詳しく理解する自民党総裁選と株式市場

1.菅総裁の総裁選辞退から今日まで

                             (敬称略)

 菅総理は、9月2日二階幹事長に自民党総裁選出馬を伝えていたにもかかわらず、9月3日に立候補辞退を表明しました。突然の辞退表明は、「コロナ感染拡大防止に専任」を理由にしていますが、それは本心ではないはずです。衆議院選挙を控えての支持率低下、実力者からのはしご外し、疲れたなどの噂があります。

 直前の横浜市長選で菅総理が全面的に推す小此木前国家公安委員長がまさかの落選をしました。菅総理にとっては兄弟分であり、かなりショックだったと思います。とはいえ横浜市長選は一地方選挙です。本来は総理総裁が辞任するほどのことではありません。横浜市長選で立憲民主が推す山中を支えたのは、ハマのドン、藤木会長です。藤木会長は菅総理が市会議員のときからの付き合いでした。藤木会長もIR の賛成派でしたが、あることをきっかけとして反対派に回りました。また菅総理は、総裁選辞退表明の前に、二階幹事長に引導を渡しています。メディアでは、二階幹事長が「受け入れた」という報道をしましたが、実際は、激怒しました。藤木会長と二階幹事長が組めば菅総理を現職総理として初めて衆議院選挙で落選されることも可能です。まさかとは思いますがこういうこともありえます。

 菅は次の総裁任期(3年)まで続投する予定で、この3年間で次の長期政権を担う総理候補を育成することを考えていました。河野、加藤、西村、茂木、萩生田、小泉などの現職大臣と稲田、小渕、下村、世耕、林などの候補者を閣僚や党役員に登用して競わせる予定でした。私が8月頃から菅辞任の噂がでたにもかかわらず一貫して菅続投を主張し続けて来た理由です。政治は「一寸先は闇」といいますが、まさにそれが起こったと言えます。

 菅総理辞任により自民党の権力構造も歪めました。菅総理の後ろ盾は、二階幹事長、安倍前総理、麻生副総理・財務大臣でした。二階幹事長は、次の次の衆院選で引退し、三男に地盤を譲るつもりです。和歌山県は現在3選挙区のところ2選挙区となり1議席が減少します。世耕参議院議員が参議院から衆議院への鞍替えを狙っています。二階幹事長が権力に執着したのは地盤の継承が主な理由です。

 安倍前総理にとっても晴天の霹靂でした。安倍前総理の復活待望論がありますが、本人にやる気はないと思います。それよりも菅総理続投であれば、歴史的にも強いキングメーカーになれました。清和会会長の細田が、次期衆議院議長となり、安倍前総理は清和会会長かあるいは、派閥会長には付かず自民党全体のキングメーカーになる可能性がありました。しかし菅総理の支持率低下とともに自民党支持率も下落し、3回生以下の議員は危機感を募らせます。また、清和会は安倍前総理を中心として一枚岩かと思われましたが、福田派勢力が安倍前総理に好意的でないことを露呈してしまいました。安倍前総理が高市を支援しても一向に盛り上がらないのは権力の低下か、あるいは安倍前総理の本心は岸田支持だと見抜かれているからです。

 麻生副総理・財務大臣は、河野を支援するのかしないのかはっきりしないところがあります。麻生と河野の意見の隔たりは、河野が女性天皇を容認するような発言をしたためです。麻生は皇室と姻戚関係にあるため、この点については非常に敏感です。しかし河野の父、河野洋平が自民党を飛び出し、新自由クラブを創設し、自民党に戻ったときに支援したのは麻生です。河野は麻生の息子のような存在でもあります。麻生は前総裁選のときに、岸田を支援しませんでした。岸田は、総裁選立候補を最初に麻生の政敵である古賀誠に先に報告し、それを聞いた森喜朗は岸田にすぐに麻生のところに行って謝罪するように助言したそうです。しかし岸田はそれをせず、麻生は岸田を突き放しました。

総裁選の日程

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総裁選の仕組み

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総裁選予想

 河野が総裁選に勝つには本選で1発勝負、決選投票になると岸田有利といわれています。候補者は9月15日時点で岸田、高市、河野の3人。岸田サイドとしては、本選では2位でも構わない、決選投票で議員票を獲得する作戦です。鍵は、本選の党員票383票です。決選投票になると党員票383票は都道府県票47票に減るため、議員票の比重が一気に高まります。

 総裁選は、世論調査でも支持率の高い河野を中心に動いていくと予想されます。個人的には、今のところ河野50%、岸田40%、高市10%の確率を予想しています。

 9月14日に小泉進次郎が河野支持、翌15日に石破が総裁選不出馬を表明し、河野支持を表明しました。これで対立軸が明確になりました。政治コラムニストの後藤謙次がおもしろい表現をしています。河野と石破は「薩長連合」であり、小泉進次郎は「坂本竜馬」である。

「安倍・(麻生) vs 菅・二階の代理戦争」(麻生派は16日に派閥総会で方針をきめる予定)

「世代間戦争」

「脱安倍 vs 安倍継承」

「改革派 vs 守旧派」

派閥の動き

 今回の選挙では派閥の締め付けは緩そうです。しかし派閥を軽視することもできません。細田派所属議員が96名。細田派に影響を持つ安倍前総理は高市支持を表明していますが、細田派には安倍に従わない前福田派などの勢力が一定数存在します。安倍の本心は岸田支持とも言われています。河野は、麻生派に所属していますが、麻生派も割れています。安倍・麻生・甘利でAAAと言われていますが、実力者の甘利は岸田支持、若手は河野支持です。麻生は何も表明しないと思います。二階派はおおむね河野支持、石破派も河野支持です。麻生派と竹下派は16日に派閥総会で方針が決まりますが、どちらも自主投票になると思います。竹下派の動きは予測し難く、以前の総裁選で衆議院竹下派は安倍、参議院竹下派は石破を支援した経緯があります。石原派は自主投票を決めました。

派閥勢力

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河野太郎

 河野は、派閥単位の動きを批判しています。河野の戦略は小泉純一郎が勝ったときと同様に党員・党友票を固めて議員票に繋げて、本選1発で勝負を決めることです。衆議院選挙を控えているため、3回生以下の衆議院議員は危機感を募らせています。自民党は、3回生以下の若手議員が46%を占めています。河野は人の言うことを聞かない、スタンドプレーをする政治家という評価です。脱原発は自民党の政策とは相反するところがあります。また女系天皇問題もセンシティブな問題です。しかし河野は閣僚になってから自己主張を封印してきました。河野が石破と組んだのは、細田派、麻生派からの支持が得られないと読み、党員票の獲得に重点を置いたからだと思います。

 政治スタイルは、安倍・菅とは違い官僚人事権掌握型の政治主導ではなく、政策主導型です。

岸田文雄

 岸田は、菅が総理総裁になる前は、安倍後の最有力候補でした。外務大臣も卆なくこなし、誠実であり、実務派です。一方で優柔不断男、決められない男との評価があり、今も記者会見のたびに軌道修正をしています。総理総裁を任せるにはなかなか厳しいように見えます。岸田にとっては二階憎しです。2019年7月の参議院選挙での河井あんりの「政治と金」問題では、岸田が支援した候補が負けたにもかかわらず二階幹事長は自民党広島県連に責任を押し付けました。また安倍総理時代、岸田政調会長(当時)が困窮生活者に対して30万円の給付金を取りまとめたところ、公明党と二階幹事長がこの案をひっくり返し一律10万円給付に方針が変更になりました。岸田が党役員任期のことで二階を下ろそうとしたのはこのような背景があります。岸田で引っかかるのは公明党との関係です。自公連立が続く前提では総裁選に対して公明党の影響は少なからずあります。

 政治スタイルは、安倍・菅と同様に官僚人事権掌握型の政治主導です。

高市早苗

 高市は、ニューアベノミクスを主張していますが、何をやりたいのか明確でなく、準備不足のように思います。高市にとっては将来的は布石になる選挙かなと思います。

 政治スタイルは、調整型?


各候補者の主張

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2.株式市場への影響

 日本株式市場は「選挙は買い」です。選挙結果が出るまでは上昇し、次に自民党が単独過半数を取るとさらに株価が上昇します。

 現状、衆議院定数(465議席)、連立与党の衆議院議席数(305議席)、安定多数(244議席)であり、与党で61議席減まで許容範囲となります。菅政権の支持率低下により、連立与党で過半数が難しくなったと言われましたが、菅辞任によりハードルは低くなりました。現状では、20~30議席減が予想されます。

 株式市場のポジティブ材料は、積極財政、金融緩和、構造改革です。3候補の特徴を見ていきます。しかし金融政策は、安倍前政権時代から2%インフレを目標としながら達成できていません。金融政策の限界が意識されているため、金融政策よりも積極財政と構造改革が鍵になります。

河野太郎

 構造改革に積極的
 財政健全化
 アベノミクス終焉
 リフレ政策に否定的
 新規企業
 再生エネルギー

岸田文雄

 緊縮財政路線
 財政健全化
 構造改革の姿勢は相対的に弱い
 アベノミクス終焉
 リフレ政策に否定的
 所得分配政策
 大型原発

高市早苗

 構造改革の姿勢は相対的に弱い
 財政拡張政策
 アベノミクス継承
 リフレ政策に肯定的
 大企業中心に経済活性化を促す成長戦略
 小型原発

 完全に個人的な予想ですが、株式市場にとっては河野、高市、岸田の順でポジティブだと考えています。


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