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フジロックのチケット代は6か月6万円説

3月29日(金)、第4弾ラインナップが発表された。
今年もフジロックがやってくる。
 
フジロックフェスティバルは、毎年7月末の金曜日から日曜日の3日間、新潟県の苗場スキー場で開催される、国内最大の野外音楽フェスティバルだ。
1997年の初回からどんどん規模を拡大したこのフェスには、国内外から多数のアーティストが出演する。
野外フェスには複数のステージが設けられることが多く、フジロックは主要な4つのステージのほか、観客数が数十人規模の小ステージも多数あり、観客は朝から夜まで自分の好みのステージを行ったり来たりして楽しむ。
 
私がフジロックに行くようになったのはここ10年くらいのことだ。
当初は、フジロックなんてハードルが高すぎて、自分が行けるイベントではないと思っていた。
だって、東京から苗場は遠いし、山は天候も変わりやすくて過酷。毎年雨の日があると聞くし、重装備でないといけないのでは……というイメージがあったから。
それでもフェス自体は好きで、仲間内で日帰りや1泊で行ける関東近郊のほかのフェスにはよく行っていた。
それが数年続いた頃、フジロック行ってみる? と皆で恐る恐る踏み出してみたら、雨が降ることがどうした、それを上回る楽しさに負けて毎年行くようになってしまった。
しかも、年々チケット代は上がるのにだ。2024年は5月の一般発売で3日通し券が6万円と発表されている。
 
フジロックの楽しさとは何か。
夏序盤の苗場の健康的な日差し、原っぱ、風、山ぎわに沈んでいく夕日、そこに常にある音楽。
私としては、そんな環境で日がな一日タイムテーブルとにらめっこして、日常を忘れて音楽のことだけを考える贅沢な時間の使い方そのものが、フジロックの楽しさだと思っている。
「このアーティストもあのグループも観たいけど、ステージ間でかぶるなぁ、どっちを観よう? 半分観て移動する? でもなぁ……」と、毎日音楽のことだけを考えて、ライブを観たり、朝からビールを飲んだり食べたり寝っ転がったり……。
「明日もこのわがままで自由な一日を過ごしていいんですか?」(いいんです!)という、背徳感とともに美味しい音楽を存分に浴びられる3日間に、私はお金を払っているのだ。
 
フジロックの魅力はほかにもある。
私にとっては、未知との遭遇であるという点だ。
フジロックは、サマーソニックやロック・イン・ジャパン・フェスティバル等のほかの大型フェスに比べて、誰もが知るような有名アーティストの割合が低い。もちろん、ヘッドライナーには超有名アーティストが出るが、これからヒットするであろうアーティストも多く出演する。
とはいえ、プロモーターであるSMASH(スマッシュ)の目利き(耳利きか)がすごいので、どのアーティストも世界レベルの超実力派で“旬”なのだ。
アメリカのベーシスト Thundercat(サンダーキャット)などは象徴的で、2017年2月にリリースしたアルバム『DRUNK』がじわじわ来ていたその年の7月、フジロックフェスティバルに出演。これをきっかけに日本でも知名度がぐっと上がった。
 
私は普段からいろいろなアーティストの曲を聴きまくっているタイプではないので、出演者が発表されても、元から知っているアーティストなんて半分以下。
だから、1月に早割チケットを購入し、2月に第1弾アーティスト発表、その後も徐々に明かされていくラインナップとともに予習を始める。
そうして好みのアーティストに出会い、気持ちも高まってきた7月末、いよいよ苗場へ!
そんな風に半年かけて楽しむから、好きになったアーティストへの愛着もひとしおである。
そういう意味ではフジロックに対してはほかのフェスとは違う、“出会い系フェス”としての価値を感じているのかもしれない。
出合わせてくれるSMASHの世話役としての腕前にも、信頼感は増すばかりだ。
 
今年、もう出会ってしまったアーティストがいる。
第1弾で発表された、ノルウェーのZ世代アーティストgirl in red (ガール・イン・レッド)。
界隈ではすでに話題の存在だったようで、遡ると2021年くらいから日本のメディアもインタビューをしている。
同性愛やその葛藤を描く赤裸々な歌詞が魅力的と言われるが、セブンスコード多めで憂いのある美しい音楽、対照的に色気のないすっぴんみたいな歌に、私はすっかりハマった。
もっと聴きこんで、「3年前からファンでした」風を装いたい。
 
もちろん、既知のアーティストにも期待を寄せている。
今年のラインナップで楽しみなのは、まず私が大ファンであるジャズピアニストの上原ひろみ。
現在4人編成のバンドでワールドツアー中であり、このツアーに昨年私は3回も足を運んだ。
彼女はいつもツアーを通してどんどんパワーアップしていくので、追っかけているこちらがおこがましくも「育てている」と勘違いしどんどん愛着が湧いてしまう。7月にはもっとニョキニョキと美味しい実をつけたサウンドに育っていることだろう。
電気グルーヴも見逃せない。夜のステージが野外の巨大クラブみたいになるのが楽しみだ。
そして3日目ヘッドライナーのノエル・ギャラガーも待ち遠しい。Oasis時代の楽曲を会場全体で大合唱するシーンを想像すると今から涙が出そうだ。
 
フジロックは3日間だが、どうやら私は半年も楽しんでいる。
そうか、チケット代は3日分ではない。私たちはフジロックまでの半年間にお金を払っているのだ。
半年で6万円と考えると少しお得な気持ちになってくる。
私はこれからフジロックは6か月で6万円説を提唱していくことにしよう。
だってお得でしょ? 半年の間に新たなアーティストと出会い、お気に入りのアーティストを股にかけて楽しめるのだから。

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