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短編小説「青い薬」

第1章 青い薬

25歳の冴えないサラリーマン、田中和也は、毎日が単調で無機質な日々を送っていた。朝早く起きて満員電車に揺られ、仕事に追われるだけの毎日。

そんな彼の唯一の楽しみは、帰り道に立ち寄る小さな古書店だった。

ある日、いつものように古書店を訪れた和也は、見慣れない小さな瓶を見つけた。

古書店で本がたくさん並んでいる様子

「なんだこれ?」

瓶には「人生が幸せになる薬」と書かれていた。

「ん……?人生が幸せになる薬……?」

半信半疑で店主に尋ねると、店主は微笑んで「これは特別なモノです。幸せをもたらしますが、注意が必要ですよ」と答えた。

「へー幸せになれるんだ」和也はその言葉に引かれ、好奇心からその瓶を購入した。

家に帰り、和也は瓶を手に取った。中には小さな青い薬のようなものが入っていた。

「青い薬って、マトリックスかよ」

青いカプセルの画像

「ま、こんなもんで幸せになれるなら苦労しないか」彼は小言をいながら深呼吸をし、思い切ってその薬を飲み込んだ。

翌朝、和也はいつもと違う感覚で目を覚ました。体が軽く、頭が冴え渡っている。

「よく寝たからかな?」

職場に向かうと、上司から急に褒められ、同僚たちも彼に対して優しくなった。

「田中くん、おはよう」
「おう、田中、今日調子いいな」

「待て待て、どういうことだ……?」

何気なく取り組んでいたプロジェクトが大成功し、一気に社内での評価が上がった。

「ねぇ、田中くん、今日のお昼空いてる?ランチ一緒にどうかな?」
「え?あ、佐藤さん!お昼空いてるよ!ランチ行こ!」

なんと、ずっと片思いしていた同僚の佐藤からランチに誘われたのだ。

和也は、自分が夢の中にいるのではないかと感じるほどの幸福感に包まれていた。

仕事は次々と成功し、毎日が充実していた。

彼は「この薬のおかげだ」と思い、まるで自分が別人になったかのように感じていた。

それから毎日毎日薬を飲んで幸せになった。幸せって本当に素晴らしい。

第2章 変化

しかし、その幸せは長くは続かなかった。数週間が過ぎた頃から、和也の体に異変が現れ始めた。

「う……」

最初は軽い頭痛だったが、次第にひどくなり、仕事中に倒れそうになることもあった。

医者に診てもらっても、原因はわからず、和也は不安に駆られた。

「クッソなんだよ……今いい時期なのに……」

ある日、何気なく嫌な予感がした。
薬の瓶に書かれた小さな注意書きを見つけてしまったのだ。

「あ……?」

《この薬には副作用があります。使用を続けると、身体に重大な影響を及ぼす可能性があります。》

和也はその一文を読んで、全身に冷たい汗が流れた。

驚愕している男性のイラスト

「は、嘘だろ……?」

楽に手に入れた幸せには、必ず代償が伴うことを知ったのだ。

薬をやめる決心をした和也だったが、幸せな日々を思い出すと、なかなかやめることができなかった。

毎晩、薬を前にして葛藤する和也。飲めばまた幸福感が戻ってくると知りつつも、副作用が怖い。でも…….幸せになりたい。

「もう一度だけ…」和也は薬を手に取り飲んでしまった。

薬の誘惑に勝てない、そんな日が続いた。

そんなある日、和也は佐藤と一緒に過ごしているときに、薬の瓶を見つけられてしまった。

「和也くん、これは何?」彼女は疑問の眼差しを向けた。

「あっ……」

和也は一瞬言葉に詰まったが、正直に話すことを決心した。

「これは……飲むと幸せになる薬なんだ……。でも、副作用があって……」

佐藤は真剣な表情で言った。「なるほどそういうことだったんだ……」

「和也くん、コレ飲むのやめよう?」

「そうだよね……」

「私、和也くんのこと信じてる」

彼女の言葉に胸を打たれた和也は、彼女のためにも薬をやめる決心を固めた。

悲しんでいる男性と慰めている女性のイラスト

これ以上薬に頼ることはやめ、自分の力で幸せを築くことを誓った。

しかし、薬の副作用はすでに彼の体に深刻なダメージを与えていた。頭痛はさらにひどくなり、体のだるさは日増しに強まった。

仕事もミスが続き、上司や同僚からの評価は一気に下がり、昇進の話も消えていった。

第3章 努力

和也は、仕事の成績が落ち、何度も挫折しそうになりながらも、諦めずに仕事に取り組んだ。

そして、ある日、彼は自分自身が1から考えたプロジェクトを上司に提案した。

それは新しいマーケティング戦略で、従来の方法とは一線を画すものであった。

上司は最初は懐疑的だったが、和也の熱意と詳細なプランに心を動かされた。

「うーん……田中くんがそこまで言うなら、試してみようか」

「……ッ!ありがとうございます!」

そしてプロジェクトが進行するにつれ、その成果が徐々に現れ始めた。売上が上がり、顧客の反応も良好だった。

「田中くんが頑張ってくれからプロジェクトが成功したよ」
「田中、よく頑張ったな」

プロジェクトが大成功を収めたとき、和也は再び上司や同僚から認められ、称賛された。

佐藤も、彼の努力と成長を見守りながら、彼を誇りに思った。

失ったものの大きさに気付き、改めて地道に努力することの大切さを悟った和也は、楽に幸せになれることなど無いと深く理解した。

努力して生きていくことでこそ、本当の幸せが手に入るのだと。

第4章 決別

和也は再び古書店を訪れ、店主に感謝の言葉を述べた。

「あの薬は私に大切なことを教えてくれました。ありがとうございます」

店主は微笑んで答えた。「幸せは自分の手で掴むものです。忘れないでくださいね」

和也は頷き、決意を新たにした。

これからは、自分の力で幸せを築いていくことを誓って。

笑顔で前を向いている男性のイラスト

画像は生成AIで作成したものです。

この話は2つの視点から読むことができます。ぜひ考えならが読んでみてくださいね。

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