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ホルスクエスト 第4話

第4話
師匠の意志と新たな旅立ち

それから更に数日が経った。
ミリコの怪我は次第に良くなって、普通に生活できるようになっていた。

ミリコの話を聞いた後、ホルスとニサンは自分たちはボコイの村出身である事を伝えた。
消失事件をきっかけにこの教会に住むようになったこと、自分たちなりに村跡を調べていたこと、何か行動を起こしたくて鍛錬を積んだりしてきたが、他にも消えた街があるなんて考えもしなかったことなど、一つ一つ順に話した。

彼らはこの教会で暮らしながらできることに限界を感じていた。
ミリコとピリムの旅を知った今、消失の原因を突き止めるため、消えた人々や場所を取り戻すため、さらなる行動を起こす時だと感じた。

そして顔を見合せてから、ミリコに1つの提案をした。

君の師匠、ピリムさんの意志を継いで旅に出ようと思う。
俺たちと一緒に行かないか?

ピリムさんから頼まれてるんだ、君のことは絶対に護る。
とホルスが付け加えた。

一方シスター・マリーザはホルスたちの提案も知りつつ、このまま教会で暮らしてもいいとミリコにこっそり伝えていた。
まだ幼い彼女にとって、3年もの旅はさぞ過酷だっただろう。
山奥で不便な所だが、地に根を張って生きるのも彼女のためになるだろうと思っての提案だった。

ミリコにはその優しさが嬉しかった。
確かに3年の旅は彼女にとって楽なものではなかった。
しかしミリコは既に決めていた。
行方の知れない家族を探すという大きな目的があるし、何より師匠との旅を志半ばで辞める訳には行かない。
1人でも続けようと思っていたのだ。

ミリコは、ホルス、ニサンとともに旅に出ることに決めた。
シスター・マリーザは若者たちの決意を止める事はなかったが、ミリコの体調が万全になる前に旅立つ事だけは許さなかった。

それから数日後、ついに旅立ちの時を迎えた。

昨夜はいつもと変わらない食卓を囲んで楽しいひと時を過ごした。
シスター・マリーザはいつでも帰っておいでと優しく見守り、ルメルは最後まで旅立つ3人を心配した。

犬のムックは魔物に襲われて負った傷が原因で長時間歩けなくなっていたので、教会に残る事になった。
ニサンは2人を頼んだぞとムックに言い、彼もそれに応えた。

ホルスとニサンは故郷が消失して以来、本当の家族のように迎えてくれたシスター・マリーザとルメルに言葉では伝えられないほど感謝していたので、せめて今伝えられる分だけを言葉にして伝えた。

ミリコはムックを連れて、ルメルの両親の隣に眠る師匠に旅立ちを報告してから、改めてシスター・マリーザとルメルに深い感謝を伝えた。

そしていよいよ3人は教会を後にして、広い世界へと旅立って行った。

最後まで笑顔で見送ったシスター・マリーザだが、行ってしまいましたね、という声がかすかに震えていたのをルメルは聞き逃さなかった。

どうか気を付けて。


教会を出た一行の最初の目的地は、ボコイの村跡だった。

というのも、少し前にマトリン山のふもとの町ベルチャムを訪れたホルスとニサンは、商店の店主からある噂を聞いていたのだ。
近頃、ボコイの村跡で凶暴な魔物が暴れているらしい。怪我人も出ているという。

それを聞いた2人はすぐにあのおぞましい姿と声を思い出した。
あの魔物が自分たちの村で人を襲っているのだ。

世界へ旅立つ前に決着を付けねばなるまい。

改めて変わり果てた故郷を訪れたホルスとニサン。そしてミリコ。
消失した村跡のほぼ中心地に根を張っている異形の魔物を、少し離れた位置から確認した。
少なくとも2人は、他にこんな魔物を見た事がない。
ミリコは他の3つの街で、ピリムとともに異形の魔物を倒した時のことを話した。

消失跡の魔物はどれも地面に根を張っているためその場から離れられないようだ。そして体のどこか一部が発達して、そのまま武器になっていたという。
ボコイに鎮座する魔物は、異様なまでに右腕が大きく発達していて、鎌のように鋭い爪を持っている。

右手の攻撃に気をつけましょう!倒せない相手ではありません!

3人は一気に魔物との距離を詰めた。
異形の魔物はおぞましい咆哮を発したが、怯まず突き進む。

ニサンはホルスよりも足が速く、最初に魔物を間合いに捉えた。
右腕の鎌攻撃が飛んでくる。ミリコの補助魔法を受けていたおかげでなんなく避けて反撃。
そこにホルスが追いついて2撃目を入れる。

実際に剣を交えると野山にいる魔物とは桁違いに強いのが伝わってくる。ホルスとニサンだけでは危うい戦いだったかもしれない。

ミリコは12歳の少女とは思えないほど戦い慣れていて、的確なタイミングで2人の動きを補助したり、敵の動きを妨害する魔法を放った。
そしてしばらく続いた攻防のスキマを見逃さず、ホルスとニサンに後退の合図を送る。

杖に収束したミリコの魔力が熱を帯びて発火、火球になって敵に向かって飛び出した。
そのまま回転するような軌道を描いて敵に直撃。
魔物は炎に包まれて浄化された。
3人はボコイの村跡の魔物を倒した。
これで人が襲われることは無いだろう。

ホルスは魔物がいた辺りに落ちていたカギを拾った。
ミリコが持っている3つのカギと並べてみると色や大きさはバラバラで、やはり読めない文字が彫られていた。

3人はそれぞれの想いを胸に、変わり果てた故郷をしばらく眺めていた。
やがて村を後にして山を降りていった。

続く

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