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みちのく潮風トレイル冒険録21:旅のリスタートは雪の鳥谷坂(釜石駅→両石駅)

 お久しぶりの冒険録の更新となる。
 前回、釜石まで歩いた記事の最後で、歩くこととは別な新しい冒険に挑戦することを計画していて、しばらくはその準備のために時間を割きたいので釜石でいったんみちのく潮風トレイルの冒険を歩くことを中断すると書いた。
 前の記事では明言していなかったが、実は、新しい冒険とは社会人向けの大学院入試に挑戦するということだった。
 トレイルを何時間もかけて歩いていると、歩きながら色々なことに考えをめぐらす。歩きながら自分のキャリアについて考え直した時、かつて諦めた学問の世界への憧れをまだ捨てきれていなかったことに気が付き、大学院で修士号を得たいと思った。最初に大学院に行きたいとはっきりと思ったのは、一昨年の3月、雄勝半島を歩いていた時だったように思う。白銀崎から金華山を眺めながら、白銀神社に学業成就をお祈りしたことを記憶している。
 それから院試に向けた勉強をはじめて、研究計画書を書いて、一次試験(筆記試験)と二次試験(口頭試問)を突破して、無事2024年の4月から大学院生になることが決まった。
 今の仕事は続けながら大学院に通うことになるので、4月からはとても忙しくなるが、ひとまず、中断していた釜石から先のみちのく潮風トレイルの冒険を再開することにした。忙しくなる分、今までよりは歩きに行ける機会も限られてくるので、八戸まで全線踏破するにはあと何年かかるのかわからないが、自分のペースで楽しんで歩いていこうと思う。

Day34:釜石駅→両石駅

2024年2月28日(水)
 釜石は前日に大雪が降ったようだ。
 やまびこ51号盛岡行は東京駅を6時過ぎに出発する列車で、東京から各地に朝早く向かう乗客でいつ乗っても混雑している。新花巻駅で新幹線を降りて釜石線の快速はまゆりに乗り換えるのも約1年ぶりだ。宮古までのセクションを攻略するまでは、まだしばらくこの乗り換えにはお世話になるだろう。
 釜石駅から本日のセクションをスタートする。釜石といえば言わずと知れた製鉄の街、製鉄所の煙突がもくもくと煙を上げている。

 駅から川を渡った対岸が釜石の中心市街地で、津波の被害が大きかったエリアだ。釜石市役所の建物はずいぶんと年季の入った雰囲気で、高台にあるので津波の被害は免れたようだが、youtubeには市役所付近まで押し寄せる津波の映像も残っている。市役所から少し進んで国道45号をくぐると、釜石の港を一望できるスポットに出る。市街地のすぐ裏手の山だというのに、鹿の群れがヒュンヒュンと鳴きながら駆け抜けて雪の上に足跡を残していった。

 市街地に降り、浜町という地名のまちを歩いた奥に尾崎神社という神がある。この神社は奥宮・本宮・里宮の3か所から構成される神社で、ここ浜町にあるのは里宮に当たる。ヤマトタケルの東征の際に訪れた北限の地だとしてヤマトタケルを祭神にしているが、その伝説の真偽はともかく、歴史ある古社だ。神事として秋には「釜石まつり」が行われるという。参拝して、今後の旅の無事を祈願する。

 裏路地の中に「浜街道鳥谷坂入口」と書かれた標識が立っている。少し登ると海を見渡せるスポットでベンチが雪に埋もれていた。座るところだけ雪を手で払っていったん腰を下ろし、新花巻駅で買っておいた花巻名物「力あんぱん」で昼食とする。力あんぱんの「力」とは力うどんと同じ意味合いで、あんこと一緒に柔らかいお餅が入ったあんぱんだ。腹持ちがいいので行動食にはちょうどいいかもしれない。

 大雪の翌日だというのに気温は10℃ほどあっただろうか、歩いていると暑くて、マウンテンパーカーを脱いで半袖一枚になって鳥谷坂の上り坂に足を踏み入れる。山道に積もった雪は溶けかかってシャーベットになっている。くるぶしまで覆う深さのトレッキングシューズを履いているが、積雪はちょうどくるぶしくらいまでの深さがあり、靴の中に雪が入ってきて冷たい。おまけに周りの木から雪解け水が滴ってきて濡れる。今日は歩きに来るのをやめといた方がよかったかな…と少し後悔しつつもザクザクと音を立ててシャーベットの上を歩き標高を稼いでいく。

 鳥谷坂のピークは標高265m、ピークには古い石仏が置かれている。案内板によると、この仏像は天明の大飢饉の餓死者を弔うために彫られたものだという。江戸時代は気候が今よりも寒冷で、特にやませの影響を強く受ける東北地方太平洋側はたびたび飢饉が発生して多くの餓死者を出した。飢饉の最大の原因は異常気象ではあるが、熱帯原産の植物であるイネに過度に依存した体制を、本来稲作にはあまり向かない北日本にも押し付けた、江戸幕府の無策を批判することもできるだろう。

 峠を一気に下り、鏡海岸という名の浜に出る。打ち寄せる白波と積もった雪のコントラストが美しい。

 鏡海岸から少し歩いた地点からは国道45号を歩くことになるがここは歩道もなく歩きづらい。小さなトンネルを通らねばならず、それなりに交通量もあるので怖い。国道を歩くのはできるだけ避けたいものだが、ほかに道が無いので仕方がない。

 両石の集落には「魹供養塔」という石碑が立っている。魹と書いて「トド」と読む。案内板によると、江戸時代から明治時代にかけて両石ではトド漁が行われていたそうだ。

 単純な雪山とも違う、シャーベット雪という特殊なシチュエーションでの山行を終え、両石駅で本日のゴールとする。この日はJR東日本及び三陸鉄道などの全線が乗り放題となる「旅せよ平日!JR東日本たびキュン・早割パス」を使っての旅だったので、今後の行程の視察も兼ねてちょっと遠回り、三陸鉄道でいったん宮古まで出て山田線に乗り換えて盛岡に向かう。宮古18時08分発の山田線盛岡行最終列車は盛岡で東京行き最終の新幹線に接続するので、この乗り継ぎにもこれから先の旅でお世話になることだろう。4人ほどの乗客を乗せた1両編成のディーゼルカーは、真っ暗な山の中でシカと衝突してしまい停車してしまったが、車掌が手慣れた様子でシカを処置してすぐに運転再開した。シカとの衝突は山田線では日常茶飯事なんだろうな…。

 南側のセクションは↓

 北側のセクションは未踏破!

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