜27歳の層である。(人員構成の違いは勿論あるが)彼らの防御率も前年に比べて低下してはいるものの、その低下幅は0.32と各層の中で最も小さく、またK%に至っては前年よりも低下している。
このことから、機会こそ与えられたものの応えることができず、若手に取って代わられる余地を残したと見ることもできる。舞洲軍で登板した本層の投手は14名いるが、2023年現在もオリックスで現役を続けている投手は4人しかいない。

これらのことから、主に中堅に伸びの見られた野手に対し、投手は若手の伸びが顕著であったことが伺える。メンバーの違いこそあれ、後の「投手王国」の萌芽が生まれつつあったと言えるのではないだろうか。

まとめ

例によって長くなってしまったが、本記事の要点を以下にまとめる。

◆シーズンの戦い方
・大型連敗を極力避けつつ、中盤以降で巻き返すスタイルは2019年の時点から行われていた
◆打撃
・(チームとして見ると)貧打は解消されていない
・特に若手に多くの機会を配分している
・若手は大した成績を残していないが、中堅層の成長がカバーした
◆投手
・元々良好な成績であったが、さらにそれが良化した
・野手同様、若手〜中堅に多くの機会を配分している
・特に若手の伸びが顕著であった

「育成と勝利」という一見相反する課題を両立することは極めて難しいとされる。この難題に対し、序盤は我慢を重ねつつも若手・中堅に多くの機会を与え、彼らの成長を促しながら勝利に結びつけていくスタイルは、一軍監督就任後のそれに通底するものがあると言えるのではないだろうか。
2021年以降の躍進の基礎は、すでに2019年の舞洲で築かれていた。個人的にはそう考えている。

最後におまけとして、二軍監督就任直後の秋季練習時に行われたインタビュー動画があったので掲載しておきたい。一軍監督の重責を担う2023年現在に比べるとどこか初々しく、楽しそうなのが印象的である。

参考サイト・記事

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