ヒト臨床試験を始めるための非臨床試験ー臨床試験のリスクを担保する毒性試験

どうも。田中@臨床薬理屋です。

前回記事で、

医薬品開発において重要なことは、この次のアクションのリスクの把握にあります。

と書きました。TGN1412事件では、薬理作用は期待通りに発揮されたのにも関わらず、サイトカインストームという重篤な全身炎症状態を引き起こしてしまいました。

何故そのリスクを予測できなかったのか?

これを考察していく必要があります。

しかしその考察にはかなり時間がかかります。note数回に渡って記載していきますので、一歩ずつ進めていきましょう。

医薬品開発に少し詳しい方であれば、研究により発見された新しい化合物を用いてヒト臨床試験を開始する際に必要な非臨床試験、すなわち動物実験はある程度決まった「パッケージ」があるということはご存知かと思います。

前回の記事でも紹介した熊谷先生の解説記事においても、それは触れられています。

臨床開発に際し,新規化合物がヒト臨床試験へ移行するために必要な非臨床試験の種類はICH-M3ガイドラインに示されており,TGN1412についてもこのガイドラインが要求している非臨床データはそろっていた.

ICH-M3ガイドライン、正式な日本語名称を「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験実施についてのガイダンス」と言いますが、この名称の通り、臨床試験の実施のために必要な非臨床安全性試験、すなわち毒性試験データについて、臨床試験を実施する者に対して「ガイド」するものとなります。

ガイドラインとガイダンスという用語は混同して使われることが多いのですが、ここではあまりその意味の違いには拘らず、「ガイド」「説明書」のようなものと捉えることにしましょう。

熊谷先生の解説記事には、その内容についてもう少し詳しい記載もあります。

ヒト臨床試験開始の根拠となった非臨床試験データは,安全性薬理データ,単回投与毒性試験,反復投与毒性試験,薬物動態試験,トキシコキネティックスのデータである.生殖発生毒性試験は反復投与毒性試験で組織学的変化がないことから施行せず,遺伝毒性はこの化合物の特殊性から,意味のあるデータを得ることが難しいことを理由に施行していない.以上のデータからは明らかな毒性所見は得られておらず,カニクイザルにおける28日反復投与毒性試験(0.5~50mg/kg)で毒性所見がないことから,最大無影響量(NOAEL)は50mg/kgと判断された.この50mg/kgという用量の500分の1である0.1mg/kgがヒトへの初回投与量として選択されたわけである.

このあたりから少し解説を加えていく必要がありそうですね。ICH-M3ガイドラインの記載と照らし合わせながら、この記載の一つ一つの意味合いを確認していきましょう。

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