ショートカット、あるいはシンプリファイ

the incidents ー複雑なタイトルをここにー, Virgil Abloh

 ファッションブランド "off-white" を手がけ、nikeやイケアなどの世界的な企業ともコラボレーションを行う著者のハーヴァード大学での講義をまとめた書籍

 本のタイトルや装幀、スライドからプレゼンの仕方まで一貫してシンプルで飾らず気負わず、大胆にストレートな表現がなされている。それは冒頭で述ヴァージルが語っている、ショートカットやチートコードを使った表現であるように思う。書籍のタイトルが来る場所に"タイトル”と入れるような、なにも考えがないのではないかと思えるような見せ方はかなり勇気がいるはずだが、それを堂々とやってのけるが故の、逆にかっこいい、という印象がある。周囲が舗装され、幾人もの先人に歩き古された遠回りな道を行く中、ヴァージルは雑草の茂る草むらをまっすぐに突き進んでいる。他人には目的地の見えない危なっかしい道も、彼にとっては視界のひらけた歩きやすい道で、なんですぐ脇に近道があるのに、わざわざ遠回りをするのだろう、と訝しんでいたのだろう。こうした彼の即興的な姿勢は、自身がルーツとして挙げているデュシャンに由来する、すでにあるものを2次創作として編集するプロダクトにも表れている。そしてその、”すでにあるもの”がナイキやイケアといった世界的ブランドだったりするのだから、カウンターとしてのシンプルさ、チープさ、わずかな差異だが確実に違うというデザインの仕方がとても強固なメッセージとしして熱烈なファンに届くのだろう。

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