ザンとスタフカ

おーほほほほほほ…


高圧的な貴婦人の美しい高笑いが聞こえる

アンジューは扇子を開き嘲笑う口許を隠した

「それでなんだったかしら…そう、ヴァージニアよりもあたくしの方が美しいと言っていたのよ民が」
まるでその民が全国民の総意の意見であるように言い優雅に足を組む

華やかな彼女は冷酷でさえある切れ長の目に喜色を滲ませ
「ふふ、どこもかしこももちきりだものあたくしのこの美貌に
民の心の支えはこのあたくしの美貌といっても過言ではないわね…さあ、おでかけをしようかしら…」
「アンジューさまー」
長い独白を終えたアンジューの部屋にタイミングよく小役人が現れる
「あら小役人どうかして?あたくし今からエネミー襲撃で怯えている民の元にこの美貌を見せて差し上げようとしているのだけれど」
「それならカマラ様とルイゼット様が行かれました」
「ぬあんですって!?」
先を越されたショックから思わず声が裏返ってしまったアンジューはカッと目を見開く
「あたくしとしたことが油断しましたわ…!敵はヴァージニアだけではないということを…!小役人!すぐしたくなさい!遅れをとるわけにはいきませんわ!」
「自分もいくのですか」
「勿論よあなたは私の従者でしょう!?」
「あ、あの自分…アンジュー様にお話がありまして…」
歯切れが悪そうに小役人が言う
「あら?あたくしの用事よりも大事な話があるのかしら?」
アンジューの眉に皺が寄る
「実はスタフカ様が…」
「ほっておきなさい」
話を終える前にぴしゃりと終わらせられた
「え、えー…」
「どうせ迷子でしょう?ふん!あたくしは今、国民の心を他の王から守らなくてはならないのスタフカなんかに構ってる暇はなくってよ!あなたもよ小役人!あたくしについてらっしゃい!」
「そ、そんなぁ」
「そうだわ!適任がいるじゃない!」
アンジューは勢いよく窓を開き外で大剣を振るっているザンに声をかけた
「おりゃあ!とう!おらぁああ!ごらぁぁぁぁぁぁあ!!」
「うるさくてよ!あなた朝からずっと剣を振り回して野蛮な上に飽きないの?」
「し、仕方ないだろう!俺だってできることなら謝りにいきたいさ…剣を振るい体を鍛えることでしか、気が紛れないんだ」
ザンは肩を落とし落ち込んだ
アンジューは鼻をならし扇子で自分をあおぐ
「馬鹿らしい。あたくしは別に貴方の下らない反省を聞きたいわけではなくてよ
ザン貴方やることがないのなら迷子のスタフカを捜しに行きなさい見つけるまで戻ってきては駄目よ」
「迷子なのか?あいつ」
ザンは目を丸めた
「はい。今朝から僕が国民を慰めにいくぞー
と意気揚々と外へ出掛けられましたが、街にいっても見つからず朝から外でバイオリンを弾いていたクロード様がいうには森の方へいかれたと」
「クロードも止めれば良いのにねぇ」

クロードはいずれ開かれるであろうコンサートにむけて気が向いたらバイオリンを弾いていた
練習を必要としない音楽の天才であるクロードは気が向けば地獄の番犬の唸り声めいた演奏を始める

そのコンサートが開かれることは恐らくない

「スタフカを捜せというんだな承知した
だが…」
ザンは眉をひそめる
小役人が首を傾げているとぼかんと間抜けな音と共にジッキョとカイセツが現れた
ぬいぐるみのようなふざけた姿をしているが神であるメイカーの使者、らしい
「小役人忘れたのか?ザン様は前日エネミー襲撃んときに暴走して建物を壊したあげく民にも被害を出してスタフカ様にも怪我ぁさせただろ?」
「うぐ!」
傷を抉られたようでザンが胸を押さえて呻いた
「そっすよスタフカ様ザン様にびびってましたしザン様が捜しにいってみつけたとしても怖い!て思って逃げられたら本末転倒じゃないすか~」
「気まずいしな!そういえばザン様謝ったんですか!?」
「あ、謝ってはいないまだ…」
ザンは俯いたがすぐにキッと顔を上げた
「そもそもスタフカが弱すぎるのが悪い!」
「あらあらまったくその通りだとしても、一応気にしているのなら謝罪した方がいいんじゃないかしら?
あたくしにはどうでも良いことだけど気にしてるんでしょ」
「そうだが…」
先日エネミー襲撃により街が襲われ、王達はエネミーと戦闘を始めた。
エネミーの数も多く劣勢になりつつあるところザンの悪癖が出てしまったのだ
ザンは敵と戦い我を忘れ興奮状態に陥ると皆殺しにするまで止まらなくなる
敵も味方も区別がつかなくなりその被害は守るべき民にも及んだ
そして逃げ遅れたスタフカにも斬りかかり怪我をさせてしまった
転生王はこの世界の一般人に比べて体が頑丈で傷が癒えるのは早いため大事にはいたらなかったがそれでも傷つけたことにはかわりない

ザンは民に謝りたいとパメラに申し込んだが民は戦闘中のザンが戦いを楽しみ狂っている様を見て恐怖を抱いた
民の前に姿を見せるのは更に不安を招くからやめて欲しいといわれそれでもと食い下がると一喝された
(謝ることも許されないのか…だが俺だって命を懸けて敵を倒したのに…)
何となくその事が尾をひいてしまい、スタフカに謝罪するタイミングも逃してしまった

「じゃあ任せたわ行くわよ小役人!」
「あ…はいではザン様お願いします」
本当はザンとスタフカを捜しにいきたいがアンジューが全く譲る気配を見せないので
ため息をつき仕方なく街へおりることにした小役人はぺこりと頭を下げるとアンジューについて外へ出た
残されたザンにカイセツが気を使い
「俺らも探すのいっしょにいきましょうか?」
「えー?俺らも?先輩一人で手伝ってくださいよ~」
「うるせぇ!先輩がやるんだから後輩のお前も手伝うんだよ!」
カイセツがジッキョを小突いた
「ああ、ありがとうじゃあ手分けして捜そうか」
三人は森へ向かうと二手に別れる道があった
「俺はあっちを探すからお前達はそっちへいってくれ」
「はーいはい」「へいへーい」
いまいち気の入らない返事をしジッキョとカイセツが左の道へいく
その後ろ姿を見送りため息をつくと右の道へ進む
天気はどんよりと曇っており湿気た空気が肌に纏わり付くようで鬱陶しい
鬱蒼と生い茂る草木も心なしか元気がなく萎れているように見えた

スタフカは救いようのない方向音痴でありその癖プライドは高いから人の手を借りようとせず、一緒にいこうかと小役人や評議会の者が案内しようとしても僕一人でできる!の一点張りで勝手に行動する
そしてそれが成功した試しはあまりない

「スタフカー!どこにいる!いたら返事をしてくれー!」
ザンは大声をだしてスタフカに呼び掛けた
スタフカからの応答はなく歩を進める
ひょっとしたらまだ足の傷が癒えていなくて途中で休んでいるかもしれない
そう思うと少々心は傷んだ
だがどうも腑に落ちない
何故自分だけここまで責められるのかあのときはああするしかなかったではないかそれにクロードも止めずに傍観していた

(確かに民もスタフカも弱い…
だからこそ俺は守ってやらねばならないのにでも俺だって…
ああとにかく謝ろうせめてスタフカには)
雑念を振り払うとザンはスタフカ捜索に専念した
「スタフカーーーーー!!!!!いたら返事をしてくれーーー!!」

「……」

「…ん?」

ザンは足を止める今何か聞こえたような…気のせいか
そのまま素通りしかけたがやはり何か人の声らしきものがかすかに聞こえる
(まさかスタフカ…?どこにいる!?)

茂みを掻き分けて捜しているとその下は地面のない崖になっていたようでザンは一瞬空中を歩いた後真っ逆さまに落ちていった

「うわーーー!!あ!」

落ちていく最中スタフカが下にいるのが確認できた泣きべそをかいており落ちてくるザンを見てあわてふためいているが元気そうではある
(…足の怪我、治ってるんだな)

「ザ、ザン!いまうけとめてやひい!」
当然受け止めきれずに落ちてきたザンをかわしてその場に塞ぎ混んだ
「ごめん!」
「構わない…」
足場がないとわかったときは焦ったがたいした高さではない腹這いからすぐに起き上がると体についた土をぱぱっと手で払う
「俺の方こそすまなかった」
「え?なにが…」
「…お前を傷つけてしまったことだ
エネミーを倒すためとはいえ味方のお前を巻き添えにしてしまって…すまなかった」
スタフカはきょとんとしていたが突然思い出したようにハッとして

「そ、そうだ!ザンのせいであの後大変だったんだぞ!他の王からはお前が弱いからだとか子供扱いもされるし馬鹿にされるしぼ、僕は弱くない!」

「いやお前は弱いと思うが」
「弱くない!」
スタフカはうつむき
「僕は弱くない…」

かける言葉が見つからず暫く二人は沈黙したやがてスタフカははあとため息をつき

「ごめん肝心なときにザンの足を引っ張ってしまった…でも次は大丈夫だ
もうあんなことにはならないだから僕の事を気にする必要はないよ自分の身は自分で守る」

「それを聞いて安心した」
ザンはほっとしてスタフカに手を差しのべ
「強くなってくれスタフカ
俺が全力を出せるように」

「…お前反省してるのか!?」
「ん?」「そもそもお前が暴走しなかったらあんなことにはー」
がくんとスタフカの体勢が前のめりに倒れ膝をつく
「スタフカ!」「う…」
足が痛むのか?さっとザンの血の気が引く
俺のせいで怪我をした足がまだ治っていないからこんな子供でも登れそうな崖下にずっと一人助けも呼べずにー

「…お、お腹すいて力が出ない…」
腹の虫がぐーとなった


「離せ!一人で歩ける!」
「しゃがみこんだまま立ち上がれなかったくせに何をいってる!しっかり捕まってろ!暴れるな!」
「うるさいうるさい!僕はもう子供じゃないんだぞ!こんな…」
スタフカはザンに背負われている
「王である僕を子供みたいに背負うなんてー!やめろー!」
「いつまでもあそこにいるわけにはいかないだろ!いいからそのままでいろ」

手をばたつかせ足をばたつかせるスタフカをしかりつけザンは歩いていく

スタフカは抵抗虚しく騒いだ後暫くして疲れたのか黙り混みザンの背中に頬をくっつけた
「…重くないのか」
「このくらい鍛練にもならんな」
「そうかザンはやっぱり…強いな」

強い 強さの自覚は本人にもある
誰よりも強く勝利をこの手に掴むその為ならどんな訓練にも耐えてみせる改めていわれるまでもなく俺は強い
だが他人にースタフカに言われたことがなんだか妙に嬉しかった
「そうだ俺は強い…だからスタフカは弱いから俺が守ってやる」
ザンの言葉を聞いたのか否かわからぬうちにすやすやと寝息が聞こえ振り向くとスタフカは寝ていた肩に顔をのせて涎をたらしている
「こら服が汚れるだろ!たく…仕方がないな…」
苦笑いし道を歩いていくと、途中で別れたジッキョとカイセツと合流した
「お!ザン様!スタフカ様みつかりましたか!」

「いやー仲良しですねーおんぶなんかしちゃってすっかり仲直りできたみたいっすねー」

「ああそうだ許してもらえた…正直ほっとしたよ二人とも手伝わせてすまなかったな」

「いえいえ!御安いご用ですよ!それにしてもスタフカ様子供みたいでかーわいー」

カイセツがスタフカの頬を指でつつく
「こら起きてしまうだろ!」
「すいませんつい子供みたいでかわいくて」
「先輩まじありえないっすわドン引きっすよ」

「…ぼくはこどもじゃない…」
むにゃむにゃと寝言で反論し三人は顔を見合わせて笑った
「さあ帰ろう俺たちの宿に」
スタフカを抱え直しザンは歩いていく
空は少し赤く色づいて日がくれようとしていた


「おーほほほほほほほほほほほほ
全ては計算通り!このあたくしが二人の仲を取り持ったといっても過言ではなくてよ!」
勢いよく扇子を閉じアンジューは高笑いした
「それにしても面白くないのはルイゼットにカマラ…このあたくしを差し置いて民に取り入ろうとは許せませんわ!小役人!今後他の王が妙な真似をしようものならすぐこのあたくしに知らせなさい!」
「は、はい!了解しました!」
アンジューにばれぬように小役人はこっそりノクシーヌから貰った胃薬を口のなかに放り込んだ!!

おわり








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