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おしるこミッドナイト、不可逆

「おしるこミッドナイト」

クーラーを沢山つけると街があったかくなっちゃうんだって。そのあたたかさを夏の間に溜めておいて、冬になった時街に放出してあげる施設とかを作ったらいいと思うんだけど。

正解がなんだったかは、私にはまだわからない。

私、彼の思いつきを嫌っていたんだって、それなのに。
23にもなってマックで黒のチョコパイひとつだけ頼むような高校生みたいなデートをするのが嬉しくて、スーパーに寄って商品の値踏みをするのが最低だけど楽しくて、半分こするコンビニのホットスナックとか、ずっと前から気になってた骨董品店で湯呑みをふたつ買ったこと。全部愛おしかったはずなのに。

夜中にひとり、公園で焚き火をした。ライターで無理矢理火を起こそうとするけれど火はなかなかおこらなかった。枯葉を集めて入れてあげると枯葉はよく燃えていい着火剤になった。思い出もこんなふうに消えるのだな、と思い、火を見ながら、おしるこのカンカンを握った。
しょうもない話を聞いてくれるのは親と恋人だけって昔誰かが言っていた。その人はそこに愛情がないとつらくなる、とも言っていた。彼は愛情を持っていた、とはその人は言いませんでしたが。
バケツにたっぷりいれた水を、焚き火の上からぶちまけた。焚き火の燃えカスを公園の隅に埋めて、なかったことにして。私はこれからも、こうやって生きていくのだ、と思った。公園には、焦げた匂いが漂っていた。



「不可逆」

今日、金色のライターをなくした。離婚した親父が出ていく時、唯一置いていった物だった。そのまま置いていると母親に捨てられてしまうから、ライターを見つけた瞬間、それを隠した。
人のことを困らせるのが好きな子供だった。
小学生の頃、母親に10回連続同じ話をしたら突然母親が泣き出したことがある。人って、頭の中で処理が追いつかなくなったら、泣くんだ。って、幼いながらに感心した。

そのときの記憶が抜けないまま、今も生きている。

困らせたくて、逃避行をしよう、と言ったとき、「でもさ、逃避行ってどっちかないしは両方死んでまうんちゃうん?まあ俺はええねんけど笑」と言っていた知り合いが死んだ連絡を受けた。夜中の海に身体ひとつで入って。自殺だったらしい。見つかったとき、彼はタキシードを着ていた。彼はたった一人の肉親兼若年性アルツハイマーの母親兼幼少期彼を虐待していた母親の介護をひとりでこなしていたらしい、そういうこと、俺には一切話してくれなかった。
ライターと友人を同時になくした今日は酷く空が黒く思えた。コンビニで買ったチープな色のライターを公園のゴミ箱に投げつける。プラスチックが割れて、中のオイルがどくどくと溢れた。ふ、血みたい。  静かにそう呟いて、帰路についた。

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