ふわふわと思い出す。

目が覚める。水を飲む。暖房をつける。カーテンを開け、外に目を向ける。この時間だが、まだ外は薄暗い。

テレビをつけて、朝のニュースに耳を傾ける。コーヒーを淹れ、朝食のパンを食べる。歯を磨く。支度を整える。コーヒーは詰めて、暖房を消して、家を出る。

車に乗り、いつもの道を走る。その農道はとにかく見通しがよい。車通りもまだ少ない。ようやく迎えた朝日に向かって、車を走らせる。詰めたコーヒーを飲む。そういえば、ここ数日降り続いた雪は、ようやく止んでいた。まだ頭の中は空っぽだ。1日が始まる。1日が始まる。


20分くらい、車を走らせる。車を停めて、そこから駅まで歩く。駅に着く。改札を通り抜ける。電車に乗る。電車が駅を出て、少し経つ。そうすると一気に視界が広がる。すっかり登った太陽の光は、一面に積もった雪に反射する。冬は、とにかく輝いて届く。改めて、今は冬だ。そんなことを再確認していると、あっという間に目的地に到着する。もう一度、改札を通り抜ける。少し歩いて、信号を4つ渡る。橋があり、そこを渡る。そうすると病院に着く。

建物に入り、階段を上がる。息が切れる。4階に出て、左へ曲がると控室がある。部屋に入る。図書棚で仕切られた、簡易的な更衣スペースで着替えをする。水色のサラッとしたナース服に袖を通す。着替えが済むと今日の計画を改めて確認する。それをファイルに綴じて、息を大きく吐く。部屋を後にする。

病棟に着く。看護室で挨拶を済ませる。病室に向かう。昨日の彼に、今日も顔を合わせる。彼とは、初めて顔を合わせてから、もう2週間になる。挨拶をして声をかける。返ってきた言葉は、これまでよりも柔らかく、身体の中に落とし込まれる。慣れなのか、体調がよいのか。そんなことを考える間もなく、自分の計画をこなしていく。

ここでは少し変わった時間を過ごしていく。浅い経験ではあったが、非常にスローリーで、慣れてきた今日でも、違和感を感じることがある。そして、これまでの経験とは違い、物体としてなにかに触ってみることが、なかなかできない。

午前中は、彼の予定に立ち合わせてもらい、あっという間に昼になった。正直なところ、何を話していたかは全く覚えていない。自分は控室に戻り、食事をとる。午前中のことを思い返し、午後の予定を読み直し、再び病棟に戻る。

午後。この日はレクリエーションに参加した。確か10人くらい。毎日顔を合わせている彼は、そこには居なかった。居ないことも知っていたが、自分はそこに参加した。そのレクリエーションは、院外に出て活動する。今朝、自分が来た道を戻る。長い橋を渡って、信号を4つ渡る。参加者は淡々と先へ進んでいく。そうすると朝の駅に着く。全員でよくあるコーヒー屋に入る。各々、コーヒー注文して席に着く。コーヒーを飲み始める。ある人は、煙草を吸っている。自分も馳走してもらいコーヒーを飲む。この間も、なにを話したかはほとんど覚えていない。一休みして、店を出る。また来た道を戻る。そして病棟まで戻る。参加した全員が何事もなかったように、普段の生活に戻る。

その後の時間は、彼と過ごした。病棟の端にラウンジがある。日当たりがよくてとにかく暖かい。そこで残りの時間を過ごした。目的は無かった気がする。そんなに覚えてはいないが、お互いの話をした。彼は、これから遠くない先のことを話していた気がする。わりと近い話。陽は暮れてきていた。

時間になると、挨拶を済ませて病棟を離れた。控え室に戻り、着替えをして、またあの道を戻った。今日のことを思い出した。電車に乗り、車を走らせて、自宅に戻った。

机に向かい、ファイルを開く。今日の記録をつける。今日起きた事実と考察を書きながら、テキストと照らし合わせてみたりする。話したこと。顔つきや、仕草とか行動。それはテキストに全く載っていなかった。こんなに理由を求められるのに、なんにも理由が載っていなかった。それでも、記録は明日までに書き進めないといけない。

なんとか、今日の記録を書き終えると、ようやく今日が終わる。今日が終わる。



明日の準備をして布団に入る。
外にはまた、雪が降り始めていた。

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