【2010年代のベストアルバム100枚】Jazmine Sullivan"Love Me Back" (2010)

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概要

"Love Me Back"は、アメリカのシンガーソングライターJazmine Sullivanのセカンド・スタジオアルバム。Missy ElliottとSalaam Remiがエグゼクティブ・プロデューサーを務め、他にもNe-YoやNo I.D.、los da Mystro、Toby God、Chuck Harmonyらと彼女自身が共作をしています。全米アルバムチャートでは5万7000枚を売り上げ17位に初登場しました。

ファーストアルバムの成功をさらに推し進めるために

"Love Me Back"というタイトルについて、「誰かと恋愛関係にあったら、自分のすべて100%を捧げようと思うんだけど、そしたらその分も返してほしいってこと」と語っています。「素晴らしいスタートを切った。たくさんグラミー賞にノミネートされて、ナンバー1ソングがあって、世界中をツアーしたけど、もっと欲しい。それが"Love Me Back"のコンセプト。この業界からもっと恩恵を受けたいし、もっとビッグで素晴らしいことがしたいの」

Jazmine Sullivanは、今作の制作が「すごくセラピーのような体験」だったと語っています。「書いた曲をすべて今振り返ると、少しパーソナルすぎるように思えるくらいに」

よりソフトな一面を見せる人間的成長

特に今作では、自身の性格の変化が反映されていると語っています。「もっと前は、速攻で反応しちゃったの。"Bust Your Windows"ではそんな私の一面を見せたわけだけど、今はどう反応すればいいかっていうことを考える時間を取って、10秒経ってから反応ようになったわ」

「今作で、みんな私のソフトな一面を見ることができると信じてる。私の音楽を聴いて、怒ってる曲を書いてる女だという印象を持たれるのがすごく心配だったから。だって私にはもっと伝えたいことがあるからね。いま振り返ると、私が切り抜けてきた恋愛があまり良いものではなくて、それで自然と吐き出されたものなんだって思うけど」

一方で、"Redemption"のような曲では彼女の実体験ではなく、ドラッグ中毒の女性と暴力的な男性の関係が描かれており、リリック的にも新たな一面を見せています。「幸運にもそういう状況にある人は私の知り合いにはいなかった。私の知る限りはね。だから本当に想像力を働かせた。そういうのってあり得る話だし、きっと毎日どこかで起こってることだけど、個人的には経験がないからね...」

参照

リリース時の評価

今作を2010年のベストアルバム・リストに選出したメディアはなかったものの、音楽批評家から概ね高い評価を受けました。

星5つ中4つを付与した『SPIN』は「オートチューン時代に逆行するようなサウンド」の今作で、「自身の痛みをヴィンテージなアポロシアターでのラストのショーに相応するパフォーマンスへと昇華させている」と絶賛しています。

今作に10点満点中9点の評価を与えた『Allmusic』は、彼女のレーベルであるJ Recordsが「彼女がクリエイティブになれるよう」裁量を与えたことに触れ、「メジャーレーベルのR&Bシンガーが"Redemption"のような曲をレコーディングするのを許されることはそうそうない」と指摘しています。そのうえで今作で、『Fearless』における昔懐かしいソウルの可能性をさらに深堀していると称賛しています。

2010年代における評価

2010年代のベストアルバムのうちの1枚として、『Allmusic』と『Albumism』が今作を選出しています。

『Albumism』はJazmine Sullivanの「ヴォーカルの力がリスナーを再び魅惑的な旅へと連れていく」と称賛したうえで、近年のソングライターとしての彼女の活躍にも言及しています。「彼女のヴォーカルのレンジと作曲のポートフォリオを持ってすれば、Ms. Sullivanは確実に2020年代も突き進んでいくことを期待できるアーティストの一人だろう」

かみーゆ的まとめ

R&Bというジャンルそのものが大きく変容した2010年代だからこそ、私としてはJazmine Sullivanのようなアーティストにちゃんと光を当てたかったりします。

2010年代にリリースした自身のアルバムの数は2枚と、”パーソナルな体験がないと曲が書けない”彼女らしいスローペースのリリースなのですが、地味ながらも確実に存在感を示した10年間でした。特に2015年の次作『Reality Show』が『Pitchfork』からも注目され高い評価を受けたこと、2016年のFrank Ocean『Endless』『Blonde』での複数曲のヴォーカル参加によって、新たなリスナーを獲得しました。しかし重要なのはそこだけでなく、これまで”才能があるのは分かるが、何者か形容しづらい”彼女のような”いわゆるR&Bシンガー"をいかに過小評価してきたかという現実を、音楽批評の界隈に突きつけることになったとも思うのです。

今作でも、ソウルフルな楽曲だけでなく、サンプリングが躍動するヒップホップ調~よりポップなアプローチの曲まで幅広く、彼女を”正統派なR&Bアーティスト”と括ったことで、彼女の活躍する場を奪ってしまっていたのではないかとすら思えてくるほど多様です。そして私が強調したいのは、彼女の書く歌詞がいかに”面白い”かということです。それはジョークを綴ってるとかそういうことではなく、まるでKardashian家のリアリティ・ショーやアトランタを舞台にした黒人女性中心のリアリティ・ショーを見させられてるかのように、パンチの効いた一言一言がじわじわと笑いを誘うのです。”本格派”とか”玄人向け”など安易に語る人がいますが、その”女性が成り上がるために必要だった実直なユーモア”を携えていたことも彼女のキャリアを支えていたと私は思います。

振り返ると2010年代前半、大きな成功を収める新人の黒人女性アーティストは多くなく、K. MichelleやTamar Braxtonのようなリアリティーショーから登場したアーティストが象徴するように、”もう一つ注目すべき何か”がないと注目が集まらない時代が続きました。そんな中で、流行のエレクトロポップに迎合するでも、The Weeknd以降の新しいR&Bの定義にそこまで引っ張られることもなく、Jazmine Sullivanが自分らしい音楽を作り続け、ずっと強固なファンを獲得し続けていたことは見ていてすごく安心感を覚えます。そして陳腐な表現ですが、何度聴いても引き込まる歌声と言ったら、私の中ではJazmine Sullivanなのです。

トラックリストとミュージックビデオ

01. Holding You Down (Goin' in Circles)

02. 10 Seconds

03. Good Enough

04. Don't Make Me Wait

05. Love You Long Time

06. Redemption

07. Excuse Me

08. U Get on My Nerves

09. Shuttering

10. Famous

11. Luv Back

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