ダイアログ・イン・ザ・ダークは夢に似ている
目を閉じるよりも暗い闇をかつて体験したことがある。「フィーバー・ルーム」という舞台作品で、雨音だけ残して光が全く届かない暗闇になる演出があった。あれに近いことをまた体験したいと思い、ダイアログ・イン・ザ・ダークというイベントに参加してきました。
ダイアログ・イン・ザ・ダークは、視覚障害者の案内により、瞼から透ける光さえ感じない純度100%の暗闇の中、視覚以外の感覚やコミュニケーションによって日常生活の疑似体験をするというもの。
参加した回の内容としては、視覚障害者の方にガイドされながら電車に乗っての旅行を擬似体験するというものでした。今でもその時のことを思い出すと生々しく風景が浮かんできます。
とはいえ、何も見えない暗闇のはずなのに風景が浮かんでくるのか、なぜ見えていたのか。木の椅子が並んでいるらしいボックス席の電車、窓の外を流れて遠ざかっていく祭り、畳、縁側、ちゃぶ台、参加者の顔。あれは一体なんだったのか。
今思えばそれは触覚、嗅覚、聴覚をきっかけに浮かびあがった過去の記憶だったのかもしれない。暗闇になる前に、いつかどこかで見た記憶などを、目の前にあるらしい物に当てはめて作り上げた空間。
その時その場で触って聞いて嗅いで生々しい体験をしているのに、そこにあるのは引用元のはっきりしない過去の風景の数々で、このあり方が夢に似ていると思う。
ということを後になって思うわけで、その時は感覚とイメージが瞬時に結びついて像が浮かびあがっていたので、今まさに目の前で見て体験しているような実感があった。
でも終わってみれば、あのとき立ち上がっていた風景はツギハギな記憶でできたハリボテのような空間だったと気づく。
気づいてしまったということは、あの奇妙にイメージがミックスされた空間と時間から、まるで夢から覚めるように閉め出されることでもあったけど、もしかしたら今回の体験で見えたイメージが今後、何かがきっかけになって、これはダイアログ・イン・ザ・ダークで“”見た“”風景だと思い出すこともあるかもしれない。
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