【学会誌サンプル】君はミリシタ春香とのメモリアルコミュ2を覚えているか

掲載:天海春香学会 学会誌 Vol.1
(販売ページはこちら)
著者:そにっぴー
※noteに投稿するにあたり、一部学会誌と体裁が異なりますのでご了承ください。


序章 天海春香が変わるということ

もしかしたら今後、1番変わるのは春香かもしれない
(天海 春香とのメモリアルコミュ2)

 天海春香について語ろうとすると、「みんなのリーダーだ」「聖人のようだ」「いや、昔はもっと拗ねたり怒ったりしていた」「昔の春香も見たい」といった話題がよく挙がる。アケマス(※1)にその魂を宿してから今まで、春香が周りに与える印象は変化し続けた。15年という歳月を考えれば当たり前のことである。「9人中の1人」(※2)だった少女は、今や数百人を抱えるアイマス全体のセンターと評されることさえある。
 そして、現在絶賛展開中のミリシタ(※3)で、冒頭の台詞が登場する。ミリシタにおいて春香が「今後いちばん変わるかもしれない存在」であるという公式声明があるのだ。15年間というメタ視点ではなく、ひとつのコンテンツ内で「変わる」と明言されている、その意図とは何か。私は次の説を提唱する。

 ミリシタ春香(※4)の在り方はメモリアルコミュ2で方向付けられ、それを具体化したのが『LEADER!!』のイベントコミュである。


第1章 メモリアルコミュの春香

 「(各アイドル)とのメモリアルコミュ」は執筆時点で1~5が用意されている。このうち1~3は既に全アイドルに用意され、またその概要も基本的には共通している。

 1:スカウト、オーディション等の様子(765AS(※5)は39プロジェクト(※6)始動当初の様子)
 2:宣材写真撮影の様子
 3:初ステージ直前の様子

 この流れの中で、各アイドルの基本的な性格や良いところ、問題点、そして今後の抱負や可能性が語られている。春香の場合は次のようにまとめられる。

 1:仲間が増えるのを楽しみにしつつ、先輩になるのを不安がる。そして転ぶ。
 2:新人に囲まれて不安になっていたが、既に仕事を知っている分手本になれると励まされる。
 3:ステージ直前で空回りするも、自分らしく頑張ることを決意する。

 ここで私が注目しているのはメモリアルコミュ2だ。その内容を次に詳しく記述する。
 宣材写真の撮影を順調に終えた春香だが、元気がない様子を見せる。プロデューサーが話を聞いてみると、春香は次のように39プロジェクトへの不安を口にする。

いざ、新人のみんなに囲まれちゃうと、やっぱり……私みたいな先輩でいいのかな、って。
先輩らしく、ちゃんとできてるかなって。仕事も、細かい所が気になっちゃったりして……。
(天海 春香とのメモリアルコミュ2)

 それに対してプロデューサーは、心配は俺の仕事だと断ったうえで、既に色々な仕事を経験している春香たちは、新人たちの手本として十分信頼していると伝える。先ほど春香が当たり前のように上手にこなしていた宣材写真の撮影も、新人だとそうはいかないことを気づかせる。元気を取り戻した春香は、次のように決意を述べる。

それじゃあ、プロジェクトの成功のためにも……。まずは次のお仕事をきっちりと、ですね♪
(中略)
新しい子達のためにも……、それに、私のためにも。
できることをひとつひとつ、やっていこうって思います♪
(天海 春香とのメモリアルコミュ2)

 これを受けて、冒頭の台詞がプロデューサー視点の地の文として登場し、コミュが終了する。

(プロジェクトの成功のために、か。頼もしいな。もしかしたら今後、1番変わるのは春香かもしれない)
(天海 春香とのメモリアルコミュ2)

 このコミュには、3つの注目すべき点がある。
 まず、コミュ開始時点の春香には先輩としての自覚が欠けている。仲間が増えることを楽しみにしつつも、自身が既に様々な仕事をこなしているという強みを生かす、という発想を持っていなかった。
 次に、春香は「私のため」と「新しい子達のため」という複眼的視点を持ち始めている。ひとりのアイドル天海春香として頑張るだけでなく、39プロジェクト全体を牽引する、という広いビジョンの芽生えがみられる。
 最後に、上記の複眼的視点の芽生えに気付いたプロデューサーが、春香を「今後いちばん変わるかもしれない」と評する。このことは、ゲーム的にはプレイヤー(=プロデューサー)が春香を評するただの台詞に過ぎないが、メタ的にはミリシタ開発チームが春香を「今後いちばん変わるかもしれない」存在と定義していることを示している。そして「いちばん」という言葉は、「ミリシタに登場する52人のアイドルの中で最も」と言い換えることができる。
 これらを受けて、序章で示した「メモリアルコミュ2において方向付けられたミリシタ春香の在り方」をまとめると、次のように言える。

ミリシタ春香は、39プロジェクトの牽引役として、他のアイドルよりも強い適性を持っている。そして、春香は今後その適性を発揮していく方向にゲーム内で変化していく。



第2章 『LEADER!!』イベントコミュの春香

 さて、春香が今後いちばん変わる「かもしれない」と評された後、その変化が具体的に描かれたコミュはあったのだろうか。私はそれがプラチナスターツアー(※7)『LEADER!!』のイベントコミュであると考えている。
 LEADER!!の歌唱者は765ASの全員であり、これはミリオンライブの展開の中では初の試みだ。そのイベントコミュでは、ついに劇場(※8)で765AS全員が出演する「オールスターライブ」の開催が決定し、それに向けて765ASのそれぞれが準備に臨む様子が描かれる。ここでは特に、第6話「道」と、エピローグ「夢」に注目する。
 第6話「道」では、オールスターライブ開演直前の春香と千早、そしてプロデューサーのやり取りがメインとなる。
 開演直前、春香は劇場の屋上で物思いに耽っていた。春香を探しに来た千早とプロデューサーに向けて、春香は今までの765プロの歩み(※9)を語る。春香は大変なこともたくさんあったとこぼしつつも、アイドルを始めた当初と今の気持ちを比較して次の様に話す。


アイドルになれてよかったって気持ちは、最初のころと全然変わらないの。
ううん、最初の頃より嬉しいくらい。これって、きっと……。
アイドルになって出会えた人たちが、みんな……
みんなみんな、素敵な人たちだからだって思ったんだ♪
(LEADER!! イベントコミュ 第6話 道)

 千早はそんな春香に、最初は違ったけど今は同じ気持ちだと伝える。プロデューサーは、そんな春香と千早に今まで765プロを牽引してくれたことへの感謝の言葉をかけるが、逆に春香と千早から感謝されてしまう。そして、春香は決意を新たにする。

私たちは劇場のみんなより、少し早く歩き始めただけの先輩ですけど……。
だから、これからも先頭に立って!自分の夢に向かって、どんどん飛び込んで行きますね!
(LEADER!! イベントコミュ 第6話 道)

 それを受けたプロデューサーは、地の文で次のように語る。

(夢や憧れは、それぞれが抱えているもの……だけど、誰か一人のモノでも
ない)
(いよいよオールスターライブの幕が上がる!頑張れよ、みんな!)
(LEADER!! イベントコミュ 第6話 道)

 そして3人は開演ギリギリになりながらも765ASのみんなと合流し、オールスターライブへと駆け出して行った。以上がイベントコミュ第6話「道」の概要である。
 続くエピローグ「夢」では、オールスターライブ後の打ち上げの様子が描かれている。その後半において、再び春香、千早、プロデューサーの3人の会話がある。春香は第6話で交わした会話を振り返りつつ、次の様に述べる。

〇〇Pさん。私が、今回の公演の準備が始まる前に言ったこと、覚えていますか?
これからも先頭に立って、自分の夢に向かって、どんどん飛び込んでいきたいって。
(中略)
この劇場で、『765PRO ALLSTARS』のみんなと一緒に、お客さんの声援に包まれていたら……。
もうひとつ、飛び込んでいきたい事ができました。えっと、うまく言えないんですけど……。
この劇場から始まる、私たちの未来!
この劇場の、765プロのみんなで一緒にみる、私達の夢……
なんだか、素敵だなあって思いませんか?
(LEADER!! イベントコミュ エピローグ 夢)

 千早もその夢に飛び込んでいきたいと告げ、3人は輝かしい未来に向けて決意を新たにするのだった。
 さて、ここまでのLEADER!!イベントコミュの抜粋部分を構造的に捉えると、次のように言える。
 まず春香は第6話で、今までの道を振り返る中で、これからも「自分の夢」に飛び込んでいきたいとしている。「自分の夢」とは何か。「アイドルになれて嬉しい」「今まで出会った素敵なみんな」という発言から、「仲間との関わりの中で、ひとりのアイドル天海春香として活躍を続けていくこと」と推定できる。
 次にエピローグで、「自分の夢」以外にも「飛び込んでいきたいもの」ができたと語っている。それは「私たちの未来」「私たちの夢」と言語化されている。オールスターライブの前後で、春香の意識が「変化した」ことがわかる。
 この変化は、第6話の時点でプロデューサーにより示唆されている。「夢はそれぞれが持っているものだが、一人だけのものでもない」という地の文である。
 総合すると、仲間との関わりの中で「自分の夢」に向かってアイドル活動をしていた春香が、オールスターライブを経て「39プロジェクト全体で共有可能な夢」を視野に入れ始めている。自分がアイドルとして頑張るだけでなく、39プロジェクト全体を牽引していく意識が新たにはっきりと芽生えたのだ。
 これらを受けて、序章で示した「メモリアルコミュ2において方向付けられたミリシタ春香の在り方の、LEADER!!イベントコミュにおける具体化」をまとめると、次のように言える。


ミリシタ春香は、39プロジェクトの牽引役として、他のアイドルよりも強い適性を持っている。そして、春香は今後その適性を発揮していく方向にゲーム内で変化していく。
 その端緒として春香は、自分の夢だけでなく、39プロジェクト全体で共有可能な夢を視野に入れるという変化を果たした。



終章 プロデューサーの存在意義

 これにて、「ミリシタ春香の在り方はメモリアルコミュ2で方向付けられ、それを具体化したのが『LEADER!!』のイベントコミュである。」という仮説の提唱を締めさせていただく。
 ところで、この論文のタイトル「君はミリシタ春香とのメモリアルコミュ2を覚えているか」には、2つの意味を込めている。
 ひとつは、最初期に実装されたコミュを今になって見返してみると、このように(少なくとも私にとっては)新しい発見があるということ。もうひとつは、「(各アイドル)とのメモリアルコミュ」という正式名称について再考してほしいということ。(各アイドル)、「との」、メモリアルコミュだ。アイドルがプロデューサー抜きに作れた思い出ではない。
 春香が「みんなの夢」を視野に入れる、と書くと、なんだか春香が大きく、遠い存在になってしまったような気がする。もう、プロデューサー不在でも春香は765プロの顔として自立していけるような感覚にさえ陥る。
 しかし、第2章をよく読んでほしいのだが、春香は「自分の夢」を薄めて「みんなの夢」を追いたいとは言っていない。あくまで「飛び込んでいきたいものが」「増えた」のだとしている。
 「みんなの夢」は春香とその仲間たちがその大部分をなんとかしてくれるかもしれない。しかし、「春香自身の夢」を叶えるには、私たちプロデューサー抜きではダメなのだ。
 春香Pを名乗る我々は、ミリシタ春香がどんなに前へ前へと進んでいったとしても、一対一で、アイドル天海春香と向き合う機会を忘れてはならないのだ。


(脚注)
※1 アケマス:アーケード版アイドルマスターの略。すなわち初代アイマス。
※2 「9人中の1人」:アケマス時代は、春香、千早、雪歩、伊織、やよい、真、律子、あずさ、亜美(真美と入れ替わりで活動していた)の9人しか選択肢がなかった。
※3 ミリシタ:アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズの略。Android・iOS向けに配信されているリズムゲーム。
※4 ミリシタ春香:ここでは、ミリシタ内で完結して説明可能な春香のキャラクター性を指す。
※5 765AS:765PRO ALLSTARSの略。ここでは、ミリシタに登場する52人のうち、「ミリオンライブ」の展開が始まる前から存在する13人のアイドル群を指す。
※6 39プロジェクト:ミリシタの設定は、上記の765AS組13人が活動する765プロに、新たに39人のアイドルを新規採用する「39(サンキュー)プロジェクト」に基づいている。
※7 プラチナスターツアー:完全な新曲がミリシタに実装され、主にその楽曲をプレイしてポイントを獲得していくランキングイベント。ポイント獲得に伴って楽曲に関連したコミュが解放されていく。コミュはプロローグ、1~6話、エピローグ(イベント終了後に解放)で構成される。
※8 劇場:39プロジェクトのために新たに建設された、765プロ自前の劇場を指す。
※9 765プロの歩み:ここでは、ミリシタ内での765プロの歩みを指す。メタ視点でのアイマスシリーズの展開をミリシタ内に落とし込み、アケマスから存在するアイドル(+真美)の10人から始まり、Xbox版で追加された美希が加入し、一度ライバルとして登場した後にアイマス2でプロデュース可能となった響と貴音が加入して、現在の765ASの13人体制に至ったという設定が初めて語られた。

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