ツイッタラーの墓(2分20秒版)

あるところにひとりの男がいた

ツイートを書いて暮らしていた

ある日ひとりの娘が男のもとを訪ねてきた

ツイートを読んで会ってみたくなったのだ

男はひと目で娘が好きになって

すぐにすらすらとツイートを書いて娘に捧げた

その日から娘は男と暮らすようになった

娘が朝ご飯を作ると男は朝ご飯のツイートを書いた

野苺を摘んでくると野苺のツイートを書いた

裸になるとその美しさをツイートに書いた

ある夕暮れ娘はわけもなく悲しくなって

男にすがっておんおん泣いた

その場で男は涙をたたえるツイートを書いた

娘は男をブロックした

男は悲しそうな顔をした

その顔を見ていっそう烈(はげ)しく泣きながら娘は叫んだ

「何か言ってネットミームじゃないことを

 なんでもいいから私に言って」

男は黙ってうつむいていた

「言うことは何もないのね
 
 あなたって人はからっぽなのよ
 
 なにもかもあなたを通りすぎて行くだけ」

娘は男をこぶしでたたいた

何度も何度も力いっぱい

すると男のからだが透き通ってきた

心臓も脳も腸も空気のように見えなくなった

そのむこうに町が見えた

鍋をかき回すサイゼリアが見えた

抱き合っている眞子さんと小室圭が見えた

マスクもせずに咳こんでいる老人が見えた

倒れかかった墓が見えた

その墓のかたわらに

娘はひとりぼっちで立っていた

墓には「R.I.P.瀬戸内寂聴」と刻まれていた

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