本屋の歌

今日は朝から快晴で
気持ちのいい風が吹いていた
親もどこかへ買い物へ行くらしい
僕は帽子にマスクを付けると家を出て自転車に乗る
隣町の本屋へ行くために

いつもの生活圏から離れた
誰も知らない人たちが生活する世界
自転車で30分のところにある大きめの本屋

土曜の開店直後の時間
客はあまりいないみたい
僕は週刊誌を2冊取ると本屋の奥に進む
入り口から離れた男の理想郷

僕は本をそっと週刊誌の間に挟む
慎重に誰にも見られないように
心臓が破裂しそうなくらい脈動している
指先がピリピリする

レジに立つ男はバイトのメガネ
流されて生きてきたような顔
この時間のレジはこいつだとわかっていた
本を出すと一拍の間があった
それでも会計するメガネ
ああ、後は帰るだけ
帰るだけなのに

ああ、なんで君はこの店にいるの
ああ、いつも僕に見せるその笑顔のまま
いつも見ない私服の君はとてもきれいで
こんな日に会いたくなかった
ああ、話しかけてこないで
頼むから

好きな漫画の話
好きなアイドルの話
学校のよくある話
僕はエロ本を小脇に抱えながら同級生と話す
話しながら彼女の目線は僕の手元をチラチラと
興味ありげに彷徨った。

なんでこんな時間にいるの
ああ、よく来る本屋なの
ああ、あのレジのメガネお兄ちゃんなの
ああ、終わったな僕の人生
ああ、もう学校行きたくないな

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