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ZAZEN BOYS『らんど』を聴いて

俺たちのザゼンボーイズ、実に12年ぶりの待ちに待ったアルバム。ライブはコンスタントにやってくれていたのでほぼ毎ツアー、行ける時には行っていたのだけど、いつも聴き慣れた曲で新曲はまだかまだかと思っていた。ここ数年は、新しい曲もやり始めてくれて、音源化はまだかまだかと心待ちにしていたのだが、ようやく出してくれた。何周か聴いてみての感想をざっと書いてみた(長い)。

1.DANBIRA
だんびらと聞くと、佐藤浩一が出てる昔の映画を思い出す(YouTubeでそのシーンを観れる)
健康のために振り回すのかよwwwというつっこみや、安定の繰り返される諸行無常のフレーズ。誰かが言っていたが「実家のような安心感」。(万人にとってそうではないとも思うが)
このアルバムの中でも、ファンク色は強め。テレキャスのカッティングはキレキレ。こうやって、スローテンポでゆっくり始まるアルバムは、好きだ。後半の上がっていくようなベースは、どこか3rd『ZAZEN BOYSⅢ』のひなっちを彷彿とさせるような歪んだフレーズ。シンセが入った状態だとまたどうなったんだろうとか思ってしまう。

2.バラクーダ
すでにライブでやっていた曲の一つ。ファンク色の強い曲が続く。いいぜ、踊れるぜ。全体的に、カシオメンの曲はいつもの怪獣みたいな雄叫びのようなギターソロや、ストレンジな変態フレーズが少なく、バンドサウンドに寄り添うような控えめな印象。このアルバムで目立つのは、結構ハモリが入っていること。メロディアスで、新鮮。実は一番聞きやすいアルバムかもしれない。ギターのフレーズと軽妙さが、以前対バンしていたトリプルファイヤーに寄っている気がする。

3.八方美人
愛してくれ、寂しい、Kissなどという愛の歌詞が未だかつてあっただろうか。(向井が高見沢俊彦に提供した「けだるい色の花」という曲には口づけというフレーズはある) けどもそれはラブラブハッピーな歌詞では無く、しょうがない、だって人間じゃないというフレーズが、気だるく、全体的に、どうしようもない、敗退的なムードが漂う。好きだが。

4.チャイコフスキーでよろしく
ライブですでに披露されている曲。クドカンも言っていたけど「チャイコフスキーに」かと思ってた。そういや音楽室にチャイコフスキーの肖像画が飾ってあったなぁと思い出し調べたら俺が思っていた顔はドボルザークだった、余談だが。なんとなく、5th『すとーりーず』収録の「はあとぶれいく」と同じようなコードは少なくひたすら8ビートで突き進む曲、という印象。


5.ブルーサンダー
ブルーサンダー。青い稲妻が僕を攻める。
おそらく同名映画から来ているのだろうか。映画ではヘリコプターだったけど、電車の名前でもあるのね。この曲もライブですでに披露されている。トリプルファイヤーとの対バンでこの曲のあたりを客に撮影されてて向井がキレ散らかしてたことを思い出す。

6.杉並の少年
ごく個人的な思い入れであるが、昨年亡くなった母が杉並出身で、しかも女子美卒だった。環八もよく通った。なので歌詞にそれらのフレーズが出てくることが感慨深く思ってしまう。杉並にあった祖父母の家の前には公園があって、よく遊んだ。今は無くなってしまったのだけど、過ごした思い出はずっと残っている。あの時だけは杉並の少年であった。
今までのザゼンだとそれぞれの楽器が別のことをやっていて絶妙に絡まっている曲が多かった気がするけど、この曲はギターとベースのユニゾンが印象的。

7.黄泉の国
なんとなく、前曲の杉並の少年とセットなイメージ。ライブで供にやっていたからだろうか。このアルバムでは唯一シンセが入っている。ナンバガ再結成のタイミングあたりで4曲くらいレコーディングしてあるとか言ってたけど、その頃の曲。初めて聴いた時はザゼンにしてはやけにメロウな曲だなと思っていたけど、アルバムは今やこのメロウな路線に。ユニゾンのフレーズは繰り返し。リフレインは踊ったり体を揺らしやすいし大好きなんだけど、飽きてしまう人もいるのかもしれない。

8.公園には誰もいない
ライブだともっとアップテンポだったと思うのだけど、音源ではグッとテンポを落としたアレンジ。チャイコフスキー〜杉並〜黄泉の国まで同じ様なテンポで食傷気味とも感じるので、ここでゆらりゆらりと聞き込むのも良きかな。ちなみに元バージョンはYouTubeの金沢公演の映像で観られる。

9.ブッカツ帰りのハイスクールボーイ
このフレーズが出てくるのは『ZAZEN BOYSⅢ』収録の「Good Taste」だったか。ああいうストレンジな曲なのかなと想像していたが、ちょっと違った。メロウで、叙情的。部活帰り特有の疲れと乾いた感触、夕暮れ。現役の、そしてかつての部活帰りの(ジュニア含む)ハイスクールボーイズ&ガールズに聴いてほしい。後半のまさに土砂降りのようにかき鳴らされるギター、ライブで盛り上がりそう。

10.永遠少女
先行配信シングル。1945年のことは言うまでもない。非常にセンシティブでセンセーショナルでグロテスクな歌詞が、賛否両論であろう。ライブで聴いた時は名曲の予感がビリビリとヒシヒシとし漂っていたが、サブスクやYouTubeで配信されてその音像や映像見えてからは、よりこの曲の持つ切なさ、絶望感が際立って見えてきた。痛々しく、ヒリヒリしている。だがメロディはザゼンの中でも聴きやすい。ユニゾンで鳴らされるギターも相まって。これはとんでもない曲だ。

11.YAKIIMO
日が沈んだなうな暗さと珍しいドラムロールから始まる。永遠少女での爆発からゆっくりとまた蘇るような。はからずもiPhoneのスピーカーでこの曲を流してみたら、バンドサウンドよりも向井秀徳の語り口が際立って気持ちが良い。声がとても良い。1st『ZAZEN BOYS』収録の「自問自答」のように淡々と延々と語りから、いきなり「い〜しや〜きいも〜」と誰もが知ってるあのフレーズがこだましてズッコケる。このミスマッチ感、不協和音のようにも思えるものが、妙に気持ちいい。

12.乱土
ライブ後半で盛り上がりそうな、アップテンポな一曲。イントロのユニゾンが重厚でライブで聴いたらめちゃくちゃカッコ良さそう。繰り返される〜はもう聴かないと気が済まなくなっちゃってるけど、さんどぺーぱーざらざらって言葉、12年経ってもまだ使うんだって思った。

13.胸焼けうどんの作り方
このアルバムは、ギターやベースの歪みもとても気持ちが良い。ユニゾンで鳴らされるフレーズがとても重厚。タイトルを見た時からなんだそれって総ツッコミが入ったであろう曲。その名の通り、そのうどんの作り方が歌われる。しかもレシピの中にうどんはない。短いし、気持ちボーナストラック感がある。

以上、大満足の13曲。これまでのザゼン特有の際立ったフレーズや変拍子は少ないながらも、一曲一曲が上質で捨て曲なしの名盤。ジャケットに貼ってあったシール「最高傑作」という言葉も頷ける。サブスクでも聴けるし、ザゼンの中でも聴きやすいアルバムとも思うので、ぜひ聴いていただきたい。

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