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Back To MONO

モノラルが録れるエンジニアは優秀だ。
手元にアメリカ60〜70年代のプロモシングルが多数あるが、片面がモノラル、片面が同曲のステレオといった組み合わせが多い。モノラルオンエアの需要が多かったことが伺えるが、それだけではない。モノラルで聴くとその曲の構造がはっきりとわかるのだ。
さて大滝詠一だが、彼のモノへのこだわりは別格だ。この「バチェラー・ガール」は1985年のプロモシングルながら、モノラルミックスが用意されていた。
かつて大滝さんのインタビューで「スペクター・サウンドをステレオで録れるのは、世界でも僕しかいない」と言われた。銀次さんに会った時もそんな話をしてたので、比較的有名な話なのかも知れない。そんな「ステレオ版スペクター」の代表作がロンバケなのだが、バチェラー・ガールの収録されたEACH TIMEはアメリカの音じゃない。ブリティッシュに置き位置をずらしている。
実際ステレオ(LP)のバチェラーを聴くと、どっちかというとジョー・ミークの音に聞こえる。ミークの音はテープベンドエフェクトに代表される、位相のズレを音楽効果に使ったステレオ感のあるサウンドだ。ところが機械変換をしただけのDJ MONOはイギリス臭さが消えてスペクターが蘇る。
モノは全部の音がダンゴになって一直線にぶつかってくるので、音圧が上がると凶暴になるのだ。彼は機械エコーではなく、ルームエコーとコンプレッサーによるものなので、モノにしても輪郭がはっきりしているのが特徴だ。
この、真正面からぶつけてくるのはプレスリーだったり、ティーンエイジアイドルだったり、ガールグループの文法で、それが大滝さんの根底にある。バチェラーではもちろん多重録音された大滝さんの歌が大口径のガトリング銃のように正面から連打されるわけで、この強さはサロンやモンドと無縁の、ロックンローラー大滝詠一の音だな、と。
ま、個人的印象ですけどね。

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