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追焚き2回

シャワーがしゅうしゅうと音を立てて、わたしのだらしない腹にあたる。鏡に全裸のわたしが写っている。しばらくすると鏡が曇って、わたしは私を見失う。最近、自分は誰なのかが分からなくなる。
わたしの中には、無数の私が居る。わたしは、私を使い分ける。外の世界で傷付いても大丈夫。わたしでは無い私が傷付いただけだから。そういう生活をずっと続けていたら、自分がいま誰なのか分からなくなってしまった。

善良で、慈悲深い、愛嬌のある子。そういう女の子の形を常に保っている。感謝も、謙遜も、笑顔も、わたしの得意技。みんな、形を保った私が好き。
こんな子、わたしじゃない、わたしこんな子知らないって思いながら、戯ける。
「悩みなんてないでしょ?」「若いから疲れたりしないでしょ」とか言われる。そうですねって言う。わざと大きい声で笑う。馬鹿みたい。死ねばいいのに。
お前に、わたしのなにが分かるんだ。気持ち悪い。
階段を下るとき、ご飯を口に入れる瞬間、エスカレーターに乗るときだって、わたしは私をつくる。わたしっぽい素振りをしてみせる。お前はちっとも、気が付きもせずに、わたしに笑いかける。気持ち悪い。馬鹿みたい。全部、全部おかしい。こんなの変だ。変、変、変。お風呂に、入ろう。お前の気持ち悪さが、わたしに伝染する前に、身体を綺麗にしよう。そうしよう。
追焚き2回、暑いお湯。「あっつー」って言いながら浸かる。「せーの」で息止めて、頭のてっぺんまでお湯に浸かる。このまま溶けてなくなっちゃえばいいのにね。苦しい、苦しい、苦しい。
おかしいのも気持ち悪いのも全部わたしだ。最悪だ。でも、やっぱりお前は死ねばいいと思う。一緒に死のうよ。一緒に地獄へ行こう。お前と一緒になんて居たくないけど。お前が地獄で泣き叫んでいるところが見たいんだ。地獄で、鍋で、グツグツ煮える。追焚き2回、のお湯より、あついかな。

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