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電車女。

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 写真を撮ろうと雪乃さんが言った。……さて、雨でも降るのだろうか? 平成だというのに魂が抜かれてしまうからとガラケーのカメラにブタのシールを貼っているような人が何やら随分とケラケラしている。

「骨盤を立てて座った方がいいのに……あぁ、そうか。男性なんだもの難しくて当たり前だよね」

 確認には至ってないけれど、雪乃さんも男性でしょうに……。

 半ばあきれかけた僕にお構いなしと隣の車両にふと目をやった雪乃さんが、唐突にスマホを持っているか? と僕の肩を揺すった。まったくこの人は会話カッターのプロだ。

「それでだね、ワトソン君」

 そこそこ長い付き合いだ、この人が猫のような上唇するのは悪フザケを思い付いた時と決まっているのだけれど、今回のソレは不可思議となって僕に焼き付いた後、やれやれと頬を緩ませた。

「これが後ろの車両で撮ったやつで、君が1人で写っている。そしてここで私とのツーショット、で前の車両で君1人の写真」

 これを現在、過去未来としてみるとね。この3つは同時進行なんじゃないかって思うんだ。……例えばこの車両から後ろの車両、いわゆる “ 過去 ” ね。そこに移動した君が御両親と子供の時の君。この4人で写真を撮る、その後で君が皆んなを殺害したとしたらさ、いや例えばの話だよ、もちろん。
 で、君がこの車両に戻って来たとするよね。そしてその写真をもらって私だけが前の車両に移動する。でもね、その後も最中も3つの車両は同じスピードで進んでいるんだよ。現在、過去未来の関連性が成り立たなくなるでしょ?

「そんな気分だから前の車両に移ろうか。あ、脚がしびれたからさ、腕をひいてくれない?」

ーー……まったく、本当にめんどくさい人だ。

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