堕ちた先に、孤独は
わたしは、暗闇の中を上に、下に、横に、ものすごい速さで堕ちていた。わたしは堕ちながら、夢であることに気が付いて、落胆した。落胆している間も、わたしはすごい速さで堕ちていた。
どうせ夢ならジェットコースターに乗ろう、と思った。暗闇はすぐに真っ白い光になって、すぐに真っ白い鉄骨になった。わたしは臓器が、上に、下に、横に移動しているのを感じた。うしろでは、誰かの破裂した笑い声が、叫びになって聞こえた。知っている声のような気がして、振り向こうとしたところで、わたしはジェットコースターから振り落とされた。
あ、落ちた。
真上から見るメリーゴーランドは、大きな傘のようで、そこだけ雨が降っているみたいに、さみしそうだった。
わたしのカラダはぐんぐんコンクリートに吸い寄せられていく。一つになろうとしている。まるで、最初から二つで一つだったみたい。コンクリートがわたしの視界いっぱいになったとき、わたしはそれまで忘れていた瞬きをようやくして、目を開けると、ジェットコースターから振り落とされた場面に戻っていた。五回ほど瞬きと転落を繰り返した。
次に目を開けた時、自室の天井が、朝に飲み込まれるところだった。カラダは鉛のように重いのに、脈打つ時だけは、なによりも柔らかく弾んだ。布団に染み付いたわたしの熱が、跳ね返って、またわたしに染み付いた。
脈打つカラダと、わたしの熱を取り込んだ布団は、わたしが生きているという、なによりの証拠だった。
ああ、わたしは、生きている。
だらしない肉体が、頼りない記憶が、下手くそな心が、わたしには確かにある。
わたしは、わたしであるという確信も持てずに、大事なものを、絶対的な悪から守ることも出来ずに、いとも簡単に他人に絶望しながら、ただ、どうすることも出来ずに生きている。
わたしに触れていいのは、わたしだけで、
わたしを傷つけていいのも、わたしだけ。
あなたに触れていいのは、あなただけ。
あなたを傷つけていいのも、あなただけなのに。
わたしの孤独はわたしのもので、あなたの孤独はあなたのものなのに。そうだと、決まっているはずなのに。わたしたちは、すぐに触れられて、傷つけられて、奪われる。
わたしは、それが悔しくて、苦しくて。でもやっぱり、わたしにはどうすることも出来ない。
ああ、あのとき貰った言葉。「あなたは何処に行っても、孤独を手放さずにいられるわ」って言葉。わたしはこれを(ほんとうのこと)に出来るのかな。
たくさん触れられて、たくさん傷つけられて、たくさん奪われて、堕ちたその先で、わたしは孤独と一緒に眠れているのかな。そのそばに、あなたは居るのかな。