「シン・クトゥルフ神話」というシナリオを回した備忘録
真っ当なTRPGプレイヤーであれば、遊んだシナリオがunkであっても過度にそれを貶す事はしないだろう。話の流れが面白くならなかったとしても、悪い感情を表に出せば回したGMや共に遊んだプレイヤーとの関係性を悪くする事に繋がる。シナリオ製作者に伝われば、それは非常に心を痛める事になるだろう。
SNSでシナリオをこき下ろしても誰の目にも止まらず電子の海に消えていくか、最悪だと「どうしてそんなひどい事を言うのか」「その卓が悪かっただけなのにシナリオのせいにするな」「TRPGはみんなで楽しむものなのに」「やめたらこのゲーム」と袋叩きに遭いかねないし、それは仕方がないと思う。
それを踏まえて、以下に書く事は非常に品が無いものであり、諸々の事情が無ければ飲み込んで忘れてしまうべきものだ。言わなければ波風を立てずに済む事で、言ったところで不快を振りまくものでしかない、まさしく罵詈雑言に他ならない。
けどまぁ飲み込んでも腹を壊しかねないものだったら吐き出さなきゃストレスになるからね、生姜ないね。正当化終了。
こちらのリプレイでツッコむにツッコめなかった部分を書き殴っていきます。
・NPC「アカネ」
探索者が所属するオンラインサークルのリーダーで、探索車全員と友人。彼女が探索者たちをオフ会に誘うところから話が始まる。
ツッコミどころとしてはまずステータスが設定されておらず、技能も芸術(ゲーム)技能と料理しか書かれていない。NPCが積極的に絡まないシナリオならこれでも問題ないだろうが、このシナリオでは序盤からNPCを含めた戦闘する展開が必ずある。強制戦闘だし、シナリオ上アカネもガッツリ戦闘に加わる事になる。
行動順を決定するにしてもダメージを決定するにしても、クトゥルフの戦闘はステータスが無ければどうにもならない部分があるのだが、そこに関するフォローは無い。もうこの時点で買う前からしていた嫌な予感がだいぶ強くなった。
・オンラインサークル「UNION」について
ツッコもうと思えばなんかありそうだけどまぁいいや。
なおシナリオ中発見する必要があるアカネの日記で、アカネというハンドルネームを名乗るようになったのは2週間前という記載がある。まぁこれくらいのブレは誤差だよ誤差。
・導入
オンライングループのチャットで探索者を自宅に呼び寄せ、ゲームをするという内容になっている。UNIONでのオフ会は初めてであると記載されている。
「17-18の女性がネットで知り合った人間を初めてのオフ会で一人暮らしの自宅に呼び出す」というのはちょっと倫理的危機管理的にどうなのとツッコミを入れたくなるのだが気にしない方がよさそう。
私が回した時はこの異様さがどうしても引っ掛かり、参加者から文句が出る前に話し合いの余地を与えず強制的に自宅オフ会とした。
オフ会のメインは探索者たちと新作のゲームをやる事。
・オフ会のゲーム
//----ここから読まなくていい----//
ゲーム名は「クトゥルフパニック」で、ジャンルはダンジョンRPG。
やり方としては探索者と同等のステータスを持つキャラを操作し、戦闘を行うというもの。
操作キャラクターの職業は探索者が自由に設定する。職業の例などは全く書いていないがおそらくファンタジーRPG系のものという事なのだろう。
また、特殊な技能の使用として「PL が KP を上手く言いくるめることが出来れば、全ての技能がこのゲームの戦闘において有利に働く。」(原文ママ)
弱点を見抜くために目星を振る、など。ただしこれを行う場合はKPが納得するような職業を選択する必要があるとのこと。
また、芸術(ゲーム)は戦闘において万能技能として用いるらしい。
アカネはモンスターテイマーという職業で、召喚し使役するための判定に利用でき、戦闘のたびに呼び出せるモンスターのランクが上がる、と書いてあるが、どういったモンスターを呼び出すのか、ランクとは何かという記載はなく、召喚し使役するという行動がどういう効果を及ぼすのかという説明もない。
3回戦闘を行うが、それぞれに出てくるモンスターはKPの趣味に合わせて調整するという記載しかなく設定されていなかった。(これに関しては8月17日にモンスターの配置例が追記された。)
//----ここまで読まなくていい----//
ちなみにクトゥルフパニックのゲーム媒体について、初期は記載が無かった。
私は「わざわざ自宅に呼び寄せて複数人でやるゲーム……ボードゲームの類か?」と思い、そういう風に演出した。
しかし、8月16日に追加された情報によると、なんとオンラインゲームであると書かれていた。
UNIONで普段やっているゲームと混同したのか? と思ったら今回のオフ会で探索者たちと一緒にプレイするゲーム、としっかり書かれており逃げ道がない。
女子高校生がネット上での知り合い複数人を自宅に呼んでオンラインゲームで遊ぶ……? 妙だな……。
どうせ元ネタが自分でフィギュア作っちゃう系のとしあきなんだから、手の込んだフィールドジオラマや駒を作るバクラくんみたいにすれば良かったのに。なんでオンラインゲームって追記したんだ?
一番の問題は、このゲームがシナリオにおいて何にも意味がないところだろうか。シナリオのどこを読んでも本筋に関係してる部分は皆無。
3回も戦闘して茶番でしたとかキツいわ。
好意的に見るなら最後に繋がるNPCとの思い出作りなのだろうけど、真面目にこのシナリオを回す事があるなら私はすっ飛ばすと思います。
ここいる?
・ハイパーマン
グリッドマンじゃなければなんだというのか。
巨人のステータスはもう語るのも疲れる。
・薬師
「やぁやぁ皆さん、こんばんは。どうやら素敵なものを手に入れたようだね。」
「私は薬師(くすし)と言うもの。親しいものには“ナイアルラ”と名乗っているね。」
「簡単に言ってしまえば、私はこのシナリオの黒幕だよ♪」
原文ママ。キツい。
このシナリオの最大瞬間風速であるのは間違いない。
グリッドマンと薬師の確執に関して説明は無い。薬師は「悪い男」らしいぞ(グリッドマン談)(原文ママ)。
グリッドマンのキャラ説明には「世界を守ること」が使命としか書かれていない。一応薬師を倒すのが目的とは語っている。が、薬師に固執しているかというと別にそうではなく、グリッドマンと変身者の命を使って対象を倒す魔術《エンド》を薬師以外に使う場合でも制止しない。お前の使命はそんなものかよ。
デウス・エクス・マキナでも演出したかったのかもしれないが、良いとこメアリー・スーではなかろうか。
・アカネの自宅
PCのパスワードはまぁ普通。
技能判定で出てくるゴミ箱に隠された(?)txtファイルのパスワードは必要性が感じられないシナリオ製作者の脳内当てゲームと言わざるを得ない。これはグリッドマンに訊くとヒントを教えてくれる。探索者にマウントを取る為の装置に見えてしまうのは私の心が歪んでいるからか。
そして書かれている内容は、控えめに言っても自分をアザトースと思っている精神異常者の文言としか思えない。
いや、クトゥルフ的に人間が狂ってしまっている描写と考えれば正しいといえば正しいのかもしれないけどなんというか……嫌に人間臭いと言えばいいだろうか。
ゴミ箱に隠されていたtxtファイル
アザトースが他の神々に後ろ指刺されていじめられてる状態って想像するとちょっと面白いですね。
拡張子が.textになってたりわざわざアザトースって署名を入れてたりゴミ箱の中にファイルを隠していたりtxtファイルにパスワードを掛けてヒントも表示させるという手間をかけていたりと不自然な点は挙げればきりがない。もう少しなんとかならなかったのか?
・ラストの展開
教会で待っている薬師は必要もないネクロノミコンを読んでいる。なんでわざわざそれをシナリオに書くの? 勿論ネクロノミコンがシナリオに関わることはない。もうどうでもいいけど。
薬師からはアカネがどういう存在であるのか(アザトースが人間の姿になったものだけど人間になってもいじめられ自殺しようとした、しかし薬師がそれを止めて周りの人間を殺すよう唆した等々)という説明が丁寧に行われる。そういうの黒幕直々に教えてくれるんですね。
薬師の演説が終わるとアカネが登場し、探索者との問答の後に「自分を殺して」と迫る。
ここで探索者たちはアカネを殺すか助けるかを選択する事になる。
アカネを助けるという選択を全員が選ぶと、薬師はアカネを助ける事を困ると言って彼女を取り込み巨大化して正気度チェック。
探索者が絶望に負けそうになる(?)と、グリッドマンがスマホを光らせ「私の本当の力は、破壊することではなく、修復すること!」と言い始めて正気度が回復し狂気が解消される。
そしてグリッドマンは超融合を使えと言い始め、探索者たちはグリッドマンと一つになり「究極の邪神」になる。この文章を書いている私は正常です。
究極の邪神()がアカネの正気度を回復させて薬師と分離させるというのが流れとなっている。
アッハイ
・シナリオ製作者の後書き
※エンドC-2:探索者全員がアカネの生存を願ったエンド
※エンドC-1:一人以上の探索者がアカネの生存を願ったエンド
このシナリオの真相について何か触れてくれると思ったけど、どうやらシナリオ中に出てきた事が全てらしい。つまりアザトースは他の神格からいじめられ、それを苦にして記憶を封印して人間になったけどもまたいじめられている。ずいぶん人間臭いな。
個人的に知りたかったのは「アザトースが呼び出しているのがナイアルラトホテップの猟犬とも呼ばれる狩り立てる恐怖なのは何故か」だけど、特に説明は無し。まぁあのクサリヘビは召喚出来れば誰でも従うんだから別におかしくはないけど、ナイアルラトホテップ本人が出てるんだし掘り下げられそうなのに勿体ない。
・完走した感想
回してみた感じ、高難易度と言っているのはどこを指しているのか私にはよく分からない。こんなシナリオを回す決断をする事自体が難易度高いとしたらまぁそうねぇ……。
以下、シナリオの順序に沿って感想。
序盤の模擬戦闘はシナリオに関係なくテンポを阻害する邪魔要素。
その後、現実で狩り立てる恐怖との戦闘かと思ったらグリッドマン任せの戦闘。なお敵はグリッドマンを集中的に狙うとシナリオに書いているので他の探索者もグリッドマンになってしまった探索者も何が面白いのか分からない。
薬師登場はある意味では面白いが、一般的な視点では「KPのクッソ寒いRP来たな」という具合なので非常にキツい。そしてRPするKPもつらくなる。実際つらかった。もしこのシナリオを野良で回してしまっていたらどういう目で見られていたのか、想像するに恐ろしい。
探索パートは一般的。……と言いたいが謎のパスワード当てが出てきてしまいシナリオのテンポをこれまた悪くしている。
回答はアルファベットの直線の数などというどうでもいいもので、アザトースが書き記したとされるものを見るのと一体どのような関係性があるというのか。
せめて序盤に遊んだクトゥルフパニックと絡めたパスワードにするなどしておけば双方に意味を持たせる事が出来たし、シナリオ中の描写で意味深にする事によりプレイヤーへ気付きの楽しさを提供出来たと思う。
そもそもアザトースがなんで神格に後ろ指刺されてるの? 刺してるの誰? Twitterで思わずつぶやいたところニャルの化身じゃないのという声があったが、そうだとしたらニャルが鬱にさせたうえで人間になっても唆してるというマッチポンプでクズ感が増すから面白いと思うのだがそういう説明はシナリオ中もPDF内でも一切無い。なんで?
アザトースがどうして記録を残していたのかというプレイヤーからの素朴な疑問にも答える事は出来ない。シナリオに書いてないので。私の卓の場合は「アザトースがそう望んだから」というのが万能解決札となった。ニャルもグリッドマンも全部アザトースが望んだんだよ。そっかぁ。
最後の教会のくだりに関して、薬師のワクワク種明かしはシナリオ製作者がニッコニコでやっているところなんだろうなぁと思う。こっちは冷えっ冷えなのは言うまでもないが。
そして薬師は狩り立てる恐怖による襲撃はアカネの手によるものだという種明かしをするが、どう考えてもしっくりこない。
狩り立てる恐怖による襲撃は、自殺をしようとした橘立花(アカネ)に薬師が「いじめなんて理不尽は周囲が橘立花の事を理解してないから起こるんだから、じゃあ周囲を分からせればいいじゃん」という事を吹き込んだ事により、「周りの理不尽な人間が全て消えれば私は幸せになれる」という行動原理が生まれて発生した事だ。これによって、橘立花をいじめていた人間は狩り立てる恐怖に殺されていた。
ここまでは理解出来る。
だが、薬師はこう続ける。
なんかおかしい。
『「自分をいじめた人間を殺すだけ」なんていう中途半端なところで止めようとした』というのであれば、探索者たちが遭遇した狩り立てる恐怖は一体誰が召喚したものなのだろうか? アカネなのか? 探索者も周りの人間もアカネをいじめてないですよ?
薬師が攫う前から狩り立てるものを召喚していたのなら攫う必要など無かったのでは? 薬師は何をトリガーにしてやってきたの?
そもそも、彼女の本当の願いが『周りの人間を残らず全て殺す』と語る根拠は何なのか? 単に薬師の願望なのでは?
人間絶滅は薬師の願いであってアザトースを利用しているだけだ、というのが比較的分かりやすい解釈なのだが、そういった補足はされていない。
この後にアカネとの対話があるが、アカネの回答は以下のように書かれている。
「自分の正体はアザトースと知ってるけどどうでもよくて、みんなと一緒にいたい。けど化け物なので一緒にいられない。このままアカネとして生きてもアザトースの時や橘立花の時から何も変わらない。だから殺して」とのこと。
アザトースの時も教科書切り刻まれたり「死ねブス」って書かれたりしていじめられてたのかな……かわいそうな神格だな……。
どうもこの辺の「神格の頃から理不尽な目に遭っていた」というのが理解し難い部分なのだが、どう認識すればいいのだろうか。アザトースなら寝てろよ。
エンディング分岐は大きく4パターンほどある。全員がアカネを助けるという選択をしないと大体バッドエンド。
おそらくはこの最後の意思決定のところで全員がアカネを助けるという選択が出来るかどうかが高難易度というところだろうか。それ以外に難易度感じられるところが無い。
ほぼ全てのエンディングで薬師が口を開くと、「真犯人はこの世界の理不尽を無慈悲に突き付け、アカネくんをここまで追い込んだキミたち社会そのものなのさ!」と言ってくる。
これが作者が商品紹介ページで語る「憤怒とテロリズム」なのだろうか。
いじめる奴らと助けなかった奴らみんなが悪いんだよとでもいいたいのかもしれない。この世界の理不尽というのは描写されている限りイジメしかないのだが、それを社会のせいにまでするのはちょっと無理がありません?
しかし「神でも人でも周りの理不尽は変わらなかった」「この世の理不尽を無慈悲に突き付けた」という描写から一貫しているように、アザトースはいじめられているというのは間違いないらしいが、シナリオ製作者には一体アザトースがどういう存在に見えているのだろうか。些かSENが高すぎる。
また、私が回した際のAエンドでは最後に「次のアカネ君を探す」と薬師が言っているが、それがどういう意味なのかは書かれていない。書けよ。
尚このシナリオの商品ページは現在閉鎖されている。 なんとboothが復活していた。すごい。
有識者の方によると他のシナリオもパクパクですわ(暗喩)らしいので気になった人は決断的に明日のジュース代を注ぎ込もう。
せっかくなので魚拓は残しておきます。
今更だけど、これクトゥルフでやる意味ある?
いやだってマジでこれクトゥルフ関係無いじゃんエモクロワとかデモンパラサイトでやれば良い感じになったんじゃないの? と思ってしまう。誰かこういうシナリオが適してそうなシステムを知ってたら教えてください。
・最後に
ここまで怪文書を読んでくださり、ありがとうございました。
そして、某氏廻りの顛末を明かした上でこのシナリオを回すと宣言した私に石を投げず快く卓を囲んでくれた3人の友人へ、この場を借りて感謝申し上げます。今度焼肉でも奢ります。
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