【学会誌サンプル】なぜ春香は「千早ちゃん」と呼ぶのか

掲載:天海春香学会 学会誌 Vol.1
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著者:スタントン
※noteに投稿するにあたり、一部学会誌と体裁が異なりますのでご了承ください。

【序論】

 天海春香における人気カップリングといえば、如月千早とのコンビ、通称「はるちは」だろう。例えば、イラストを中心にしたSNSである「pixiv」にて、「はるちは」タグを含む作品投稿は2,906件(※1)もあり、星井美希(はるみき)や高槻やよい(はるやよ)の投稿と比較して桁違いに多い。本稿ではまず、春香による呼称を整理する。そして、なぜ「千早ちゃん」という呼び方をするのか、呼称判断フローチャートを設計して考察する。最後に、「はるちは」の関係性について春香の視点から検討する。

【1.呼称の整理】

 『アイドルマスターミリオンライブ!シアターデイズ』(以下、ミリシタ)では、登場アイドルとして春香、千早らいわゆる「765AS」の13人と、39プロジェクトの39人、家庭用ゲームでライバルとして登場した、961プロ所属のライバル2人が出てくる(※2)。有志がまとめた呼称表に従うと、春香は彼女らに対して次のような呼び方をしている。

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図1:天海春香による他アイドルへの呼称分類

春香による呼称は①さん付け②呼び捨て③ちゃん付けの3つに分類(図1参照)可能で、一部の例外を除けば、呼称を使い分ける際のポイントは2つの段階に分かれている。

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図2:春香による呼称判断フローチャート

最初のポイントは「年齢」であり、四条貴音や二階堂千鶴といった、17歳の春香から見て年上のアイドルには基本的に「さん付け」を用いている。年齢によって選別された次のポイントは「関係性」である。ミリシタでいうところの「後輩」や、961プロ所属のアイドルには「ちゃん付け」を用い、いずれにも該当しない場合には「呼び捨て」を用いる。
 ここで注目したいのは、「ちゃん付け」の分類のなかに千早が居ることである。
 例えば、詩花は961プロのライバルであり、我那覇響も元961プロのライバル(※3)であるが、千早はそうではない。ライバルや後輩といった関係には該当しないにも関わらず、なぜ春香は、千早を呼ぶときに「千早ちゃん」と呼ぶのだろうか。その理由を、春香が普段付き合っている友人への呼称に求め、考察する。

【2.友人に対する「ちゃん付け」と「呼び捨て」の違い】

 各アイマスの作品にて、春香が普段付き合っている友人の名前を明かすことがあり、その呼び方に千早を「ちゃん付け」で呼ぶ理由が隠されている。ここでは、友人の例として「あきちゃん」、「恵子」、「トモコ」の3人を挙げる。

・「あきちゃん」
キャラクターマスター(※4)内のショートストーリー『耳をすませて~天海春香の場合~』に登場する春香の友人である。この話で「あきちゃん」は、春香が「小西君」に話しかけているのを目撃し、そのことを茶化しにくるクラスメイトとして登場する。

「春香、おはよう! みーたーぞー!」
友達のあきちゃんが、なんだかニヤニヤして声をかけてきました。

・「恵子」
無印(※5)の休日コミュに登場する友人である。セリフはないものの、休日にクラスの女子同士で遊びに行くことになった「恵子」が、待ち合わせのために春香の携帯へ連絡してくる。
なお、春香は「恵子」に対しては「ケイ」と呼んでおり、電話の様子を聞いたプロデューサーは「恵子」を男友達だと勘違いする。


P「でも、今のって、やっぱり男友達じゃないのか?だったら別に、隠さなくても……」
春香「え?だから違いますって。今のは恵子って子で……」


・「トモコ」
MA2(※6)のトークパートに登場する友人である。収録中の春香が、趣味である長電話を披露することになり、携帯で連絡する。

トモコ「はいはーい?」
春香「あ、トモコ?ごめんちょっといまいいかな?……あ、OK?えへへ、ありがとう」

ここで注目すべきは、それぞれの呼称の違いである。クラスメイトの「あきちゃん」には「ちゃん付け」を用い、休日に遊びにいく間柄の「恵子」や、長電話をするときに真っ先に連絡した「トモコ」には「呼び捨て」を用いている。「あきちゃん」の情報が少ないとはいえ、「トモコ」及び「恵子」と春香との関係性を考えると、呼称判断の新たな基準を導き出せる。すなわち、①春香が同年代の友人を呼ぶときは基本的に「ちゃん付け」である②遊びに行ったり長電話をしたりするくらい、相手との関係が親密だと判断した時点で「呼び捨て」になる、の2つである。


【3.なぜ「千早ちゃん」なのか】

 春香の友人に対する呼称の違いを確認したうえで、本稿先述のフローチャートを改良する(図3)。3段階目のポイントとして、「十分親密か?」という項目を設けている。春香は後輩やライバルだけでなく、「友人ではあるが十分親密だと判断していない」者に対しても「ちゃん付け」を用いることがわかった。

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図3:春香による呼称判断フローチャート(改)

そしてようやく、なぜ千早を「ちゃん付け」で呼ぶのかが説明できる。例えば、春香が美希と長電話をしたり、やよいと休日に遊びに行ったりすることは、それぞれの性格上想像に容易い。しかしながら、千早とそれらを自然に行うのは、千早の性格、嗜好上少々ハードルが高く見える。もし春香と千早が休日に遊ぶとするならば、「千早ちゃん、○○に行こうよ」「美希とやよいも誘ったんだけど、千早ちゃんもどうかなって」という具合に、春香が千早をぐいぐい外へ引っ張り出す構図になるだろう。
事実アニマス(※7)20話では、春香が千早の家を何度か訪問したうえで「一緒に歌いたい」と訴えているし、プラチナスターズ(※8)のコミュでは、千早が任されたバーベキューの準備に協力し、「バーベキュー楽しいよ」と下ごしらえや包丁さばきを率先して手伝う春香の姿を見ることができる。

【4.呼称と行動で見える春香の努力】

 ここで特筆すべきなのは、春香は決して千早のことを放っているのではなく、むしろ率先して千早と関わろうとしている点である。確かに現時点では、春香は千早との関係性について “「ちゃん付け」程度”だと判断していると思われる。一方で前述の春香の行動からは、現時点の関係からもう少し距離を縮めて「呼び捨て」の関係になろうとする春香の努力が垣間見える。ムビマス(※9)やミリシタでの『LEADER!!』のストーリー(※10)で描かれたように、傍から見れば十分仲が良いように見える「はるちは」だが、春香自身は千早ともっと仲良くなりたいとか、あるいは、もっと仲良くなれると思っているのかもしれない。春香が千早を「ちゃん付け」で呼ぶこのメカニズムと、春香が千早に積極的に関わろうとする行動とが相まって、「はるちは」の魅力が増しているのかもしれない。

【結論】

・天海春香は如月千早のことを「千早ちゃん」と呼んでいるが、それは、春香が千早との関係を「まだ十分親密ではない」と判断しているためだと思われる。
・そして、春香は千早との距離を縮めたいと思って行動している可能性が高く、「ちゃん付け」の呼称判断と相まって「はるちは」の魅力が増しているかもしれない。


謝辞

友人への呼称事例にて、野武士Pにご協力いただいた。感謝申し上げる。

(脚注)

※1 pixivでの#はるちは 検索による。(閲覧日 2020年1月1日)
 なお、同日時点の#はるみき、#はるやよの作品数はそれぞれ437件、341件であった。
※2 2020年1月1日時点。
※3 我那覇響は2009年発売のゲーム『アイドルマスターSP』にて961プロ所属アイドルとして登場し、春香とはライバルの関係で接している。その際に春香は「響ちゃん」と呼んでおり、当時の呼び方がいまも引き継がれている。
※4 キャラクターマスター:2005年に一迅社が発行した『THE IDOLM@STER キャラクターマスター』。曲の振り付け写真やキャストインタビューなどが掲載されている。該当シーンはP.20。
※5 無印:2007年にXBOX360用ソフトとして発売された『THE IDOLM@STER』。休日コミュは名前の通り、休日に発生するイベントである。
※6 MA2:2010年に発売されたCD『MASTER ARTIST 2 -FIRST SEASON- 01 天海春香』のこと。該当場面はトーク02の1分20秒付近より。
※7 アニマス:2011年放送のアニメ『THE IDOLM@STER』。
※8 プラチナスターズ:2016年発売のPS4用ソフト『THE IDOLM@STER プラチナスターズ』のこと。該当コミュは千早のランクEコミュ『バーベキューの準備』。
※9 ムビマス:2014年放映の映画『THE IDOLM@STER 輝きの向こう側へ!』。うまくリーダーシップを発揮できない春香に対して、千早は優しく寄り添う。
※10 『LEADER!!』のストーリー:ミリシタ内イベント『LEADER!!』イベントコミュ第6話『道』にて、夕日を見ながら物思いにふける春香を千早が見つけ語り合う。

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