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オリ復興記 - 7. 2020年オフ

はじめに

本シリーズは、「なぜオリックスが強くなったのか」に関する自分なりの考察である。
前回は、2020年の西村監督辞任後、監督代行に就任した中嶋オリックスの軌跡を俯瞰した。

今回は同年オフ、翌年の開幕前までの戦力整備、すなわち首脳陣・選手の変動に焦点を当て、当時のオリックスがどのような観点で翌2021年のシーズンに臨もうとしていたのかを推察してみたい。

過去記事は以下をご覧ください。

コーチングスタッフの変動

中嶋監督就任

2020年11月12日、中嶋聡監督代行が翌期の監督に就任することが発表された。契約は単年である。
過去2年間の舞洲軍(二軍)・一軍における手腕から監督就任が確実視され、既定路線と思われたが、当の本人は「二軍の指導がしたくてオリックスに来たのに」とボヤき、福良GMが都内の焼き鳥屋で就任を要請するなど、紆余曲折があった模様である。

とにかく監督就任が決定し、同日に記者会見が行われた。当時のコメントを抜粋する。

「正直、荷が重いが、このチームをどうにか強くしたい、このチームで勝ちたい」
「勝てるチームになりたい。そこに向かって全力でやる選手を使いたい」
「Aクラスだと思っていたら届かない。優勝ということを本気で意識して目指さないと駄目」

2020年11月12日、サンスポ記事

「正直、荷が重い」と素直な心情を述べている点は中嶋監督らしさが漂うが、ここで特筆すべきは「優勝を目指す」と公言している点である。
チームはここまで6年連続Bクラス、2年連続最下位。期待の若手が多数いるとは言われていたものの、常識的に見れば、Aクラスが実現できれば御の字というところだろう。しかし、中嶋監督はそのような考えを否定し「優勝を本気で目指す」と明言したのだ。
当時の状況を考えれば荒唐無稽とすら思われかねない発言であったが、それがただのポーズでなかったことは、その後の結果が明らかにしている。

コーチ人事

中嶋監督の就任から後れること約1ヶ月、2020年12月8日に来季のコーチングスタッフ25名が発表された。退任(赤字)は4名、肩書変更を含む配置転換(緑字)は12名、新任(青字)は8名である。以下にその一覧を示すが、注意点があるため後述する。

2020年→2021年 コーチングスタッフ変動一覧

新任・退任について述べる前に、最も大きな変更となったのが、コーチの肩書から「一軍」「二軍」の名称を撤廃した点である。
上の表では比較を明確にするため、主たる配置を踏まえた形で反映したが、登録上は「打撃コーチ」「投手コーチ」といった名称となっている。この変更の意図について、福良GMは以下のように語っている。

「全員で見てもらうということです。(コーチの指導力は)1軍が上じゃないし、ファームの方が下じゃない。同じ立場。監督もそういうふうにやりたいと言っていた。あまり(途中で)代えたくはないが、(コーチ陣を)回すこともできるし、メリットはある」

2020年12月11日、産経新聞記事

肩書から一軍・二軍の垣根を取り払うことで、選手の特性に適合したコーチを選定し、そのコーチが担当選手を指導することを可能とした。これはオリックス特有の仕組みとなり、2023年現在も続いている。
コーチングスタッフの総数は21名から25名に拡大し、特に育成面を担当するコーチが2名増加した。育成統括および育成コーチの4名はそれぞれ元捕手・投手・内野手・外野手であり、全てのポジションに応じた育成体制の充実を意図していたものと思われる。

しかし、それよりインパクトが大きかったのは、他球団から移籍してきたコーチ陣の顔ぶれであった。とりわけ同年まで広島の二軍監督を務めていた水本勝己氏がヘッドコーチに、現役続行の道を求めて阪神を退団した能見篤史氏が選手兼任で投手コーチに就任したことは驚きをもって受け止められた。
彼らがどのような経緯で就任したかは知る由もない。が、兎にも角にも経験豊富なメンバーを新たなコーチングスタッフに組み込むことに成功したことだけは確かである。他球団の風を取り込みつつ、新しいアプローチで指導を行うための体制を組むことで、翌シーズン以降の育成を進めようとしていたことが伺える。

選手の変動

2020年の構成(おさらい)

ここまで首脳陣の人事について述べてきたが、当然ながらプレーをするのは選手である。いきおい、戦力整備の中心は選手の入退団に関するものとなる。そのため、まずは2020年シーズン(補強期限終了時)におけるポジション・年齢別選手構成の確認から始めたい。
なお、育成選手については文字色をグレーとしている。

2020年 オリックス選手構成(補強期限終了時)

支配下選手は投手33名、野手34名の合計67名。育成選手は投手7名、野手7名の合計14名。総勢81名、投手・野手の人数はほぼ等しい。特に30代以上の選手が21名(いずれも支配下)を占めており、支配下選手の約3分の1を構成していた。

引退・戦力外

時系列で言えば先にドラフト会議があり、その後に引退や戦力外通告がなされるのが野球界のスケジュールである。しかし、補強方針を追うには先に引退・戦力外選手から追い、その後どのような選手を補強したかを見ていく方がわかりやすい。そのため、まずは引退・戦力外の対象となった選手の一覧を以下に示す。
グレーアウトしたのは退団した選手、青文字は育成再契約となった選手である。

2020年 オリックス選手一覧(戦力外反映)

引退・自由契約等による退団者は11名(うち育成1名)、戦力外後に育成再契約を締結したのは2名。これにより、支配下選手は投手29名、野手26名の計55名となっている。

退団者の内訳は投手3名、野手8名(うち育成1名)となっており、特に一軍で確たる実績を残せなかった30代野手が約半数の5名を占める。なおこの5名のうち、白崎浩之選手を除く4名はコーチに就任した。

長年打撃面が課題のチームゆえ、野手の若返りを図ったものと見ることもできようが、同年の戦力外措置によって、投手・野手の30代(翌年に30歳となる当時29歳の選手も含む)の支配下選手数がいずれも9名となっている。野手の若返りに加え、投手・野手間でやや差のあった世代間バランスを共通化する目的もあったと考えることもできる。

少し注意しておくことは、退団者のうち7名が30代以上となっているが、翌年に30歳となる当時29歳の選手を含めた「翌年の30代選手数」で考えると、30代選手の減少数は3名に過ぎない点である。
若返りは編成の常であるが、必ずしも拙速な若返りを進めたわけではなく、世代間のバランスを考慮しつつ、緩やかに世代交代を図ろうとしているように見受けられる。

外国人はアルバース・ロドリゲスの2選手が退団となった。ロドリゲス選手は純粋に打撃不振が理由であろう。アルバース投手は年間を通じて先発ローテーションをほぼ完走したが、必ずしも安定していたとは言い難く、成績に比して年俸が高額(2億4000万円)な上、また35歳と高齢であったことが要因と考えられる。「じゃあ、より年上のディクソン投手は?」との声もあろうが、こちらはクローザーとして欠くべからざる役割を果たしていたこと、これまで8年間在籍した実績、そして翌年の年俸半減(1億6300万→8000万円)に合意したことの3点が残留の理由として考えられる。

また、近藤大亮投手・西浦颯大選手の2名が戦力外通告後に育成契約を締結している。近藤投手はトミー・ジョン手術、西浦選手は難病である両側特発性大腿骨頭壊死症の発症に伴い、長期のリハビリ期間を余儀なくされるための措置である。
上記のような長期のリハビリ期間を伴う故障・病気が発生した場合、オリックスでは一度戦力外にした後に育成契約を締結し、回復後に改めて支配下登録を行うケースが散見される。賛否両論のあるスキームだが、リハビリ完了→支配下登録後にパフォーマンスを向上させた選手もいることは事実である。

ドラフト

2020年のドラフト会議において、オリックスは支配下6名・育成6名の計12名を指名した。この時点で、支配下選手の総数は投手32名・野手29名の計61名となる。
なお、以降は翌シーズンを見越した構成となるため、選手の学年は1つ繰り上げている。

2021年 オリックス選手一覧(ドラフト後)

指名選手の出身構成を見ると、高卒7名・大卒3名・社会人または独立リーグが2名となっている。特に支配下は1位の山下舜平大投手(福岡大大濠高)をはじめとする6名中4名が高卒であり、今後は高卒選手の育成を通じてチームの持続的成長を図っていく意志表示であるかのように見える。が、本当にそうだろうか。

同年のドラフトで、オリックスが1位指名を公言していたのは近畿大学のスラッガー、佐藤輝明選手(現:阪神)であった。指名公言は12球団最速であったし、会議前にもかかわらず本人に「指名公表挨拶」まで行うほどの熱の入れようであった。

打撃面で特にウィークポイントとなっていたのは三塁・中堅の2ポジションであった。両ポジションは長らくレギュラー不在の状況にあり、2021年に23歳を迎える支配下野手は1人もいない(当該学年だった根本選手は戦力外)。
こうした課題が佐藤選手の獲得によって一挙に解決するはずだったのだが、結果は周知の通りである。これを受け、外れ1位として高卒の山下投手を指名した。

前年(2019年)のドラフトでも、最初に1位で指名した選手こそ高卒の石川昂弥選手(東邦高)だったが、外れ1位指名では社会人の河野竜生投手(JFE西日本)を指名している。これらの事例から、(少なくとも1位は)必ずしも「高卒ありき」で考えていたわけではなく「最も評価の高い選手」を指名する方針だったものの、あえなく抽選を外した結果、高卒の指名に至ったと見るのが妥当ではないだろうか。
ただし、1位以外でも高卒選手を3名指名していることから、高卒選手の獲得を通じたチームの若返りを狙う意図があったことは伺える。これに加えて上述の「結果としての高卒ドラ1指名」が重なったことで、より高卒中心の色彩が濃くなったように見受けられる。

育成選手も支配下と同数の6名を指名した。ここで注目したいのは育成選手数の拡大である。2020年シーズンは14名であったが、退団したのは1名のみ。戦力外→育成再契約の2名も合わせれば都合21名となり、これは球団史上最多(当時)であった。
育成選手はトレードができない上、支配下登録の可能性がある。このため、その総数は戦力外・ドラフトの終了後にピークを迎え、翌年の補強期限までに人数が徐々に減少していくことになる。
同年オフで初めて20名を超える育成選手を抱えることとなったが、以降は同規模の総数を抱えるのがオリックスにおける標準となる。

結果として高卒主体・育成多めの指名となったわけだが、そのいずれにも共通しているのが「当座しのぎの指名をしていない」点である。
6年連続Bクラス、2年連続最下位という状況を鑑みれば、即戦力となりうる選手を多数指名しても不思議ではない。実際、即戦力と呼ばれた佐藤選手の獲得にチャレンジしているが、それが失敗した後も埋め合わせのような指名は行っていない。即戦力に相応しい評価を受けていた選手はドラフト6位の阿部投手(日本生命)くらいのもので、およそ短期的な視点とはかけ離れた指名を行っているのだ。むしろ長期的な視点に立ち、将来のチームを支えうる素材たちの獲得に邁進したドラフトであったと言える。

ドラフトで素材の獲得は行ったが、短期的な補強ではない。では翌シーズンに向けた戦力編成はどのように考えていたのか。次項ではそれ以外の補強について見ていく。

補強

ドラフト以外の補強手段としては、「支配下登録」「日本人補強」「外国人補強」の3つが挙げられる。2020年オフのオリックスにおける支配下登録は2名、日本人補強は3名(うち育成1名)、外国人補強は1名であった。
この結果、支配下選手は投手36名・野手30名の計66名となった。育成選手を含めた総数は、投手47名・野手41名の計88名にのぼる。
これら選手の情報を追加したものが以下である。これが2021年当初における戦力全体となる。なお、支配下登録は赤字、日本人・外国人補強は薄橙色で表記している。

2021年 オリックス選手一覧(補強後)

支配下登録

同年オフにて、黒木投手・山﨑颯投手の支配下登録がなされた。両名ともトミー・ジョン手術によるリハビリ期間からの復帰である。
黒木投手は救援として2017年に55試合、2018年には39試合に登板しており、(万全であれば)復帰後も同様の役割を務めることが期待された。
山﨑颯投手は今や160km/hの豪速球を誇る救援投手としてWBC日本代表にも選出された存在となったが、2020年オフの時点で一軍の登板実績はない。離脱前は二軍で主に先発を務めていたため「将来の先発候補」として期待されていたものの、必ずしも2023年現在のようなセットアッパーを期待されていたわけではなかった。救援転向は2022年になされたため、まだ先のお話である。

日本人補強

他球団に所属していた日本人選手の獲得手段は主に3つある。FA、トレード、戦力外選手の獲得である。

短期的な成果を求めるならば、FAやトレードを駆使して実績のある選手を獲得することも手であろう。しかし2020年オフ、オリックスはそのいずれも実施することはなかった。
ただFAに関して言えば、西武のクローザー、増田達至投手の獲得調査を宣言前に行っていた。結果的に増田投手は西武に残留することとなったが、当時の球団がクローザーの補強を課題と考えていた可能性がある。2020年はディクソン投手がクローザーを務めていたが、必ずしも絶対的な存在ではなかったことと、元々は先発であったこと、そしてコロナ禍によって来日できるかのリスクがあったことの3点が要因と考えられる。

そして他球団を戦力外になった選手の獲得であるが、ここでオリックスは支配下として能見篤史投手・平野佳寿投手のベテラン2投手を獲得した。能見投手は前述の通りコーチ兼任、平野投手はMLBからの復帰となる。

能見投手は阪神退団後、他球団からも誘いがあったとのことだが、最終的に同じ関西であることを理由にオリックス入りを決断。選手としての活動を優先させつつも、コーチ兼任の肩書で入団した。コーチとしては一軍のブルペン担当となり、選手登録時は飯田大祐ブルペンコーチ補佐が代役を担った。

平野投手の獲得は、すでに翌年のキャンプが始まっていた2021年2月6日に発表された。コロナ禍によってMLBの移籍市場が冷え込み、所属先が決まっていなかったため、オリックスがオファーを出したところ、契約の意思を得たとのことである。
先に述べたクローザー問題と関連するが、前年のクローザー、ディクソン投手は家族同伴での来日を希望していた。しかし当時は感染防止を目的とした外国人渡航制限がかかっていたために希望が叶わず、なかなか来日することができない。このためクローザー不在でシーズンを迎える可能性があり、彼に代わるクローザーとして平野投手の獲得を図ったものと思われる。

能見・平野両投手とも経験・実績については申し分ない。しかしかたや42歳、かたや38歳の大ベテラン。若手育成を主眼とするのであれば、むしろ真っ先に構想外となる年齢である。にもかかわらず獲得に踏み切ったのは、戦力としての期待もさることながら、経験の乏しい若手に対するメンターとしての意味合いもあったのではないだろうか。事実、そのようなエピソードが翌年以降の記事で散見されるようになったことを考えれば、その獲得は狙い通りのものであったと考えて良いであろう。

外国人補強

2020年から流行した新型コロナウイルスの影響を最も受けたのが外国人補強であろう。感染防止の観点から渡航制限がかかり、来日も危ぶまれる状況であったため、例年と同様の補強は困難であったと思われる。

そのような中ではあったものの、2017〜2019年の3年間オリックスで主軸を務め、2020年は楽天に所属していたロメロ選手の獲得(復帰)に成功。オリックス時代は怪我を繰り返し、2019年オフの年俸交渉が折り合わず退団となったが、移籍先の楽天では適宜休養を与えられ、1年間一軍に帯同。404打席で24HR、OPS.893の成績を残した。
ジョーンズ・ロドリゲスの2選手が期待通りの成績を残したとは言い難く、また日本人野手も「吉田個人軍」と称されるような状態の中、唯一の本格的な野手補強として行われたのがロメロ選手の獲得であったと言えよう。

2020年は投手3名・野手3名の計6名であったが、2名退団・1名獲得により、2021年は都合5名(1名減)でシーズンを迎えることとなった。必ずしも十分な補強とは言えないが、当時の状況を鑑みればやむを得なかったとも考えられる。

まとめ

最後に2020年オフの動向を簡単にまとめ、本記事の結びとしたい。要点は以下の5点と考える。

  • コーチングスタッフの役割変更・人員増加により、育成体制を充実。

  • ドラフトでは高卒を厚めに指名し、育成選手の人数を拡充。

  • FA・トレードによる選手の獲得は実施せず。

  • 若手のメンターとなりうる、能見・平野の大ベテラン投手2名を獲得。

  • 打線の課題に対処すべく、ロメロ選手を獲得。

選手構成のおさらいをした際、2020年における30代以上の選手が21名もいたことを述べたが、その人数は21名のまま変わっていない。年俸総額も前年とほぼ同額である。

変わった箇所はそこではなく、選手の総数であった。育成を含む総数は81名から88名へと7名増え、そのうち25歳以下の選手は46名(6名増)となっている。中堅以上の人数は変えず、若手の人数のみを増やすことで、緩やかな若返りを図ったものと思われる。
また、キャリアの晩年に差し掛かったベテランを「競争相手」ではなく「相談相手」として獲得・位置付けることで、コーチングスタッフによる上からの指導だけでなく、先輩による横からの指導を図らんとしたと見ることもできるかもしれない。

とはいえ、こうした効果は目に見えづらいものである。投手陣については平野投手の獲得によるクローザー確保の成功というわかりやすい成果を挙げた一方、長年の懸案である打撃面で打てた手はロメロ選手の復帰程度。そのロメロ選手も来日できるかわからない。結局、例年通り打撃面での不安を残しながら、翌2021年のシーズンを迎えることとなった。

ドラスティックな若返りを図ったわけでもなければ、積極的な血の入れ替えを行ったわけでもない。選手の年齢構成・成績を見ると、ファン目線では必ずしも満足のいくオフとは言えなかったかもしれない。しかし、2020年オフに行ったコーチングスタッフの肩書変更や大ベテランの獲得といった動きを振り返ると、同年オフに起こっていた最も大きな出来事は「育成体制の整備」にあったのではないだろうか。目立たない側面だが、決して無視できるものでもない。現在もその仕組みが継続していること、またその後の成績を鑑みると、この変更が以降の快進撃を支える基盤となったとも思えるのである。

参考サイト・記事

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