見出し画像

ムーミンみなし子ホームの朝のマーチが気になる(『ムーミンパパの思い出』より)

新年あけましておめでとうございます!!

年末から、就寝前の音読を始めました。いままでも唐突に始めたりやめたりを繰り返しています。今は、『ムーミンパパの思い出』を読んでいます。

『ムーミンパパの思い出』は、ムーミンパパがみなし子ホームを家出して始まる冒険の物語を、パパ本人が「思い出の記」として書いており、ムーミン谷にいる作中の現在と、「思い出の記」が交互に書かれている作品です。

みなし子ホームの朝のマーチ「この世は視界不良」

ムーミンパパのやや感傷的な物言いが可愛くてくすっと笑ってしまうところがたくさんありますが、プロローグと1章を読み終えて、最も笑ってしまったのは、家出したムーミンパパが夜にさまよい歩く場面でした。

わたしは、みなし子ホームの朝のマーチ「この世は視界不良」を歌おうとしました。けれども声が変にふるえて、なおさらこわくなりました。霧の深い晩で、ヘムレンさんのつくるオートミールのような、こい霧が荒れ地の上をはい回り、しげみや岩を変な形の怪物に変えました。
(新版『ムーミンパパの思い出』p.30-31)

「この世は視界不良」!?残念ながら歌詞は書かれていませんが、マーチなのになんだか暗そうで、とても気になる曲名です。声に出して読むと余計に面白く感じます。

原文では「Vad ohemult i denna världen」

原文を見てみると、Vad ohemult i denna världenとなっていました。「vad」は「what」、「i denna världen」は「in this world」です。

「ohemul」の意味は、辞書には「som saknar grund eller berättigande(根拠や正当性に欠けている)」と載っていました。

スウェーデン語で形容詞の最初にある「o」は接頭語で、反対のことを意味します。もともとの形「hemul」を辞書で引いてみると、bevis för riktighet(正確さの証明)と出ました(2つ目の意味)。

「hemul」はヘムル(定冠詞を付けると「ヘムレン」)の語源だと思います。名前通り、ムーミンの物語に出てくるヘムルは、きちきちした性格です。

ユリイカ 第30巻第5号(1998年)でヤンソンの短編「En ohemul historia」を訳した冨原眞弓氏は、ohemulを「非合理」と訳しています

翻訳って、難しくて奥深くて面白い

ここまで見てきたことをもとに、Vad ohemult i denna världenを直訳すると、「この世は非合理といった感じでしょうか。「視界不良」は意訳ですが、どんな曲なのか想像してみたくなる、不思議なパワーがある素敵な訳だと思いました。

古い訳では「この世のスーパー=ヘムレン」となっており、新版編集の際に修正された箇所でした。

これからしばらく、若いムーミンパパと冒険します。

それではまた来週!




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?