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第9話 オトナのパンツ

←第8話 テンプル百合団

 ーーやっぱり神様の力はすごいのです。いえ、これはもう御本尊様の降臨ですよ。キラキラと後光が射し込んでいらっしゃいますもの。

 廊下の照明を背中に現れたのはみやび先輩の2つ上のお姉様 、 “ 麗佳れいか ” さんだった。

 学園の先輩にあたるらしく、もれなく頭脳優秀なのだけれど、昨今の不景気では進学するより賢明だからと、ムサシさんの会社で働きながら建築士を目指しているらしい。
 部屋で勉学の最中にいよいよ据えかねたのだろう。タイトスカートを履いた不動明王は、みやび先輩のお尻に罰を与え申された。

「プギっ! ご、ごめんよぉ麗佳ちゃーん。部の親睦会なんだよぉ」

 『ふ、太ももエロっ! あ……下着がお姉様って感じ』

 情事にあてられた胸中と下腹部は、床に仰向けのままで尚の余韻を残していたけれど、
 濡らした自分の指を舌先でなぞりながら向けられたみやび先輩のイヂワルな視線に、私は羞恥心を一気に高鳴らせた。

 とっさに先輩の指を掴み上げると、私はさも何事もなかったように麗佳さんと初対面の挨拶をかわし、拭い奪った余る程の濡れ具合を、こっそり自分の服に拭り終えた。

 『よしよし、完全犯罪完全犯罪。私は何ともなっていませんもんっ。あ……雑誌が崩れちゃってる。え……えっ、これって楽譜? てっ……ま、まさかこれ全部っ?』

「あぁそれ、大丈夫かなぁ? や、破れたりしてないよねっ? いやぁ、麗佳ちゃんに勧められて借りたんだけど、来週図書館に返さないといけないから一応全部まとめておいたんだよぉ。なんとなーく覚えたし」

「な、なんとなく覚えたって……ビートルズを全部ですかっ?」

「なんかね、分かった気がするんだぁ、お友達な音を3つか5つ集めればいいみたい。集めたらお隣さんのグループと友達になればいいんだよ。そしたらね、弾いていてすごく楽しくなってくるんだよぉ」

 聞く専門ではあるけれど、音楽好きな麗佳さんが、音楽の楽しさ、心地よいコード進行のパターンを覚えるにはビートルズだとみやび先輩に教えたようだ。
 確かに70年代以降のヒット曲なんてほとんどがビートルズのオーマージュ、コード進行だと言っても過言ではないけれど。

 発表されているだけでも200以上ある楽曲を全部覚えたって、そ、そんなわけないじゃないですか……みやび先輩。

 でも、下らない嘘は毎日のようにつくけれど、ちゃんとした嘘はつかないんだ……この人。

 寒気がした……コードって言葉ひとつ知らないみやび先輩は、きっと理屈とか小手先じゃなくて、心地のいいメロディ、音楽というものを本能的に理解して自分のモノにしているんだ。

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