菊池優勝パレード

菊池涼介の挑戦は無謀だったか?

ポスティングシステムでMLB移籍を目指していた広島東洋カープの菊池涼介 (29) が27日、チームに残留することを表明しました。

個人的にはこの結果に驚きはないものの、挑戦に失敗したことから「無謀だったのでは?」という論調もチラホラ見受けられますが、私は、

「挑戦そのものは妥当であったし、彼はMLBでも勝利に貢献できた」

と声を大にして言いたく、ここに note をしたためます。以下にその理由を示します。

彼の強み

まず彼の成績を確認していきます。

打撃

守備

19年 UZR 5.0 RngR 2.4
18年 UZR 9.8 RngR 0.4
17年 UZR 3.2 RngR -3.2
16年 UZR 17.3 RngR 5.8
15年 UZR 9.7 RngR 9.0
14年 UZR 13.0 RngR 12.2
https://1point02.jp/ より抜粋 (全て 2B)

この成績から、以下の二点が優秀であると考えられます。

・打撃は長打率には現れない意外な HR 数
・守備は6年間にも渡ってプラスを出し続けている

でもメジャーだと成績落ちるのでは?

はい、その通りです。
このサイトによれば、過去の日本人選手をサンプルにすると、本塁打-55%、打点-39%、打率-13%、OPS-18%となるそうです。

ここではキャリアハイのシーズンから計算してますので、彼のキャリアハイである16年を基に計算してみると、以下のようになります。

菊池涼介 2016 年打撃成績
打率 .315 HR 13 打点 56 OPS .790
(予想) 菊池涼介 2020 MLB 打撃成績
打率 .275 HR 6 打点 34 OPS .648

これは私の感覚ですが、実際には打率は少し下げ、HRと打点はもう少し上げるのではと思いますが、彼の価値を図る上では誤差の範囲内と考え、大きなブレは感じません。

その成績は MLB ではどれくらいなの?

Baseball Reference によれば、全打者ごちゃまぜでの平均的な打者の成績が以下だそうです。

打率.251 HR 22 打点 72 OPS.753

2B という負担のあるポジションであれば、上記の成績予想を踏まえても、打撃だけを取るとやや平均未満といったところでしょうか。

守備の評価は?

正直言って予測不能です。理由は二つあります。

・長い間日本人内野手が MLB に挑戦していない (サンプルの老朽化)
・MLB では守備シフト全盛期を迎えており日本の指標では類推しきれない

実際MLBでは、シフトによって点を防いだ指標も登場しています。ただし、相対評価であるものの、大きなケガの影響を受けた年以外守備範囲 (RngR) でプラスを出している彼が、守備でマイナスを出す姿は想像しにくいです。

それを裏付けるデータとして、守備に必要な脚力が衰えてない事が挙げられます。UBRという盗塁を除いた走塁指標では、以下の通りほとんどプラスを計上しており、衰えない身体能力を示すとともに、MLBといった異なる環境でもすぐに守備の特異性に適応できる事を示していると考え、平均以上の守備を見せると思われます。

菊池涼介 UBR
19年 4.6
18年 3.5
17年 3.5
16年 7.0
15年 0.4
14年 -0.1
https://1point02.jp/ より抜粋

実際未だ契約が決まっていない二塁手の中には、既にMLBを何年も経験しているにも関わらず守備指標がマイナスの選手が多くいます。この点は菊池涼介にとって大きなアドバンテージとなるはずです。

(重要) なら契約できたって良いのでは?原因は何?

ここまでの結論をまとめると菊池涼介は平均未満の打撃と、平均以上の守備が期待できる選手と考えられます。

この選手の期待値から何を思い浮かべますか?恐らく「レギュラー及び控えとして使いたい」という発想だと考えます。

要するに、彼の売り方として最適だったのは「控えとして重宝するが、普通にスタメンで使っても見劣りしない便利な内野手」だったはずです。ここが今回の交渉において最も厳しい部分でした。

何が厳しいか?理由は三つあります。

① ポスティングシステムによる期間の制限

まず、現在のポスティングシステムは、11/1-12/5までに申請する必要があり、そこから30日間しか交渉期限がありません。

次に、様々な要因により、ここ数年移籍市場の動きが鈍くなっています。実際に名の知れた選手でも、シーズンが始まってから契約に至るケースが発生してしまっています。

その中でも、今が旬か希少価値の高い選手は12月前後に大型契約が決まっており当然金額も大きく、それに伴い控え選手の移籍動向は鈍化が進んでいます。

要するに控えで価値を見出す選手が12月中に交渉をまとめるのは容易な事ではないのです。

② ポジション経験の不足

そうは言っても、控えの選手が全て放置されるわけではなく、使い勝手のいい選手はサラッと契約を勝ち取って移籍していきます。

ではどういう選手が使い勝手が良いかといえば、やはり複数ポジションを守れる選手という事になります。

例えば一時期菊池涼介に興味を持っていたとされるレッドソックスも、12月に行われた現役ドラフトで、25歳の内野全てを守れる選手を獲得しています。

一方の彼はというと、2B以外は3Bが一試合、SSが20試合、更にこれは2013年が最後と来ています。

日本で彼の挑戦のために複数ポジションを経験させることは難しかったでしょうが、打撃の期待値が平均未満である以上、複数のポジションを守れる実績が必要だったのは間違いないと考えます。

③ メジャー契約

彼は去年の早い段階から挑戦を表明していたにも関わらず、プレミア12の影響もあってか球団との話し合いも遅れ、ポスティングの申請はギリギリで表明した山口俊と同日、エージェントもあまり名の聞かない会社と、色々不憫なところもありましたが、それだけ悩んだ跡が窺い知れました。

更にその後球団代表が「マイナー契約なら戻ってきなさい」と発言し、代理人も「メジャー契約がゴール」と宣言するなど、メジャー契約が獲得できなかった場合、カープに残留する事はほぼ確定の様相を呈していました。

・・・つまり?

MLB経験がなく、推測される期待値からもレギュラーギリギリの選手がライバルとなる彼が、ポスティングのルールによって、本来の競争相手ではない大物メジャーリーガー及び使い勝手で上位互換を行く選手とライバル関係になってしまった事が最大の不幸だと考えます。

また、彼らと同じ時期に交渉しなければならないのであれば、最低でもメジャー契約を捨てマイナー契約もしくはスプリット契約 (マイナーからメジャーに切り替え可能な) までダウングレードする必要がありましたが、彼はこれを選択肢から外していたと考えます。

また、事実として、27日現在でマイナーもしくはスプリット契約の内野手はどんどん成立しています。

契約のダウングレードはアリか?

率直に言って、この時期にダウングレードしても契約を勝ち得たかは不明です。ただし、ダウングレード自体が本当に彼のためになったか?と聞かれたらそれは個人的には NO だと思っています。

ムネリンこと川崎宗則がいい例で、内野手のマイナー契約で約五年間で三チームに在籍しましたが、実にいいように昇格と降格を繰り返され、思い出すだけでも悲しみがこみ上げてくる内容でした。明るくふるまっていましたが、その後の自律神経の病気と無関係でなかったかもしれません。

メジャーを経験すると拍がつくなどと簡単に言いますが、なんでもいいからアメリカに滑り込めば良いというほど、MLBの仕組みは甘くないのが現実です。

東京五輪に出たかったのでは?

一部でそう解釈できる報道を見かけますが、少なくとも、それを理由に何らかの条件提示を断ったり、上限を制限していたとは思えません。

何故なら、過去の事例からメジャー契約であれば五輪に出ていない事は誰の目にも明らかですし、一方でマイナー契約であれば出ている選手もいるわけですが、前述の通り明らかにメジャー契約を意識しているわけですので、その希望とは矛盾しています。

そもそも、わざわざ「五輪に出たいか」と聞かれて「”そりゃー出たい”」と答える時点で、MLB挑戦とは切り離した一般的な問答であり、さらに言えば山田哲人、外崎修汰、浅村栄斗らもいる中、ややもすれば選出されない可能性もある五輪を見据えて、球団に迷惑をかけてまでお願いしたポスティングの契約条項に、非現実的な条件を盛り込むでしょうか?

菊池涼介という選手がそこまで世間知らずで頭が悪いとは思えません。何より、球団に気を使い、事務所の締め日である27日に残留を発表できるよう早めに対応した彼が、そんな中途半端などっちつかずの夢を描くとも思えません。

この仮定については、考えれば考えるほどあり得ないと言えます。

まとめ

私はとにかく、菊池はポスティングの仕組みに犠牲になった部分があって、その挑戦は実績的には決して無謀でなかったし、一方で残留も妥当だという事を主張したいのです。

内野手なら過去にも松田宣浩や鳥谷敬が、海外FAという期間的にも比較的有利な制度を使い交渉の上で断念していますから、菊池も挑戦権を勝ち得、夢と将来を天秤にかけた立派なアスリートだったというだけの事であり、誰も彼の挑戦を無謀とは言えないと考えます。

既報の通り、菊池は3億4年契約と大型契約を結び、インタビューでもひとまずメジャー挑戦は封印すると語っています。

今後彼がカープ一筋なのか、何らかの理由で他球団に行くのか、はたまた晩年になってマイナー契約でMLBに挑戦するかは分かりません。

ただ、この挑戦失敗によって彼のこれまでの実績が色褪せるわけではありませんし、MLBに行かなかったからと言って格が落ちる選手でない事は、NPBを見てる皆様なら十分お分かりの事でしょう。

ですので私は、ポスティングで正々堂々挑戦し、将来に対して彼の守備よろしく迅速かつ適切な判断を下し、国内あるいは国際大会で躍動するために、第二の始まりの鐘を鳴らした彼を心から応援しようと思っています。

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