秘密のノート。
好きに出来るのは下着くらいよ。洋服やメイク、仕草や言動まで。好きだからじゃなくて自分のキャラに合うとか年齢がとか気にしないといけない。
私は高身長だから背の低い人がうらやましいし、あなたは私の胸がうらやましいのでしょ? お金持ちだったら浮浪者になりたいのかと言われたら違うだろうけど、お店の経営なんかをしていると企業勤めのOLさんに憧れたりする。
それは本当無い物ねだりってヤツだ。でもね、好いてくれる人達が昂らせているのを感じるとなんか嬉しくてタイトミニの脚を組んだり余計に胸を強調してみたりとか、もうほとんど無意識にやってしまう。そんな時は少しだけ望まれた自分の身体を愛おしく思えて一人悦楽にほろ酔うの。
『そんな事言うのはな、雪乃が根っからの受け専、ドM通り越して奴隷だなそりゃ』
自覚していますよ、だってきっと普通はイラついたりするでしょ、そこまで言われたら。なのに鏡子さんの蔑むような嘲笑に唾液を舌にもて余し下着の中にまで響かせているんだもの。もしかして俗に言う “ 淫女 ” ってヤツ。いや、違うや、だって一応 “ オトコ ” だもん。でもいただける雌雄を問わないのだからやっぱり淫女か。けどね、色彩は随分とふさやかよ。夢中で耽溺するのだから。
――平成十七年三月――
“ 天久探偵事務所 ” と看板を掲げるビル。そこの一階にあるカフェバーが私の職場。昼間は義娘の奴代ちゃん、夜は私がカウンターに立つこのお店には名前もまだ付いていない。名前が無いせいなのか夜が深くなると時折飲食店らしからぬ雰囲気になる。まぁイヤじゃないんだけどね。
蕾を華開かせたのは間違いなく鏡子さんだ。彼女の妹、夏稀さんに性の淫楽を教わった直後に私のヴァージンを容赦なく奪ったのだから。
『性感帯が多いんだもの、お得だろ?』
いやまぁ……はい。
雪乃だけがお得ってのは申し訳ないって気持ちになるだろ、なるよな。と鏡子さんの言いがかりのような説得から私の初体験は奴代ちゃんも含んだ三人に捧げられた。それで終わっていたのならここまでにならなかったと思うのだけど、あの朱い場所からここのカウンターに移って間もなくに事件が起こった。
「えっ……は?」
「いやだからピコさん、雪乃とだったら亀山さんがしても許せるだろ?」
「き、鏡子さんっ……いえ、そんなわたくし困っ……」
同性だから浮気にならないと突飛な提案をおぼろ言葉巧みにそそのかす鏡子さんにピコさんと亀山さんは何か宇宙人でも見たかのように硬直している。いや、って私に拒否権はっ?
冗談混じりの良く聞く話、奥様の妊娠中は旦那様の性欲の捌け口がお気の毒ってヤツ。で、亀山さんが口走った「雪乃ちゃんやっぱりイイなぁ、慰めてもらえたら最高なのになぁ」に鏡子さんが食いついたのだ。
「ピコさんもほら、雪乃の身体に興味あるって言ってたじゃん。奥様が見ているなら尚更浮気にはならないって。こんな顔しているクセにな、なかなか立派なんだぜ? 雪乃のここ」
背後にスルリと身体を回した鏡子さんは衣服越しに私の左胸と股間をまさぐる。ピコさんと亀山さんがカウンター越しに見ている前でだ。
ちょ、ダメ……きょうこさ……反応しちゃ
抗う最中にピコさんと目が合うと、口元を手で被いながらも逸らさない視線に私のソレはスカートを隆起させていった。
……ど、どうしてこうなったの
いわゆる女のコ座りってヤツで、転んだようにお尻を乗せているのはカウンターテーブルの上。爪先を客席の方に向けて上半身を反らし、後ろ手で支えている淫らな恰好で、立て膝を合わせたタイトスカートの隙間を亀山夫妻が眺めている。
「触らないで見るだけならいいんじゃない? 亀山さん」
海に来ているのと同じだよ。と鏡子さんの言葉にあれよと言う隙もなく私はショーツ越しに二人の視線を濡していた。
カウンターに座ったせいで、太ももにずり上がったタイトスカートは、いくら膝を閉じていてもショーツを隠せていない。曇らせたメガネに亀山さんは息を荒げ、ピコさんは頬を赤らめながらもクロッチ近くで息づくように凝視している。
そーそー、海水浴だと思えばと言い聞かせてみたけれど、 “ イケナいコト ” なシチュエーションはダメよ、到底に抗えないもの……。
泣きたいほど恥ずかしいのに、笑いとばしてでもくれないと吐息を止められない。さっきカウンターの中で火照らされたせいで冗談っぽくなんても振る舞えない……心音と乱れた息に肩が震えているのがイヤでも分かる。
『いや……こんなのなんて』……誰も触れていない。約束通りなのに薄ミドリ色のショーツは太ももとの間に隙間を作り始めた。下向きでショーツに収めていたソレが窪む太ももの隙間から覗かせようとしている。普段は軽々と隠れ収まるのだけれど、こうなると布地が間に合わない。
『や……もう』
吐息を噛んでウネろうとする自分の腰に抗う……イヤじゃないけど本当に恥ずかしいのだもの。
「て、っきゃっ!」
阿吽のタイミングかと打ち合わせたように鏡子さんと亀山さんが私の両膝を左右に倒した。拍子、右太ももの付け根から抑えられなくなったモノが飛び出し、行きよい余って間近で見ていたピコさんの頬を叩いた。
「きゃっ……熱。す、すごいですね雪乃さん、お顔からは……こ、こんなのなんて」
「な、なんか俺おかしくなってきたっ、顔や胸は雪乃ちゃんだし……でもなんかツルツルしているし、これなら俺イケるかも」
そう、恥ずかしいけれど一般的な男性のようではなく色素が薄くて収まっている時は子供のよう……まぁ、使う機会も無かったせいだろうけど。
「約束だ。私達それには触らないからさ、自分でシてごらんよ、見ていてあげるから」
『……えっ』
小さく言っただけだった。恥ずかしくて消えたいのに逆らえない、いや、抗えないの。視線で犯されるなんて、それだけでカウンターから腰を浮かせてしまう。…………変態だ、私今すごく興奮してる。
さもイヤイヤという素振りでショーツを足首に下ろし膝を開けた……『いやぁ、見たらいやぁ』と、つぶさに私はうらはらだ。ぬらぬらと先端の窪みを濡す右手を添え、うなだれた髪で頬を隠しながらソレを自分で愛撫している。体温と息遣いだけが静まる中、まるで虐め心を擽られたように「……へぇ」と囁いたピコさんが虐げるように滴る様に魅入っていた。
「亀山さん。ルールはさ、そこに触らないってだけだよ? 他はいいんじゃないかな」
何を言いだすのと言葉する隙も許されないまま、鏡子さんに " オアズケ ” を解かれたよう亀山さんはブラウスの上に指先を埋らせて感触を確かめる。乳房に痛いくらい伝わる熱と、髪に揺れた荒息は安易に展開を過ぎらせた。ボタンに手をかけ、装飾された下着を露わにするなり肩ヒモを落とすスピードは何やら凄まじいくらい……って、いや、奥様が見ているのにと視線を落とすと、もはやピコさんはソレを黒髪で覆い隠す程に近寄っている。ダメ……もぅ息がかかってるよぉピコさんっ。
「……あんっ」
「雪乃ちゃん、コレ……て」
いや、違うの、普段からおさまらないの、興奮したからじゃ……んんっん、き、鏡子さっ、触らないって言ったの……んっ、んんっ
何かのスイッチが入ったよう、鏡子さんが舌で唇をねじ開けた。堪えようがなく漏れ初めた吐息に促されたよう亀山さんが唇でつまんだ突起に舌を這わせ、ピコさんは熱を帯びた手に感触を確かめている。
『や、約束が違っ……ダメ、こんなのじゃぁすぐイっ……』
――カラカラカラ
「……えっ、きゃっ」
通りに出している看板の電灯は付けていない。けれど鍵は掛けていなかった。普段から完全なクローズまでは鍵は掛けないのは常々だ……そう、承知でドアを開けるのは常連客の一人、水月さんだ
肩までブラウスは落ちているけど、タイトスカートは履いたままだから何とかこの場を……と、とりあえず溺れる寸前で助かった……のかな。
あれ、え……なんか酔っている? 水月さん。
ーー『風呂に行ってくる』との雪乃さんに手持ちを余していると乱雑極まるコタツの中に一冊のノートを見つけた。どれどれと覗いてみたのですけど “ ド変態 ” もいいとこじゃないですかっ。って、なんか最後に僕が登場しているし……えっとぉ……楽しみにしていますよ、雪乃さん。
少しだけ愛をください♡