見出し画像

カナヘビ。

←前話

 素敵な夜を過ごした。至らなかったとは言え、初めて女性からアプローチをされたのだから冥利この上ない……はずなのだけれど、何やら今の僕は意気消沈もいいところだ。話す相手を選ぶべきだったのだろう。

『手足があるならカナヘビかな、アイツは完全肉食だからね。そいつはさもぴったりってヤツだよ』

 あぁ知っているよ、何度かお店に来ているし。と雪乃さんの上唇がネコになった。聞いてみたんだ、クドかれて悪い気持ちではないのだから先々、この先どうなるであれ彼女の成りを知っておきたくて。

『そこまで言うなら仕方はないけれど、ヤめておいた方がいいかもしれないよ……彼女は " 蛇 " だよ。それも中上健次の話にある蛇淫じゃいんって感じだね』

 男を手玉にとか溺れる程に魅力的だとか……女性をかように比喩して注意を促すのは良くある話だ。そうだろう、話をした相手が雪乃さんでなかったのなら……。

「デオキシリボ核酸。DNAってのは知っているかな、カブラギ君っ」

 私達の身体には30億からの塩基、遺伝情報があるんだけれどね、ドラマなんかで “ 犯人のDNAがぁ ” なんて言っているのは0,1パーセントだけで、人類って括りだとDNAの99,9パーセントは一緒なんだよ。

 ……のはずなんだけれどね。居るんだよ、稀にそうじゃない人間が。解明されているなんて話もあるけれど、存在が分かったってだけでその遺伝子が “ 何を役割っているのか ” ってのはほとんど解明されていないんだ。

 異性に魅かれるのは遺伝子が遠いからって言うのは聞いた事があるでしょ? 優秀な子孫を残す為なんだけどね、逆もしかりってヤツでさ……彼女にいたっての君のトキメキはね、おそらく " 逆 " だと思う。

「彼女の手の甲。荒れているって訳じゃないのだけれどさ、今度マジマジ良おーっく見てごらん。あれはね、うろこだよ」

 人間が鱗状に恐怖を感じるのって遙か古来から蛇が人類、哺乳類の天敵だったって説があるんだけれどね、そんな天敵とでも混ざる可能性があるんだよ、人間と。

 一番近いって言われているのはチンパンジーなんだけれど、それと類似のDNAは96パーセント。でもね、蛇とでも人類との類似は65パーセントなんだよ。愛情も感情も無く “ 丸呑み ” する事だけを生業とする生き物とさ。

「それで? 私に相談って言うのはなぁに?」

ーー珍しく頬ずえをついたまま……これはもしかしたら雪乃さんなりの “ ヤキモチ ” なのだろうか。

→次話

 ⇔目次に戻る

少しだけ愛をください♡