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夢という旅の果ての『I-LAND』

シグナルソングInto the I-LANDから見る、「I-LAND」というオーディションプログラムの考察

皆さんは「I-LAND」というオーディション番組をご存じだろうか。
「I-LAND」は、かの世界的アイドルグループ、BTSが所属する韓国の総合エンターテイメンント企業Big Hit Entertainment(現HYBE)によるオーディションプログラムであり、2020年6月末から9月にかけて放送された。
この番組を通してデビューを勝ち取った7人の少年たちはいま、ENHYPENとして世界を相手に輝くアイドルとして活躍している。 
 
この番組にはシグナルソング「Into the I-LAND」が存在する。
私は今でもこの歌を聴くだけで胸が締め付けられると同時に、世界は流転し続けていることを実感するのだ。 

私はこの曲は、オーディションに参加し共に笑い涙した彼らが、寄り添い合うことの大切さを忘れないために書かれたテーマソングだと感じている。
オーディション番組の参加者というライバル関係でありながら、上位チームであるアイランダー12名はシステム上では共に一つ屋根の下で暮らし、朝起きても一緒、夜寝る時も一緒、練習はもちろん、3食の食事も休憩に食べるおやつの時間も、言ってしまえばシャワーやお手洗いといった空間も、掃除洗濯も全てにおいて共同生活なのだ。下位チームであるグラウンダー11名も、夜は帰るということ以外は同じである。 
その中でライバルという名の友人、友人という名のライバルであった彼らは、お互いを慈しみ、慰め、時にはぶつかり喧嘩をし、23人全員が一回り大きな人間へと成長したのであろうと思う。 
 
「외로워도 기댈 곳 없이 괴로워도 정처 없이(寂しくても頼るところもなく、辛くてもあてもなく)」
というフレーズにあるように、アイドルの練習生というものは私たちが想像する以上に孤独で、真っ暗な闇の中で自分を照らすスポットライトを永遠探し歩いているようなものなのだと思った。しかし、己というただ一つのものを信じるしかなかった彼らはついに出会ったのだ。鏡のようなもう一人の『I』を。 
そうしてその『I』はアイランドとグラウンドという二つの島を結ぶ強固な橋となり、自分という『I』と他人という『I』を一つにしたのだ。 
 
この『I』というキーワードは、このオーディションにおいて特別なものに感じるがそれはInto the I-LANDの歌詞の中にある一貫した表現からも見ることができる。 
実は歌詞の中では、僕(I)と君(You)という言葉は全て”君"が前に、"僕"が後ろという形に統一されているのだ。 
One for all All for oneという言葉がある。一人はみんなのために、みんなは一人のために(一つの目的のために)と訳される言葉だが、I-LANDにおいてこれは「너와 내 꿈의 I-LAND(君と僕の夢のI-LAND)」なのだ。
君がいて僕がいる。君はまた違う側面を持つ僕であると、共に隣を走る君の存在が僕を孤独から引きずり出したのだと。 
 
しかし、この歌は実は参加者たちが歌うものとは別に、もう一つの「Into the I-LAND」が存在する。韓国の国民的歌姫、IUによる「Into the I-LAND」である。 IU側のWikipediaによると、彼女のInto the I-LANDは “I-LAND Part.1 Signal Song“ という位置付けになる。
公開されたのも本編放送前であり、これはオープニング曲であったと推測できる。
 YouTube上で公開されているIUver.のPVでは第一話から第二話にかけて、初めての出会いと初めての別れを経験する参加者たちにフォーカスを当てた構成になっており、つまり非常にエモい。

二つの歌詞は微妙に違いがあり、 IUver.が
「오래도 찾아 헤맨 꿈의 문 앞에(”長い間”探し迷った夢の扉の前に)」
と歌う部分を、オーディション参加者ver.は
「너무도 찾아 헤맨 꿈의 문 앞에(”あまりにも”探し迷った夢の扉の前に)」
と歌っている。
同様に「友達になって」という共通したフレーズに関しても、IUver.は「친구가 되어(友達になって)」と願望的なニュアンスなのに対し、参加者ver.は「친구가 돼 줘(友達になってくれ)」といった切実な感情を表現している。そのあとも、IUver.は「함께 걸어줘(一緒に歩いて欲しい)」と続くのに対し、参加者ver.は「함께 싸워줘(一緒に戦ってくれ)」と続く。 
穏やかなフレーズを丁寧に紡いでいるIUver.と大きく異なるのは、参加者ver.がより曖昧で、なおかつ強い意味合いのフレーズを選んでいるという点だろう。
つまり、女性歌手IUが番組主題歌として表現したI-LANDは『我々が見ている番組プログラム』であり、参加者たちが歌い表現したI-LANDは『彼らがI-LANDという空間で過ごし、得たもの全て』なのだ。

最後に、この楽曲をどうして最終回で全員で歌わなければいけなかったのか、という点について話していきたい。
先述したIUによる歌唱ver.が存在するという話で、Wikipedia上では “I-LAND Part.1 Signal Song“ という位置付けがなされている、と表記した。
このパート1とは、「上位チームが生活するI-LAND、下位チームが生活するグラウンド」に分かれていたパートを指す。パート2からは全ての工程がI-LANDで行われ、脱落者は永遠にこの場所を去る。パート2のオリジナルソングは多数あるが、『パート2シグナルソング』と位置付けられたものは存在しない。
つまり、「君と僕の夢のI-LAND」とは、夢を叶えることができる場所であると同時に、I-LANDという環境は奪い合うべき席でもあったのだ。
しかしながら、それとは反対に彼らが常に口にしていたのは「一緒にいたい」という言葉である。

ファイナルテストには9人の少年が残った。23人中14人が惜しくも脱落した。(なお、うち一名は怪我により途中辞退を余儀なくされた。)これからまた2人脱落し、デビューができるのはたったの7人である。一人一人脱落していくごとにベッドは主人を失い、がらんと空いた部屋には物悲しさが残った。
最終回にはサプライズ映像が用意されていた。それは最終回のファイナル曲を練習する9人のもとに、出演可能な脱落者13名が現れるというものだった。I-LANDへ再び足を踏み入れた彼らと迎え入れた彼らは、「会いたかった」「君のことを考えていた」と再会を喜び合い、最終回の生放送で披露するためのInto the I-LANDを全員で練習したのだ。
怪我をした一人以外、22人がI-LANDに集まった。番組始まって以来、全員がI-LANDに集うのはこれが初めてだった。半円状に配置されたソファに全員で座り、互いに声をかけ笑い合う。
そうして最終回のスペシャルステージが幕を開けた。22人が同じステージに立ち、ラスサビでは全員が同じ歌詞を歌い、同じダンスを踊った。
ああ、私はこれが見たかったのだ。「君と僕の夢のI-LAND」は、今この瞬間をもって完成されたのだ。

『모두,함께 아이랜드로』

『みんな、一緒にI-LANDへ』

YouTubeに投稿されている最終回のInto the I-LANDの副題である。
アイドルになりたいという途方もない旅路の中で、彼らがその果てに辿り着いた場所が『I-LAND』なのである。

I-LANDは今もあの森で静かに眠っているのだろう。このプログラムでのデビューが叶わなかった16人の新たな門出を、きっと祝福してくれると願っている。
そして、また新たなアイドル候補生たちが迷い込んでくることを、待ち望んでいるに違いない。

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