フィクション@202304

昔の中国の偉い人は、「空が落ちてきたらどうしよう」と考えていた。杞という国の人が憂鬱になったから、杞憂だ。

一方、今の日本で一番義理堅い私は、「空へと落ちてしまったらどうしよう」と考えている。日本の私が憂鬱になっているから、日本憂だ。

芝生に寝転んだ時(そもそも芝生に寝転ぶのは好むところではないのだが)、空を見上げていると、自分が空に吸い込まれているかのような感覚に陥る。その実、自分は引力によって地球に張り付けられているので、吸い込まれているよりも吐き出されている。そう、私は空から吐き出されているのだ。

もうお分かりだろう。今この瞬間も空から吐き出されて続けている私には、吐き出され終えた未来が予見されたのだ。私の四肢はそれを縛られず、ついには眼下に広がる大空へと落ちていく。残された術はもはやなく、ただ身を委ねるほかにない。

そんなことを考える内、ひどく恐ろしくなってきた。

恐ろしさに苛まれた私は、ただ思考の広がる空へと滑り落ちて行く___

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