情報系博士課程修了までに経験したこと・感じたことに関する独り言

はじめに


こんにちは。日頃はこうして文書に自分の経験をまとめるのはあまり好きではないのですが、せっかくの機会なので、まとめてみることにします。

私は東京大学大学院工学系研究科のシステム創成学専攻というところで、人工知能、特に、マルチエージェントシミュレーションと深層学習、自然言語処理あたりを研究していて、2023/9に無事、博士をとり、修了しました。私についてはそんなに重要ではないので、詳しく知りたい方は、私のHPなり、research mapなり、scholarなりを見てください。

進路についてはまたの機会にXなどで触れることとして、今回は、東京大学にいた、8.5年間で考えたこと、感じたこと、それから、軽いHackのようなものについて、まとめてみたいと思います。ただ、何かしら体系だったことをかけるわけではないので、適当に項目立てて書いてみようと思います。参考になるところは参考にして、そうでないところは読み飛ばしていただければと思います。また、大学によってもいろいろ制度が違うので、ここで書いたことが正解では全くありません。

あくまで、独り言です。誰かや何かを批判したりする意図はありませんが、気に障る方がいらっしゃいましたら、部分的に修正したりもしますので、こっそり連絡をいただけるとありがたいです。また、最近はやりのcitation数バトルなどをするつもりはありませんので、ご了承いただければ幸いです。

ざっくばらんに話題ごとに書いていきますが、関連した話題は連続になるように配置しつつ、下に行けば行くほど、マイナーな話題になるようには並べたつもりです。

博士課程を目指す後輩へ

博士課程はいいぞ。
博士課程は、昔以上に、様々な支援が増えて、進学しやすくなっていると思います。特に、情報系だと、就職などにもこまらないので興味があるなら行けばいいと思います。

B4から博士課程進学を検討しよう

しょっぱなからこんなことを書かれても困るかもしれませんが、博士課程進学をまじめに考えているのであれば、B4の大学院入試後~M1の入学くらいまでに結論を出せるのがBestです。M2の4月までに結論が出ていればBetterですが、M2の冬になって就職を蹴って博士課程に行く人もいます。
なぜかというと、

  • (大学にもよるだろうが、) 一番早い場合で、M1の4月の2週目に卓越大学院の申請締め切りがあり、そこまでに(DC1相当の)申請書を書いたほうがよい場合がある

    • → うちの大学の場合、卓越大学院に通ると、採用半年後から月18万円がもらえるようになります。つまり、最短がM1の10月から18万。

  • M2の5月くらいにDC1の締め切りがあります。

  • M2の冬に決断を先延ばしするためには、就活も博士課程の入試も受けなければならず、負荷が大きい

これらの理由から、多くの場合、B4までは判断を行わなくてはいいものの、最短でM1の冒頭で決断をしたほうがよいわけです。
また、卓越大学院の申請書の多くは、結構な物量があり、研究計画をしっかりと練ったほうが通りやすいことから、B4のうちから、卓越大学院について、下調べをしておくことがよいでしょう。

私の周りでは、B4から検討を進めた人が私も含め、複数人いますが、M1に上がるときに研究計画を先んじて考えていた人たちは、ほぼ卓越を通っていました。(これは、後述しますが、B4のうちに国際会議やジャーナルを出していたことも影響があったと思います。)

学部2-3年までに英語学習をおえる、あるいは気合で頑張る

これは、私の場合大失敗しました。英語、できません。
多くの場合、学部の後期から研究に関与してくると思うので、そのときになって、いざ、論文を書く、プレゼンテーションをする、海外出張をする、となって、英語ができなくて苦しむことほどもったいないことはありません。
ただ、最低限の英語ができれば、どうにかなるかもしれません。私の経験上、以下ができれば、一応どうにかなります。

  • 一人で(観光でもいいので)海外に行ける

  • DeepLやGrammarlyを使いながらでもいいので、ネイティブに細かい研究のニュアンスが伝わるレベルの英語はかける

  • 簡単な動詞を連呼しても構わないし、文法が崩壊していても構わないので、伝わる英語を原稿なしで話せる

これくらいです。特に最後の原稿なしで、というのが一番ハードルが高いと思いますし、不要だろう、という説もありますが、ポスターセッションにあたった場合、かなり厳しかったりしますし、Q&Aセッションになると、突然指導教員が現れてしゃべりだすことや、「日本語でいいですか?」とか言い始めるようなシーンを見ると、私は激しい共感性羞恥に駆られていました。
ただし、Q&Aセッションだと、Pardon?とか聞くと、リフレーズして質問してくれる場合もあるので、一発で聞き取れないとまずい、という緊張感は不要でしょう。(私は、意外とリスニングが苦手な人間で、結構聞き直しました)

海外進学とVisiting

これも、私は、英語ができず、効率よく海外で研究ができないことや、研究テーマのマッチングの観点から、修士の時に、海外進学をしないという決断をしましたので、まったく語るに値しません。唯一誇れるとすれば、GREのQuantitative(数学)で満点(170)を持っていることくらいです。アジア人はみんな数学出来るらしい。

で、結局、私はUCLでVisiting Research Studentとして1か月ほど研究した経験だけで終わりました。これも、コロナの始まりかけの3月だったので、ボスと2回しか会わずに終わって、ちょっとした息抜きみたいに終わってしまいましたが。

ここらへん、ポストコロナで再開基調にあると思うので、興味のある人のために書いておくと、

  • お金:東大の武者修行プログラムを使いました (厳密には研究レビューを受けるのが主目的という扱いですが、そこのところは、ゆるめなので、頑張って意義を説明して頑張ります。4回くらい書類差し戻しを受けました)

  • 研究室のマッチング:幣学の情報理工学系研究科がUCL-CSと提携をする、みたいなキックオフイベントがあり、UCL-CSのコーディネーターが東大に来ていると聞いて、私の研究科とは違うのですが、突撃して、マッチングを取り持ってくれました。

でも、結局のところ、NDAとかで、イギリス国籍じゃないと使えない研究データとかもあり、いろいろと苦戦しました。いい経験にはなりましたが、1か月もいて、論文一本にもなりませんでした。残念。

一通りの研究の「いろは」は、さっさと一周したほうがいい

研究のいろは、は、すでに経験したことのある人ならいうまでもないですが、私の経験的には、情報分野の場合、

  1. 研究テーマを見つける

  2. 研究する

  3. 国内学会(シンポジウム)論文を書く

  4. 拡張する

  5. 国際会議(ワークショップ)論文を書く

  6. 拡張する

  7. ジャーナルを書く

という感じだと思います。厳密には、重複投稿とかの制約もあって、一つや二つ抜けることもあるでしょう。(そこの判断は最初は指導教員に任せてよいでしょう。) また、rejectを食らうこともあります。

この流れの中で、おおむね以下のことを学びます

  • 研究テーマの立て方

  • 研究の進め方

  • 論文の書き方(特にIMARD)・texの使い方

  • 謝辞や、査読システム(特に、シングルブラインド、ダブルブラインド、場合によってはrebuttalなど)

  • 学会発表

ここまでは、当たり前のことなのですが、最初はレベル感が低くてもよいので(国内会議はシンポジウムでよい、国際会議は、国際会議併設ワークショップでもよい)、一通り、流れをとおして、論文を出してみるという経験を、なるべく早くに済ませてしまうことが重要ではないかと思います。

ここら辺は、指導教員の方針もあるとは思うので、断言はできませんが、このように一連の流れを経験することで、最終的に論文化するときに、リサーチクエスチョンのどういうところが重要になるのか?というあたりを把握することができます。
この把握ができないうちに建てた、最初の研究計画や研究方針というのは、多くの場合、論文化の段階でどうにもならなくなります。
そのため、さっさと、一連の流れを経験することは、個人的には重要ではないかと思っています。

指導教員によっては、レベルの低い会議には出さないなどの主義がある場合もあるかもしれませんが、その場合、一連の流れを経験しないうちに、複数の研究テーマを進めるみたいなことはやめたほうがいいのかもしれません。

英語論文の仕上げ方。自分で完璧にしてから英文校正にかける

ここらへんの事情はChatGPTの登場とともに変わってきているのかもしれませんが、当時の経験ベースで書きます。

「松尾ぐみの論文の書き方:英語論文」は、絶対に読みましょう。
松尾先生が研究者だった時代の、最も優れた文書の一つと断言できます。

よく、「英文校正がゴミだった~」みたいなことを聞くのですが、ゴミなのはあなたです。(稀に本当にそういうときもありますが、その場合は、ちょっとカスタマーサービスに連絡を入れると、マネージャーが出てきて、詫びてきたりという経験がありました。)

とにかく、英文校正がなかったとしたら、このまま出してもいいぞ、くらいの仕上げにしてから出しましょう。

それと、少し、英文校正のHackも少しあると思います。

  • 納期が短いプランほど、価格が高いだけでなく、品質も悪くなるので、絶対に最も長いプランを使う

  • 英文校正はボリューム圧縮ができるほか、文章が冗長に書いてしまっていて、きれいに直せる場合もおおいので、自信がないなら、長めのままで圧縮せずにボリューム調整は英文校正に任せる。

    • ただし、校正者は、texをビルドしながら見てくれるわけではないので、ざっくりと、PDFで〇ページに収めたい、と指示しても、きれいに収まるとは限らないのはしょうがない

  • 英文校正に関する指示は、自分で英語で書きましょう。多くの英文校正会社のサイトは日本語UIで、日本語でいれてよいように見えますが、実際には、発注後、日本オフィスの担当者が英語に翻訳して校正者に伝えており、そのときに、漏れが発生するなどあるので、最初から英語で書いておくと確実です。

また、余談ですが、鈴木先生の「AI系トップカンファレンスへの論文採択に向けた試験対策」も、一度は見ておくべきでしょう。

査読者へのレスポンス

論文を書くと、査読を受けることになるわけですが、査読者からのコメントに返信をできる可能性があるパターンは二つあります。

  • 国際会議論文のrebuttal(反論期間) ←国際会議によってはないこともあります。

  • ジャーナルの査読コメントへの返答 ← rejectじゃない限りほぼ確実にある

これら二つでは、まったく形相が違うので、分けて書きます。

(1) 国際会議論文のrebuttal
基本的に新しい情報を出すのはNG。acceptされたらそこは修正します、みたいなのも多くの場合NGというか、意味がない。査読者の事実誤認を指摘するのがメイン。細かいルールがあるので、それに違反しないように返信しないといけない。
鈴木先生の「AI系トップカンファレンスへの論文採択に向けた試験対策」にも引用されて書かれていますが、多くの場合、スコアが変わりません。多分、鈴木先生がガチプロなので、こういううまいことができるんだと思いますが、私はスコアが上がったことはありません。

(2) ジャーナルの査読コメントへの返答
こちらは、(1)と逆で、どうにでもなります。
基本的に、一発rejectを食らわなかった時点で、査読者と適切にやり取りしながら論文をupdateしていけば、まず、acceptされる、というのがセオリーです。というのも、査読者がrejectをしなかった時点で、この論文は、多かれ少なかれ、修正をすれば、通すことができる、という判断をしているからです。私の場合、ジャーナルで、Q1ジャーナルを含め、rejectを食らったことはないです。
正しく返答するために、まずは、査読基準をしっかり確認します。たとえば、日本語で分かりやすいところでいくと、情報処理学会は、ガイドラインを公表しています。こうしたガイドラインは、査読を様々な人に回す観点から、ほぼ確実に誰でも見えるところにおいてあるので、検索すれば出てきます。
情報処理学会などの多くの和文情報系学術雑誌の場合、査読は2ラウンドまでとなっているので、そこまでに、査読者の疑問を完全に解消する必要があるため、修正を拒んで査読者とバトルする余裕はないでしょう。一方で、英文学術雑誌の場合、ラウンド制限がない場合が多く、完全に査読者の言いなりになる必要はなく、多少強気に反論することもできるでしょう。ただし、最終的にacceptにするためには、査読者を納得させる必要がありますし、無駄にラウンドを増やすことは、双方にメリットがないどころか、無料で奉仕をしてくださっている査読者に多大なる迷惑をかけますので、妥当な反論だけにとどめるべきです。

そのうえで、うまく返信するには、いくつかコツがあると思います。

  • わかりやすく、少し冗長なAuthor responseを書く:多くの場合、author responseといって、meta レビュワー、レビュワーあてにそれぞれドキュメントを作成し、疑問や指摘に対する回答を書きます。ここで、Q&A形式で一つずつ回答していくだけでなく、この文書だけを見ればわかるように、修正部分の前後も含めてとってきて、修正点をハイライトするなどして引用もしておきます。このような書き方をすると、査読者は、論文に戻ることなく、修正を確認できるだけでなく、筆者の主張を思いのままに伝えることができるのではないでしょうか。

  • 追加実験を要求するコメントに対する対応:これは結構難しいところで、律儀に追加実験をする人もいますが、必ずしもそれが答えではないと思います。例えば、私がよくやる回答として、「〇〇の追加実験が必要だと感じさせてしまった原因は、△△△△の部分における説明が不足していた、私のプレゼンテーション上の問題であると考えられる。△△△△の部分は、実際には×××××××であり、〇〇の追加実験がなくとも、本論文における主張は十分に説明される。しかし、そのような疑問が発生しないようにするために、下記の部分に関して、×××××××の説明を追加した」、みたいな回答であったり、あるいは、その追加実験は、まさにFuture Workである、みたいに回答することも多いです。

松島さんの「採否判定結果が届いたら─査読結果に対する次のアクション─」も素晴らしい記事なので、ぜひ読んでください。

また、ジャーナルに関係した余談ですが、

  • 特集号は査読期間が短め(3~9か月くらい)なのでねらい目

  • 国際会議でインビテーションをもらった場合、普通の投稿と同じ形で査読が行われるものの、査読開始までの待ち時間が短縮される傾向にある

  • MDPI、Frontierに関しては、情報系のアーリーキャリアで出しがちではあるが、ハゲタカ判定される場合もあるので、避けたほうがいい。

学会には行こう:スーツは着ない・名刺は持とう・世代が上の人とも交流する

学会には行きましょう。様々な出会いがあります。インターンや研究界隈の仲間などいろいろ生まれます。

まず、基本的なことですが、情報系の学会の場合、スーツは着ません。別に着ちゃいけないわけではないですが、荷物にもなるので、いらないでしょう。あと、量産系大学生みたいな恰好じゃないほうがいいかもしれません。発表の前後で見つけて声をかけてもらいやすかったりします。

そして、基本の②ですが、名刺は持ちましょう。名前を売るには、名前の書いた紙がいるわけです。写真付きだといいみたいな話も聞きますが、私はそこまでしてないです。自分のHPをもって、そのURLを書いておけば最低限OKかもしれません。

それと、一つ、個人的に重要だと思っていることが、世代が上の人と積極的に交流することです。なかなか話しかけにくいかもしれませんが、多くの場合、情報系の先生方は、気さくに話をしてくれます。学生相手をいつもしてるから、その延長みたいなものです。もちろん失礼はあってはいけませんが。なぜ大事か、という点については、顔を売っておくと、そのうち何かいいことがあるかもしれない、ということはあるのですが、それ以上に、自分より先を歩む人と話すことで、自分の進路等の参考になるということです。特に、学生にとっては、助教さんとかの話を聞くことはとても為になると思います。一歩先、二歩先を知りながら、自分の進路等の選択をしていくことは大事です。

スライドテンプレートと使いまわし・熟成

まず、あまり重要ではないですが、スライドテンプレートは自作するといいかもしれません。テンプレ見ただけで、あの時のあの人か、となることもあります。それに、一般的なテンプレを使うのはスーツを着ているのと同じようなものです。

そして、次に重要ではないこととして、スライドの使いまわしをしましょう。だいたい、新しく作ったスライドは、誤字脱字などがあったりします。一方で、何度も使っているスライドは、回を重ねるごとにアップデートしていけば、聴衆の受けの良いスライドを模索していくことができます。研究背景とかは、共通してたりするので、そこらへんは使いまわしてもいいと思います。

最後にもっとも重要なことですが、スライドは、熟成しましょう。よく、慣れてきた人が、前日の夜に「明日のスライド作ってねぇ」みたいなこと言いながら酒を飲んでいますが、それは過去の熟成済みの秘伝のタレにつけたスライドを各種持っているからです。一夜漬けのスライドよりも、熟成済みのスライドのほうがよいです。一週間くらい前に作って、あとで見返すと、頭がリセットされて、聴衆ウケしやすいスライドができるかもしれません。

受賞を攻略する

学会に出すところまでは、国内は容易にたどり着くと思いますが、そのうち、学会に出すだけでは面白くなくなってきます。より、高みを目指そうとすると、学会で受賞することが次の目標になるかもしれません。

しかし、どうやったら受賞できるの???となるでしょう。
だいたい、私の知る限りでは以下のパターンです。

  • 純粋な論文の評価値ベース(国際学会に多い)

  • 発表での聴衆の投票 (国内学会・シンポジウムに多く、基準が明確)

  • 発表をチェックしている人がいて(座長と評者と言われて、実は裏でアサインされている)、その人たちがセッションごとに推薦を出す (大規模な全国大会などである)

  • 上記のうち、複数の組み合わせ。

例えば、一番上の論文の評価値ベースだと、発表を頑張っても意味がないです。そのため、制度を把握するのが唯一できる対策でしょう。
あとは、各種頑張るしかないです。

トップカンファレンスだけがカンファではない。2nd tierも重要

これは、研究室の方針にもよるのですが、トップカンファレンスだけがカンファではないです。

まず、伝統的にトップカンファレンスを通してきているラボの場合、ボスがスーパーボスなので、多分、トップカンファレンスには通るでしょう。

私の場合、そのようなラボではなかったので、トップカンファレンスには大変苦しみました。正確には数えてないですが、1勝15敗くらいだと思います。

なぜ通らないかというところは、いろいろ理由はあると思いますが、基本的には、当初立てているリサーチクエスチョンの練度とラボの(ボスの)論文チェック体制の問題でしょう。簡単に言えば、ボスがトップカンファ通したことなければ、トップカンファは通らない、というような感じです。

まぁ、そこはさておいて、それでもトップカンファには出したほうがいいと思います。これについては、次のセクションで後述します。

ただ、トップカンファレンスじゃないところのカンファレンスにも価値があります。

私の分野の場合、トップがAAMAS、2nd tierがPRIMAという会議でした。
神嶌先生の「ML、DL、and AI Conference Map」は一度は見ておくとよいでしょう。PRIMAの場合、ここでいわゆるトップ会議と並列でおかれていますが、実際にはランクが一つ下です。より正確な会議に対する評価はCore conference portalを見るとよいです。(ちなみにジャーナルの評価はSJRがおすすめ)

2nd tierの場合、コミュニティーが小さいことが多いです。トップ会議より通しやすいこともあり、安定して同じ分野の人が集まります。
特に、2nd tierの日本人コミュニティーは、何かと重宝します。
そのため、コミュニティーとしての良さがあると思います。

それでもトップカンファにチャレンジする

1勝15敗でも、トップカンファにチャレンジし続けたことにはいくつかの理由があります。ざっくりと箇条書きでまとめます

  • 常に上を見続けることで、自分の現状の限界を知る

  • 査読コメントが有益である場合がある (そうじゃない場合もある)

  • 1-2本でも持っていると、明らかにほかの人と差がつくので、就職などで有利である

  • トップカンファに出し続けることで、下位の会議に参加することに対して、スポンサーであるボスに言い訳が立つ

大体こんな感じです。
トップ会議に落ちても、2nd tierに通ればOK、だめでも人工知能学会全国大会の国際セッションに出せばいいや、というくらいの感覚でチャレンジしてました。(もちろん、一本一本の論文は本気ですが)

デメリットとしては、今でいうLLMのように技術革新の早い分野だと、時代遅れになりかねないところなのですが、私の場合、そこら辺を少なくとも本業(マルチエージェントシミュレーション)では回避していたので、できた部分もあります。

研究の結果が出る→論文発表はラグがあることを意識しよう

ある意味当たり前のことを言っていますが、ここが重要です。ここまででいろいろ書いてきましたが、国際会議やジャーナルの査読には多大な時間がかかります。特に、ジャーナルは、半年から2年くらいはかかる場合があります。

そのため、このラグを意識する必要があります。
注意点としては大体以下だと思います。

  • 博士をとるためにジャーナルは計画的に早く出す

  • 慣れてきたら早いうちに、複数の研究(論文)を回す癖をつけて、査読期間を持て余さないようにする

  • DCなどの申請時にジャーナルがないと厳しい現状では、学部の早い時期からジャーナルまで回さないと厳しい現実を把握する

コンテクストスイッチを簡単に切り替えて作業できる人なら良いのですが、そうでない場合には、苦労すると思います。

指導教員と仲が悪くなることは想定しておっこう

指導教員と仲良くすることはいいことです。ただ、博士課程まで行くと、指導教員とは仲が悪くなることも多いと思います。

よく、卒論はその分野を知ること、修論がその分野のトップに追いつくこと、博論がその分野のトップになること、というものです。では、博士課程でその分野のトップを目指したらどうなるでしょう?指導教員を超えていかないといけません。当然、ここに、いろいろなコンフリクトが起こりえるわけです。

つまり、博論をクリアして、無事博士をとるということは、必然的に指導教員を倒していくことになるので、仲が悪くなることもあります。というか、それくらいでよいのです。

私が指導教員と仲が悪かったかどうかについては、諸説あるのですが、そういう事態もあるということは知っておきましょう。だからといって、指導教員も大人ですし、教員もアカハラになるのは怖いと思うので、過剰な心配は不要です。あくまで、メンタル的なコントロールとして、事前に知っておいたほうがよいくらいのことです。

研究費応募にチャレンジしよう

研究費応募といえば、DC1やDC2を思い浮かべる人もいるかもしれません。ただ、実は、修士以上であれば応募できる研究費がいくつかあります。

その中で、もっとも応募しやすいのが、ACT-Xだと思います。
ACT-Xは修士以上で応募できます。

もちろん、応募できるというわけで、通るとは言ってません。大学院生がかなり通りやすいとはいえ、狭き門です。

ただ、この応募の経験は、早くから積むことに価値があると思います。

ACT-Xは、最早で、M1の5月くらいに応募できて、年1回応募できます。
結果は、たいして詳細なコメントは出ませんが、落ちても、落選者の中の自分の位置と、一行二行程度のコメントが返ってきます。大したコメントではないとはいえ、多くの研究費の審査をしてきた人のコメントは、かなり重みが違く、指摘がクリティカルな時もあります。

こういった経験を早く積んでおくと、DC1やDC2の参考にもなるかもしれませんし、あわよくば通過すれば、研究費ゲットです。

参考までにですが、応募のためにe-radの研究者番号を発行しないといけなくて、これが雇用関係がないとダメとか、うるさいことをいう部局や大学もあるらしいですが、当然応募できる権利を持っているわけですので、そこはうまくやるしかないです。私の場合は、特に問題なく発行できました。

逃げ場所を作ることも考える

前述のとおり、私はトップカンファ落ちまくりました。同世代の人たちが通し始めてもなお、自分が通せないことに焦り、5連敗、10連敗…と重ねるうちに、いろいろといやになったこともあります。

研究室の荷物を全部きれいに片付けて、逃亡したことが1度あります。もちろん、逃亡しても、何も解決にはならないかもしれませんが、研究に行き詰まると、そのような局面にぶち当たるかもしれません。ラボは大騒ぎになっていたみたいですが。

幸い、その逃亡期間が、海外での在外研究期間の開始と近かったため、完全にそちらに頭を切り替えて、いったんリフレッシュできたので、どうにかなりました。

ただ、実際にこのような時に、どういう逃げ場があればよかったと思ったときに、バイトでも、インターン先での研究でもよいのですが、逃げ場があればよいなと思いました。あるいは、定期的に、在外研究のように自分のラボから離れる期間を少しでも取っておくと、こういった行き詰まりからのラボからの逃亡、ということはある程度回避できるかもしれません。

いずれにせよ、博士まで行くのであれば、そのような事態は少しは考え、それぞれの逃げ場を作っておくことは重要かもしれません。

アカデミアにおける正の生存者バイアスと負の生存者バイアス

これは、個人的な意見ではありますが、アカデミアには、正の生存者バイアスと負の生存者バイアスがあると感じました。あくまで、私見であり、全部が全部そうだとは思わないのですが、

  • 正の生存者バイアス:研究がとても性にあっており、成果もでるので、修士・博士と進学し、アカデミアに残る。最近はアカデミアに残る人が減っている

  • 中間バイアス:上には上がいることを知り、どこかで研究から撤退し、民間就職

  • 負の生存者バイアス:様々な理由から、研究を惰性的に進めてきたあるいは研究しかできず、そのままアカデミアに残った。

という気がします。学生からは、指導教員や学会で会う人は、主に正の生存者バイアス側の人々を見ているので、あまりこのような構造を感じないかもしれません。私もあまり多くは観測できていませんが、負の生存者バイアスも存在していると感じました。

だから何なのだ?という話ですし、特定の誰かを分類したいわけでは全くないのですが、アカデミアの世界で自分の下を見て歩くのは良くないかもしれません。

学振は週〇時間

これは、あまり書くと各方面から何かを言われそうな気がするので、事実っぽいことを列挙します。

マイルは貯めろ

これは、大学によって規定が異なりますが、東大の場合、出張者個人が貯めてもよく、それを有益に使用すべき、とのことになっています。大学によっては一切禁止の場合もあるそうです。

もし、貯めて問題がなければ、貯めましょう。ANAとJALのマイレージ番号を持っていれば、だいたいたまります。最近はe-ticketが進んでいるので、申込時にマイレージ番号を出すのが一般です。事後登録もできますが。
博士課程終盤になると、成果がそれなりに出て、出張が増え、スケジュールがきつくなった時などに、アップグレードなどで有益に使うのがよいでしょう。現地朝着とかでも、体力的に余裕が出ます。(安いアップグレードできないチケットも多いが。)

私の場合、分野的にヨーロッパ学会出張の多い分野であったことと、博士3年次前半が、コロナ明けのPP2倍期間であったことも相まって、年末に自腹で沖縄修行1周だけで、ANAプラチナ達成しました。(今年も達成。)

ヨーロッパに出張が多い場合、乗り継ぎのEU圏内のフライトが、オーバーヘッドコンパートメントがいっぱいになりやすいため、ステータスによる優先搭乗などの恩恵は非常に大きいです。また、過去に、出張の日本発の日の前日が台風直撃で、空港があふれかえる状況だった時もあり、そういういざというときにも力を発揮するかもしれません。

その他雑多なこと

  • Preprintを出す場合は、ArxivとSSRNの両方に出すのが流儀らしい

  • 修士以上であれば、学生でもゴールドカードつくれることがある(要クレヒス)

    • ゴールドだと、海外保険がついている場合があり、よい

  • 海外出張時に、Simは物理SimならAISのsimなどをamazonで買う。esmiなら、Airaloがおすすめ。(Airaloの紹介コードは MASANO0182 なのでよろしかったらどうぞ。双方に3ドルつくみたいです。)

  • 研究費応募は、まったく手を付けていないテーマよりも、ある程度進んでいるテーマを書くと書きやすく通しやすいと聞いたが、それはOKなのか、実際にそうなのかは謎で終わった

  • インターンは、就職用ではなく、研究であればやる価値は大いにあり。学振でさえも特別枠である程度認めているのだから指導教員に文句を言われる筋合いはないはずだが、ちゃんと報告はすべきである

  • 昔はスポンサーブースに突撃しまくってアメニティーとかお菓子もらいまくったけど、最近は減ってきた

  • 過去に人工知能学会が鹿児島だった時はアイスのしろくまが食べ放題だった

以上です!何か希望とかあれば追記するかもしれません!今後とも界隈の皆様、よろしくお願いします!


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