カットモデルに行ったら渋谷という街について知りたくなった

minimoというアプリがある。ヘアカットやネイル、マッサージなどの施術に関して、条件に沿ったサロンや美容師を探すことに特化したアプリだ。

個人的に、このアプリの1番すごい所は「0円でヘアカットをしてくれる人を能動的に探せる」ところだと思う。カットモデルの募集がそれなりに掲載されており、それを検索しやすい。
(23区周辺に住んでいる人の感想なので、他道府県で同じように探しても上手くいかない可能性がある。)

似たアプリにHOT PEPPER Beautyがあるが、minimoはこの点で完全に差別化されている。

HOT PEPPER Beautyにもカットモデル募集の掲載が一応あるのだが、minimoと比べると圧倒的に数が少ないし、そもそも探すのがめんどくさい。
そりゃ0円カット目当ての人間よりも1万円のカラーを探す人の方をターゲットにした方が儲かるんだから、1万円を出してくれる人が店を探しやすい設計にするのは当然だ。

その点minimoはすごい。カット乞食みたいな自分も快適にお店を探せるシステムになっている。髪の毛にこだわりの無い自分にとって、0円でカットモデルをしてくれる人を見つけられるようになったのは革命と言っても過言ではない。1000円カットより高いクオリティで、しかも1000円より安く済む場所を探せるなんて最高である。
(こういう風にカットモデルを使っていいのかは知らないが、僕はケチなのでありがたくminimoを使わせてもらっている。)

別にminimoのポジキャンをしたいわけではない。minimoは普通に美容室を探すのにも適した良いアプリなのは間違いないが、ともかく僕はminimoを使ってカットモデルによく行くし、今回もカットモデルに向かったのである。






練習台としての応答によって渋谷が気になり始めた

ひとくちにカットモデルといっても、そのスタイルにはいくつか種類がある。

  • 普通の客として来てもらうけど、練習台なのでお金を取らない (最初のイメージはこれだった)

  • 営業時間外に来てもらって、先輩のフィードバックをもらいつつカットする (体感としてはこういう所が多い)

  • 研修施設みたいな所に大量の先輩と新人がいて、大量のモデルを呼んで練習する

大きく分けるとこの3つだろう。


今回僕が行った所は3つ目のような場所だった。

案内に記してある建物の扉を開けた時、普段カットモデルで行くような場所と比べて5倍くらいの人数がいるのではないかと思うほどの声が聞こえた。
僕は比較的陽の当たらない生活をしてきたので、奥から聞こえる大人数の声に怖くなって帰りそうになった。そんなことでは来た意味が無いと心を決めて進んでみると、そこには普段の5倍くらいの広さがあるカットスペースがあった。小規模なカット大会(?)ならここで開催できそうだし、結局ちょっと怖かった

いつもと違いすぎる光景に呆然としてしまっていたが、スタッフさんの「いらっしゃいませ」の声で我に返り、その日のカットモデルは始まった。

(余談だが、カットしてくれた男性は平野紫耀とEXIT兼近の良い所を選んできたような顔だった。人間がそんな整った顔してていいんか?)

先輩から後輩へのフィードバックもありつつ施術は進んでいき、あとはもう帰るだけ…と思った矢先、先輩が自分に声をかけてきた。

「今日カットをしてくれた彼の印象はいかがでしたか?」

今までカットモデルでそんなことを聞かれた経験がなかったため、僕はキョドりながら毒にも薬にもならない返答をするしかなかった。そして、ここで先輩の発した言葉に僕の脳は刺激されることとなる。

「彼、渋谷店の配属になるんですけど、歳上の方と関わる際に今の言葉遣いだと気分を害する恐れがあり、それが課題となっていまして……」

課題は分かったけど、そもそも渋谷ってそんなご丁寧な方おるん??

いや、偏見は良くない。良くないんだが、どうしても渋谷と言われるとハロウィンでの事件に代表されるようなおつむの足りない人間たちが脳裏をよぎってしまう。

渋谷の街について調べたくなってきたな……と思いながら、僕は毒にも薬にもならない発言を続けたのであった。




渋谷は明治に生まれた谷底の街だった

さっそく渋谷について調べてみると、「渋谷学」という学問をつくり、その結果『渋谷学』という本を出版した人のインタビューが公開されていた。渋谷を科学する学問って凄すぎる。しかもそんな地域に根付いた研究で一般書を出版するものなのか。

本来、渋谷の話をしたいならこの『渋谷学』を買うべきだし、この渋谷学に関する書籍は他にも数冊あるので買って読んだ方がいいのだが、2-30冊積んでる身としてはここで別の本を急に買うのも忍びない し、なにより無料のnoteを書くために1万円くらい払うのもなぁというケチさを発揮してしまった ので、一旦はアンケートや他のWeb記事を参考にした。『渋谷学』や関連書籍を買ったら追記しようと思う。


渋谷が"渋谷"としての産声をあげたのは明治18年。この年に渋谷駅が作られ、渋谷という地名が確立されたと言って良い(※)。新橋-横浜間に通った日本最古の鉄道が明治5年に開通したことを考えると、鉄道の歴史の中では初期のころに作られた駅だと言えるだろう。実際、僕は「渋谷駅って歴史あるなぁ」と全力の小並感を漏らした。
※この辺りには渋谷川という川が流れているため、卵が先か鶏が先かといったところではある。資料をちゃんと読めば答えが書いてあるかもしれないが諦めた

明治22年には渋谷駅の辺り一帯が「渋谷村」となり、昭和7年になって東京市が35区に区分けされると、今と近い「渋谷区」が生まれた。東京市35区時代については詳しくないので説明は省くが、地図を見ると渋谷区は今の場所とほぼ一致しているので、地理的に今の渋谷が完成したのは昭和7年と言っていいだろう。
(35区時代の東京市の地図は都のWeb資料に残っている。現在の地図はどこからでも引っ張ってこれるだろうが、視認性を重視して「Map-It」というサイトの地図を確認した。)

また、自分は思ったこともなかったが、渋谷はその名の通り"谷"となっているそうだ。区のサイトにある地形図を確認すると、思った以上にちゃんと谷だった。そうだったんだ……。

『渋谷学』の著者である石井研士教授は、この谷という地形こそ渋谷の文化を作り上げたと考えている。

石井:さまざまな人やカルチャーが集まってくるのは、渋谷という街の地形が谷底なのと関係があると考えています。
(中略)
やっぱり谷底は人が集まりやすく、安心感があるんだと思います。だから、ハロウィンなどでも人が集まりたくなるのかもしれませんね。スクランブル交差点は「人が集まる象徴」になっています。

多様性の街・渋谷の秘密とは?
『渋谷学』の著者・石井研士さんが読み解く90年の歴史


人間や文化は水のようなものかもしれない。
ハロウィンに来るような人が高低差のような地形を意識しているかは分からないが。







渋谷発展のきっかけはNHKの引越しだった

谷である地形は人や文化を受け入れるための容器になるかもしれないが、実際に容器に注がれる水が無ければ、いくら時間が経とうが満杯にはならない。

実際、渋谷は横浜へのターミナル駅として活気を見せていたが、どちらかというとヤミ市のようなアングラ文化が主体で、日本の中心になるような経済発展はしてこなかったそうだ。

そんな中、渋谷の谷底に注がれる1滴目の水となった出来事がある。インタビューの中で石井教授が説明している。

―具体的には何が起きたのでしょう?

石井:1964年の東京オリンピックです。その前年の1963年に、東京オリンピック放送のために、NHKが社屋を神谷町の愛宕山から渋谷に移したんです。やはりNHKがあるというのは、相当影響力がありました。NHKだけではなく、映像関係の会社や出版社など、関連企業がこぞって渋谷に集まってくるんです。

多様性の街・渋谷の秘密とは?
『渋谷学』の著者・石井研士さんが読み解く90年の歴史


東京オリンピックの際に引越しをしたNHKに誘われるように、多くの企業が渋谷近辺に社を構えたわけだ。

その結果、西武や東急といった会社がパルコや109のような施設を作り、"若者の街"と呼ばれる現在のイメージが定着していったのである。


(かなり詳細を省いて書いたので、詳しく知りたければインタビューの本文を読むことをオススメする。)




渋谷にある美容院のターゲットとは?

このようにいくつかサイトを見てみたが、"若者の街"という僕の印象は変わらなかった。であれば、そんな場所に美容室があるとしたら、ターゲットは若い層であると考えるのは自然なように思える。

普通に社会人として適した言葉遣いは出来るようになった方がいいのはともかく、あの先輩の口調を鑑みると「それなりの年齢の方も来店する美容室である」ことが伺える。

であれば、それなりの年齢の方はどこから渋谷に来るのか。

そんなことを思いながらインタビューのページを眺めていて驚いた。石井教授によると、渋谷はそもそも「シニア層等の人間も来る街」らしい。

―渋谷にはどういう人たちが集まると思いますか?

石井:
私は、渋谷の利用者は主に4層からなっていると考えています。1つは、いわゆる若者たち。センター街や奥渋などで遊ぶ10代、20代の層です。2つ目はシニア層。ヒカリエやスクランブルスクエアに入っているショップも、年齢の高い方を意識したラインナップが多くあります。そして3つ目は、IT・デジタル関係の企業です。IT企業も多く存在します。

多様性の街・渋谷の秘密とは?
『渋谷学』の著者・石井研士さんが読み解く90年の歴史


若者の街、シニア層も狙っていた。

ちなみに4つ目は「地域住民」だ。もはや若者の街というか老若男女の街なのでは?という気もするが、渋谷の街は思ったより許容度が高い。

「なんか、渋谷ってカオスだなぁ」と思いながら読んでいたら、石井教授に先回りされていた。

―先生は今後、渋谷という街にどうなっていって欲しいですか? 

石井:
文化は混沌のなかから生まれます。「曖昧さ」というか、いい意味で混沌とした状態を残しておいて欲しいですね。

多様性の街・渋谷の秘密とは?
『渋谷学』の著者・石井研士さんが読み解く90年の歴史

「文化は混沌の中から生まれる」。いい言葉だ。カオスは文化の源なのだ。いい言葉に舌を巻くと同時に、思考を読まれている気がして悔しくなった。

余談だが、すみだ北斎美術館の学芸員も、江戸文化について全く同じことを言っていたので笑ってしまった。

文化は混沌のなかから生まれます。戯作や浮世絵など江戸文化が爆発する導火線にいつ火が着いてもおかしくない場所だったのです。

化政文化を生んだ武士と町人の交流
― 本所割下水と葛飾北斎


渋谷の美容師が言葉遣いを気にすることに対し、そんな気にすることでも無いだろうと思っていたが、混沌の中に佇む美容室は正しいと言われる言葉遣いをする人とどこで接するか分からないと気づいた。
言葉遣いを正すのも必要なことかもしれない。

まぁとはいえ若者をターゲットにしていそうな美容室にそれなりの年齢の方が入店するかと言われると疑問は晴れないが、今回はとりあえずこれでいいとしよう。


一応の補足だが、僕は美容師でもなければ渋谷の専門家でもないので、あくまでイキった陰キャによる戯言だと思って欲しい。これを真に受けて行動するのは多分やめた方がいいし、内容に関する誹謗中傷( ≠ 批判や訂正)は受け付けていない。留意して欲しい旨を付して、この文章は終わりにしようと思う。



それではまた。


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