偽乳の話

あれは高校の同窓会の帰りであった。
私は友人と駅に向かい歩いていた。

駅前は繁華街、春を売る女とその店の招き猫どもがうじゃうじゃといる。

通行人が1だとすると、キャッチは軽く10はいて、学ランで歩く学生時代の自分に

「学割あるよ」

などと法意識も倫理観も欠いた声掛けをしてくるのだ。

当然、そんな新世界めいた路地を行軍するのは苦痛であった。
群馬の片田舎の繁華街なので、きっと薄明かりの中で目を細めても可愛いかと言われれば可愛くないような奴しかいないのである。
だれが好き好んで大金を払い安酒を飲むというのか。

なので、我々は少し迂回して人通りの少ない路地裏を歩いていた。
友人は身長が185を超える大男なので、よっぽどのことがない限り絡まれることはないだろうと考えていた。

しかし、それは浅はかであることを知った。

とある一角の店舗。
薄汚れた青い外壁の店から、そいつらは姿を現した。

「オニーサン、ちょっと寄っていってヨ」

片言交じりで話しかけてくる集団、おおよそ7人ほどの外国籍の女と思われる軍勢に囲まれてしまったのだ。

「サービスするヨ?」

そんなことを言いながら、腕を無理やり組んでくる。
胸を押し当てながら、上目遣いで言い寄ってくるのだ。

「すみません、この後用事あるんで」

丁重にノーサンキュー、当時酒をほとんど飲まなかったのと、ラーメンが食いたかったのである。

そして、より重大な事実が一つ。

先ほどから腕に押し当てられている胸。
下着を身に着けていないのだろうか、やたらと柔らかい感触が伝わってくる。
普段であれば、悪い気はしなかっただろう。
しかし、それを喜ぶことはできなかった。
何故か?

とある一角の店舗。
薄汚れた青い外壁の店。
看板には見ればどういった店なのか瞬時に判別の付く明快な文字列。

「ニューハーフパブ」

お分りだろうか?
そう、偽乳だったのである。

別にニューハーフだからどうこうという話ではない。
乳は乳、養殖か天然かの違いでしかない。
しかし、人間というのは天然物をありがたがってしまうものなのだ。

うなぎにしても、養殖と天然では価格が段違いだ。
オーガニックだとか天然由来だとか、なんとなく健康に良さそうな響きがある。
乳だって天然であるに越したことはない。

オーガニック天然由来乳が本来の理想なのだ。

ミーハーな素人だと嗤うだろうか。
玄人は養殖の味わいを知っていて、未だそれを知らぬ俺を高見から見下しているのだろうか。
それでも、養殖乳に舌鼓を打つ勇気はなかったのだ。

腕を振りほどき、その場を後にした。

後日、別の友人が俺に言う。

「そこの路地で女が、俺に胸を見せつけてきたんさ」
服をまくり上げて、生乳を拝まされたらしい。
場所を聞くと、我々を襲ったニューハーフパブの場所と一致していた。
少しの恐怖と興奮が入り混じった彼に、幸福にも店の看板を見ていなかった彼に、俺は真実を告げる勇気はなかった。

とことん、勇気のない男であった。

これは情けない俺の話であり、偽乳の話である。


PS
バイトの後輩がその店に行ったらしい。
年下なんに、よー行ったなと関心し、感想を聞いた。

「全然だめでした!」

何がダメだったというのか。

「あいつら全員おっぱいが固いんすよ!!」

すげーな、揉んだんだ。
というかおさわりOKだったんだ。

まあ、後輩のお陰で確信が持てました。
やっぱオーガニック天然由来おっぱいの方がいいな。
皆さんもおっぱいはオーガニック天然由来の物を選んでくださいね。

硬度は個体差も大きいかもしれませんが。

それでは。

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