原価計算って何が正解なの?!①費目別計算編

はじめに

この記事は「会計系 Advent Calendar 2023」の一部を構成する12月17日担当の招き猫.mdbの記事となります。

昨日はましゃ.net🍹さんで、明日はケイバリュエーション☻ (鈴木健治)さんの記事になります~!後半戦も盛り上がっていきましょう!
初めまして、招き猫.mdbと申します。
メーカーでSAPを使った原価計算を担当しています。
飽きるぐらい長く原価計算の実務に携わると、組織再編で他社の原価計算に触れる機会も増えます。
その時「こんな原価計算もあるんだ」、
「一から原価計算するなら自分ならこうする」などと考えることも多々あります。
またSAPの運用保守をサポートしてくれるベンダーさん、社内SEさんや会計士さんからも「原価計算実務は詳細が分かりにくい。」との声も聞きます。
原価計算基準が下記のように基本的な枠組みを示しているだけなので、実務では様々な原価計算が行われていると思われます。

この基準は、個々の企業の原価計算手続を画一に規定するものではなく、個々の企業が有効な原価計算手続を規定し実施するための基本的なわくを明らかにしたものである。

原価計算基準 原価計算基準の設定について

そこで、これから自社の原価計算を見直したい人、新たに原価計算システムを構築したい人向けに、私の実体験も含めたよりベターな原価計算の運用をできるだけ紹介していこうと思います。
原価計算のプロセスに沿って網羅的な解説を試みたところ、かなりの長文(約30,000字)となってしまいました。(すみません。。)
あまりに長いので、まず序章として各章の構成と概要について下記のように記載いたしました。興味のある章だけでも読んでもらえると嬉しいです!
全体構成
費目別計算→部門別計算→製品別計算の原価計算プロセスの順に実務上のポイントやSAPでの原価計算実務に触れています。

1 費目別計算
一般経費仕訳の入力方法や科目マスタ管理を中心にまとめています。その他、原料の棚卸管理や労務費管理についても触れています。
2 部門別計算
原価センタ(部門コード)の管理方法、配賦方法の種類と実務上の問題点、
よく使う配賦手法(SAPでの実務を含む)についてまとめています。
3 製品別計算
製品別計算の種類と事業特性から考えた選択の基準についてまとめています。
4 実際原価と標準原価
実際原価と標準原価の理論上の相違を記載した上で、標準原価計算実務についてまとめています。その後に実際原価と標準原価の選択の方針についても触れています。
また記事の随所に原価計算についての企業調査結果を記載していますが、下記よりの引用です。とてもよい本なのでご一読をおススメします。

では、以下より本格的にスタートです!

目次

  1. はじめに

  2. 1 費目別計算

  3. 1-1 費目別計算の重要性

  4. 1-2 経費仕訳の入力手続き

  5. 1-3 科目マスタの整備

  6. 1-4 機能別分類について

  7. 1-5 機能別分類の表現

  8. 1-6 マイベスト科目体系

  9. 1-7 余談_SAPの科目設定

  10. 1-8 材料費計算と棚卸管理

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1 費目別計算

1-1 費目別計算の重要性

まず、費目別計算です。
現代の会計システムにおける直接材料費、労務費を除く一般経費の費目別計算の仕訳は、経費精算システムでの伝票起票時に入力される科目コードと部門コード(以下原価センタと呼びます)で表現されることが一般的だと思います。
正直、ここが一番大事と言っても過言じゃないです。なぜなら、このデータが財務会計・管理会計両面の基礎となるからです。
原価計算基準でも下記のように記述があります。

原価要素の形態別分類は、財務会計における費用の発生を基礎とする分類であるから、原価計算は、財務会計から原価に関するこの形態別分類による基礎資料を受け取り、これに基づいて原価を計算する。この意味でこの分類は、原価に関する基礎的分類であり、原価計算と財務会計との関連上重要である。

原価計算基準
八 製造原価要素の分類基準(一)
形態別分類

後ほど部門別計算の項でも書きますが、原価計算は配賦との戦いです!
具体的には、直課出来ないものを合理的な配賦でどこまで実体(直課)に近づけられるかの計算手続になります。

そのため現場に伝票起票してもらい、仕訳された一次データを集める費目別計算は最も重要な手続きとなります。

1-2 経費仕訳の入力手続き

直接材や人件費を除いた現場からの起票データから会計仕訳を起こす方法は、下記2パターンに分かれるものと考えています。
① 現場の起票データから会計仕訳を自動起票
② 現場の起票データを確認して経理担当者が会計システムへ伝送する仕訳を直接入力

①現場の起票データから会計仕訳を自動起票する方法
現在の主流となっている方法かと思います。
支払の内容・商材とその用途から会計科目への誘導を図るマスタを作成して、現場の伝票入力から仕訳を自動で起こす手法です。
入力の主体を現場に移すことで、予実管理意識の醸成と経理側の入力負荷の軽減が両立できる方法となっています。
反面、現場には入力内容がどの費目に誘導されるかの教育が必要となり、営業事務や工場総務などの現場担当者の事務負担は増えることになります。
②現場の起票データを見て、経理担当者が会計システムへ伝送する仕訳を入力する方法
伝統的な仕訳入力方法となります。
経理側で経費精算システムデータに対して仕訳入力するので、入力内容を経理でコントロールできる反面、入力要員を恒常的に確保する必要があります。さらに入力要員は会社規模(伝票数)に比例して必要となります。
また現場側にとっては、経費精算についての会計科目設定プロセスがブラックボックス化するので、予算統制の面ではやや不十分な運用となります。
どちらの運用でも重要なことは科目マスタを分かりやすく整理することです。

1-3 科目マスタの整備

勘定科目のマスタは、最初は体系的な設計がされていたにも関わらず、時間の経過とともに設定の趣旨やルールが継承されずに、新しい科目が無秩序に追加されてしまい、どんどん崩れていくパターンになりがちです。
一度設定して使用してしまった不要なマスタは、過去データとの結びつきからデータベースから物理的な削除ができず、幽霊のように残ってしまいます。(削除すると過去データ諸共消えるリスクがあるためです。)

特に、機能別分類や政策費・運営費といった管理会計的な概念を一つの勘定科目体系で表現しようとした時に設定ルールが曖昧になるケースが見受けられます。

1-4 機能別分類について

原価計算基準には、形態別分類に加えて機能別分類を行うと書いてあります。

機能別分類とは、原価が経営上のいかなる機能のために発生したかによる分類であり、原価要素は、この分類基準によってこれを機能別に分類する。この分類基準によれば、たとえば、材料費は、主要材料費、および修繕材料費、試験研究材料費等の補助材料費、ならびに工場消耗品費等に、賃金は、作業種類別直接賃金、間接作業賃金、手待賃金等に、経費は、各部門の機能別経費に分類する。

 原価計算基準
八 製造原価要素の分類基準
(二)  機能別分類

機能別分類は端的に言えば、会計科目に使用目的の色を持たせて、分析性を高めるアプローチとなります。
しかし、実務上は単に分析性を高めるという目的以上に組織上どの機能で使用された費用かを識別する方が重要な意味を持ってきます。
具体的に言うと、工場では製造以外にも、研究部門、品質保証部門、物流部門など販管費として計上すべき部門の費用が発生します。
特に研究部門については、税務上の試験研究費の観点からもPL上で明確に区分する必要があるため、製造経費と区別した科目体系が必要になります。
原価センタとの組み合わせでもそれは実現出来るじゃないか!という声もあるかと思うのですが、財務会計上のPLは、あくまで科目別で表記することになるので、販管費として表示する科目体系が必要です。

1-5 機能別分類の表現

システム的に機能別分類を実現するためには、組織の機能に応じて科目を順次追加する方法が考えられます。
例えば、間接材料費であれば、工場消耗品費、事務用消耗品費、修繕材料費、試験用材料費といった複合補助科目をどんどん増やす方法です。
…いきなりですが、この教科書的な方法は下記の理由からおススメしません。

  • どの科目をどの場面で使用するかあいまいになっていく。

  • PLがいたずらに細かく表示され、逆に分かりにくい。

  • 特定の組織機能に対してのみの科目が生じるなど網羅的な設定が難しい。

私が、今までで一番合理的な設定と感じたのは下記の方法です。

1-6 マイベスト科目体系

材料費、労務費、経費の基本的な大科目は同一で各機能に対して同じ体系を使います。ただし、機能別分類の表現は原価センタとの組み合わせで実現します。

どういうことか説明します。
SAPの原価センタ機能で原価センタカテゴリーという区分が設定できます。
これは、原価センタに「製造」、「販売」、「研究」などのカテゴリーを割り当てることができる設定です。

この機能を利用することで、現場で経費精算システムから起票された伝票の原価センタのカテゴリーに応じて会計科目を自動決定します。
例えば、「製造なら製造材料費」、「研究なら研究材料費」といった感じで、、
科目体系は機能ごと持つことになりますが、コード体系や名称は簡単な組み換えで設定できるように実装します。

例えば、5211が消耗品費の科目コードであれば、製造はS5211、販管はH5211、研究はK5211といったように、基本体系に何らかの区分コードを加えることで、機能別科目体系を表現するのです。
この方法であれば、実質的な科目体系は基本体系の一つとなるため、機能ごとに異なる科目体系を覚える必要はありません。また全ての体系に同一科目を設定することになるため、網羅性の問題は生じません。さらにPLの表記も製造、研究、販売などでまとまったものを作りやすいので勘定科目のグループも作成しやすいです。

1-7 余談_SAPの科目設定

なお、SAPの勘定科目設定はとても複雑で、FIの財務会計科目を設定しても、COの原価要素科目も設定しないと、原価センタ会計としての仕訳が入力できません。
組み込めば色んな処理ができる複雑なDBであるがゆえに、要求されるマスタ設定も非常に細かいユーザー泣かせのシステムとなっています。。

1-8 材料費計算と棚卸管理

材料費計算では、原料費を製品に直接賦課する直接原料費と間接部門の経費となる間接原料費に分ける必要があります。
この区分を明確にするために、実務では直接用原料に原料コードを採番して、在庫管理システムで管理する手法を使います。
生産システムでの原料投入情報や購買システムの原料入荷情報を在庫管理システムと会計システムにタイムリーに連携することで、棚卸帳簿を適切に管理するためです。
間接原料の場合は、通常は在庫管理システムでの管理を行いません。製造部門の原料コード管理と採番が煩雑になるからです。
研究用原料などは、購買時点で研究部門原価センタの試験材料費として費用化してから期末棚卸で未使用となっているものを未使用原料として、棚卸勘定に振替計上する処理が一般的だと思います。
なお、棚卸管理という点では、コード管理をして在庫管理システムに載せる方法が一番です。
金額や購入目的を基準に、製造部門や購買部門による注文時点でのコード管理を促す運用に内部統制を整備すべきです。

1-8-1 SAPの原料支給管理

SAPでは原料を仕入先に無償支給する場合、BOMを用いて、元支給原料と外注加工費、完成原料を管理することができます。
但し、製品、半製品と異なり原料全てにBOMが必要な訳ではないので、BOMの変更が必要な場合、設定がモレることが多いです。

1-9 労務費計算と兼務

労務費は給与計算システムで計算した実際労務費を、人事システムの個人別所属原価センタ情報をもとに部門別に集計する方法が一般的だと思います。
しかし、実務では以下の例外パターンが発生します。

  • 個人が複数部門を兼務する場合

  • スポット的な作業応援による労務費振替を行う場合

個人が複数部門を兼務する場合
部門別の兼務割合を人事システムの個人コードに設定することで、労務費計算を行うことが多いです。
この場合、兼務割合の設定を現場に依頼すると、異様に細かい割合を提示されることもあるため、重要性の観点から方針を示すべきです。
作業応援費
実務では、他部門への応援作業の時間情報を受け取り、時間当たりの労務費単価をかけることで、労務費の付替を行うとことが多いです。
応援労務費レートの定期的な見直しや現場から作業時間情報を入手する運用の整備が重要となります。


次回は、部門別計算にいきたいと思います。


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