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銀座 蔦屋書店『ヲアケル』刊行記念オンライントークイベント - レポート

2021年1月12日、銀座 蔦屋書店さん(@ginza_tsutayabooks)にて『ヲアケル issue:01 -刊行記念トークイベント』が行われました。

本誌にご参加いただいた小谷実由さん(@omiyuno)と長田果純さん(@osada__)を迎え、「モデルとフォトグラファーの関係性:距離感について」をテーマに、制作にあたっての撮影エピソードや、おふたりが思う「写真」のこと、プライベートでの交流のこと、いろいろなことをお話いただきました。

司会進行に編集者の野村由芽さん(@ymue)をお招きし行われた、このオンライントークイベントの一部始終をお伝えします。

※本イベントは昨今の情勢を鑑み、コロナ対策を行ったうえで行われました

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キャプション:左から長田果純さん・小谷実由さん・野村由芽さん(以下敬称略)

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小谷さんが思う「仕事で撮られる」ということ

野村:撮ったり撮られたりすることは二人にとってどういう意味を持っているのか、どんな感情が呼び覚まされるものなのかについておふたりにお聞きしてみたいなと思っていて。

小谷:仕事で撮られるのは撮影の目的がちゃんとあるので、そのことをまず第一に考えてしまう。なので、自分主体で動いてるものとかに関しては、楽しく撮れるもの・撮ってもらえるものがいいっていう風に思ったりもするんですけど、正直やっぱり合う合わないというのは絶対ある。それはなんか、人間関係だから。

ひとりの人とカメラを通して会話しているようなもので、息を合わせないといい写真は撮れないと思うし、撮ってくれる人が「あ、今いい」っていう風に絶対相手のこと考えてるじゃないですか。被写体のことを考えないと撮れないと思うので(プライベートと同じく仕事の)人間関係に合う合わないはある。

でもそれ以前に仕事だから、会議とか商談とかで「うわ、この人合わないから契約するのやめよう」みたいな、そういうことじゃないじゃないですか。その条件が合ってれば契約するし、とか……何の話でしたっけ。

一同:(笑)

「おさちゃんに見られたい自分」と「関係性の名前」

野村:お二人の関係性は、撮影現場においてどのように影響しあっていますか?

小谷:『ヲアケル』で久しぶりに仕事で撮ってもらって、しみじみその写真を見返して思ったのは、おさちゃん(長田さん)に見られたい自分で立とうとしてるなって思ったんですよね。

普段はへらへら遊んでて、ほんとに何にも考えてないプライベートの自分の時に、さっと切り取ってくれてる感じとかはそういう(プライベートとしての)意識が強いけど、これは仕事だったから「仕事」っていう気持ちでいたし、おさちゃんのことももちろん友達だとは思ってるけど、ちゃんと写真を・私を撮ってくれる人っていう気持ちが普段の意識に更に加わっていたから、ある種他人行儀ではあったし、多分おさちゃんにこういう風に見られたかったってじんわり思ったし、そういう風に撮ってもらえて良かった。

すごく私はあの時のおさちゃんが撮ってくれた写真を気に入ってますし、一緒に仕事することができて嬉しかったっていう気持ちがある。

野村:撮影にはそれぞれの目的があると思いますが、それを目指した上で「撮影する人にこう見られたい」と思うことは、他の現場でも起きることですか?

小谷:ないし、そういう風に思ったのはじめてだったかな。それくらい考えるっていうのは、やっぱりおさちゃんだったからなのかもしれない。自分で言うのも変なんですけど、彼女は私のことをすごく褒めてくれる。

野村・長田:(笑)

小谷:素直にとても嬉しいし謙遜もありますけど、それに応えたい!せっかく撮ってくれるんだったらその思ってる度を超えたいとか、やっぱりいいなって思ってもらいたいとか……好きなのかな?

(長田さんの方を向きながら)ちょっと恋愛みたいな。好きな人、みたいな気持ちはありましたね。久しぶりに一緒に仕事をすることができて、彼女に対して思っている新しい気持ちに気づいたというところがありました。

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長田さんが思う「仕事で撮る」ということ

野村:長田さんにとって、おみゆさん(小谷さん)を撮影することは自分にとってどんな意味や感情をもたらしますか?

長田:仕事で知り合ったわけではなく、元々は友達からのスタートで、その途中で一緒に仕事をする機会が何度かあって。私もおみゆと同じく今は「仕事は仕事の写真、プライベートや作品として発表するものはまた別」という風に自分の中では完全に分けていて。

でも、20代前半の時とかまだ仕事をたくさんもらえていなかった頃は、もっと自分の作品性とか自分の要素みたいなものが、仕事で撮る写真の中にもたくさん入っていないと嫌だなと思った時期があったんですけど、その時は「仕事は仕事」と割り切ることがしんどかった。

「これ、自分が撮ったけど自分の写真じゃないな」と感じることがあったんですけど、そこが割り切れるようになり、「1%でも自分自身の要素が入ってたらいい」という風に思えるようになってからは、仕事で撮る写真にもすべて意味があると思えるようになったなと。

写真における「距離感」の話

長田:例えば、今回の『ヲアケル』の時に撮影したものだと、そもそものテーマが「予感」で、私はそこにいてはいけない人物目線だったので、親しさがあまりわからないような距離感でずーっと撮影していました。普段の仲の良さがいい意味でわからないようにというか……。

いつもの距離感で撮っていくというよりは、盗撮に近い感じで。私自身そっちの方が好きだし得意なんですよね。プライベートでもすごく距離の近い写真を撮るかと言われると、そこまで親密な写真ではないし、すこし不意なカットとか、「いつ撮ってたの?」っていう写真が多いんですよね。

そういうところを含めて、今回の『ヲアケル』の写真は近い距離ではなく、私がいないものとして写しているものが多いので、普段のファッションの撮影とか、ポートレートとはまた少し違った雰囲気かなと思うんですけど、結構好きな距離感で自由に撮らせてもらえたなと。

でも、おみゆがめちゃくちゃいい表情を見せたりするので、そういうときに思わず寄って撮ってしまって、「どうしてもこの写真使ってほしいな~」って撮影後に見ていたりしましたね。

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長田さんにとっての「いい表情」

野村:その予感……あ、なんかいい話すぎて言おうとしたことしたこと忘れちゃいました。

小谷・長田:(笑)

野村:長田さんにとって、おみゆさんの「いい表情」というのはどういうものですか? 言語化が難しいかもしれないのですが、聞いてみたいなと思いました。

長田:例えば今回の『ヲアケル』の写真だと、ひとりでお店に入ってきていて、お茶を飲んだりカレー食べたり、ドーナツを食べたりしてるシーンがあるんですけど、実際ひとりで笑顔で食べる人っていないじゃないですか。

それってすごく不自然になるから、ひとりで誰かを待っているようなシーンの中でも、美味しすぎてどうしても笑みがこぼれてしまうような表情とか。本人もあんまり普段笑顔を……。

小谷:あのね、笑ってるつもりなんですけど、顔の筋肉ついてこないんですよね。

長田:と言ってるように、笑顔の写真ってあんまり多くないのかなって思うんですけど、その中で自然にちょっと笑っちゃうみたいな表情とか。

あと、冬で光が澄んでいて、おみゆの黒目って真っ黒というよりは微妙に光が当たると茶色っぽくなるんですけど、光が黒目に入ってちょっと透き通ったときに「ハッ」ってなりましたね。

野村さんが好きな1枚とおふたりの関係性

野村:質問じゃなくて感想になっちゃうんですけど、「予感」というテーマを撮影者である長田さんが「自分はここにいない人である」と捉えたという話がすごく面白いな思って。

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私は、この写真がすごく好きなんですよ。おみゆさんが後ろを振り返っている写真なのですが、表情も含めて「予感」っぽいというか、目に見えない魂みたいなものを背中に感じて、振り返ってしまったような一枚。個人的に、この世とあの世の境界のような感覚を捉えたものに惹かれるというのもあるのですが。

小谷:私だけが見えてるみたいなこと?

野村:そう、「気配を感じてしまった」みたいな写真だなと思って。そういう何かが写ってるなと思いました。

長田:私自身そういうのが好きで、対面してるよりは覗いてる感じだったり、できれば向こうから私のことが見えないでほしい……みたいなことは思ってるかもしれない。

小谷:さっきからすごい自分が言ったことを後悔してる。なんかその、いてはならないって言った瞬間に「でも私はおさちゃんに見られたい自分で写ってたっていうことは、めちゃめちゃおさちゃんのこと意識してんじゃん」って思って。

野村:叶わぬ恋みたいですね。そのままならなさもいいですけどねえ。

小谷:なんか恋焦がれ、たどり着けない。

長田:でも覗いてるってことは見たいんだよ。

小谷:じゃあその、深層(心理)は突いてるってことでいいのかな。

野村:「仲がいい」にもいろんな形があると思うんですけど、深い親密な関係ながらも、なれ合いみたいなものが写真の中には一切ない感じがして。「見たい」けど「見られたくない」といったお話も、ふたりの写真に漂うある種の緊張感……といっても、凝り固まったものではなく、スッと澄んだ、凛とした空気につながっているのかなと改めて思いました。

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プロフィール

小谷実由 (おたにみゆ)
ファッション誌やカタログ・広告を中心に、モデル業や執筆業で活躍。一方で、様々な作家やクリエイターたちとの企画にも取り組む。昭和と純喫茶をこよなく愛する。愛称はおみゆ。
https://www.instagram.com/omiyuno/

長田果純 (おさだかすみ)
1991年静岡県生まれ。東京在住の写真家。14歳の頃から写真を撮り始め、現在はポートレート撮影やファッション、アーティスト写真や映画スチールなど、活動は多岐にわたる。個展に、「透明になることは二度とない」2014年(下北沢アートスペース / 東京)、「いまは夜のつづき」2016年(三鷹ユメノギャラリー / 東京)、「平凡な夢」2019年(Alt_Medium/東京)、「漂流する朝」2020年 (テラススクエア/神保町)がある。
http://osadakasumi.com/

【司会進行】 野村由芽 (のむらゆめ):編集者
https://www.instagram.com/ymue/

【テキスト・撮影】ウスイダイスケ:ライター
https://twitter.com/usui_daisuke

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ヲアケル|Issue:01 - はなしをもどそう

『ヲアケル』は「予感」をテーマにしたインディペンデント・マガジンです。モデルに小谷実由さん(@omiyuno)を、撮影に長田果純さん(@osada__)をむかえ誕生した「Issue:01 - はなしをもどそう」が現在発売中です。

銀座 蔦屋書店さん(@ginza_tsutayabooks)はもちろん代官山 蔦屋書店さん(@daikanyama.tsutaya)など関東を中心とした書店のほか、下記オンラインショップでもご購入いただけます!


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