原価計算って何が正解なの?!③製品別計算編

3 製品別計算

やっと製品別計算まで来ました…
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ここまでで全体のうち6合目ぐらいだと思います。


メーカー以外の方は、ここからがよく分からないところだと思います。
原価計算基準で記載されている教科書的な計算と実務の乖離が大きい分野でもあります。
実務的な話に入る前に一般論としての製品別計算の類型についてご紹介したいと思います。(知ってる人は飛ばしてもらって大丈夫です。)

3-1 そもそも製品別計算って何??

原価計算基準では下記の通り定義されています。

一九 原価の製品別計算および原価単位
原価の製品別計算とは、原価要素を一定の製品単位に集計し、単位製品の製造原価を算定する手続をいい、原価計算における第三次の計算段階である。
製品別計算のためには、原価を集計する一定の製品単位すなわち原価単位を定める。原価単位は、これを個数、時間数、度量衡単位等をもって示し、業種の特質に応じて適当に定める。

原価計算基準
第四節 原価の製品別計算

端的に言うと、製品別計算は、部門別計算まで行った後の直接製造部門の費用を各製品に配賦するための計算ということになります。
また、その計算方法の類型として下記の通り記述されています。

二〇 製品別計算の形態
製品別計算は、経営における生産形態の種類別に対応して、これを次のような類型に区分する。
(一)  単純総合原価計算
(二)  等級別総合原価計算
(三)  組別総合原価計算
(四)  個別原価計算

原価計算基準
第四節 原価の製品別計算

おそらく、部門別計算まではどの会社も似たような計算を行っていると思いますが、製品別計算は業態や製品の特性で大きく変わることになります。
例えば、造船を行っている企業とポッキーなどを生産する製菓メーカーの原価計算は同じでしょうか。
船の製造は、海運会社などから依頼を受けた長期間のプロジェクトとなるはずです。受注後に生産計画書に基づいた製造が実施され、個別受注案件ごとにその原価を集約して採算性を把握する必要があると考えられます。
一方、ポッキーの方はどうでしょうか。季節的な需要変動に応じた生産量の調整はあるものの、おそらく絶え間なく見込み生産が実施されているはずです。
さらに、大量生産されるポッキー1本に対する原価を個別に把握するニーズよりも、ある一定期間に稼働したポッキー生産ラインのトータルコストをまず把握したいはずです。
このように、どのような事業活動を行うかで、当然、原価管理のポイントも変わります。
原価計算基準は、企業の業態に応じた製品別計算の例を示してくれているのです。

3-2 製品別計算の種類と選択

製品別計算は、大きく個別原価計算と総合原価計算に分かれます。

3-2-1 個別原価計算

先程の造船企業の例のように、個別の受注(指図)単位で原価を集計する手法です。製造部門費や直接原料費を指図単位で配賦する形になるので、個々の製品単位の細かい原価管理が可能となります。また案件ごとの生産ステータスに応じて製品出来高計上か、仕掛品計上かを判断します。
反面、適切な管理を行うためには、指図ごとの生産データが必須となります。
案件別の仕掛品勘定を沢山作るイメージです。

3-2-2 単純総合原価計算

総合原価計算はポッキーの例のように会計期間の内の製造費用を完成品数量と仕掛品数量の比に応じて按分して期末仕掛品在庫と製品出来高を算出する手法です。平均的に投入している原料費や加工費(製造間接費)に関しては、仕掛品に対して、どれぐらいコストがかかったのかハッキリ分からないため、進捗度を考慮してざっくり計算します。
いわば個別原価計算に対して、トータルコストを按分する簡易的な計算なので、製品の単位当たり原価は全て同じになります。
大きい仕掛品勘定をざっくり製品と仕掛品在庫に按分するイメージです。

ある製菓メーカーがポッキーだけを生産しているなら、単純な総合原価計算だけでもいいのですが、ポッキー以外も作る場合にはどのような計算になるでしょうか。
原価管理を行うために、総合原価計算には複数のオプションが用意されています。

3-2-3 組別総合原価計算

例えば、ポッキーに加えて、別ラインでカプリコも新たに生産する場合、事業管理者ならカプリコの採算性を把握するために製造費は別管理したいと考える事が普通じゃないでしょうか。
そういう場合は、もともとの部門費、直接原料費の発生段階で費用を分けます。ポッキー部門とカプリコ部門を分けて原価センタを設定し、直接原料費もポッキーラインとカプリコライン別に投入を管理します。
その後、それぞれのラインの進捗度と数量に応じて、期末仕掛品在庫と製品出来高に按分します。
いわば、元の部門費や直接材料費をポッキーとカプリコの組に分けて、総合原価を別計算する方法です。

次にポッキーラインで極細版の新製品も作ることになった場合は、どういう計算がいいでしょうか。

3-2-4 等級別原価計算

ポッキーラインの中で、極細ポッキーも作る場合は、ポッキーラインの製造費用を通常ポッキーと極細ポッキーに分ける形で原価計算する方が効率的でしょう。
同じラインで同種の製品を作るので、組別総合原価計算のように大元の直接費と部門費から分ける必要はありません。
このような同一ラインで作る同種の製品の原価をそれぞれ計算する場合、総合原価で計算した結果を物量基準(等価係数)で按分します。
例えば、通常ポッキーと極細ポッキーの原料投入比率などを元に按分係数を作成して、それぞれの製品出来高数量にかけることで分割するのです。

元データを分けないので、組別総合原価計算よりも計算が容易になります。
ちなみに等級別原価計算と似た計算方法として、連産品というものもあります。
端的に言うと、同一工程で異種の製品が必然的に出来てしまうため、重量や比率などの等価係数でも分けられないものなのですが、、
これがどのようなものかについて、かの原価計算の大家 岡本清先生はこのように述べておられます。

豚を1頭仕入れてきて, これを殺すと,豚肉の上肉,中肉,並肉,ラードがとれ,また豚皮や豚の毛がとれる。豚肉はさらに加工をすれば,ロースハム,ベーコン,ソーセージなどの食品がえられる。

岡本清「原価計算」第5節 連産品の原価計算

…なんと、端的でストイックなお答え!
岡本先生、かっけぇぇ!

ちなみに、連産品は東ソーなどの石油化学製品を扱う企業ではよく使用される概念です。
連産品は、重量など原価と関連する按分基準(価値移転的な按分基準)が算出できないので、仕方なく正常市価(要するに売価)で按分します。
負担能力主義という考え方です。
この方法は結局は売上で按分する事に等しいので、追加加工がない場合は、按分後はどの製品も同じ利益率になります。
そのため、収益管理には全く意味をなさない、棚卸管理のために使う原価計算方法となります。
みなさんもセグメント別按分基準が見出せないものに売上基準を使った事はないですか?

例えば、無形資産の按分とか。

3-3 製品別計算の類型

上記の内容を端的にまとめると下記の表の通りとなります。

原価計算基準は、一番計算精度が高く手間がかかる個別原価計算の採用が、難しい業種もあるため、総合原価計算を工夫して、いかに個別計算に近づけるかについて重点をおいて記載されているとも考えられます。

組別総合原価計算や等級別総合原価計算が中間的な計算と言えるでしょう。

3-4 工程別計算

なお、総合原価計算と個別原価計算の両方で必要な計算方法として、工程別計算があります。
原価計算基準には工程別”総合原価計算”としか記載されていませんが、実務的には個別原価で計算したものを次工程で使用する計算が必要な場面もあるため、総合原価、個別原価の両方で必要な計算方法です。

二五 工程別総合原価計算
総合原価計算において、製造工程が二以上の連続する工程に分けられ、工程ごとにその工程製品の総合原価を計算する場合(この方法を「工程別総合原価計算」という。)には、一工程から次工程へ振り替えられた工程製品の総合原価を、前工程費又は原料費として次工程の製造費用に加算する。この場合、工程間に振り替えられる工程製品の計算は、予定原価又は正常原価によることができる。

原価計算基準
第四節 原価の製品別計算

これは、一つの工程で製品が完成しない場合、中間工程の出来高を半製品として計上して、次工程の原価に賦課する計算手法です。
先程のポッキーの例では、チョコレートを作る工程が事前にある場合、そこで生産したチョコをポッキーの工程に流すといった場合に使用します。

実務上は、ほとんどのメーカーでこの工程別計算が使用されていると思われます。
工程別計算は、前工程の費用を元の原価要素別に次工程に賦課する非累加法と前工程費として流す累加法の二つに大別されます。

一見、それほど違いはないように見えますが、実務的には重要な意味を持ちます。
例えば、チョコ部門がポッキー部門とカプリコ部門の両方にチョコを提供していたとしましょう。
その記帳を累加法で行った場合、それぞれの部門から見て、直接材料費と加工費(製造間接費)の区別がつきません。
機械装置や化学薬品のような製造工程が長い製品の場合、当然工程も増えるので、最終製品から見た工程間を串刺しにした原価要素別の原価把握が難しくなります。

では非累加法が良いかというと、非累加法は記帳が複雑になるので、実務ではあまり採用されていません。
記帳は累加法で行い、製品マスタレシピ(BOM)を使って、工程を串刺しにした原価要素内訳を計算をするサブシステムを構築している企業もあります。

3-5 実務の計算は類型にハマらない?

今までの話を踏まえて、原価計算を行っている会社がこれらの類型にきっちりハマった原価計算をしているかと言うとNOです。
実際は、個別原価計算と総合原価計算を正確に分けられないような計算をしている会社がたくさんあります。
例えば、先ほどポッキーの話を出しましたが、ポッキーは見込み生産を実施しているでしょうが、完全に総合原価計算をしているかというとそうではないと思います。
原価計算基準が示された1962 年から、企業の生産管理のあり方も変化しています。
私が関わっている会社では、見込み生産を行っている製品に個別原価計算を適用しています。

工程数は最大8つくらいのものから、ほぼ単一の工程のものまで様々ですが、とにかく多くの種類の製品を生産しています。得意先も様々に分かれているため、自社のセグメントも細かく分かれています。
細やかな原価管理が必要なため、見込み生産の品目に対しても個別原価計算を採用しています。
上記のような自身の経験も踏まえて、次に製品別計算の選択に必要な観点について述べていきます。

3-5-1 収益管理の観点

どの計算方法を採用するかは、どこまで品目別の収益管理にこだわるかによって変わります。
特定の品目グループ群で原価を一括管理するだけで構わないのであれば、直接製造部門をセグメント単位で分けた組別総合原価計算を実施した後に等級別総合原価計算で容量別などに製品を分割する合わせ技になるかと思います。
但し、共通部品・原料を作る工程など、セグメントをまたがる工程の製造費を組別総合原価計算だけで正確に反映するには無理が生じてきます。

製品ごとの製造時間や投入原料の内容が大きく異なり、品目別の採算性を細かく把握する必要があるのであれば、個別原価計算が必要になります。

3-5-2 生産データ管理の観点

計算方法の決定においては、現場の生産管理データの粒度も重要です。
原価計算において、生産管理システムで管理している以上の細かい管理は不可能です。

  • 在庫管理は、荷姿単位か、kg単位なのか、

  • 作業時間は、時間単位か、日単位か

  • 製品レシピ(BOM)は誰がどのようにメンテするのか

  • データ入力は、日々入力可能なのか

原価計算システムの設計の段階で製造部門が無理なく管理できる単位を協議して決めておく必要があります。

原価計算基準が出された当時は、製造サイドのデータ管理の負荷を考慮して、細かい生産情報を必要としない総合原価計算を主として、個別原価計算に近づけるアプローチが推奨されたと考えています。

現在はMESなどの製造実行システムでBOMデータやロット別生産データの管理がされており、入力負荷は軽減されています。
そのため、個別原価計算に対応可能なシステム的素地は整ってきていると言えるでしょう。

ただ、そうは言っても大量生産データの管理・入力負荷は大きいです。
場合によっては個別原価計算だけでなく、等級別原価計算の合わせ技が必要な場面もあるでしょう。

3-5-3 余談 進捗度に関する疑問

総合原価計算を採用している場合、加工費(製造間接費)や平均的に投入する原料については、進捗度を加味した数量按分が求められます。

この進捗度に関して、簿記の勉強中に「こんなもん、どうやって測るねん!」と思った人はいないでしょうか?

私は、SAPによる個別原価計算で経理のキャリアを積んできたということもあり、この進捗度で仕掛品を計算する方法にあまり馴染めませんでした。

また「管理会計・原価計算の変革」の調査によると仕掛品それぞれに対して実際加工進捗度を測っている企業は調査全体の20.7%であり、教科書通りに細かく進捗度を分けることが難しいと思っている企業が多いようです。

そもそも、現代の生産管理においては、ユーザー監査、許認可…など様々な観点から製造データの管理が求められます。
先程のポッキーにしても、おそらく有効期限、品質の観点から製造ロット単位でデータ管理され、生産計画部門から発注点に基づく生産依頼が製造部門に流れているはずです。
実際の工程管理を原価計算に反映させるという観点からは、「特定の工程を過ぎたかどうか」のようなアバウトな進捗度を測るよりも、下記のような方法でシステム的に進捗管理する方が合理的だと考えています。

  • 工程単位で中間物を管理する半製品コードを設定する

  • ロット単位でその製造データが完了しているか否かを生産システムから判断する

現代の総合原価計算実務における進捗度の判断は、製造指図単位で判断する個別原価計算に近い手法になっているのではないでしょうか。

3-6 SAPによる製品別計算

SAPの原価計算は、製品の生産ロットサイズ単位で作業時間や直接材料費などの原価要素のBOM情報を設定して、各原価要素の単価情報と掛け合わせることで原価の積み上げを行います。

予定単価による標準原価計算が基本です。
SAPでは、原価センタと資源マスタを繋げることで、原価センタに活動タイプという活動量の設定を行うことができるため、原価センタのコストを活動量で製品に配賦する設定が作れるのです。

この設定より作業時間など製造活動に関わる原価要素は、元になる直接部門(原価センタ)のコスト集計を工夫することで、細かく設定することが出来ます。
例えば、専用設備を使った工程に対して作業費と設備費を分けた原価設定をする事もできます。
作業費と設備費を分けた原価センタを設定して、それぞれ異なる配賦基準を設定して、各製品に賦課するのです。

この仕組みを応用して、補助部門のコストをアクティビティ別に製品に直接配賦する活動基準原価計算を行うことも出来ます。
但し、原価要素を分けるという事は、製造部門側で管理する活動(操業度)の基準が増えるということです。
あまりに原価要素を増やしすぎると、標準設定の面でも実際の時間入力管理の面でも現実的ではありません。
作業時間や設備時間など、製造部門で管理出来る原価要素だけに絞るべきです。

3-7 製品別計算の選択に関する考察

製品別計算は、計算方法によって仕掛品の形がコロコロ変わるところが面白いのですが、上手く伝えられたでしょうか。伝わらなかったとすれば、それは私の筆力不足です。(ごめんなさい。。)
ところで、実務上、製品別計算において工程管理やシステム的側面から個別原価計算の素地が固まっている事は説明しましたが、製品別計算を行うためのざっくりした方針を考えてみたいと思います。
前述の収益管理×工程管理能力のマトリクスでいくと下記のような整理になります。

ただ、これはあくまで運用するための判断基準になると思います。
企業として製品別計算がどうあるべきかという観点でいくと、経営戦略との適合も考慮せねばなりません。
そういった観点から、原価計算を決定する場合の基準についても考えてみたいと思います。
下記は、昨年度けいたろうさん(@ClawConciliator)によってまとめられた原価計算についての一連のツイートです。

標準原価計算と実際原価計算の話 - Togetter
ここに企業の原価計算方法の選択について興味深い記述があったために、以下に要約しました。

「実際原価計算 or 標準原価計算の選択は、企業が価格決定力を有するかどうかで決まる。」

自社が自由に売価を決められる
→あるべき原価の計算にこだわる必要がない
→売価にフルコストを反映させるための実際原価が分かれば充分

自社だけで売価が決められない
→あるべき原価が必要
→標準原価管理によるギャップ分析と改善活動が必要

けいたろうさんのツイートを元に著者要約

これは、5フォースモデルの業界内構造の分析のうち、買い手の交渉力から原価計算方法の決定を考えるようなアプローチでとても面白いと思いました。

せっかくなので、私も製品別計算において企業戦略からの整理を考えてみたいと思います。
「システムや管理体制でどのような製品別計算も可能な場合、計算方法は企業の戦略が規模の経済性と範囲の経済性のどちらを追求するかで決まる。」
以下、説明します。

規模の経済性の追求
例えば、設備集約型のコストリーダーシップを取るような戦略の場合は、オペレーションも画一的に工場内のセグメントも単一に近づくでしょう。
工程は長くなるかもしれないですが、原価要素が沢山詰まった大きな仕掛品T勘定が直列に並ぶような計算になるはずです。
このような業態な場合、企業の製品別計算は総合原価計算が主選択となると考えます。
範囲の経済性の追求
一方、多能工が一人で複数工程を同時に担うような労働集約的・高付加価値戦略を取る構造の企業の場合、セグメントと細かい原価管理の要請から個別原価計算が主選択になるはずです。
この場合、仕掛品T勘定は企業の管理したいセグメント単位に応じて細かく並列に分かれた個別ブロックの集積になると考えられます。

なお、学術的な裏付けはないので、個人の感想に過ぎないですが、業態に応じた製品別計算の型、特徴的な仕掛品勘定の形というものがある事は間違いないです。
ここまでで、製品別計算は終了です。
次章からは標準原価計算についてです。


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