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学会員インタビュー⑤ゆきますくさん

天海春香学会Vol.4出版記念として、参加された "学会員" の方へインタビューを行う恒例企画。

Vol.4の第5回として、ゆきますくさんのインタビューをお届けします。

聞き手:スタントン
文:そにっぴー


実は前編でした

――ゆきますくさんは常連さんとしてVol.1, 2, 3とご参加いただきまして、今回Vol.4にご参加いただきました。前回(Vol.3)のインタビューの際、「Vol.4があったらどういう作品が書きたいですか」という質問をさせていただいたところ、「2択かな」というお答えを頂きました。

ゆきますくP:
そうですね、まあ2択かなと思っています。春香と冬を延々と書き続ける男になるか、それか新天地、天海春香とアイドルを掛け算するか、ずっと悩んでます。

Vol.3インタビュー
https://note.com/a_harukagakkai/n/n604826492eea

――今回話を書くにあたり、この2択を考えられましたか。それとも別のところで発想を練りましたか。

ゆきますく:
あー……それを言うと、全然違うところの3択目を持ってきてしまってすみませんの気持ちです(笑)

――いえいえ(笑)

ゆきますく:
本当は(当初の2択で)書くつもりでいました。一応2つともアイデアがあって、用意してたんですけど、上手いこと文字にならなかったのが正直なところで。
で今回、ネタバレっぽくなっちゃいますけど、僕の作品は今回夏の作品なんで、夏の作品を書くにいたったのは……もっとぶっちゃけると、これはまだ前編で、まだこれから後編が出来上がる予定なんですけど、後編に冬の話を書こうと思ってます。(当初の)2択を意識して書いたところはあったので、本当は冬の作品を書きたかったんですけど、前のVol.2のときみたいに春・夏・秋・冬ぜんぶ書いて爆弾ボリュームにするわけにはいかなかったので、今回は一旦半分で区切ろうと。

――ありがとうございます。今回作品を掲載するにあたり、ゆきますくさんから事前にご相談をいただき、運営の方でお受けするということがありました。その前の段階から、文章にする上での試行錯誤があったのですね。

ゆきますく:
そうですね。元々最初に(頭に)浮かんでたのは、黛冬優子と天海春香を掛け算する話(特集テーマ)ばっかり考えてて、これが全然上手くいかなくて。というのも黛冬優子の心情が読めなくて。天海春香のように理解度が深くないのが顕著に出ちゃったのがすごく印象的でした。これをじゃあゆきますくの作品として出すなら不適切だろうという気持ちになっちゃったのが、そもそも自由テーマに移ろうと思ったきっかけです。
そこからコンセプトの見直しみたいなのを始めてみると、冬だけ書いても面白いだろうけど、夏・冬と書いて続きものにした方が面白いかな、というコンセプトに至って、最初は夏のものを書くことに決めたんです。なんですけど、結局そのコンセプトがブレブレの状態で書いてたらまあ進まないので、一旦誰かと話して共有した方がいいだろうとなったんですけど、全然関係ない人にネタバレしてもしゃーないと思ったので、(運営に)ご相談させていただく形になりました。

――内容自体は、私たちにご相談いただいたときにはほぼできていましたね。

ゆきますく:
まあそうですね、文字数換算すれば11,500字中の 7,500字はできていました。残り30%くらいですね。

本編について

BGM

――作品についてお伺いします。今回BGMをQRコード(Spotifyのマイリスト)から読んで楽しんでもらう形でご用意いただきました。

https://open.spotify.com/playlist/0boszg4iCGrLqSA5FV6P3o?si=hAe2gIicQPGNj-JcHXk4sg&pi=a-lhHQL8l1QSuN&nd=1&dlsi=b54527c620ea44a8

――この選曲に意図はあるのですか。

ゆきますく:
僕が作品を書くときにバックで聴いている曲たちを今回は突っ込みました。

――作品を作るときに聴いている曲なんですね。オルゴールのものですとか……

ゆきますく:
僕はオルゴール大好きなんです。前どこかで喋っているかもしれないですけど、オルゴールと雪ってすごくリンクしている部分があると思っています。音の響きだったりとか、雪がもたらす視覚的効果と聴覚的効果が重なる部分があると思うんですけど、それがすごい好きで。だから冬の物語を書くときは必ずオルゴールを聴きながら書くんですよね。夏の物語を書くときは違うものを聴くべきなんですけど、いくつかレパートリーあるにはあるんですけど、今回は冬の物語に繋がるという意識で始まったので、夏の曲というよりは冬の曲を聴いて読んでもらった方がしっくり来るのかなと思って。作者である僕と同じ気持ちになって読んでくれたらいいなという気持ちも込めて、今回は書いてるときに聴いてた曲にちょこっとプラスして、という形にさせていただきました。

――ありがとうございます。ゆきますくさんが作品を作られているときの気持ちに寄り添いながら読んでいただける、という配慮ですね。

アイドルじゃなくなった春香は……

――文章について、発想が斬新だなと思いました。だいたい春香さんに関わる小説やお話は基本的にプロデューサー視点だったりしますが、プロデューサーじゃない「僕」が出てきて話が展開されていくという部分ですとか、天海春香さんが実家から出てきているという境遇ですとか、ものすごく新鮮で斬新に映りました。このコンセプトはどこからひねり出されたのでしょうか。

ゆきますく:
このコンセプト自体は、頭の中にあったことではあるのですけど。
実は今回Vol.3のときに完全に書くタイミングを見失ってたあとがきを、自分のサイトの方に書きました。

ゆきますく:
そこでもちょっと書いたんですけど、今回の作品は僕が小説を書き始めた原点に立ち返ろうかなと思って、より二次創作らしくしようかなと思ったのがスタートだったんです。僕は二次創作から小説を書き始めた人なので。二次創作を初めて書きたいと思ったきっかけが、僕がいつも活動しているハーメルンというサイトにある作品なんです。その作品の作者さんはキラさんという方なのですが、この方がすごく好きで、この方の作品は原作を知らなくても全部読むくらい好きなんですけど、その中に『もしもな世界のラウラさん』という作品があります。

ゆきますく:
めっちゃざっくり説明すると、原作(インフィニット・ストラトス)の物語のラウラという女の子が、主人公の姉に出会うことで覚醒して今に至るキャラクターなんですけど、それが覚醒しなかったら、という彼女のアイデンティティを失ったところから主人公とどう向き合うのかみたいな話なんですよね。それを見て「これや!」と思ったのが今回のコンセプトのきっかけです。
天海春香って、アイドルという言葉と常に並べられて語られると思うんです。もちろんアイドルマスターというカテゴリーだからだとは思うんですけど。じゃあ僕たちは天海春香が好きなのか、アイドル・天海春香が好きなのか、分からないなと思って。これをちゃんと分離して考えるのであれば、天海春香っていう人間からアイドルを引き算しないとダメだろうし、もっと言うなら天海春香はアイドルになりたくてアイドルになったのか、天から与えられた運命がアイドルしか無かったのか、というところは区別すべきだと思っていて。
つまりどういうことかと言うと、天海春香は、元々何も無かった少女だけどアイドルになるって決めてアイドルという属性を得たのか、天海春香が生きていれば自然にアイドルという属性を手に入れる……既に生まれた瞬間から道の上に立っていたのか、考えなきゃいけないなと思って、今回は分岐モノ――途中までは皆が知ってるストーリーだけど、そこから分岐してアイドルを失った天海春香について書けたら面白いなあ、というのが今回のコンセプトのきっかけです。

――そうですね、後半にあるセリフなんですけど、春香が「アイドルじゃなくなって、今、私は、何者なんでしょうか(P98)」と言います。この一文が読んでてけっこう重かったんですよ。なんだかんだ、その分岐を考えたことがなかったな、と。そういう意味で斬新な問いかけだなと思いました。

ゆきますく:
今回これを書くにあたって、Vol.1, 2, 3を全部読み直したんですよ。そのとき僕の中で一番大きいタイトルというか、頬張ったくせに嚙み切れないというか、飲み込めないクソデカ感情ってどれだろうてなったら、やっぱりVol.1のサブタイトル「天海春香と何者だったのか」に落ち着くなあと思ったところが大きいですね。

(※ミワのいぢ著『天海春香とは何者だったのか?』から抜粋したサブタイトル)

――このサブタイトルがこの一文やコンセプトに投影されているのですね。これ……書いてて、辛くなかったですか?

ゆきますく:
これ前も聞かれたなあ(笑)
これは、書いてて辛くないですね。僕は幸せな人を見つめ続ける方が苦痛なんで。ちょっと苦しんでたり頑張ってたりっていう人を励ましたりだとか、応援したりだとか、「それで良いんだよ」って言う方が得意なタイプなんだなあというのをここ最近仕事を通じて思ってます。なので、こういう風に天海春香が紆余曲折あるのを見つめる第三者ポジションというのを今回イメージして書いたので、それが上手くハマったというか、僕の気持ちとしてはまだずっと楽なポジションだったなあと思います。

主人公の人物像

――主人公の男について、前に相談いただいたときにもお話しましたが、タバコを吸っているので、私的には少し信頼できないというか、王道の感じからは少し外れたような主人公という印象がありました。ゆきますくさんはどのように人物像を考えられたのでしょうか。

ゆきますく:
今回、天海春香をアイドルじゃなくしたという分岐をするにあたって、天海春香って多分今までの考察だったりとか、原作での描かれ方とか、ミリシタの4コマの描かれ方とかって、真面目で優等生で、だけどどれかが飛びぬけてバッみたいなアピールじゃなくて、「アイドル」という言葉を一番表しているみたいな描かれ方をしてきたと思います。それが無くなったということは、自分の唯一性みたいなものを失っている天海春香だったので、その隣に並べる主人公といったら、同じように、敷かれたレールじゃないですけど、自分のレールがあって、そのレールから外れたことに対してコンプレックスがある主人公にしたかったんですよね。その象徴をタバコにしたかったんですよ。いわゆる真面目な主人公って、こんなに道を外してなかったらタバコなんて吸わなかっただろうと思わせたくて。「どっかで外れて失敗したんだな」というものの象徴にタバコを持ってきたら、「僕」っていうヤンチャしてなかったような主人公の口癖とか趣味とかこれまでの経歴ってところと、明らかにアウトローなタバコみたいな対比になって、主人公の像が奥深くなるなあっていうのは感じたので今回チョイスしました。

――たしかに、途中まで「僕」もまっとうな人生を送ってきたようですし、本がたくさんあったりという描写からもうかがえます。天海春香さんも途中までアイドルの道にいて、そこから分岐、挫折をしてしまった、というところでリンクする部分がありますね。

役割

――本の話で気になる点があります。文章中に瀬尾まいこ氏の本『幸福な食卓』が出てきます。これはゆきますくさん的に何か意図するところはあるのですか。

ゆきますく:
あります。これは書き出しが超有名な作品で。書き出しが主人公のお父さんのセリフで、

「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」

瀬尾まいこ『幸福な食卓』(講談社文庫版)から 『幸福な食卓』P6

というセリフから始まるんですよ。

――あー、聞いたことがあります。

ゆきますく:
実写化されている作品でもあるので、もしかしたらどこかで聞いたことがあるかもしれません。
2006年の作品で、『幸福な食卓』っていう作品自体が、名前に付けられた役割について考える話なんですよ。「父さんは父さんを辞めようと思う」と言う割には、家を出ていくわけでも、一家離散なわけでもない。父さんは父さんとしてしたいことをする。だけど、父親という役割から降りる。娘にとっての父親だったり、息子にとっての父親ではない。そして自分の妻、彼ら(子ども)からしたら母親の夫でもない、自分っていうのを生きる話なんですよ。お母さんもそれに乗っちゃって、お母さんとしてアレコレするのを辞める。娘や息子にとってのお母さんでなくなるし、夫に対しての妻でなくなる。役割を外れて自分らしさを追求するみたいな話が少し入るんですよ。
これって面白いなと思って。アイドルっていう役割を離れた天海春香と、医者っていう道を外れた主人公っていう、元々持ってたアイデンティティを失った二人の出会いに重なるなと思って。で、僕が瀬尾まいこ好きだっていうのもあって、今回重ねてみようと思った次第です。

カットのサイズ、ケーキのサイズ

――私(スタントン)はよくインタビューのときにゆきますくさんにお伝えしているのですけど、ご飯の描写がけっこう好きなんです。

ゆきますく:
ありがとうございます(笑)

――今までの作品ですと、レバニラを食べる描写(Vol.2掲載「ゆめ」の続きの話をしよう)ですとか。今回もいくつか食べ物が出てきます。シチューを作ってくれる天海春香さん概念とか、なんやかんやあって食卓を囲むようになるとか。そんな中で、ケーキが出てきます。これは深読みすべきものなのでしょうか、それともただの小道具なのでしょうか。

ゆきますく:
本当はケーキじゃなくて、別のものを持ってくる予定だったんです。
けど今回ここをケーキにしたのは、僕が箱マスをプレイしたときに、最後1日余って。Sランクアイドルになるために必要なオーディションを全部受けたりとか、レベルを13に上げなきゃいけないと思ってたところで13になっちゃって。1日余ってどうするってなったときに、お休みにしたんですよ。そのお休みにした日がたまたま、天海春香がプロデューサーの家に行ったときにケーキを作るコミュだったんですよね。それを思い出して、学会誌に出すのだったら原作をリスペクトしてる引用文であった方が深く読めるんじゃないかなというのもあって、今回ケーキにしてみた次第ですね。

――原作準拠、二次創作チックな感じですね。

ゆきますく:
そうですね。

――(このケーキ)ホールですものね。

ゆきますく:
ホールケーキ、これはやりすぎたかなと思うんですけど。ただ、僕はいつも小説を書くときに、シーンの大きさ、カットの大きさの話をするんですけど。

ゆきますく:
(前略)カットの大きさはかなり工夫したつもりです。

――「カットの大きさ」ですか。

ゆきますく:
1個1個の長さだったりとか、中に詰め込むモチーフの量とか。
あとはそこでやっておきたいこと――(中略)やりたいことがリスト化されているので、それを全部達成するための最適な長さっていうのがこの長さだったのかな、とか。そんなことを考えながらシーン割りはやっているつもりです。

Vol.2インタビュー
https://note.com/a_harukagakkai/n/nabfaf9e64fbc#hCKt6

ゆきますく:
カットの大きさ的にケーキをいちいちスポンジから焼くって無理やなと思って。二人の場や間が持たないな、となったときに、せっかくなら手軽にケーキを用意したいなと思って、スポンジを買ってくる設定にしたら、調べたらカットされたショートケーキサイズのスポンジって無いんですよ。ホールしか無いってなって、じゃあホールで作らせるか、って思ったのが結局のところですね。

――そうですよね。一般的にはホールのスポンジが置いてあって、そこに皆でデコレーションしようって感じで料理しますもんね。でも、それでホールになったからこそ会話もその後けっこう長く続いたりとかして、特徴的で印象的なシーンになっていますよね。

ゆきますく:
そうですね。ここはそういう風に意図を持たせたかったので、今回はこういう形で置かせていただいた次第ですね。

なぜ手を繋いだか

――これは聞いたら野暮かなと思いつつ、どういう答えが返ってくるか気になるという観点からお尋ねしますが……春香と主人公がケーキを作るためにお使いにいきます。どうして、春香(と主人公)に手を繋がせたのでしょうか。

ゆきますく:
これは……深い話ですね(笑)

――というのも、十代後半の女子の春香から、手を繋ぐことをわざとらしく求める。それが家族的な親愛を求めるものなのかどうかとなったときに、十代後半の少女が異性に手を繋ぐことを求めるというのは、軽々しくやっていいことではない、というのは(春香も)理解しているはずなんです。となったときに、どういう意図でこのようなシーンを入れたのかが気になりました。

ゆきますく:
これは、スタントンさんとそにっぴーさんはご存じだと思うんですけど、最初の第一稿で相談させていただいたときには入ってなかったシーンだと思うんです。

――そうですね。買い物の順番とかも違いましたね。

ゆきますく:
なんですけど、これを敢えて入れたのには、先ほど話した瀬尾まいこの『幸福な食卓』が関連しています。
思想がネタバレチックになるんですけど、この時点で天海春香が主人公に抱いていた感情ってなんだろう、の答えをここに入れたかったんです。主人公がどう思っているのか、というのは置いておきたくて。それは最後に持って行きたかったので。
ただ、主人公がそう思うに至るために必要な段階を仮に(A)とします。主人公からしたら(A)という段階に至る最後のピースになったみたいな出来事を(B)として、(A)と(B)(を同じシーンで実現するため)の掛け算として持ってきたときに、天海春香に手を繋がせるべきだと判断しました。役割っていう考え方に近いです。

――そういうシーンだったのですね。例えば「きっと彼女は僕に『父や兄のような存在』を求めているのだと、頭では分かっていた(P100)」と書いてありますが、分かっていたんだか、分かろうとしていたんだか……という感じですね。

ゆきますく:
すごくいい表現ですね、そうですね。

――では、このシーンを語り尽くせるのはまた今後……ということですかね。

ゆきますく:
実はもう作品を書き始めているんですけど、続編で触れようと思っている部分なので、あんまり明かしてしまうとネタバレになってしまうんじゃないかとヒヤヒヤしています(笑)

――わかりました(笑)では、皆様にも色々考えていただきましょう。

ゆきますく:
どういうオチになるのか想像しながら読んでいただけると、より楽しめると思います。

――最初食卓を一緒に囲んで話すようになったとき、春香に対して抱く感情としては、妹みたいな存在だと思っているのですが、それがだんだんと変わっていって――野暮かもしれませんが――最後の呼び名の変化というところで二人の感情が変わってきているというのを表しているのですよね。

ゆきますく:
そうですね。僕は前に、春香って正しい恋愛感情を持っているのか? みたいな話をインタビューで語ったことがあります。そのとき僕は、天海春香は正しい恋愛感情なんて持ってなくて、自分の考えるこの気持ちが「あっ、一般でいう『好き』って気持ちなんだ」って自分の中の違う概念と一般の好きっていう概念を勝手に結び付けてると思うんですよ。なので、その形じゃないですけど、それが正しいっていう証拠をちゃんと作ろうとしているというか、天海春香の方から。というところを今回フォーカスしたかったのはありますね。主人公の方は割と常に受け身なんですよ。これは、主人公の方は正しい恋愛感情を持っている方として描きたかったので、正しい恋愛感情を持っていない天海春香の行動に揺さぶられる主人公みたいな、受け身な姿勢を描きたかったのが今回表れているのかなと思います。

――ありがとうございます。確かに春香さんはそういう所ありますからね……。

ゆきますく:
これまで考察してきたこと、(学会誌)Vol.1,2,3とやってきたことを踏まえた作品にしたかったのが大きくて。もちろんこのVol.4単体で読んでも面白いようには作るべきだと思うんですけど。Vol.1,2,3を読んでいるからこそもっと面白いというか、例えば僕の作品じゃなくても「Vol.1のこの作品のこれのことが入ってるのかな」と思ったり、Vol.2の僕の作品から「もしかしてここからの分岐なんじゃないか」と考えたりとか、そういう色んな楽しみ方ができるように作らないといけなかったので、今回。そういう意味で要素を散りばめた伏線的な内容が多いと思うので、今回の作品だけでこの作品について全て分かろうというのが難しい作品になってしまったな、というのは心残りですね。

――なるほど。これを読んで改めて読み返してみようと、今まで(過去作を)読んでなかった方に思ってもらうきっかけになるかもしれませんね。

ゆきますく:
そうなってくれると嬉しいです、僕は。

夏の表現

――Xに天海春香学会の感想が流れていたりしますが、今聞いていただいている方のものを紹介したいと思います(※本インタビューはXのスペースにて公開で実施しておりました)。
 ろーらんさんというVol.4にもご参加くださった方のポストです。P89について……

――確かにすごく美しい言い回しだと思います。何か意識したことや、モチーフにしたものはあるのですか。

ゆきますく:
実は僕が冬の作品を書き始めたのって天海春香が初めてなんですけど、それまでは冬を封印してたんですよ、大学生時代ずっと。その頃に書いた作品の中に『松葉』というものがあります、オリジナル短編集の3話に載せた作品なんですけど。

ゆきますく:
これが、夏の山に行く作品なんですよ。夏の山に釣りに行った話なんですけど――ネタバレになるんですけど――『松葉』という作品は、「松葉」という幼馴染が死んだにも関わらず幻影が見えている主人公が、幻影に気づいたうえで、清算しに行くという話なんです。この幻影っていうのが幽霊とかそういうのではなくて、本当に幻覚みたいな感じで使いたかったので、視覚的に見えている陽炎の揺らめきっていうのを幻みたいに捉えたかったんですよね
というところで、夏の作品を書いているとどうしても頭の中でリンクしちゃって。今回は『もしも、白が靄だったら』というタイトル通り、今までの「白」は雪だったんだけど、それが靄だったら――タバコの煙だったりとか、陽炎の揺らめきだったら、という風な分岐にしたかったのも大きくて。で、『陽炎が胸に揺らぐ』っていうのは、そんな彼女の姿を見て、胸に形容しがたい、言語化しづらい気持ちが浮かんだんだ、みたいなところの大事なシーンにしたかったのでこんな文章になった次第です。『彼女に差す影はな』いというのは彼女の隣に誰も歩いていないことなので、詩的に表現したかったのはありますね。主人公が、本当はこんな彼女だったら絶対誰かと一緒に笑いながら帰ってるだろうなという想像をマイナス方向に裏切ってきたにも関わらず、主人公の視点から見ると詩的に捉えられるほどの儚さや美しさがある。というのに対して、陽炎が胸に揺らぐ、自分の中でもやもやっとした感情が湧き出す、みたいなリンクでこんな文章になって、結局詰まっちゃったんですけど。響きを美しくするのって詩的表現として大事だとは思うんですけど、モチーフを詰め込み過ぎたなというのは僕の中で後悔でした。なのでこういう風に感想で「とてつもなく名文だと思った」と書いていただけると、僕としては意外な反面嬉しかったです。そこまで読み取っていただいたんだなというのもあるし、そういうポイントについて音の響きというところから捉えてくれたのかなと思ったりしたので。

――ありがとうございます。文章って、アニメや漫画とは違うので、文字で人(の心)を動かさなきゃいけない。という中で、ものすごくいい働きをされているのかな、と思いました。

ゆきますく:
ありがとうございます。

問題作?

――最後にもう1問。ゆきますくさんの描かれる文章って、天海春香のアイデンティティに深く切り込んだり、今回は切り込み過ぎて切り離してしまったりと、そういう意味で挑戦的な作品を書かれることが多いです。今までの反響ですと、描写があまりにも凄すぎて、いい意味で微妙な気持ちになったというのがよく見られました。今回も同様の感想をちらほら見かけます。どうでしょう、読んでみて「胸が、揺らぐ、苦しい……」となった読者へのメッセージはございますでしょうか。

ゆきますく:
Vol.1,2については、描写に対しては美しく思ってほしいけど、主人公といった出てくる登場人物は、より人間味を持たせたくて書いてただけだったんです。けど、それを微妙な気持ちにさせるみたいに書かれていたりとか、思われているというのは、僕としてはちょっと意外だったんですよね。僕としては、人間ってこれくらい気持ち悪いやろみたいに思ってたのに、意外と天海春香の隣に立つ人間に対しては皆お父さんみたい。「それは許さん!」「それはないやろ!」みたいにお父さん目線で思っている方もいらっしゃっいました。
僕としてはVol.1,2,3の感想を見たりとか、noteで僕の名前を取り上げてくれたりとかすごく嬉しかったんですけど、そういう風に言っていただいてたのを、今回は使おうと思って。敢えて問題作にしよう、みたいな。これは狙って問題作になったので、プラスの方向で話題にしたかったわけではなくて、むしろ「なんだコイツ?」みたいなマイナス方向に問題作にしたかったのは、今回は意図通りです。そういう意味で言えば作者の思惑通りになって、僕としては大変満足という……その感情を持ったうえで次回作を読んでいただければ、大変作者冥利に尽きます。

――そうだったのですね。確かに、天海春香に求めるものと同時に、天海春香の横に立つ者に求めるものというのが我々にはあるだろうし、そういうのが出てきてしまうんだろうなとは思っていました。意図通りだったりそうではなかったり、というのは興味深かったです。

ゆきますく:
Vol.2の感想を見させていただいた時点でだいぶそれは意識していました。Vol.2が終わったときに頂いた感想とか、インタビューで出た話で意識してたので、Vol.3には若干そういう部分が入ってるんですよね。演出的にキザなセリフを言うところは、僕の意図としてはそういう気持ち悪さというか、僕らが無印の春香True Endに対して思っている気持ち悪さみたいなものを再現するみたいな気持ちで書いたのがVol.3でした。で、そのVol.3でちょっと試したところで、色んな読者の方が、気持ち悪い、もどかしい気持ちになるという感想を多くいただいていたので、これって使えるんだみたいな気持ちにはちょっとなりましたね。悪い表現ですけど。

――なるほど(笑)そこってすごく丁寧にやらないとただの嫌な文章になっちゃうんですけど、感想を書く人が「文章自体が嫌なんじゃなくて、精巧に作られたコイツ(作中の登場人物)が嫌」という書き方をされているのが多いので、丁寧に作っていただいた賜物かなと思います。

ゆきますく:
(笑)僕のこれまでの取り組みが認めてもらえたっていう喜びはもちろんありますし、Vol.3で少し試したときのあの反応達を見て、Vol.3のインタビューで語った冴えカノの話の中で言われている、言葉で読者の感情を操っているみたいな誉め言葉に聞こえて、僕はすごく嬉しかったですね。僕が書くモチベーションに繋げていただいているので、本当にどんな感想でも、本人として悪いなあ、良いなあという感想だったとしても、僕は総じて全て良い感想に聞こえてくるっていうのは、小説書きをしていて良かったなあという瞬間ですね。

――ありがとうございます。皆さん、この部分です。どんな感想でも表に出してもらえると書/描いた方はすごく喜ぶと思うので、是非よろしくお願いします。

反省や今後

――他にゆきますくさんの方から文章についてお伝えしたいことはございますか。

ゆきますく:
そうですね……今回の作品はモチーフが散らかっているので、ええと、どこから話そうかな。僕の作品の一番目のファンは僕だと思ってるんですよ。天海春香のプロデュースを始めたらファン人数”1”ってなって、これはプロデューサーですっていうのと同じで。僕は作品を生み出した瞬間のファンなので、ファン第1号だと思ってるんですけど、ファン第1号はモチーフとか関連したものを全部分かっているから、どこを読んでも面白さを感じられる作品やなって思えます。問題は、このモチーフの散らかり具合を誰がどこまで認知しているのかが全然読めなくて。本当に全てをリストアップしたらそれだけでA4が1枚埋まるんじゃないかって思うくらい色んなものを詰め込んだ作品です。いろんな所から読者の皆様の経験を結び付けて読んでいただけると、より楽しめる作品になるんじゃないかなと思います。
あとはそうですね、今回は夏の作品に挑戦したので、今までの冬の作品を期待されてた方にはちょっと申し訳ないことをしたなという気持ちはちょっとあるので、これから冬に対してちょっとご期待いただければ幸いです。自分でハードルを上げるのもなんなんですけど……。

他の方の作品について

――学会誌Vol.4のゆきますくさん以外の作品についてお伺いします。Vol.4はもう全て読まれましたでしょうか。

ゆきますく:
読みました、読み切ってます! 読み切ってはいるんですけども、すみません本当は全作品レビューを年末にしようと思ってたんですけど、できてなくてすみません……。

――あはは、ありがとうございます。気になった作品や面白かった作品があればお教えください。

ゆきますく:
もういっぱいあって! 今回ちょっと堪らないんですけど。
腹を抱えて笑ったのは、司令官Pの『等身大天海春香で打線組んだwww』が面白かったです。

ゆきますく:
「打線組んだwww」っていうのが、もうネット的にもだいぶ古い言葉になっちゃって。

――(笑)

ゆきますく:
僕は今年から中学校教員をやってるんですけど、中学校の生徒とかって、このレベルのネタってもう分からないんですよ。知ってたら珍しいくらいの話です。だからこそ、これを読む読者が何に触れてらっしゃるのかよく分かってるなあというのもありましたし、それよりも特筆すべきなのはやはり内容。こんなに等身大の天海春香を持っているの!? っていう所とか、こんなに分かってるんだ、等身大の天海春香という概念について、みたいな。学会とか、詳しい、物好きな人達が集まった界隈によくいる、誰も触れてないのにめちゃめちゃ尖ってる知識を持ってる人みたいな感じの、良くも悪くも突き抜けた感じが学会の中にポンと表れてるのが、この学会の存在意義みたいなところがあって、僕はすごく面白かったです。
あと、僕は「はじめに」と「あとがき」、特集テーマの前書きを楽しみにして読んでるんですけど、今回は「はじめに(スタントン著)」がすごく好きでした。四字熟語や慣用句の話から入って、時期的にもミリオンライブのアニメ放映の話だったりとか、天海春香っていうものに対して広く窓口があるってことが、この文章ひとつ見ただけで分かる。読み手配慮みたいなものとか、作品に対する熱い思いが感じられたので、すごく好きでした。

――(スタントン)ありがとうございます、恐縮です。

ゆきますく:
いやいや本当に(笑)
良い文章を良いって褒めるのは、僕にとって全然、むしろすべきことだなと感じるので。
あとはろーらんさんの『天海春香学会提出文 MC回顧録 ~従姉妹春香 運命の1ヶ月~』を読ませていただいたんですけど。

ゆきますく:
僕はMCに全然参加してなかったというか、このとき天海春香からだいぶ離れていたときだったので、僕の知らない天海春香をめぐるこういう話があったんだなあと、素直に情報として面白かったです。TCのときは天海春香Pを始めてすぐくらいのときだったので、ドタバタしながら僕もやれることを、みたいな感じでやってた記憶はあるんですけど。そこからMCっていうのが、あったことは知ってたけど、具体的にどういう役があって、天海春香はどうなった、みたいなのをお恥ずかしながら全く知らなくて。そういうことが詳しく、陣営視点や色んな視点から書かれていて「あっなるほど、そういうことがあったんだ」と思いましたし、MCのときの話が少し出てたりしたのも「これはこういう話なんだな」と僕の中で色々繋がったところだったので、すごく読みやすかったですね。読みやすくて面白かったです。
その他にも今まで何回も見させていただいている方の作品があって、「もしかしてこれって続きなのかな」と思ったりしました。小説を読むときに瀬尾まいこさんを固定で読んだりしますけど、同じ作者の作品をずっと読んでたら見えてくるものってあるじゃないですか。それがいろんな方の作品を見てて感じるんですよね。
それで言うんだったら、そうPさんの『スタマス春香さんのすゝめ』とか、ArisakaPさんの『「TVリハーサル」と「全国TVCMのお仕事」の類似性の検討』とか。

ゆきますく:
同じ作者の作品を読んできたからこそ、こういう視点なんだろうなあとか、もしかしたらこういうことが書きたいのかな、とかが読めてくるのが、継続してきたからこその、作品単体以外のパワーです。読み物としての面白さが回を重ねるごとに強くなっているなあというのを総じて感じましたね。
特集テーマの方で面白かったというかビックリしたのが、ひーるのーとさんの『「はるかれん」を語る ~Shiny Smiles!~』。これすごく興味深かったです。

――興味深かったと。

ゆきますく:
というのも、Fes限の天海春香さんは篠宮可憐さんと一緒に出てくるじゃないですか。(それが)意外で。これまでFes限ってもっと近いところからペアを取ってきたイメージがあったのに、春香のときは「あ、可憐なんだ?」と思ったのがすごく率直な感想としてあります。僕は春香・千早とかで来ると思ってたんです、やよい・伊織で来たように。だったんで、それの答えを貰った気がして、納得みたいな気持ちはありましたね。そういう意味でもすごく面白かったです。
可憐っていうアイドルについて名前は知ってて、どんなキャラクターかはぼんやり分かってるけど深くは知らない私にとって、ミリオンの良さというか、ミリオンのアイドルにしか無い――ミリオンの52人の中にもちろんオールスターズの13人は括られているけど、ちょっと違う世界観が混じってるんだ――みたいなある種面白さというか、違う方向のベクトルの奥深さがあって。天海春香もちゃんとそこに関われているんだという安心感が共にあって、良かったです。
そういう意味で、今回の特集テーマはすごく興味深かったです。僕も本当はこっちに参加したかったな、という気持ちも少しあります(笑)
イラスト部門で言うと、僕はとりむねにくさんの作品が毎回好きだと言ってるんですけど、本当に好きで。今回も大変素晴らしかったですね。

ゆきますく:
なんて言ったらいいんだろう、絵のタッチが今回全然違うタッチで描かれてたのが意外でした。前回のVol.3のときは温かそうな春香さんを輪郭がハッキリしないぼんやりしたタッチで描かれてたと思うんですけど、今回は割とはっきりしたタッチで、それでいて儚くて美しい天海春香と如月千早を描いているみたいなイメージがあって。それは素直に作者の力量の幅を見ることができたっていう点で面白いのもありますし、純粋に絵としてこういうものを1から生み出せるというか……文字って輪郭から入っていくんで楽は楽なんですよ。けど、絵ってそこらへんを考えた上でめっちゃ計画的に描かなきゃいけないんだろうなあというのがなんとなくぼんやりあるので、そんなでっかい絵を頭の中に既に描けていることが凄いな、こんなに綺麗に表れるということはその作者ってそういうことまで考えているんだなあみたいな、思慮の幅みたいなのを伺えて、大変面白く読ませていただきました。

Haruka with…

――Vol.4に関連してお伺いします。先ほど触れていただいたように”Haruka with…”というテーマを特集しました。ゆきますくさん的に、春香とこの子の絡みが好き、春香とこの子の絡みをもっと見てみたい等はありますか。

雪歩

ゆきますく:
そうだなあ……じゃあ近い所から。オールスターズのメンバーだと、雪歩との絡みをもうちょっと見たいんですよ。というのも3つくらい理由があります。
第1に、僕がアニマスを本当の最初に見たとき、ビジュアル的にもキャラクター的にも声的にも、性格的な内面的な人間的な部分でも、一番刺さったのは雪歩なんですよ。そこから天海春香Pになったのは紆余曲折あったからなんですけど。紆余曲折がなんにも無くて純粋にキャラクターものとして捉えるのだったら、僕はたぶん雪歩の方がタイプなんですよ。
なんですけど、雪歩が同僚と喋るシーンってどうしても真ちゃんと喋るシーンくらいしか無いじゃないですか。

――「ゆきまこ」の方が比較的(他のCPと比べて)多かったりしますよね。

ゆきますく:
そう、有名(CP)に並べられるだけあって。
じゃあ他のアイドルとの絡みって誰が多いんだろう、ってイメージは、やっぱり伊織とかの方が多いんですよね。美希とか千早とか春香とかは絡みが薄いなと感じてて。というのも、この3人って「主人公性」を持ってるのかなって思ってます。美希のときも春香のときも千早のときも、アニマスでは主人公回が2回、3回と続いたじゃないですか。というのもあって、他のアイドルの回は1回で済んじゃったときもあったので、難しいなと思うんですけど。
そうなると、天海春香って雪歩と絡んだら、雪歩以上に天海春香が言葉数多くなると思うんですよ。こうなったときに天海春香って雪歩に何を伝えるんだろう、っていうのが凄く気になって。天海春香って割と、なんて言うんだろう、言葉少ないんですよ。悪い言い方をすると言葉足らずなんですよね。天海春香が抱えている頭の中のものに対して、外に出てくる言葉ってもっと本当は正しく伝えるんだったら必要なんだけど、天海春香は少なめに語るタイプやと思うんで。なんですけど、雪歩に対しては、語らなければならない。もっと言葉を出さなければならないというのがマストになる状況で、どんな言葉を喋るのかがすごく気になるので、是非絡みが見たい次第です。

ミリオンでは

ゆきますく:
ミリオンで言うんやったら、僕は同級生組というよりはちょっと下の中学生組との絡みが見たくて。それこそとか、百合子とか、そこらへんとの絡みが見たいなというのもあります。
意外と、アイドル一直線で来た天海春香と、元々はロッカーになるつもりだったジュリアの絡みとか見たいなと思ったりもします。
キャラクター性というか、考えてることが重なっててすごく近いなと感じると思うのは田中琴葉が似てると思うので、そこの対話を通じて天海春香と田中琴葉の違いがしっかり現れるだろうなというの想像のもと、ここの絡みが見たいなというのはあります。

シャニマスでは

ゆきますく:
あと特筆したいのは、僕がいつも言ってるシャニマスの黛冬優子は見たいですね。もちろん、黛冬優子という二面性のあるアイドルなんで、表の面——いわゆるアイドルとしての黛冬優子の方と、裏の――プロデューサーや同じユニットに対して当たるちょっと強気な黛冬優子の、どっちの面と天海春香は邂逅すべきなのかというところとか。アイドル同士の絡みとしても見たいし、強気な黛冬優子と天海春香が当たるところも見たい。僕は創作でいつもそこで行き詰まるんで、その解答を誰かからご教授いただければ僕の創作の幅も広がるし、知識も広がるし。尊い絡みになるんじゃないかという意味も込めて、色んなWin-Winなところがあるんじゃないかなと思います。
その他で言うんやったら、今回他の方の作品(ペチマさん『エッセイ:天海春香と月岡恋鐘からみるアイドルの在り方』)で月岡恋鐘との絡みがありました。この話も、純粋な物語として一度見てみたいです。どっちもセンター格のアイドルなんで、この考察を踏まえて、1日一緒にお仕事したみたいなのだけでいいから絡みが見たいです。

――(スタントン)そうですよね、ペチマさん。

――(ペチマ)はい、私が書きました。僕個人としても、この2人の絡みは是非見てみたいというのはあるので、聞いててすごく「分かるなあ……」と感じましたね(笑)
シャニマスとの絡みをもっと見てみたいなあというのは感じているので、誰か書いてほしいし、なんなら自分で書くかっていう……

ゆきますく:
ほんとにそうなんですよね。見たいですよね、もちろん概略論として語っていただくのも学会誌の特性上全然アリというかむしろそっちが主流なはずで、読んでてめっちゃ面白いんですけど。じゃあこれを会話にしたらどうなるんだろうっていう、すみません書き手の欲望の塊でしかないんですけど、そんな気持ちを抱かせる作品たちなんだなというのを感じたので、それを余計に見たくなりましたね。前々から思ってはいましたが。

自分のサークルで参戦?

――4があれば5もあるということで、ここで皆さんには「もしVol.5があればどんな作品を書いてみたいですか」と尋ねるんですけど、ゆきますくさんの場合は、次回作は続編ということになるのでしょうか。

ゆきますく:
そうですね、続編でいいかなというのは考えています。というのと、次回か次々回くらいのISFには、自分ひとりで個人サークル立ちあげて参戦したいなという気持ちもあるので、そこで続編を出すのであれば(学会誌の方は)全然違う考察文とか、また違う方向のガチガチの小説を出しても面白いかなと思っています。そこらへんで悩み中ではありますが、続編があるにはあるので、Vol.5で出せたらいいかな? というのはあります、間に合えば。

――ありがとうございます。タイミング次第で学会誌Vol.5に載るかどうかが変わるけれども、続編は何かしらの形で見られそうだということでよろしいですよね。楽しみにしています。

ゆきますく:
ありがとうございます。

サイン学会誌

――(そにっぴー)ひとつ思い出したことがあります。今回Vol.4を発刊したISF11でゆきますくさんとお会いできたんですけれども、スタントンさんは分からないですけど、私初めての経験で、サインを求められたんですけど……(笑)

ゆきますく:
(笑)

――(スタントン)ゆきますくさんからサインを求められて書きましたね。

――(そにっぴー)なので、今この世にスタントンとそにっぴーのサインが入った学会誌Vol.4が存在するんですけど、あれってどうされたんですか?

ゆきますく:
僕が買い取りました(笑)

――(そにっぴー)初めての経験で面白かったです(笑)

ゆきますく:
僕は教員の知り合いに高校時代からの友達が1人いるんですけど、僕は高校時代はアイドルマスター全然知らない人間で、大学からのアイドルマスターのPなので、ソイツとアイドルマスターの話は殆どしません。
けど、この前年末にソイツと忘年会に行ったんですよ。そのときに「こんなんを作ってる」と学会誌をお見せしたところ、サインに載っているスタントンさんとそにっぴーさんをご存じでして……

――(そにっぴー)ハハハ(笑)なんと……

ゆきますく:
「春香Pじゃない俺でも知ってるぞ、よくこんなんもらえたな」と言っていただいたので僕はそれで満足です。サインが欲しかったというあの時の衝動は間違ってなかったなという気持ちはあります。僕は自分の名前が載った3人分のサインが載った本を買い取れたことが去年いちばん良かったことの1つに挙がるなと思っているので。

――(そにっぴー)(笑)あんなんでよければいつでも書きますので……

ゆきますく:
僕は一応家宝にするつもりでいるので、よろしくお願いします。

――(そにっぴー)まあそう言っていただけると光栄であります(笑)

天海春香の創作はいいぞ!

――そろそろ最後の質問になりますが、ゆきますくさんから何か言い足りなかったことなどはありますか。

ゆきますく:
作品についてはこれ以上語ってしまうと、僕の中でのいけない作家像になってしまうので程々にしておきたいと思います。
もっともっと、天海春香の創作は楽しいぞ! ということを伝えていきたいですね。今までぼくは小説しか書いてこなかったですけど、僕はどちらかというと小説よりもレポートの方が得意なんですよ。今までの大学での経験とかも含めて言うと、論理的に書きたいことを、詩的じゃなくて、直接的に書くっていう方が恐らくここの場には合う文章を書けると思うんです。
ただ、天海春香の創作は面白いって誰が伝えるんだろうってなったときに、今Vol.4まで(小説を)書き続けているのは僕しかいなんだから、結局僕が書かないといけないんじゃないかみたいな一種の責任感というか、ひとつの僕のアイデンティティになってきたところはあるはあるんですけど……僕はそのアイデンティティ嬉しいけど、とっとと誰かに壊してほしいんですよ。天海春香学会という作品群の中に特大爆弾を叩き落とせるくらいの強烈な書き手が現れてくれることをすごく願っています
僕は最初こそ『モノクロ・ドリーム(学会誌Vol.1掲載作品)』を書いたときは、「良いようにとってほしい」みたいな、天海春香にとってプラスのイメージを与えられるような作品を書きたいみたいな気持ちもあったので、最初はそういうふうに考えながら書いてました。けど今は色んな方の作品を見させていただいたうえで「あっこんなこともできるんだ、あんなこともできるんだ」っていうのが分かってきたというのが大きいんですよね。なので、まだ参加していなくて「こんな作品を出していいんだろうか」と思っている人にも、ドカンと出していただけると僕はすごく嬉しいし、そんな方の作品が読めるのを今後楽しみにしています。天海春香の創作って面白いんだなあ、天海春香って何回書いても違う色が出てきて、どんな天海春香を描いてもちゃんと天海春香になって。それがちゃんと「天海春香Pってこうだよね」みたいなひとつの思い込みみたいのではなくて「天海春香Pって本当に色んな方がいらっしゃるんだ」ということの証明になると思います。それが僕は天海春香の創作が面白いということを伝えるきっかけになればいいなと思いますし、僕の作品を読んで僕の作品に対するアンチになって作品を書いてくれてもいいなあって思いながらこんな作品を書いてるので、どんどん小説チックなものがポンポン生み出されれば嬉しいなと思います。
もちろんSS大好きなので、SS形式で出していただいてもいいんですけど。僕は天海春香って言葉が少ないキャラクター、天海春香っていう人間が本当は抱いているであろうクソデカ感情を語るには少ないと思っています。天海春香ってすごく思慮があるキャラクターだと思うんですけど、思慮があるキャラクターなのにその思慮を全て喋り切らないところがあると思ってます。なので天海春香っていう一人の人間についてSS形式でやっちゃうと、多分描かれない部分がいっぱい出てきてしまうのかなあと思ってしまいます。僕は(SS)読みやすくて好きですけど、もっとここ欲しいなあと思うときがたまにあるので、せっかくだったら小説っていう舞台で出していただいて……漫画っていう舞台で出していただいても面白いと思うので。そういう形で天海春香の創作っていう部分に色んな方が参加してくれると、僕がこの学会に参加させていただいた意義が達成できるんじゃないかと思う次第です。なので是非、これを聞いている方々含めていっぱい創作をしてくれたら嬉しいです

――ありがとうございます。こちらも色々な作品を載せられたら嬉しいなと思います。

届かない光

――では、最後の質問をさせていただきます。「あなたにとって天海春香とは」という恒例の質問がございまして、ゆきますくさんは常連さんなのでVol.1,2,3全て答えていただいております。Vol.1のときは「等身大のアイドル」、Vol.2のときは「グレースケール」とお答えいただき、Vol.3では「明日」という言葉を使っていただきました。今思う、あなたにとって天海春香とは。

ゆきますく:
それすごい迷ってて……何て答えるべきだろうってずっと迷ってるんですけど。そうだなあ……(長考)……天海春香、かあ……。……僕にとってだったら……いろんなところで言っちゃってるかもしれないですけど、僕にとって天海春香は「届かない光」だと思っています。

――届かない光。

ゆきますく:
届かない、光。
Vol.3のインタビューでポロっと喋ってるんですけど、僕は「冴えカノ(冴えない彼女の育てかた)」が大好きで。冴えカノのネタバレになるんですけど、最後主人公がメインヒロインを選ぶときのシーンで、「なんで最初から超有力候補だった2人のヒロインを選ばなかったの?」ってメインヒロインに聞かれたときに、「絶対に手の届かない女の子だと思ったから」っていうセリフがあるんですよ。メインヒロインの女の子に選ぶ理由があったんじゃなくて、他2人に選ぶ理由が無かったからっていう言い方をするんですよね。で、別にそこが大事なんじゃなくて、結局2人はめちゃめちゃ近くにいながら選ばれなかった、それは何故かっていうと、凡人である主人公からして天才すぎる2人って、届かないんですよ。手が届かない。隣に並び立てないと感じる。
だから、僕も天海春香に対してはすごくそう思ってて。僕は多分天海春香の隣に並び立つには不適格な人間なんですよ。自覚があるんですよね、そういう。いろんな知り合いに言われるんですけど「言葉はすごく丁寧に喋るくせに、中身をちゃんと掘ればこいつクズだなと思われる性格」をしてると僕は思ってて。僕は自覚もあるし分かってはいたので、言われて当然だなと思ってはいたんですけど。それの結果、天海春香って純粋すぎて、光が。眩しすぎるんですよね。きっと天海春香は僕みたいなクズも許してくれるんだけど、許してもらって並び立つのは違うんじゃないか、みたいな気持ちもあるんですよね。
なので天海春香は、いろんな人を許していろんな人を救ってくれる、女神の様な光かもしれないけど、向こうからこっちに来ることはあっても、僕から天海春香に伸ばした手って届かないんだろうなあって気持ちは常にあります。
なので、僕の作品の根底に流れているところでもあると思ってて。僕にとっての天海春香は、届かない光かなあとは思います。Vol.3で答えた「明日」が時間的な軸で言うんだったら、こちらはもうちょっと視覚的に「届かない光」と具体化したかな、1年経って気持ちがそっちになったかな、と思います。

おまけ:小説について

※インタビュー終了後に雑談として盛り上がった会話が興味深かったので、今回特別におまけとして記事化いたしました。もしよければこちらもご覧ください。

スタントン:
インタビューは以上となります……いやあ小説論というか、SSの方が書きやすいのかなと思ってたんですけど、言われてみると本人がどう語るのかということよりも、形容する表現をたくさん使える分書きやすいのかなとも思いました。小説の形式で挑戦することもすごく良いなと思いましたね。

ゆきますく:
そうですねえ。僕大学のときにやらされた課題のひとつに、小説のくせにセリフだけで書きなさいって課題があったんですよ。かぎかっこしか使わないから、キャラクターについて誰がどう喋っているのかっていうのを言葉から読み取らなきゃいけないんですよね。だからこそ叙述トリック的なこともできるんですけど。僕がそのとき書いたのが「僕だけのコンサルタント」っていう作品なんですけど、この作品は主人公と女の子が喋っているように見えて、実は喋ってた女の子の方は猫だったって話なんです。

そにっぴー・ペチマ:
おお~。

ゆきますく:
これって描写が無いから成り立ってるんだけど、普通の作品だったらそれってオチにならないじゃないですか。だったら読者目線に立ったときに何を見てほしいのかっていうのを地の文ってすごくコントロールできる部分なんですよね。セリフから読み取れることと時の文から読み取れることの交差した部分に立体像が浮かぶんですよ。人間の目が2つ付いてるのは立体的に見るためであるっていうのと同じように、セリフからの目っていう右目と、地の文からっていう左目が重なって、天海春香が立体的に浮かび上がるところにもっと面白さを感じてほしいというのはすごくあります。

そにっぴー:
あ~。もう雑談ムードなので僕の話をすると、僕去年の春香の誕生日にセリフだけどいわゆるSSを書いてみたんですよ。どういう形式がやりやすいかなと思って、結局セリフだけのSSがやりやすいかなあと思ってバーって書きました。『空色♡ Birthday Card』が上手く歌えないっていう話を書いたんですけど、「こういう春香を見せたい」が一番にあって、それを作品として読者に届けたいという気持ちが優先順位として高くなかったからセリフだけのSSが書きやすかったのかな。逆に小説として書こうとしたら手が進まなかったのかな、と、お話を聞いて少し納得しました。

ゆきますく:
これはあまり言ったことがないというか本邦初公開なんですけど、僕は作品を書くときに割とセリフだけ最初に書いちゃうんですよ。地の文は後から埋めます。

そにっぴー:
ほ~ぉ。

ゆきますく:
絵描きの人がよく鉛筆持って片目瞑って距離感を確かめたりするじゃないですか。あれを僕はセリフでします。セリフで2人の距離感をバーって作っちゃって、で、片目を開けるんですよ。右目でセリフ書いてから、左目を開けて地の文を書く。すると、左目からしか見えないものが見えてくるから、地の文になるんですよ。って僕は割とやりがちで。多分他の小説家は絶対しないと思うんですけど。

そにっぴー:
面白いですね。

ゆきますく:
小説の書き方ってワンパターンじゃないからこそ、自分で書き方を持ってていいし、その書き方って他人からしたら面白いと思うので、もっともっと(小説を)見せてほしいというのはそこにあります。

そにっぴー:
頭から順番に書いてかなきゃいけないと常識的に考えていたので、なるほどなあと今すごい思いました。すみません脱線しましたね。

ゆきますく:
いやいや、そういう話好きなので。天海春香はそういう書き方をすべきなんじゃないかって最近思います。Vol.2の作品「『ゆめ』の続きの話をしよう」も最後の部分から書いたって言いましたけど。実は次の作品もラストシーンから書いてて。

そにっぴー:
そういう作家さんいますよね。私もあまり小説読むほうではないんですけど、「ハリーポッター」の作者のJ.K.ローリングは、けっこう初期の段階で「もう最後の部分は書き上げて、しまってある」みたいなこと言っていました。物語ってそういう作り方もできるんだなあって、今思い出しました。

一九九七年、ハリー・ポッターシリーズの第一巻がイギリスで出版されたが、実は最初に書き終えたのが第七巻の最終章だった。全七巻が二〇〇三年に完成するまで、最後の章は秘密の金庫にしっかりと隠してあるらしい。

『ハリー・ポッターと賢者の石』J.K.ローリング著,松岡佑子訳,静山社,P460
ハリーへのラブレター(訳者あとがき)より

ゆきますく:
本当に色んな作り方があると思います。例えば、これもVol.2の話なんですけど、作詞ノートのシーンがあったじゃないですか、『笑って!』の作詞をする天海春香。これの前、最初に出したプロットには日記ってあったんですけど、僕、日記小説大好きで。日記の中身が全部小説になってるってやつです。めっちゃ好きなんです。それこそさっき紹介した『松葉』っていう僕のオリジナルの作品は、日記のシーンと主人公の視点のシーンがコロコロ切り替わるんです。だから主人公がどこまで日記を読んだのかとか、どういう気持ちなのかみたいなのとリンクしてるように見えるんですよ。また僕のオリジナルの2つ目の作品で『四葉 花言葉「私のものになって」』というものがあります。

ゆきますく:
これは全編通して日記です。

そにっぴー:
あー、それ(日記の効果)を意識してってことですよね。

ゆきますく:
作中にあるであろう主人公の日記を全て書きました。なかなか効果的だと思います。

そにっぴー:
それやったことあるなあ……これも小説になるのかわからないんですけど、私が昔書いた、SSっていう分類になるのかもわからないんですけど、入院しちゃった春香に手紙が届いて、最初はその手紙をずっと載せていって、最後に春香とPのやり取りを載せるっていうのをやったことがあります。

【天海春香生誕祭2021 記念SS】天海春香様へ | sonny-harukaのブログ (ameblo.jp)

ゆきますく:
めっちゃ面白いですね。

そにっぴー:
こういうのとも繋がっているのかな、と聞いてて思いました。

ゆきますく:
そうですね、僕ら人間って、話しているときの人格と書くときの人格が違うと思うんですよ。なので、日記を書くとその人の表じゃない裏の部分が見えてめっちゃ面白いなと思うんですよね。人間って結局、分からないものを知りたいじゃないですか。知的好奇心の塊じゃないですか。だから日記って、他人の日記を読んでるだけですごい罪悪感と共に喜びがあると思うんですよ。

そにっぴー:
あー、なるほど。

スタントン:
秘密を知ってしまったかのような……

ゆきますく:
そうそう。僕にはこれが地の文にもあると思ってて。地の文って本当は語られていない言葉だから、他人から見えるはずないんですよ。なんだけど、それを通じて主人公だったり天海春香だったり、登場人物の心情が分かるから、面白いんですよ。それこそ瞑ってた左目を開いた瞬間に見える新鮮な景色みたいなのに僕らはこころを奪われると思うんですよ。だから地の文ってもっと面白いんだよっていうのを感じてほしい。時代には逆行しますけど。時代はどんどん音声文化、動画文化になって、小説よりも漫画が読まれる時代なんで。情報量が一気にドバっと入ってきた方が人は処理しやすいっていうのがだんだん明らかになってはいますけど、地の文からじゃないと得られない栄養素が僕はあると思うので、もっともっと感じてほしいですね、それを。

そにっぴー:
いいですね。地の文って大変そう・難しそうっていう頭でいたんですけど、面白いものって考えていくとちょっとまた前向きな気持ちになれますね。

ゆきますく:
そう、そのときじゃあ主人公や天海春香や登場人物が何を見てるんだろうっていうのを考えるのってすごく面白いと思うんですよ。
僕は登場人物が7人も8人も出てくる小説を書くのが苦手で、僕はいつも3人くらいで留めちゃうんです。でも3人くらいだったら、書いてるうちにちゃんと頭の中で想像できるんですよね。セリフ書いてるうちにその人の気持ちになっちゃって。
だから天海春香のセリフを書いているときに、僕は天海春香に近づいていると思うんですよ、すごく。限りなく、距離がゼロに近くなるくらい近づいていると思うんですよね。天海春香のセリフを書いているその瞬間だけは……さっき「届かない光」と言っておきながら。でも、セリフを書いているその瞬間だけは近づいていると思うんですよ。だけど、じゃあそれを一旦置いておいたうえで、そのセリフを書いているときに僕は天海春香の視点を借りて何を見てただろうってのを地の文に起こしてみると、またこれも面白いんですよ。っていう、天海春香の視点を借りるじゃないですけど、同じものを見てみると、僕の目から見えなかったものが見えるはずなんです。もう一つの目だから。それは書いてて面白いし、読んでる人からして面白くなるようには後から調節できるので。まずは書くことに対して面白いんだというのはいろんな人に知ってほしいです。

そにっぴー:
それはそうですね。Vol.4の後書きに、このネット全盛期の時代に、作るのに何か月もかかる紙の本なんで出す意味あるんすか? みたいな話を書きましたけど、そこでは「敢えてスローであること」というのをオチとして書きました。小説に限らずの話にはなっちゃいますけど、天海春香のことを考えながら文字を書くことって楽しいよねっていうのは大事な(学会の)原点ですよね。

ゆきますく:
大事だと思います。好きなことを考えながら好きなように文字を書いて、それを好きなように捉えてもらえるのってすごく素晴らしいことやと思ってて。Win-Win-Winだと思うんですよね。

そにっぴー:
そうですね。これもちょっと極論ですけど、「文字を書く」ってほとんどの人が恐らくできることですよね。「動画を作る」「絵を描く」となった瞬間にトレーニングをしないと出来ないことになるんですけど、文字を書くって、最初の一歩はそういうの無しに始められることです。もちろんそこから先に、やりたいものは書きたいものを書こうとすると、トレーニングが当然必要にはなるんですけど。天海春香学会を、春香が好きな人の(文字を書く)はじめの一歩にしてほしいですよね

ゆきますく:
仰る通りで、そうですよね。はじめの一歩になればいいなあ。
僕は動画も作れるんですけど、でも天海春香の動画を上げるかっていったら、上げないんですよ。難しいから。もっと言うと、立体的に描いてなきゃいけないから、最初から。
漫画とか絵とか音楽とかと(文字を書くこととで)全体的に違うものって何かというと、最初からイメージを持たなくていいんですよ。文字を書くときって、書きながら頭の中に図が出来上がるんですよ。絵とか動画とか音楽とかって、最終的にどれくらいの尺になって、どういう形になって、みたいなのが既に立体的に無いと……たとえばリボンの位置が右上になるんだけど、じゃあ右上ってどこらへん? みたいなことを細かく決めるために、じゃあもう片方、右のリボンを決めたら左のリボンも決まるじゃないですか。っていう風に、構図が決まってくるからこそ最初から大きい全体像がぼんやり頭の中にあると思うんですよ、絵描きの方って。動画だったら、尺が何分で、このシーンが何秒で、こういう風にカットが入って、このシーンとこのシーンの切り替わりはこうでっていうシーンごとに持たせる役割みたいなものが、全体像が決まってるから収録ができて、撮影ができて、録音ができるんですよね。でも小説って、どのシーンから書いてもいいし、勝手に書き換えたりするのも楽だし、セリフだけ書いた後に左目開いて地の文を書くってやってると違う世界が見えて全部修正できるんですよ。そこに文字書きとして、面白さがあると思うんですよね。読むほうは疲れるんですけど。

そにっぴー:
ええ、ええ(笑)

ゆきますく:
ほんと僕の作品、毎回読むのに苦労する作品ばかり生み出してて、コイツ……って感じなんですけど……

そにっぴー:
いえいえいえ。いやあ……楽しい話が聞けました。すみません、私がテンション上がって30分も突っ込んじゃって……。

ゆきますく:
いえいえ、僕はむしろこういう話なんてする機会が無いから、してくれるとすごく嬉しいですね。
天海春香は、前も言いましたけど、無限の色があるから無限に書き続けられるんで、創作の入り口としてオススメです

そにっぴー:
なるほど、そういう視点もあるのかあ。

ゆきますく:
ここ最近オリジナル作品を全然書いてないんですけど、それって大学時代に書き切っちゃったからなんですよね。

そにっぴー:
書きたいものを書き切った、という意味ですか。

ゆきますく:
そう。それこそさっき言った日記丸ごと載せる小説書いたとか、全部セリフの小説書いたとか、むしろほとんど地の文の作品――セリフ2か所くらいしかないみたいな作品書いたりとか、楽曲コラボ――いわゆる既にある楽曲の歌詞や世界観をベースに書いた作品とか、セリフと地の文が全く違う視点すぎて乖離している作品とか、書いたんですよ。で、満足しちゃってるんですよ、その作品に対して。自分が普段頭で考えていることを飛行機に例えたらどうなるんだろう、みたいな妄想の話も書いたんですけど、僕の中では満足しきっちゃってて。短編集を載せているんですけど、ここから追加するのってできないんですよね。似たような話になっちゃうから、面白くなくて。
前にも「百瀬莉緒の短編は書き切った」って言いましたけど、インタビューのときに。百瀬莉緒の短編は、僕はあの5万字で出来上がってるんですよ。

ゆきますく:
でも天海春香は、足りないから、書いちゃう。

そにっぴー:
いやぁ、良いですねえ……。

ゆきますく:
なので創作の入り口として単純にオススメです、天海春香はいいぞ。

スタントン:
天海春香の創作論とかも、皆さんを集めて聞いてみたりしたいですね。

ゆきますく:
いいですね。僕そういうの話す機会とか、そういうのをちょこっと考えている人と話す機会がほしいので。だからこそ、書いてくれる人が増えないとできないなあと思っているので……。

そにっぴー:
まあそれこそ……〆の話ですけど、春香学会じゃなくてもいいんですけど、小説を書いてみたい人を対象に、初歩的な話でこういうことをやるといいよとか、逆に僕らができるとしたら、論文チックなものを書きたいときにこういうことを気にするといいよという話はできると思うんです。書き方の話ができると需要があるかもしれないですね

ゆきますく:
僕は他の人の担当編集みたいな仕事もやってみたいんですよ。それこそ、今後学会に上げたりとか、コミケやISFで出したい作品がある……でも自分ひとりで書いてて、こんなものが作品として認められるのか分からない……みたいな人と、バチバチにぶつかり合っていい作品を作りたいんですよ。部活みたいに

一同:
おぉ~。

ゆきますく:
動画とか絵描きの方は、割とそこらへん感じられないのかな? あまり不安に思ってる人を見たことがないので分からないですけど……。文字書きって常にその不安ばっかりなんですよね。本当にこれでいいんだろうか、これで受け取ってもらえるのだろうか、みたいなこととの戦いなので、部活みたいにバチバチやりたいですね。

そにっぴー:
需要として覚えておきましょう……!

―――
じっくりとゆきますくさんの創作論に触れることができたインタビューでした。
天海春香学会Vol.4はBOOTHにて頒布中です。また、既刊も一部ございますのでご興味のある方はお手に取っていただけますと幸いです。

また、天海春香学会はISF12への参加が決定しました!
こちらも是非続報をお待ち下さいませ!


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