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ホルスクエスト 第3話

第3話
嵐の夜と旅の魔法使い

ボコイの村が消失してから3年が過ぎた。
ホルス16歳
ニサン17歳
ルメル20歳

この3年間ホルスとニサンは、時々マトリン山のふもとにあるベルチャムの町へ出かけては、買い出しついでにボコイの村についての情報を集めた。
始めの頃はボコイの村の消失事件としてあちこちで噂になっていたが、時間が経つにつれて人々の記憶は薄れていった。
結局有力な情報は得られないまま時間だけが過ぎ、2人は今のやり方に限界を感じていた。

ある日、マトリン山を嵐が襲う。
激しい嵐は山肌に張り付く小さな教会に容赦なく風雨を叩きつけた。

夕食の用意をしていたルメルは教会の扉を叩く音に気付いた。
不審に思いつつ扉を開けると、そこには少女を抱きかかえた男が1人、さらに大きな犬が1匹立っていた。
2人と1匹はずぶ濡れで、しかもそれぞれひどい怪我を負っていた。

ルメルはすぐに彼らを招き入れ、シスター・マリーザ、ホルス、ニサンと共に看病を始めた。

翌朝、怪我を負った少女ミリコは光が射し込むベッドで目を覚ました。
体を起こそうとすると全身が痛んだ。あちこち怪我をしているがすべて丁寧に手当てされている。
同じく包帯だらけの犬ムックがすぐ近くで寝ている。
ミリコが目覚めたのに気付いて顔をもたげてしっぽを振った。

ぼーっとした頭でここはどこだろうなどと考えていたが、すぐに昨夜のことを思い出した。
師匠は!?
一緒にいた男、師匠ピリムは無事だろうか。

物音を聞いてルメルが部屋に入ってきた。
慌てる少女をなだめて再びベッドへ寝かしつけた。

師匠は!?もう1人男の人がいませんでしたか!?
ミリコの問いかけにルメルは目を伏せる。
手は尽くしたが彼を救う事はできなかった。
それを伝えると、少女は力なくうつむいた。
ルメルは食事を用意するわ、という口実でそっと部屋を出る。
すすり泣く声がかすかに聞こえていた。

それから3日。
ミリコは少しずつ落ち着いて話ができるくらいには回復した。
彼女の師匠ピリムの最期の様子を知りたがったので、ホルスが話した。

彼は途切れそうな意識で冷静に自分が受けた傷を見定めて、もう助からないと悟っていたようだった。
そして近くにいたホルスに話しかけた。

あの子をどうか頼む、あの子は太陽の、、

最後まで言えずに力尽きた。

ミリコは涙ぐんで、そうですか、とだけ言った。
しばらくして、助けてくれてありがとうございますと感謝を添えた。

黙って聞いていたニサンが口を開いた。
よかったら君たちの事を教えてくれないか?

ミリコは自身と師匠の事をゆっくりと話し始めた。

3年前。ミミクローザ大陸の主要都市ミミクローザ。当時9歳のミリコは家族と共にそこに住んでいた。
彼女は幼い頃から街一番の魔法使いピリムに師事し、その日も街はずれの森で魔法の修行をしていた。

日が傾いてそろそろ修行を終えようとした時、突然地鳴りが発生。そして地面が怪しい紫色の光を発し始めた。

光は次第に強く柱状に伸びていく。
ピリムはいち早く異変に気付き、ミリコを抱えて光が届かない場所へ走った。
光が街全体を包み込んだとき、自分が空にせり上がるような感覚を覚える。
逆だ。建物や木々がゆっくり沈み始めたのだ。

何も出来ずに見守るしかない2人。近くにはどこからか逃げてきた犬が1匹。
そのままミミクローザの街は完全に飲み込まれ、光が消えた時には黒っぽい平らな地面しか残っていなかった。

それからしばらくは近くのパンネルという旅人が多く集まる街を拠点にして情報を集めた。
犬も自然と付いてきたのでミリコがムックと名付けた。
どうやらミミクローザと同時に消失した街や場所があるらしいと知り、調査のために旅に出る。

魔物に襲われる事もあったが、並の魔物ではピリムにまるで歯が立たない。
改めて自らの師匠を誇らしく思いつつ、ミリコも修行の成果を存分に発揮した。

それから3年かけて消失した3つの場所を調査してきた。
故郷であるミミクローザの街。ジャピテル大陸ピピテル領のコバークという港町。ポルテコ大陸の最北部、雪に包まれたロットフルという小さな町。

どこも共通して元の地形と関係なく起伏がない平らな地面になっていた。

ロットフルは小さな町なので全て飲み込まれていたし、ミミクローザやコバークのような比較的大きな都市は、街の一部が今も残っている。
住人はいずれも近隣の街へ避難しているようだ。

もう1つ、3箇所に共通しているのは、平面化された範囲のほぼ中心に異形の魔物が根を張っていること。
見た目も大きさもそれぞれだが、どれも凶暴で近付く人や動物を襲う事もあるようだ。
ミリコとピリムは協力して3箇所の魔物を討伐したが、消えた街は元には戻らなかった。
その代わり、魔物がそれぞれ持っていた鍵のような物を入手した。

ミリコは鍵を実際に取り出して見せてくれた。形や色はバラバラで、見た事のない文字が刻まれている。

そしてつい先日、ロットフルから南に位置するボコイという山奥の村の噂を聞いて調査に来た。
途中で嵐に合い、近くの山小屋で休んでいた所、この辺りにいるはずもない強力な魔物が現れて小屋を破壊して2人を襲った。

ピリムの魔法によって魔物を撃退したが、戦闘中にミリコをかばって彼が受けた傷はただの傷ではなかった。回復の魔法もほとんど効果がでず、ピリムは急速に弱っていった。
そして偶然この教会にたどり着き、すがる思いで戸を叩いたのだという。

続く


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