見出し画像

“学会員”インタビュー⑲minecoPさん【後編】

⬇️前編はこちら⬇️


——

時間の奥行き

——他の方の文章やイラストについて、気になった作品はありますか。

minecoP:
じゃあ、イラストから行きましょうか。まずはもう、ミワのいぢさんですね。
(イラストの元が)動画であることは存じてますけど、春香との日々が時系列的に並んでいて、基本的に春香を大写しにしている絵が多いのに、その表情やポーズの雰囲気だけでどういう場面だったのかがわかるんですよね。ずっと春香の顔が並んでいるだけなのに、春香との日々が走馬灯のようによぎるんですよ。
それで、「貴方にとっては一瞬でも 私にとっては永遠だった。」って言葉が書いてあるんですけど、私たちはこの学会誌をめくったとき、一瞬でこのページの全部が目に入っちゃうじゃないですか。だから、私たちにとっては一瞬なんですけど、絵のなかの春香にとっては永遠に感じられるほどの大切な日々なわけであって、時間の奥行きがあるんですよ。

——奥行き、ですか。

minecoP:
私たちが体感する時間と、ページのなかで流れる春香の時間とが違うんですよね。それを、この絶妙に選んだカットで表現するのがすごいんです。いやあ、1ページでインスタントにつらくなる(笑)。

——イラストを見たときの私(そにっぴー)の感情を、いま言語化いただいた気がします。

minecoP:
それは良かったです。言語化しないと、頭がおかしくなりそうな感じがしました(笑)。これだけでも2000円の価値があると思います。個人で絵コンテを出してほしいくらいですよ。

自然な表情

minecoP:
普段からななみんのイラストを褒めてるのですが……私、人の日常生活が好きって先ほど言ったじゃないですか。ななみんの描く絵って、かなり春香さんが日常生活を送ってる絵だと思うんですよ。「衣装キメてポーズ!」みたいな感じではなくて、いま目の前にいる春香の自然な表情を切り取ってくれるんです。


minecoP:
Vol.2の表紙に関しては、不安げ、儚げじゃないですか。普通アイドルを描くときって、笑顔で派手な衣装を着ているイラストを描きがちだと思うんですけど、だからこそ、清楚でシンプルなワンピースを着て、笑っていないイラストをあまり見かけないので、貴重だと思いました。春香の表情を切り取る、見たことのない春香の表情を見せてくれる、という点については先ほどのミワのいぢさんと共通していると思います。

空間の奥行き

minecoP:
鬼ヶ島もやこさんのイラスト……ウエディングっぽいような、人魚姫っぽいような春香さん。この方のイラストは時間じゃなくて空間に奥行きがありますよね。余白があって、春香の顔自体は引きで小さく描かれているんですけれど、「この空間に春香がいる」という存在感をしっかり描けているんです。雰囲気をしっかり確立されていますし、線の密なところ、疎なところのメリハリがあるので、視線の誘導が上手いんですよ。私もイラストを描くので、技術的な評論っぽくなってしまって恐縮なのですが……。

——運営はイラストを描けないので、ややもすると「いいな」くらいの感想しか出てこないことがあるんです。技術的な面も含めて感想を言ってくださるのはありがたいです。

minecoP:
次はイラストでも参加してみたいですね。うーん、でもモノクロでちゃんと描く技量がある気がしねえや(笑)。

——もやこさんとのインタビューでも伺ったのですが、モノクロのほうが難しいのですね。てっきり、色をつかわない分カラーよりも簡単かと思っていました。

minecoP:
そうなんですよ。モノクロって濃淡と明暗じゃないですか。そこに色を付けることで色相ができるので、文章に例えれば語彙が増えるんですよ。「何万色、何千万色」っていう表現を思い浮かべていただくとわかると思うのですが、文章を書く時に辞書1冊分の語彙が使えないのと同じ感じで、ものすごい縛りプレイなんです。そういう感覚なので、私のなかでのモノクロイラストって、使える技法が少ないなかでの勝負になるんです。

スタンス

——ありがとうございます。文章のほうではいかがでしょうか。

minecoP:
まず最初に、主催のお二人に対する「やりやがったな!」なんですけど、私の前にらぁーたPさんの文章(※「私にとっての天海春香」)が載っているのに驚きました。私の作品って、現実世界に天海春香が存在する次元の人の記述じゃないですか。一方のらぁーたさんは「天海春香は一人の人間であり、アイドルだ。」と結論を出しているし、春香のことを一人の人間として認めた人が私の文章の前に来るのが、流れとして美しすぎるな、と思いました。

——(そにっぴー)ですって、スタントンさん。

——(スタントン)狙いました(笑)。

minecoP:
私、読み始めたときに目次を見ていなくって、皆さんの感想を見たときに「あっ、(自分の作品は)後ろのほうなんだな」とは思っていたんですが、らぁーたさんの文章を読んだあとに急に自分の文章が来たので「やりやがったな!、最高の演出をキメてきやがったな」って思いましたね。らぁーたさん→私の流れをしてくれたので、(自分が主催に対して持っていた)期待に応えていただいた感じです。

——作品をより楽しんでいただけるように順番を意識しておこうと思っていたので、そう言っていただけて良かったです。

minecoP:
らぁーたさんの作品の話に戻りますけど、私、二次元の彼ら・彼女らに対して「キャラクター」って言うのがあまり好きではないんですよ。(二次元の彼ら・彼女らも)人間や人格として捉えているので、たまたま肉体がないだけであって、存在しないというわけではないというスタンスなんですよ。だからこそ、らぁーたさんみたいなスタンスの方がいてくれることがすごくうれしかったですね。

恐れなくていいという提言

minecoP:
その流れでいうなら、焼肉のおーずさんの作品(※「リボンは何色?」)も近いのかなって思います。

minecoP:
キャラクターっていう存在は、肉体が存在しないからいろんな語り方をされる人たちなんですよ。だから、(この作品については)いろんな語り方をされていることをメタで把握して、取捨選択する話だと受け取ったんです。かつ、「俺はこうなんだ、でもこういう人もいていいから元気だしていこうぜ」のような、恐れなくていいという提言っぽいものを感じました。そのスタンスが好きですね。

——恐らくそういうことを言いたかったのでしょうね。なかなか、おーずさんも話題になることが多い方なので……

minecoP:
あ、そうなんですか。最初の導入の時点で「この人燃えたのかな?」とは思いました。まあ、学級会はどの界隈でもありますから、そんなこと気にせずに好きなもの追いかけていこうぜ、という気持ちを(焼肉のおーずさんから)感じましたね。

壮大なoverture

minecoP:
最初の"agreement"(※とらきちPさん作)。専属契約書ですね。作品自体の話とは少しずれるのですが、これが最初に来るとワクワクするし、安心するんですよ。(学会誌は)天海春香のことを「二次元のキャラじゃん」と冷笑する本ではないことがありありとわかるんです。
作品の内容についてですが、芸能プロダクションの月極の給与が安すぎんか?という気持ちがあったり、レッスン料についての記載がなかったり、もう少し詰められるだろうな、という感じはあります。令和2年の契約書であれば、絶対SNS運用の条項が入るだろうし、インターネットでの言及において、どこまでが保護されて、どこからが自分の責任なのか、と明確にしていると思います。
ただ、高木社長の性格的に、765プロは大らかでアイドルに対しても信頼しているということの表れだと捉えることもできるので、想像の余地もあって面白いですよね。天海春香が存在するということを感じさせてくれる、壮大なOvertureでした。

運営の文章について

minecoP:
そにっぴーさんの文章(※「天海春香の運命論」)に関しては、すごく丁寧で、「お作法」に則ってるなって思いました。まずね、注の付け方が完全に論文を書きなれている方の書き方です。で、最後の結論のところになると読者に手放すじゃないですか。きっちりかっちり書いていることを自覚している人の書き方だと思いました。一つひとつ積み重ねていって、自分なりの答えを出すんだけれども、それをひっくり返してもいいんだ、みたいな書き方ができてるんですよ。押し付けがましくならなくていい文章だな、と思いました。


minecoP:
あ、いま見返すと、スタントンさんの文章(※「天海春香の謎 ー765プロに入るまでの空白期間ー)もかっちりした注の付け方をされていますよね。

——(スタントン)私のその注の付け方は、学んでいた政治学科のスタイルなのですが、専攻によってスタイルが全く異なるので面白いですよね。

minecoP:
そういうのってありますよね。引用は斜体にするとか、哲学系の人は読点(、)ではなくてカンマ(,)を使うとか。

——(そにっぴー)私は普通に読点を使っていました。卒業論文のときの癖ですね(笑)。

こういう余地もある

minecoP:
あとは……本棚の考察(※「天海春香の部屋の本棚に並ぶ書籍に関する考察」)が好きです。

——なかやまさんの作品ですね。

minecoP:
ええ。考察を読んでわかったのですが、数学の参考書が増えているんですよね。そんなの気づかなかったです。(アニメの背景として)適当に線を引いて塗っただけの本棚ではなく、5教科ある程度揃っていることがわかっただけでも感動しました。
ただ、突っ込むとしたら、春香はこの大学を受験するのであれば学習科目はこんなに要らないかもしれないです。二次も(科目数自体は)そんなに要求されないでしょうし。なので、(春香は)学校の勉強を真面目にしているのかな、という感じがしました。

——確かに、受験に不必要な科目だからって切り捨てる感じはしないですよね。

minecoP:
すごく春香さんらしいなと思いました。だからこそ、管理栄養士っていうのは、アイドルじゃない別の選択肢なので、それに対する熱意って(アイドルと比べると)そこまでないのかなとも思いました。あと、その大学を狙うなら、数学の参考書が増えるタイミングで赤本があってもおかしくないぞ、って思いました。

minecoP:
あと、進学校のペースからすると、高2の冬で数ⅡBを終えて数ⅢCに入るのはちょっと遅いかな、と考えました。そこまですごい進学校ではないのかなとか、(赤本がないので)大学受験に対して迷いがあるのかもしれないな、とも思ったので、考察の余地がありそうです。「ここが抜けてるよね」という感じではなくて、「ここにはこういう余地があるよね」「こういうことも考えられるよね」みたいな提言なので、そこも含めて楽しんでもらえたらなと思っています。

あと、プレクスターという英語の辞書がないという話がありましたが——もしかしたらの話なんですけど——英語の参考書にブレイクスルーというのがあるので、語感だけそこからとって、見た目はジーニアスにしたのかなと思いました。

minecoP:
延々と自分の受験時代の話ができちゃうな(笑)。非常に語るべきことの多い楽しい文章でしたね。

——大部分の人が高校生を経験しているのですが、目指す進路によって必要な科目や使った本が違うので、そこに注目するのって面白いですよね。

minecoP:
ですよね。本棚に並んでいる本に関しては、進学校のラインナップだとは思うんですよ。青チャーだし、ロイヤルだし。でも、花言葉(の本)はかわいいですよね。「ああ~推せる!」ってなりました。

レバニラを食べる男は好きじゃねえ

minecoP:
別の作品の話をさせていただくと……SSの話をしましょうか。ゆきますくさん、たくさん(感想を)語っていただきありがとうございます。

minecoP:
本人には「こういう感想です」って許可をとっているので話すんですけれど、私はこのSS(※「ゆめの続きの話をしよう」)に出てくるプロデューサーが嫌いなんですよ。こいつ……自分勝手じゃないですか(笑)。
「自分がこれを言ったら、春香はどう感じてどう追い詰められるのか」ということを考えない人といいますか、春香の気持ちを想像することがあまりない人だなって思いました。ちょっとモンペ(モンスターペアレント)発動しちゃう。「お前、それ以上春香に近づくな~!」って(笑)。でも、そう思わせてくれるっていうのが本当にすごいことなんですよ。年頃の女の子がいるのにレバニラ食ってるとか、ブレスケア常飲だぞ!って。

——(スタントン)私、このレバニラのシーンが好きなんですよ。このプロデューサーの人となりがわかるじゃないですか。「においが気にならないのかな」とか「安いから買うよな」とか、高校卒業したての若い会社員の昼食のチョイスとしてすごく「らしい」んですよね。

minecoP:
そうですよね。結局、食べたものが自分になるので、この人がレバニラを食べることでそういう人だと分かりますし、すっごくいいんですけど、私はレバニラを食べる男は好きじゃねえ、って感じです(笑)。経験が浅くて……「その浅い経験で春香に触るな~!」って感じがしました。

画像1

minecoP:
あと、文章の長さも私とゆきますくさんは対極的ですよね。私の小説は4976文字くらいだったかと思うのですが……

——そうですね。パツパツだったと思います。

minecoP:
狙ったんですよ。レギュレーションのなかに絶対収めようと思っていました。印刷代という名目ではあるものの、同人誌ってお金を要求するじゃないですか。ありがたいことに私自身にファンの方もいらっしゃって、「天海春香は知らないけどminecoさんが書いてるなら買おう」っていう方もいらっしゃるんですね。だから、同人誌を出すときは「その(本の値段)分の価値がある話」を書けてるのかな、って意識して書いているんです。書けば書く分、その分の価値を出さなきゃいけないので……仮に20000文字であれば、私の文章(5000文字)の4倍の価値を出さないといけなくなるので、合同誌に参加する場合はそれを背負いきれないなって思ったんです。やるなら、価格をコントロールできる個人誌でやるべきかなって思いましたね。

実は、ゆきますくさんと今後対談する予定があるんです。そこで、どういうスタンスなのかなって聞いてみたいですね。

——対談ですか。それは面白そうですね。

minecoP:
今後の相談次第なんですけど、何かしらの形でお見せできたらいいなとは思います。

色が連れてくる印象

minecoP:
あと、私は短歌詠む人間なので、あんたれす/すこーぴおんPさんのこの作品(※「色付きの窓、翡翠の塔」)もいいなあと思いましたね。「あ、他人が詠む短歌ってこんな感じなんだ」って。

——ご自身でも詠まれるのですか。

minecoP:
そうですね。学会誌が出たときにも一首詠んだんですが……いままで、自分で詠んだ短歌か、好きな詩人が詠んだ短歌しか見たことがなかったんです。良くも悪くも、アマチュアの方が詠んだ短歌を一切見ずに来たので、「第一村人発見!」みたいな感じになりました。
短歌自体のお話をするのであれば、「色がすごい濃い」短歌だなと思いました。

——「色」ですか。

minecoP:
色のイメージを押し出す短歌だと感じましたね。短歌って五・七・五・七・七で風景とか、時間、空間の奥行きを見せるのが醍醐味なんですけど、この和歌については色と光の印象が強いなと思いましたね。翡翠とか琥珀とか赤色とか色の単語が多くて、「ずるい」と思いました。

——ずるい、とは?

minecoP:
色が連れてくる印象っていうのがあるので、短歌自体の印象が多少固まるんですよね。
私も使う手法だし、だからこそわかるんですけど、読む人間に対して想像の余地を奪うことができるんです。色というのは強制的に風景を見せられる強い言葉なんですよね。だから……うまく着地できないんですけど、「ずるいなあ~!」って思いましたね。私であれば、色を使わない歌を五首詠んで、その後に、連歌全体の印象を意味づけるように色を使った歌を詠む、という縛りを設けるくらいの慎重さで色を扱います。なので、私と違うスタンスの人だとわかって、読んでいて面白かったです。
あと、この人、春香になりたいのかな……?とか、1stVISONの春香に囚われている、こだわっている感じが強いなという印象を受けました。全体的にノスタルジックでセピアな感じでいいなって思いました。

愛あるガバガバ実質

minecoP:
私、ハルカニウムさんに連載してほしいんですよ。

——今回のじんさんの生化学のやつ(※「天海春香によるエネルギー産生の謎 〜代謝におけるハルカニウムの働きについて〜」ですか。

minecoP:
代謝の話を真面目にしつつ、最後の方で「そういうことです」って言ってるのすごい好きなんですよ。
ニコニコ動画にけものフレンズ2の話を聖書に結び付けた「けものフレンズ2地獄説」っていう動画があるんですけど……

——え、そんなのがあるんですか。


minecoP:
非常に出来がよくて、「彼はルシファーのメタファーである」みたいに、全てメタファーで展開されていくんです。そういう、オタクが提唱する「ガバガバ実質」みたいなのがすごく好きなんです。じんさんの文章も、本質が分かったうえで、敢えて実質で殴ってくるような愛あるガバガバ実質で、かつ勉強にもなるので、これを月イチくらいで連載してほしいなと思いました。

だからこそ見える視点

minecoP:
私、Kabazirouさんの文章(※「天海春香とラグビーの共通点」)も好きです。Kabazirouさんの文章について(自分は)ツイートしなかったのですが、「褒めたら主催者さんが気を悪くせんか?」って政治的な意図があったんです(笑)。

——大丈夫ですよ(笑)。締め切りについては多少アレですけれど、わかっていじっているので。

minecoP:
書いている内容はすごく良くて、領域横断みたいな感じですよね。春香のいいところとか、春香の特徴を抽出して抽象化して、他のものに当てはめて似ているよね、っていう作業って、春香のことをしっかり考えてるし、当てはめた先のことも好きなんだろうなって思いました。これを最初から出していればなって思いましたね。インタビューを読んだんですけれど、春香に対する情熱がそんなに無い、というのもいいと思いました。

——おお、そうなんですか。

minecoP:
だからこそ見える視点
というのもあるんですよ。前のめりにならずにある程度距離を置いて、かつ他の好きなものに軸足を置いている人だからこそ書ける文章っていうのは面白いんですよ。むしろ、Kabazirouさんが春香そっちのけでラグビーの話を書いても見に行くよ、って思いましたね。
自分の好きなものと好きなものを合体させていくといいぞ、と思いました。それこそ、私だったら動物が好きなので、「天海春香がもしこの動物として生まれていたらこんな生態でこんなポジションで~」とか書きますね。Kabazirouさんの文章に関しては「可能性」としてもいいですし、書いている内容もいいなあって思いました。
……締め切りについては、正直私も自分で言った締め切りを守れないのでなんとも言えないんですが……(笑)。締め切りを守るコツは、締め切りが存在する前にネタを書いておくことなんですよ。書き溜めですね。

——なるほど、書き溜めですか。

minecoP:
適当に書いておいて、「締め切り」と「テーマ」が決まってからピースを寄せ集めて構築するとコストが少ないんです。

——ああ、私(そにっぴー)もそのスタンスですね。Vol.1だとミリシタのコミュを掘り下げる話を書いたんですけど、ミリシタで春香さんが出てきたときに文字起こしとかスクショを普段からしていて、学会誌の記事をつくるときにそれを引っ張り出していたんです。

——(そにっぴー)そこは、春香について書きたくてしょうがない人が「あ、学会ある!」って書くのと、学会があるから書いてみようって書き始めるのとのスタンスの違いですね。

minecoP:
あ、そういうのでいうと、前者のほうが学術っぽいですね。学会があるから研究をするのではなく、普段研究している人が発表の場所として学会を選ぶので。いま聞いて「あ、天海春香学会って学会なんだな」と思いました。

——色々なスタンスで来ていただいていいのですが、天海春香についての作品を世に出したくて仕方ない人の着地点として選んでいただければ嬉しいなと思います。

理想を瓶詰めにした作品

minecoP:
最後の作品ですが……フブキPさんの『理想を瓶詰め』


minecoP:

これ、読後の頭のなかにタモリが出てくるんですよ。世にも奇妙な物語じゃないですか。怖いと思ったんですよ。

minecoP:
最後の「美しい言葉を、景色を取り込んで、瓶詰めは今日も輝いている」っていう言葉が、私のなかではタモリさんによるナレーションに聞こえるんですよね。

——この作品は前半が読みやすいがゆえに、後半は「ホラーじゃん」と指摘した人がいたのですが、言い得て妙ですよね。

minecoP:
そうですよね。ホラーまで恐ろしくはないけど、奇妙な感じがして……やっぱり世にも奇妙な物語です。この作品は「春香がメタに把握しているのかな」という怖さがあるんですけれど、私がこれから出す作品のプロデューサーは、「メタまではいかないけど、この世界のこと以上のことを知っているのかな」って感じの共通点はあります。でも、ホラーにまでは至っていないんですよ。読者を引き込むためのテクニックとして使わせていただいているんですけどね。「書きたい構造は似ているけども、書きたい内容は違うんだな」とフブキさんの作品を読んで思いました。

——どうしても、読む我々が複数の作品をプレイしていることもあってメタ視点になりがちなんですけれど、春香さんがメタ視点を持っているというのが怖くもあり、私(そにっぴー)は救われた感じもあり、という感じでした。感情を揺り動かされましたね。

minecoP:
ゲームのなかのキャラクターとして読んでいるつもりだったのに、実は、春香さんから見たらゲームのなかのプレイヤーとして扱われていた、という気持ち悪さ、怖さがあるんですよ。でも、ゲームのなかに入り込みたい人からすると救いがあるんじゃないかな、と思いました。(読者が)天海春香の世界に引き込まれたいか引き込まれたくないかで、ホラーとハッピーに分岐するんですよ。あと、物語の主人公が女性なので、男性が読むと「このお姉さんいいな」になる可能性もあると思うんです。

——そうですね。私(スタントン)はハッピーだと捉えたので、「ホラー」だという意見を見たときに驚いたのですが、天海春香の世界に引き込まれたいのかそうじゃないかで捉え方が異なる、という意見を伺ってなるほどなと思いました。

minecoP:
残念ながら、私にとって天海春香は最愛のいちばんじゃないんですよ。だから春香のためだけに世界を閉じられない人間なので、だからこそ春香に囚われる世界が怖いと感じました。春香がいちばんで春香が最愛の人であれば、この物語は花舞う箱庭なんですよ。美しい瓶詰めが完成して綺麗に終わるんです。読む人の理想を反映する、という意味でも、春香の理想を反映する、という意味でも、2つのベクトルで理想を瓶詰めにした作品なんだと思いました。だから、「(掲載順として)最後にこんな試すことする?」って感じましたね(笑)。

——意図は異なりますが、運営の2人ともこれを最後に置きたいという意思は共通していましたね。

minecoP:
最後といえば、文章の部ってagreementから天海春香のいる世界に入っていくじゃないですか。最後に、春香のいる世界から出られなくなる話で〆るのってなんかその……「メトロポリタン美術館」っていう童謡ってわかりますか。

——ああ!わかります。

minecoP:
あれをハッピーと捉える人ももちろんいるので。何と言いますか、学会誌全体を通して物語性がありますよね。


オタク的セオリーをぶっ壊す

——先ほどから少しずつ伺ってはいるのですが、仮に次回の天海春香学会に参加するとしたらどのような作品を作りたいですか。

minecoP:
天海春香学会に出すかどうか、相応しいかどうかはまだわからないんですけれど、次に天海春香について書きたい小説が、美希のファンで春香のことが嫌いな男の子の話なんですよね。絶対そういう人いると思うんですよ。その人を見つけてインタビューをして書けたらいいなと考えています。やっぱり、春香のことが嫌いな人って何考えてるのか気になっちゃいますし、Vol.2からの流れもいいかな、とも思うんです。Vol.2の作品だと、「好きだけど離れちゃった人」が出てくる話だったんですが、そうじゃなくて、「最初から春香のことが気に入らなくて最後まで気に入らない人」が出てくる話があってもいいでしょう?春香に対するヘイトではなく、春香の輪郭を抉り出すために必要なこと、春香の可能性に対する一つのアプローチとして書きたいと思っています。

あとは……短歌が面白いとも思っています。

イラストだったら……私、シャニマスのイラストが好きなんですよ。実在の風景に溶け込んでいる地に足のついた感じだとか、あとは、髪型がさらっと変わるスタンスが好きなんですよ。人間、生きていれば前髪が長い時期とか眉毛そり過ぎた時期があれば、むくむ時期もあるじゃないですか。だからそういうのって春香にもあるじゃないですか。メイクがちょっと変わったり、冬だったら髪も伸ばすだろうし、リボンも、トレードマークではあるけどずっとそればっかり付けたいと思うかな?と思うんです。だから、視覚的なアプローチでの春香の色々な顔を描きたいな、と思いましたね。生きた春香を見たいし、見られないなら書きたいんですよ。

お出しすることを一言で表すなら、『可能性の提示』ですね。しかも、いままで誰もやってこなかったアプローチで、オタク的セオリーをぶっ壊していきたいなと思っています。


イメソンを付ける

——ここまでで、minecoさんから話し足りないことは何かありますか。

minecoP:
じゃあ……自分の作品について春香ヤクザ(※ななみんさん)から言えって脅されていることの残りをお話します。
毎回、自分の書いたものって書き終えたあとにイメージソングを付けてるんですよ。書き終えた後に「もしかしてこの曲合うんじゃない?」って、自分のレパートリーのなかから当てはめるのが私の恒例行事になってるんです。

この作品だと、奥華子さんの「ガーネット」が……

——(そにっぴー)あ~!!!

minecoP:
……はい(笑)。タイアップした映画の関係上、恋の歌ではあるんですけれど……

あなたと過ごした日々をこの胸に焼き付けよう
思い出さなくても大丈夫なように
いつか他の誰かを好きになったとしても
あなたはずっと特別で 大切で

※「ガーネット」 作詞:奥華子 より抜粋

minecoP:
……サビの歌詞がこうなんですね。

——(そにっぴー)あ~!!ああ?あー……あーしか言えねえ!(笑)。

minecoP:
発声練習すな!(笑)。

——(スタントン)確かに、話の内容と曲とがリンクしている気がします。

——(そにっぴー)そもそも、イメソンを付けるっていうのをあまり見たことがなかったので、なるほどなと思いました。

minecoP:
イメソン(を付ける文化)って、男性ジャンルであんまり見ないですからね。私って、曲を聴く時に強いメッセージ性を読み取りがちな人間なので、そういうものに対する好きっていう感情の蓄積で、自分というものが出来ているのだと思っています。曲から知らず知らずのうちに受け取ったメッセージを、自分なりに解釈して落とし込んだ物語なんですよ。なので、自分の知ってる曲と物語とがどこかでリンクする可能性があるんです。伝えたいこと、考え方、と思っていいかもしれませんね。普段はBUMP OF CHICKENに寄りがちなんですけれど、今回は奥華子でしたね。自分なりのイメソンがあるという方はぜひ箱まで送ってください。

オタクの好きは……

minecoP:
あと1点、ラストに関して。これはヤクザ(※ななみんさん)のどこに刺さったのかわからないんですが……ラストはもう1パターン用意していた、というか、「そうなるのかな」と思っていたら「そうならなかった」ものがあるんです。
(語り手は)春香を降りているわけだから、春香が広告に出てる商品を買わないだろ、と思ったんです。でも、降りたからって不買に走れるほどオタクの好きは単純じゃないなって思うんです。「好きじゃないから追わないし」って思っていても、「まあ物は良いしな」ってなにかと理由付けて買うのがオタクじゃないですか。誰に言われたわけでもないのに言い訳して買うのはそれが理由で、春香と決別するわけではなく、春香の居る世界で、春香との思い出を思い出さなくて済むように……してても「あの広告のせいでなあ、思い出しちゃうよなあ」みたいな言い訳をするんです。ファンの在り方の可能性の一つとして、ありだなと思って書き上げました。

人間と女の子

——あなたにとって、天海春香とは。

minecoP:
ああ~、もうこれ、繰り返しになるんですけれど、「一人の人間、一人の女の子」です。それでしかないですね。「私にとって○○とは全てです」って答える対象がもういるから、春香はすべてになれないんですよ。人格として捉えてますし、概念とか、神様とか、そういう言葉を使っちゃうと春香がひとりぼっちになっちゃって可哀想なので、そういう抽象的なところには押し上げたくないですから。

———

minecoPさんの考え方や哲学を、文字数にして約2万文字、前後編に分けてお届けいたしました。


天海春香学会Vol.2は現在完売しております。

増刷、再販時にはツイッターにて告知しますので、お待ちくださいませ。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?