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おばあちゃんの毛布


 風邪をひいて寒気がやばいことになった。お湯に溶けてくバブみたいな気持ち。なんか全身シュワシュワする。やばい。

 いつもの布団じゃとても足りなくて、数年出してなかった重たい毛布を引っ張り出してきた。

 実家に住んでいたときからずっと、一緒に育ってきた毛布だ。小四のとき、同居していた祖母が乳癌で亡くなった。たしかその年の冬に、母親が箪笥部屋から出してきたんだ。おばあちゃんが、あんたたちが寒くないようにって買っておいてくれてたんだよ、と。

 襟口をタオルで継いだぼそぼその丹前しか使ったことがなかったから、おろしたてのその毛布が随分ぴかぴかとして見えたのを覚えている。

 以来、その毛布とは夏以外をずっと一緒に過ごした。しまいこんでしまったのは、いつだっけ。たしか娘が産まれる少し前だ。重たい毛布で窒息しないように、軽くて温感が売りの化学繊維の毛布を買った。それを今は掛け布団と二枚重ねで使っている。

 ベッド下の布団袋の中から引っ張り出してきた祖母の毛布を、いつもの布団たちの上からがさっとかける。本当は一番下に敷きたかったけど、生憎気力が残ってなかった。寒い。だるい。一刻も早く布団に入りたい。

 ずっしりと重たくなった毛布たちをめくって、中に潜り込んだ。

 そうだ。あんなにたくさんかけていたのに。重みで身体が苦しくなるほど何枚も重ねて、それでようやく眠れるくらいの厳しい夜だったのに。

 ぴりりと凍えた鼻の頭を毛布に埋めて、そこからまた頭まで潜って、まるで自分だけの冬眠の穴ぐらみたいで、寒いから穏やかで、穏やかで暖かかくて、好きだったな。

 化学繊維の毛布に取って変わられていた厳冬夜の記憶。久しぶりに味わった毛布の重みの中で、弱った身体をふにゃふにゃと縮こめながら、来週洗濯しよう、と思った。ちょっと埃くさい。けど。あったかいよ、ばあちゃん。



words & photo - @_sasabune

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