なぜ小渕優子の自民党選挙対策委員長任命がありえないのか

2014年に当時経済産業大臣だった小渕優子は、不透明な政治資金の収支報告を巡って大臣職を辞任した。当時彼女の秘書2名は、政治資金収支報告書の虚偽記載で有罪判決が確定した。しかし政治資金規正法には「連座制」が適用されないので、小渕本人は関与していないということで嫌疑不十分で不起訴・無罪放免だった。しかし以下に説明するように、その内容は限りなく有権者に対する「買収」に近いものだった。

小渕優子は、2007年から2014の間、年に1~2回の頻度で、地元群馬の後援会の会員約1000人を、何十台もの大型バスを仕立てて東京への「観劇会」を開催していた。問題は、会員から徴収した参加費よりも、実際にははるかに費用がかかっていたことと、そのことを記載していなかったことだ。

2010年10月と2011年の10月に開催された観劇会に要した費用は3,383万円、それに対して後援会からの収入はわずかに742万円だった。しかもその742万円には観劇会以外のパーティー券や寄付などの収入が含まれているはず。2回の観劇会には約2000人が参加しているので、もし一人あたり12,000円の参加費を徴収していたら、観劇会だけで2,400万円の収入がなければおかしい。ということは、おそらく大部分の会員は1円も払わずに招待されていたということが推測できる。いずれにしてもかかった費用と参加費の差額は有権者に対する利益供与だ。

しかも、2012年にも観劇ツアーは開催されており、その支出も収入も一切記載されていなかった。その実際の収支がどうであったかは小渕は説明責任を果たさないまま、「秘書がやったことで自分は知らない」とうやむやにしてしまった。問題は、2012年12月には総選挙があったため、その選挙直前に有権者に対する利益供与があったのであれば、これは公職選挙法における「買収」にあたる。収入も支出も記載していなかったのはそこから目を逸らすための悪質な手口だと考える方が自然だ。

しかしなぜかこの問題は、秘書だけが政治資金規正法上の収支報告書の虚偽記載・不記載に問われただけで、公職選挙法の「買収」には問われることはなかった。実は公職選挙法違反には連座制が適用されるため、もし違反と判断されたら小渕本人が関わっていなかったとしても当選は無効となり、刑罰が課せられる。

しかも、もしこれが買収ということになったら、利益供与を受けた数千人の後援者も罪に問われることになる。もし一般の有権者を巻き込んだとしたら自民党の存立の危機となる一大事だ。東京地検特捜部が、公職選挙法違反で立件しようとしなかったことは甚だ不自然で、検察に対する圧力があったと考えた方が自然だ。

岸田総理が、もし「9年も経っているから国民はみんな忘れただろう」と考えたとしたら、あまりにも国民を馬鹿にしている。実質的に公職選挙法を違反した人物を選挙対策委員長に任命するということは、このような「不正を行っても捕まらないノウハウ」を自民党内に伝授するのが目的なのかと言いたくなる。こんなこと、絶対に許してはならない。

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