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小田嶋さんのワニ。

正直に白状しよう。
30代後半、私は「読書スランプ」に陥っていた。

ところが半年ほど前、突然「読書熱」が戻ってきて、小説やエッセイを立て続けに10冊くらい読んだ。読書熱の復活に小躍りするほど嬉しかったのに、ブームはあっという間に去ってゆき、私は再び「読書スランプ」に陥っている。

こんな言い訳をツラツラ書いたのは、小田嶋隆さんの遺稿集『小田嶋隆のコラムの向こう側』を頭から読み始めることが出来なかったからだ。目次をみてからそのページに飛んでコラムを読み、最終的に完読した。わかっている。最低だ。

2022年6月24日。
コラムニストの小田嶋隆さんが亡くなった。
「たまむすび」開始から10年ずっと出演してくれた小田嶋隆さん。

私が小田嶋隆というコラムニストを初めてちゃんと知ったのは「バトルトークラジオ~アクセス」の新人スタッフをしていた頃。資料として小田嶋さんが書いた<バンクーバー冬季五輪のスノーボードの國母選手のコラム>を読んだときだった。

日経ビジネスの『小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」』で、國母選手のユニフォームの着方や態度とその受け止められ方を見事に書いてあり、当時の番組プロデューサーに激推しされて読んだ。ナビゲーターの渡辺真理さんもそのコラムを読み小田嶋さんのことを一気に好きになったのをなんとなく覚えている。

その後、「たまむすび」で小田嶋さんを担当するのは随分と先の話になるのだが、「ア・ピース・オブ・警句」は毎週読んでいた。大好きだった。あの絵の感じも含めてとっても好き。

振り替えれば、小田嶋さんと(たいへん勝手ながら)仲良くなれたのは神足裕司さんの存在が大きい。
コラムニストの神足裕司さんは、かつてTBSラジオで放送していた『小島慶子キラキラ』で火曜パートナーをしていて、私はその曜日の担当ディレクター。出演者とスタッフという形で交流するなか、コータリさんがくも膜下出血で倒れ、番組を降板してからも、ずっと連絡を取らせて頂いていた。

コータリさんが倒れてから数年。
奇跡的に復帰し、リハビリを頑張っているコータリンを巻き込んで「なんかイベントしようよ!!」と、えのきどいちろうさんと、元アスキーの福岡さんが発起人となって、私はそれをお手伝いすることになった。

イベントの打ち合わせで「小田嶋さんも呼びたいね。」という話になり、私が直接オファーすることになったのだが、小田嶋さんは「もちろん、いいですよ!」と2つ返事で登壇してくれたのだ。(些少な謝礼なのにニコニコと。イベント後には「たのしかった」と言ってくれた。)

後遺症でおしゃべりが苦手になってしまったコータリさんを囲んだ和やかなトークイベント。そこで私は2人の不思議な絆を知る。

コータリさんと小田嶋さんは同世代。互いにずっと物書きとしてやってきたけど、実はラジオやテレビで共演したことも、飲み屋で2人で語り明かすようなこともない関係。でも同じ雑誌や何かの特集号で、隣とか、隣の隣くらいで執筆している、そういう間柄だったのだそうだ。互いに互いの書く文章のファンであると言っていた。

だから、小田嶋さんが亡くなってお別れの会で神足さんと会ったとき、私はTPOを考えると少し不謹慎なのだが嬉しくなって、「神足さーーーん!」と大きく手を振ったんだと思う。
「コータリさん、小田嶋さんこっちにいるよ!」と言わんばかりに。

お別れの会で、通夜振る舞いをなんとなくつまみ、なかなか減らない瓶ビールを持て余していると、コータリさんの奥さんの明子さんが「パパはすごく落ち込んでるの。」と言った。
そうだよな、そうだろうな。そりゃ落ち込むよね。大好きな人にこの世で2度と会えないという単純な事実は、仕方ないこととわかっていても打ちのめされる。

ふとした時、私は今も思う。
小田嶋さんが好きだといっていた和田誠さんの展示会に行ったので、おみやげとして買ったピンバッチ、おそろいのやつを自分も買えばよかったなとか、赤江珠緒さんたちと一緒にご自宅に伺った際に2ショット撮ればよかったなとか。

無数の小さな後悔が浮かんでは消える。

ナニヲイマニナッテ。
そう思っても、タラレバが止まらないのが自分の弱く情けないところである。

小田嶋さんからは有り難いことに新刊をよく頂戴した。
本にはいつもサインを入れてくれていて、横にはイラストがある。

小田嶋さんのワニ。
2020年にもらったサインの横に書いてあった「和仁我撫」の四字熟語。

最近は、「和仁我撫」(ワニガブ)というのを座右の銘にしています。ワニに噛まれてなお自若としている心の状態を表現しています。

小田嶋隆さんツイッター 2012年9月18日

いつかタトゥーを彫る日が来たら、これにしよう。
和仁我撫。

読書熱は、またすぐにくるだろう(楽観的)
そしたら今度は小田嶋さんから頂戴したたくさんの本を巻頭から読んで読んで、読みまくろう。2度目3度目の通読は新しい発見がある。

我撫。
我を撫でる。

きっと人生はあっという間だ。
「たいしたことじゃないですよ」

小田嶋さんはきっと言う。
我を撫でる=自分を愛でる 
勝手な解釈をして、自分を今日も甘やかすとする。

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