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“学会員”インタビュー⑲minecoPさん【前編】

天海春香学会Vol.2出版記念企画として、「学会員」のみなさんへインタビューを行うシリーズ企画。

第19回は、minecoPさんへのインタビューをお届けいたします。


インタビュー:そにっぴー/スタントン

文:スタントン

大ボリュームのため、前編/後編に分けてお届けいたします。

———

……「恋」ですね

minecoP:
よろしくお願いします。

——宜しくお願いします。minecoさんは、「春香P」とお呼びして差し支えはないのでしょうか。

minecoP:
はい、アイマスでは春香担当ですね。

——では、アイマスを知った経緯と春香Pになったきっかけを教えていただけますでしょうか。

minecoP:
ええと……10年前なんですけれど、リアルタイムのアニマスを観たことがきっかけでしたね。記憶が薄れているんですが(笑)。アニマスを観ていて、ちょっとダレたところがあって脱落しかけたんですが、約束回(※20話)が良くて戻ったんです。

minecoP:
で、最後まで完走したんですが、その時にはまだ推しが居なかったんです。その後、普段の暮らしをしていたら、なぜかわからないけど天海春香のことが気になってきたんです。アニマス終盤付近の春香の気持ちに思いを馳せる瞬間が多かったんですよ。

その後……7thライブに——約束回が好きだったので——千早ちゃんの歌を聴くつもりで行こうと思ってたんですが、ライブの予習で歌を聴いている時点で、千早ちゃん目当てだったはずなのに天海春香の曲ばっか聴いてたんですよ。意識しないうちに……なんて言うんでしょうか、気づかないうちに春香のことで頭がいっぱいになっていたんですよ。いつの間にか春香色に染まって、跪いてしまいました。それで7thライブを見て、繪里子さんの歌う姿に「あ、春香がそこのステージに立っている」という感覚を覚えて、もうそこからは転がるように春香Pをやっていました。


——なるほど。いつの間にか好きになったのですね。

minecoP:
そうなんですよ。理屈じゃないんです。例えるなら、同じ教室にいる好きな女の子をいつのまにか目で追いかけている感覚ですね。あの子の笑うところとか、歌声が妙に気になってしょうがない、という感じ……「恋」ですね。

——そこから、CDを漁ったり、ゲームをやってみたりされたのでしょうか。

minecoP:
私が765の媒体で触れたのが、7thから2年くらいの現地と、あとはアニマス全編、SP3本、シャイニーフェスタ、ステラステージ——買って満足しちゃって未開封なんですが——ですね。それから、春香のCDは全部聴いています。なので、触れていない作品も多いんですよね。
私がサブカルチャー系のコンテンツに触れる際のポリシーで、「全部フルコミットしなくても好きで居られることはできる」というのがあるんですよ。自分にできる範囲で、自分の好きなものを集めた結果、アイマスではああいう感じになりました。「天海春香っていう人がどんな人なのか」を自分のなかでちゃんと持っていれば、彼女がどんな媒体でどう発言していたのか全部チェックしなくても良いかなと考えています。「全部見ない人はファンじゃない」っていう人には怒られちゃいますね(笑)。

人の痛みがわかる人

——アイマス以外の作品や現実の人物でお好きになった人と、天海春香との共通点は何かありますか。

minecoP:
共通点ですか……人の痛みがわかる人、かな?

——あ~!

minecoP:
いま、オタクの同意の「あ~!」をいただきましたね(笑)。人の痛みがわかって、その後どうするかは(その人の)性格によると思うんですけど、同族嫌悪みたいになって乱暴になっちゃったり、それとは逆に、優しくなれたりすると思うんですが、天海春香は後者ですよね。
あと、「痛みがわかる」の派生なんですけど、落ち込むことの大切さもよくわかっている子だな、と思っています。春香の歌の歌詞でよく出てくる、「つまづいてコケて、泣きそうになっても大丈夫」みたいな部分、泣きそうになってるところ自体は否定しないところは他の好きな人にも共通しているかなと思います。
私の好きなアイドルアニメで、「少年ハリウッド」っていうのがあるんですけれど……

——(スタントン)少ハリ、いいですよね!(※アニメ視聴済)


minecoP:
すごくいいアニメですよね。少ハリの『永遠 never ever』って曲に「立ち止まってもいいよ 大丈夫 景色眺めて 寂しくなったらまた進めばいい それだけのことだよ」って歌詞があって好きなんです。アイドルに呼びかけてほしい言葉ですし、この言葉を呼びかけてくれるアイドルが春香だと思っています。少ハリで問われている「アイドルとは何か」という問いに対して、私なりの回答を出してくれるのが天海春香なのかな、と思います。あ、あと共通点に関して他にも例を出してもいいですか。

——もちろん、いいですよ。

minecoP:
実は私が好きになった子のなかで、天海春香は珍しい系統の子なんですよ。本当は痛みがわかるがゆえにひねくれてしまったり、優しさのあまり狂ってしまう男の子が好きなんです。例えば、「BLEACH」の石田雨竜とか、「デスノート」の夜神月とか。多分、原初をたどると「ハリーポッター」のスネイプ先生なんですけれど。
……いやあ、なんだか(心の本質を)抉られている気がしますね(笑)。好きと嫌いが人間を作りますから。そういう感じだったので、天海春香は「恋」としか言いようがないくらい、元々あった「好きな子のゾーン」から見事に外れています。

——確かに外れているような気がしますね。ちなみに、女性キャラクターもそのような感じなのですか。

minecoP:
あー……女性キャラクターだと、765でいうところの伊織が好きになるはずなんですよ。自信があるがゆえに高飛車な女の子が好きなんです。プリパラの赤城あんなちゃんとかですね。マクロスのシェリル・ノームとか?いやあれは強い女か……まあ、「つえー女」が好きですね(笑)。
世代的にセーラームーンで育っているので、セーラームーンだと火野レイちゃんが好きです。
私は、仮に作品の話の流れが不出来だったとしても、そこで描かれているキャラクターの人格が良ければそこに入れ込むタイプなんですけれど、女の子のキャラクターでは(春香以外の女の子には)あまり入れ込まなかった感じです。
アイマスでも水嶋咲ちゃんが——気の強いというか、強い芯を持つ人なので——好きなので、色々考えれば考えるほど、春香から遠ざかっていく気がいたします。


踊る阿呆に見る阿呆

——天海春香学会に参加しようと思ったきっかけはなんでしたか。

minecoP:
去年、フォロワーのRTで春香学会のツイートを偶然見かけたんですよ。それで主催の2人のお名前を見たときに、「あ、見覚えあるぞ……!」ってなったんです。
アイマスにハマった10年前に始めて、7-8年細々と続けたあとに消したアイマスのアカウントがあったんですけど……インタビュー記事を読んでくださる方向けに説明すると、スタントンさんと、そにっぴーさんと、あとななみんさんとは(前のアカウントのときに)関わりがあったんですよね。そういう経緯があったので、主催者の名前を見て「あ、この人達まだ狂っててくれてるんだ!」って嬉しくなっちゃったんです。天海春香に狂い続けてくれているのが嬉しくって、それなら私も書きたいなって思ったんです。
私が好きな衣更真緒くん(※あんさんぶるスターズ)には、なかなかそういう人がいないんですよ。女性向けジャンルということもあってか、表立って言いまくっている人間があまり居ない界隈なんですよね。まあ私は自分のアカウントで、365日「衣更真緒学会」を開いているんですけれど(笑)。それで、5,000文字※なら2日で書けるな、と思って申し込みました。動機としては、「踊る阿呆に見る阿呆」ですよ。同じ阿呆になりたいな、と思って参加しましたね。

※天海春香学会Vol.2の文章の部の文字数制限が500文字~5000文字程度でした。

——実際に、2日で書かれたのですか。

minecoP:
まっさらな状態のプロットから、48時間で提出していますね。申し訳ないことに、提出がギリギリだったじゃないですか。「いけるやろ!」って高をくくってました。

可能性の提示

——今回の作品のテーマが、春香のことを好きな一人のファンが担当を降りるというものでした。どうしてこれを書こうと思われたのですか。

minecoP:
最初に思い浮かんだのが——学会って最初から多様性が保証されているので——アンチの話を書こうと思ったんです。春香のことを好きじゃない人間の話で、かつ読む人を不愉快な気持ちにさせないものを作りたいと思ったんですよ。「春香を好きな人が読める、春香を好きじゃない人の話」です。天海春香の輪郭を様々な角度からなぞりたい、と考えたときに、アンチの人がどうして嫌いになったのかをしっかり描くことで可能性を提示したかったんですよ。

——書く目的の道筋がしっかりあって、非常に驚きました。

minecoP:
普段ものを書く時の感覚として、そこ(テーマ)まで決めてしまえば、あとは起承転結も気づいたら出来ているんです。なので、「天海春香のことが好き"だった"」っていう女の子を見つけてきて、その子の人生をちょっとだけのぞき見させてもらった、という感じです。

——作品に出てくる女の子がどういう経緯で春香のことを好きになって、どういう経緯で離れていったのか、とてもリアリティがあると感じました。語り部にリアリティを持たせる工夫はなにかされたのでしょうか。

minecoP:
なんだろうな……地に足ついて、飯食って、風呂入って、寝てる人間、日常の生活を送っている人間を描くのが好きなんですよ。
で、結果的に「工夫」になっているのですが、(作品に登場する)その子に「メイクなに使ってる?」って聞くんですよ。顔はどの系統で、メイクはオレンジ系か、ブルー系か、みたいな。どういうものが好きで、どういう人生をたどってきた人間なのか、物語に出さないことであっても詳細に聞いて詰めていくんです。そういう会話の作業を脳内でしているんですよ。リアリティを感じていただけたのであれば、たぶん、その子が生きて、ちゃんと生活しているっていうことを私が書けたんじゃないかなって思います。

——登場人物を動かすにあたって、その人物にリアリティを持たせる方法ってたくさんあると思うんですが、登場人物と会話をするというのがビビっときました。

minecoP:
頭のなかに別の人間がいる感覚ですね。ただ、人前に出す段階では、やっぱり小説としての体裁を整えるんですよ。「回想をここで挟むために組み替える」みたいなことはするんですが、基本的に、登場人物は全員 "人物" として扱っているので、インタビューの形式でその人のことを把握しています。


文化資本

——面白いですね。私(そにっぴー)は中学、高校で演劇部だったのですが、高校のときに先輩に言われて、自分が演じる役の履歴書を書いたんですよ。どういう生まれだったとか、何が好みなのかとか、劇とは関係なくても取りあえず書いてみたことがあったので、なんとなくそれを思い出しました。

minecoP:
あ、ドンピシャだと思います。私の大学の専攻とちょっと似ているところがあって、格差社会学の文化資本に関する研究をしていたんですよ。

minecoP:
「資本」って言われてパッと思いつくのって貨幣とか金銭的なものだと思うのですが、ざっくり言えば、その人の所作に蓄積される文化的なものが文化資本なんですよ……(ざっくり言ってしまったので)専門家の方に見られたら刺されそうなのですが……(笑)。それで、例えば地方の図書館や文化的な施設にアクセスしづらいところに生まれた人は、いわゆる「育ちが悪い」所作が形成されてしまう傾向があるんですよ。それって履歴書と同じで、どこで生まれて、お母さんとの関係はどうで、何番目の子供だった、とか、人格や環境などをコミコミで見ていくものなんです。

——演じる、もしくは書く人物について、そこに至るまでの経緯を環境や生い立ちを含めて詰めていく、という感じですね。

minecoP:
そうですね。演劇であればそのアプローチは履歴書になるだろうし、小説であれば脳内でのインタビューになるだろうし、学問であれば文化資本の研究になるだろうし、という感じですね。

「あるある」と「そうなんだ」

——文中での細かい表現についてお伺いします。「乙女よ大志を抱け!!」を「乙大」と略す語り手に注目が集まっています。アイマスPのツイッター上ではあまり見かけない表現ですが、どうしてこのような略し方にしたのでしょうか。

minecoP:
私自身が女子高生だった経験を踏まえると……
「乙女大志≪オトメタイシ≫」って略すのはオタクなんですよ。で、「乙大≪オトタイ≫」って略すのが女子高生なんですよ。
だって、「恋話≪コイバナ≫」だし、「ずっ友≪ズットモ≫」だし、4文字だと座りがいいうえに、略している感じがするんですよ。

——あ~、そういうところでオタクがバレるんですね。

minecoP:
や、急にオタクの踏み絵をしないでください(笑)。(最近の流行りが)「ぴえん≪ピエン≫」だし「勝たん≪カタン≫」だから、現役のJKに聞いたら「違うよ」って言われるかもしれないんですけどね(笑)。

——ゆきますくさんとのインタビューでも話題に上がったのですが、男子やオタクのコミュニティに属している人間からすると思いつかない発想なので、新鮮さやリアリティさを感じました。語り手が女子高生だとわかると言いますか……

minecoP:
その「わかる」というのを言ってほしかったんですよ。本当にありがとうございます。

ななみんさんと通話をしたときに3点絶対に言えって脅されたことがあるんですけれど、そのうちの1つに、「女の子には『あるある』って思ってほしくて、男の子には『そうなんだ』って思ってほしい」って思ってたんですよ。だから、例えば「プチプラって安っぽくて、安いから買うけど肌に合わないから捨てるよね」みたいな感覚が女の子にはあって……あ、提出したときに調べさせてしまってごめんなさい(笑)。

——初めて見た言葉だったので、査読のときに思わず調べました(笑)。

minecoP:
男の子でもわかる例えをするなら、「ユニクロの服ってモデルが着てるからよく見えるんだろうな、安いから買っちゃうけど」みたいな感じですね。話を戻すと、プチプラの感覚とかに対して、女の子には「あるある」、男の子には「そうなんだ」って思ってもらいたかったんですよ。

語り手の語彙

——いままで、春香に関する文章や作品を作られたことはありますか。

minecoP:
ゼロです、ないです。この学会誌が初めてです。あ、でもSS名刺メーカーで2、3枚書いたことはあるかな。メモ書きっぽいものとかポエムとか。

minecoP:
そもそも、創作の文章書いてる歴がすごく短いんですよ。多分、1年満たないかな。レポートとか、論文とかを書いたりセールスライティングをしたりしていた経験はそれなりにあるのですが……あと、1日のツイート量がずっと多かったので、1日2,000文字くらいの「お気持ち」を10年くらい書き続けていましたから、日本語の読みやすさとかはその経験によるのかもしれません。

——今回の作品はモノローグで展開されていきますが、モノローグがお好きなのでしょうか。慣れてらっしゃるようにお見受けしました。

minecoP:
三人称視点も好きですよ。一人語りに関しては、書きやすい代わりに、語り手の語彙に縛られるんですよね。極端な例を出すと、少なくともいまの春香は「畢竟」とか言わないじゃないですか。そういう縛りがあるんですよ。だから、一人語りで物を書くとなったら、その人の言葉によってその人が見た世界を語らなければならないので、そこが難しいんですよ。ひょっとしたら、気を使わなければならない分苦手な部類かもしれません。一度文章を書きあげて読み返したときに、「これは私の語彙を使ってるな」って違和感を持つことも多いですね。

——そうなると、大人であるminecoさんは、語り手の女子高生に語彙を合わせたのですね。

minecoP:
合わせましたね。あの彼女は専門学校行って就職している設定で大学には行っていないので、あんまり国語は得意じゃないけど、社会人になって多少は大人っぽい喋り方ができるようになった、みたいな感じです。だから回想で、春香の授賞式を見てヒステリーを起こすシーンがあるじゃないですか。あそこは「語彙を無くしちゃおう」って書いたんです。決して女子高生を侮るわけではないんですけど、嫌だなあ、と思っても「嫌だ」という言葉しか出てこなくて、冷静に立ち止まってその心情を分析する力が弱かったり、整理するためにはワンテンポ置かないといけなかったりする点が、やはり(作品の語り手は)女子高生っぽいなという気がしました。

衣更真緒君の小説も書いているのですが——彼はほとんど男子校のような環境で生活していた子なんですけど——男子高校生のエロに対する視点が分かりすぎている、と友人に指摘されたことがあるんですよ。ずぼらさとか、エロ本の扱いとか、そういうのに造詣が深すぎて気持ち悪いって言われたことがあるんですよ。
だから、性別が違うから書けない、って感じになったことはないなって思いました。インタビューして聞いているから、自分自身の人格と切り離して考えられるんでしょうね。



———

後編へ続きます。


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