【2010年代のベストアルバム100枚】Rick Ross "Teflon Don" (2010)

画像1

概要

『Teflon Don』は、アメリカのラッパーRick Rossの通算4作目となるスタジオアルバムです。Rick Ross自身がエグゼクティブ・プロデュースを務めており、Clark Kent、No I.D.、The Olympicks、J.U.S.T.I.C.E. League、Danja、Kanye Westなど様々なプロデューサーが参加しています。全米アルバムチャートでは初週に17万6300枚を売り上げ、初登場2位を記録しました。

ルーツへの回帰と、ボスの証明

Rick Rossは今作のリリースに先駆けて、次のように語っています。「理解してもらわないといけないな。俺は本当にたくさんのことを乗り越えてきた。音楽だけじゃなくて、普段の生活においてもな。若い黒人男性として、起業家として、父親として。たくさんのことを学んだ。また引き返して音楽に打ち込もうとしているところだ」

一方で、彼は自分に対する「たくさんの否定的な」意見を聞いてきたため、今作を"Teflon Don"と名付けたと語っています。テフロン・ドンとは、ニューヨークのマフィア組織Gambino一家のボスだったJohn Gottiのことを指しています。彼は殺人容疑などで何度も法廷で裁判にかけられたにも関わらず、なかなか有罪判決を受けなかったことからそう呼ばれていました。

また今作は「自分のルーツに立ち返った」作品であると彼は語っており、母親が聴かせてくれたSam CookeやMichael Jacksonの『Thriller』にも言及しています。実際母親の影響でR&Bをたくさん聴いてきた彼は、お気に入りのR&BアーティストとしてSadeを挙げています。「Sadeはお気に入りのR&Bアーティストだ。タイムレスだよ。だけど小さい頃はBobby WomackやJohnny Taylorを母親と聴いていた。高校を卒業したときに、Mary J. Bligeが『What's the 411?』をリリースした。俺はめちゃくちゃ聴いていたんだ。シボレーに乗りながら聴くと最高でさ。ドープな奴らはみんないつもそれを流してたよ」

変化し続ける音楽の世界に適応した彼史上最高傑作

また、Rick Rossはこれまでの経験からアルバムの制作についてのノウハウは身に着いてましたが、自分のできる最高のアルバムを完成させるために、さらに自分が新しい音楽に適応する必要があったと述べています。「俺はいつも自分の知っているアルバムの作り方に固執してしまおうとするところがある。だけど音楽は変化しているということは理解しているし、わかっている。だから変化を受け入れて、変化を予知するんだ」

Rick Rossは今作の成功について、3曲のプロデュースに関わっているJ.U.S.T.I.C.E. Leagueが重要な役割を果たしてくれたことを語っています。「Justice Leagueと座っているまさにそのときに、いくつかの曲についての自分の持ってるヴィジョンとコンセプトを伝えたんだ。彼らは本気で取り組んでくれたよ」

参照

リリース時の評価

2010年のベストアルバム・リストで、『Complex』が6位に、『Billboard』が9位に、『Rolling Stone』が30位に、『Pitchfork』が38位に選出しています。

『Billboard』は、「Aリストのゲストスター達」を呼んだ今作について「贅沢なビート」上で、「Rick Rossは彼のゲームを高みに押し上げて」いると称賛しています。さらに、"B.M.F. (Blowin' Money Fast)"の"I think I'm Big Meech! Larry Hoover!"(Big MeechもLarry Hoverもギャングのリーダー)というラインについて「今年最も印象に残ったオープニングライン」であると述べています。

『Pitchfork』は、ドラッグディーラーではなく看守だった過去が明らかになったRick Rossについて「偽装のキング」であると認めながら、彼の「堂々としたサウンドは他の誰より壮大かつ退廃的で驚くほどけばけばしい」と称賛しています。また、「彼の現実世界での」ドラッグディーラーとしての「経験が欠如しているにもかかわらず」彼はそういったことを気に留めておらず、その「誇大妄想こそがRick Rossのアート」であると指摘しています。

2010年代における評価

『The Genius Community』が53位に、『Cleveland』が88位に、それぞれの2010年代のベストアルバム・リストに選出しています。また、『The Stanford Daily』による2010年代のベスト・ヒップホップアルバム・リストの87位に選出されています。

『The Genius Community』は、今作に収録されている"I'm Not a Star"や"MC Hammer"、"B.M.F. (Blowin' Money Fast)"といったストリートアンセムが「MMG時代を定義するのを助け、2010年代のストリートラップを定義するに至ったトラップ・サウンドを結晶化させた」と指摘しています。「『Teflon Don』で、Rick Rossは単なるストリート・ソルジャーから誠実なキングへと成り上がったのだ」

『The Stanford Daily』は、初期のキャリアにおいて「コメディっぽい」と考えられていた彼自身と彼の音楽について、「『Teflon Don』が、シリアスで尊敬されるラッパーへと彼のイメージを本当の意味で確立させる」ターニングポイントになったとしています。

かみーゆ的まとめ

ヒップホップが最もストリーミングされるようになった2010年代、様々なスター・ラッパーが登場する中で、2000年代デビュー組の中でもRick Rossは一定の存在感を示し続けていたラッパーの一人だったと思います。そんな彼のブランドを決定付けた一作としてこの『Teflon Don』の成功がありました。

2010年代後半に旋風を巻き起こしたトラップ・サウンドのような音数を抑えたサウンドとはある意味真逆の無駄に豪快なトラップ・サウンドのストリートな側面、ルーツの一つであるソウルフルなサウンドやR&Bゲストと彼のラップが融合したよりポップな側面を両立させた今作はバランスも良く、徹頭徹尾Rick Rossらしさで統一されています。

彼の”ドラッグディーラーとして成り上がったマフィアのボス”ファンタジーは、現実にドラッグディーラーだった過去を持つJay-Zと比べると陳腐に映りかねないものですが、そのファンタジーがRick Rossのブランドを構築する一つの要因になったのは否めないでしょう。

トラックリストとミュージックビデオ

01. I'm Not a Star

02. Free Mason feat. Jay-Z

03. Tears of Joy feat. Cee Lo Green

04. Maybach Music III feat. T.I., Jadakiss & Erykah Badu

05. Live Fast, Die Young feat. Kanye West

06. Super High feat. Ne-Yo

07. No. 1 feat. Diddy & Trey Songz

08. MC Hammer feat. Gucci Mane

09. B.M.F. (Blowin' Money Fast) feat. Styles P

10. Aston Martin Music feat. Drake & Chrisette Michele

11. All the Money in the World feat. Raphael Saadiq

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?