見出し画像

【データ】国内SaaS企業の広告宣伝費

企業データが使えるノートでは、SaaS企業財務情報やKPIをデータ化し、提供をしています。

今回は、今後リリースを検討している有価証券報告書・決算短信内のデータからSaaS上場企業の広告宣伝費に注目をしていきます。

SaaS営業費用の開示状況

□ SaaS ユニットエコノミクスおさらい

SaaSビジネスにおいては、解約率や売上総利益率を基に、以下の計算式にて顧客1社あたりの想定生涯価値(LTV)を算出することが一般的です。

【LTV】: Life Time Value
      = 顧客の月額単価 × 売上総利益率 / 月次解約率
           * LTV理解は、コチラの記事に詳しいです

一方で、このLTVを獲得するためのコストは、CACと呼ばれます。

CACの要素としては、以下の通りです。

【CAC】Customer Acquisition Cost
 S&M: Sales & Marketing
 販売促進に係る広告宣伝費やセールス人員や人件費や関連する経費 

LTVがより大きく、もしくは、CACがより小さくなれば、収益性が向上します。この効率性を測る指標が"ユニットエコノミクス"です。

【ユニットエコノミクス】
   = LTV / CAC (倍)

SaaSにおけるユニットエコノミクスでは、3 倍以上が望ましい水準という考えが一般的となっています。
* コチラの考察に詳しいです。

今回は、国内企業の広告宣伝費を見ていきますが、大枠では上記理解を踏まえていただくと良いかと思います。

□ CACの開示状況

海外SaaS企業は、S&Mやその他費用であるR&D、G&Aを以下のようにPLツリー上で表記することが一般的です。

画像1

* 例)Slack: Annual Report Income Statement

【参考】
R&D:Research & Development
 研究開発に係るエンジニアや人件費や関連する経費

 G&A: General & Administration
 コーポレート部門の人件費や関連する経費

対して、上記の3区分で明確に開示を行っている国内SaaS企業は、現在確認できる範囲ではフリーのみです。

画像2

フリーは、IPO時にグローバルオファリングを行うなど、海外投資家の資金を呼び込むべく、海外SaaS企業と同様の開示を行っているよう見受けられます。

代表取締役CEO佐々木さんも国内SaaSのトップランナーとして、長年経営を行ってきた知見を以下の形で示しています。

なお、フリー以外では、カオナビやHENNGEも以下の形で営業費用の開示を行っています。(頑張れば、S&Mとして推計可能そうですね)

カオナビ

* カオナビ 決算説明資料

画像4

* HENNGE決算説明資料

ユニットエコノミクスを横比較する上では、Churn RateやS&Mなどの数値を参照したいところですが、今後の情報開示に期待したいと思います。

広告宣伝費集計

国内SaaS企業においては、上記の開示状況となり、CAC内訳の開示を十分に参照することが出来ません。

その中で今回は、S&Mの要素である各SaaS企業の広告宣伝費に注目をしたいと思います。

上場企業は、有価証券報告書中の販管費明細に、一定割合を超えた場合に「広告宣伝費」が記載されるため、数値の集約が可能です。

SaaSをメインビジネスとする国内上場企業の中から、一定社数のデータ利用が可能なFY2016からFY2019数値を集計しました。
実数値についても、以下ファイルよりご利用いただけます。

コメント 2020-06-10 135633

* 広告宣伝費 / 売上高合計にて売上高広告宣伝費率を集計
* 有価証券報告書、決算説明資料より集計
*「-」にて表示の個所は上場タイミングもしくは、有価証券報告書の販管費明細中、未開示となっています

□ "通常運転時"の広告宣伝費率は10%台?

各社、事業フェーズなどの違いによって、広告宣伝費割合に対し、濃淡が見受けられます。

IPO前の成長速度が速いフェーズ(Sansan,フリーのFY2017)は、未上場時の資金調達を用いて、売上高の50%を超えるような広告投資を行っている点に注目がいきます。

一方で、サイボウズやラクスといった営業黒字のSaaS企業においては、10%台の広告宣伝費率となっており、稼いだキャッシュ内で一定額を"通常運転"での投資に向けていることが分かります。

なお、ラクスはFY2017(2018/03期)までは、約10%の広告宣伝費でしたが、FY2020(2021/03期)にかけての売上高CAGR30%を達成するため、足元のFY2019(2020/03期)においては、18%程度まで費用配下しており、徐々に広告宣伝費率を高めてることが伺えます。

一方で、HENNGEやチームスピリットのように広告宣伝費率が10%を切りながらも、20%を超えるARR成長率をみせる企業もあります。

企業のフェーズやプロダクト種別、マーケティング手法の違いにより、広告宣伝費の使い方は異なっているようです。

□ SaaSパイオニアとして果敢な広告投資を行ったSansan

表中の中で圧倒的に高い広告宣伝費率を計上したSansanに注目をしてみたいと思います。

同社は、まだいずれのSaaS企業もテレビCMを打っていなかった2013年から「早く言ってよ~」でおなじみの広告を打ち始めています。

当時、勘定奉行などの法人向け会計システムでは一部テレビCM事例はあったものの、クラウド系のBtoBサービスとしては、前例がない中での挑戦でした。

特筆すべきは、「シリーズAで調達した5億円を全額テレビCMに投下したんです。」とのコメントのように、未上場時の各ラウンドの資金調達額の多くをテレビCM費用に投下していることです。

一般的なテレビCMに対するイメージとしては、認知度向上には寄与するものの、なかなか費用対効果が図りづらく、博打的な資金使途と見られがちです。

しかしながら、「一見すると大胆な投資ですが、私たちの中ではきちんとロジックが立っていました。」とあるように、LTVやCACに照らし合わせ、確実なリターン(具体的には見込み客獲得)目途をつけながら、広告宣伝を実行していきました。

"手元のチャーンレートと単価、それに対する粗利、それからライフタイムバリューを考えたら、このぐらい取れるんだな、そうしたらCMに5億円を使ったとしても、200件の新規顧客が取れれば元が取れるじゃんって。"

TV CMがユニットエコノミクス向上に寄与するという経験を得ながら、その後もCMを続けていき、シリーズDで調達した42億円をさらに投資した年が、冒頭表中で最も赤色が濃い、FY2017(広告宣伝比率 61.1%)でした。

□ ユニットエコノミクスから見た広告投資

上記の広告投資の合理性をユニットエコノミクスの考えに沿って振り返ってみたいと思います。

Sansan - FY 2017(2018/05期)
・ ARPA 120,000円
・ 売上総利益率 5,889百万円 /7,324百万円 = 80%
・ 月次解約率 0.76%(FY2017末)
* Sansan 決算説明資料資料より

上記より、 LTVは、

120,000円 * 80%(マージン)/ 0.0076= 1,263万円

となります。

一方で、主な投資金額となる広告宣伝費および人件費(販管費対象)は、以下の通りでした。

画像6


2018年5月期のネット契約増加件数が606社のため、

獲得1社あたり広告宣伝費 4,478百万円 / 606社 = 738万円
獲得1社あたり給料手当及び賞与 1,591百万円 / 606社 = 263万円
* 販管費中の人件費は、Salesだけではなく、管理部門など含む

ざっくりのCACが約1,000万円となり、45億円の広告宣伝費を使いながらもLTV>CAC 範囲内であったことが分かります。

倍率は3倍には及ばないものの、大幅な認知獲得により、その後数年の営業効率向上に寄与をすることを考えると、ユニットエコノミクス以上の効果を見込んでいるとも考えられます。

実際には、上記のような粗い根拠ではないと思いますが、現在から振り返ってみても妥当性が見受けられる投資であったのではないでしょうか。

まとめとして

理想的には、"フェーズ""プロダクト""媒体""オンライン/オフライン"といった広告詳細ごとのCACや効率性を検証したいものの、公開情報としては今回の内容が横比較の限界になるかと思います。

まだまだサンプル数としては少ないですが、広告宣伝費の配下などを考える際に本データがお役に立てると幸いです。

------
「企業データが使えるノート」では、今後も継続的にnote上でSaaS / IPOのデータ・コンテンツを提供していきます。

最新情報はtwitterでも発信していますので、noteと併せ、ぜひフォローください!

画像7




この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
ありがとうございます!
15
ユーザベース SPEEDAコンサルティングチームのマネジャー職を経て2020年より独立。 2020年2月より企業データが使えるノートの運営を開始。現在はSaaS、IPO情報をお届けしています < twitter > https://twitter.com/CraftData2

こちらでもピックアップされています

企業データが使えるノート_SaaS編
企業データが使えるノート_SaaS編
  • 15本

企業データが使えるノートのSaaSに関するオリジナル記事がまとまっています。

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。