A/ES




うーん、分かんない。でもすごくよかった。あんまり覚えてない。食べたいもの、ない。行きたいところ、ない。今、歩きたくない。でもあれすごくよかった。何時間でもできたね。お腹が勝手に動いた。手を触るとどこに居るか分かった。海を覚えてる。何度も飛んだ。私の夢にはニンジンとワカメが踊りながら出てきて、あなたは時間が遅れてくるとか言いながら同じ動きを繰り返してた。あれ、すごく面白かったよ。

私、家族が好きなの。小さい頃からずっと一緒にいたから、ばらばらになっていくのが悲しい。そこにしか愛着はないの。おじいちゃんはまだ親分で、お父さんはちょっと肩身が狭く、でも趣味に伸び伸びしていて、お母さんは男みたいに仕事で忙しくしてる。姉妹は好きにしてるよ。みんな私のことは大好き。

だから分かんないの。あなたが私に何を聞いてるのか。全然分かんないの。何をしたいかなんてないの、分かんないの。何を口にしたいかなんてないの、分かんないの。何でもいいから美味しいものを突っ込んでよ。それが毒なら踏んづけちゃうから。

軽い感じで笑わせてよ。どこにも行きたくないのよ。ばらばらでちりぢりだねだなんて言うけど、私はそんな風に感じない。今ここにできあがってんのよ。それをさケーキみたいに、切り分けるならせめて、美味しく食べてよ。見てないで食べてよ。乾くと悲しくて、涙を出す気も失せるのよ。

出会っちゃったことは覚えてる。あの時の感覚は思い出せる。でも全部忘れてるの。だからばらばらなの。初めてだからって言ったでしょ?本当にばらばらなのよ。少しだけ分かるわ。ばらばらなの。それでいいの。あなたがおかしいの。そのまま何も求めないで。






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