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しにたい。

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 そんな話を始めた、要望のまま体験させてあげたと言うのだから飲みかけたお酒もまかしてしまうと言うものだ。

 結果を先に言うと、その女性は足首までを濡らして “ 生 ” の喜びに歓喜しながら号泣していたとの事だ。憑き物が墜ちたよう、なにやら晴々とした顔で。

ーー雪乃さんから聞いた話だ。

『わ、わたし今……1秒が一生に感じた』

 平日の深夜、二人きりの店内。始まりは彼女の些細な愚痴からだった。

 今宵はどうにも治まらない様に、ナニガシで読んだストーリーを真似てみたくなったらしい。

 よくある繁華街、お店を構えているのは六階建ての雑居ビル。非常階段から朽ちた扉を開けると、世帯向けのマンション程度の屋上が容易く望める。
 室外機が並ぶだけの先、漆黒へと覗く境界にはひとつの柵もされていない。

 本来は “ 施錠されている ” からなのだろう。

 そこで真ん中あたりに彼女を誘った、いわゆるセーフティエリア。『目を閉じてクルリと回ってごらん。そうしたら目を開けないで私の声の探すの』との言葉に彼女は何やらイベントのように笑顔を向けている。

「声を見つけたらね、目掛けて思いっきり飛んでごらん。私を抱きしめられたら貴方の勝ちって事で」

 もちろん相手は目を閉じているのだから、正解だとしても避けてしまえばいい。だって……おもしろいのはコレからなのだからと。

「残念~、じゃぁ罰としてもう一回ね。でも今度は……」

 左に3歩、前を向いて5歩……そこからさらに左に5歩。そこでクルクルと3回まわって。その間、一度たりとも目を開けたらダメだよ。

「さて、ここからはさっきと同じ。私を抱きしめられたら貴方の勝ち、今夜の分はオゴってあげる」

「え……っ、ここから? 目を閉じたまま?」

「そうね、もしかしたら私の声が浮いた空から聞こえるかもしれないものね。だとしても大丈夫よ、私の指紋は一切ないのだから “ 酔った女性が錯乱して飛び降りた ” ってなるだけだよ」

 信じていても疑念は過ぎるだろう、そしてその疑念は足を離した瞬間に彼女を覆いつくす。

ーードンッ!!

 しばらくの間、彼女は “ 死にたい ” と思わないでいられるのではと雪乃さんは紫煙を揺らしている。

ーー……真似なんてしないと思いますよ、雪乃さん以外にひとりとて。

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